『調理場という戦場 「コートドール」斉須政雄の仕事論』豊かな人生にはまわり道が必須。好きなことにひたむきな人の姿は美しい。

調理場という戦場
斉須政雄・著 朝日出版社 ¥1,890/OMAR BOOKS
 
-まわり道のすすめ-
 
 心の底から出会えて良かったなあと思える本は年にそう何回もあるわけじゃない。
今回ご紹介する本はきっとこの先もくり返し読むであろう本。
 
タイトルどおり、調理場で今も現役で戦い続ける、フランス料理店「コートドール」の
料理人・斉須政雄さんの自叙伝です。本棚にジャンル分けがあるなら、この本は
料理の棚、ではなく哲学、人生訓、ビジネス書などの棚に置かれるべき。
 
こういう人生を豊かな人生というのだろう。
描かれているのは決してきれいごとだけではない、人間同士の生のぶつかり合いや情けない自分、まだ経験のない若さゆえの葛藤、肉体的・精神的なつらさ、苦しみ。
そうした中で生まれる信頼、敬意、愛情。
それらが一緒くたになってその人にしか出せない人生の味が出来上がる。
そこにかかせないのは生き方の姿勢と時間。
斉須さんは「栄養のような生き方を注ぐ」と表現されている。
  
読んでいて感じたのは「まわり道は必要」だとういうこと。
時間をかけてまわり道をすればするほど人生の味は深くなる。
効率・スピードばかり求められがちな現代、最短距離でゴールに着くことがいいことのように思われがちだけれど、ほんとにそうなの?とこの本は投げかける。
  
 -静かなる者は健やかに行く。健やかなる者は遠くまで行く。 
 -やれたかもしれないことと、やり抜いたことの間には、大河が流れている。
 
印象的な言葉、慈雨に満ちた言葉の数々。
 
これまで無我夢中で走ってきて、ふっと立ち止まったら彼は遠くまで来ていた。
どういう道を自分は走ってきたんだろう、とふり返ったら、彩りに満ちた豊かな景色がそこに広がっていた、というような本。
 
ひたむきにただ好きなことをやっている人の姿はそれだけで美しい。
その姿はまた周りに栄養(元気)を与える。
明日を生き抜く全ての人への希望の書です。
 

OMAR BOOKS 川端明美




OMAR BOOKS(オマーブックス)
北中城村島袋309 1F tel.098-933-2585
open:14:00~20:00/close:月
駐車場有り
blog:http://omar.exblog.jp