『 シェル・コレクター 』孤独を埋めるためのコレクト。一作一作じっくり読んでほしい短編集。


アンソニー・ドーア著 岩本正恵・訳 新潮社¥1,800(税別) /OMAR BOOKS 

 

この冬一番の寒さが到来中。こんなときは暖かな室内で読書に耽りたい。
「やーぐまい(家ごもり)」という言葉が沖縄の方言にあるけれど、「貝」なんて年中やーぐまいしているなあなんて思いながら、美しい貝たちが並ぶ表紙の小説を手に取った。

 

今回ご紹介するのは、沖縄を舞台に置き換えた映画化も今話題の『シェル・コレクター』。完成度の高い良質な作品を世に出し続けている著者アンソニー・ドーアのデビュー短編集。極めて優れた短編作品に贈られるO・ヘンリー賞を受賞した「ハンターの妻」など合わせた八つの短編が一緒に収められている。

 

とりわけこの表題作の「シェル・コレクター」に読む前から惹かれていた。
主人公は、孤島の海辺に暮らす盲目の老貝類学者。あるとき、外から来た女性の病気を偶然治してしまったことによって、愛犬と静かに暮らす生活に波紋が広がっていく。

 

荒々しさと優しさが共存した丁寧な自然描写。標本箱を目の前にしたときに感じるような、繊細で精緻な美しさが全編を通して漂っている。それに反し、自分たちの都合しか考えない「ひと」の卑小さ、弱さ。でもそれさえもこの物語の中では否定されない。

 

盲目である彼自身が砂浜や海中を歩き回っている貝を拾い愛でる仕草から、ひとつひとつ異なる貝の手触りが直に伝わってくるようだ。目が見えないことを忘れてしまいそうな、彼のふるまい。貝に魅了された彼が浜辺をさまよう行為を追っていると、まるで彼の生きてきたこれまでの人生の孤独を埋めるために、「コレクト(集める)」していたように思えてくる。

 

圧倒的な静と動の世界。その対比がまた素晴らしい。目が見えていた幼い
頃に見た景色や色をほとんど忘れてしまった彼が、話の後半に呼び起こす
記憶とは?全て失われてしまったかのような最後に示される希望とは?
一作一作じっくり読んでほしい短編集。おすすめです。

 

 


OMAR BOOKS 川端明美




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