『 だれも死なない 』のほほんとしているようで、人生の核心をつく言葉の数々。大人のための童話。


トーン・テレヘン著 メディアファクトリー ¥1,400(税別)/OMAR BOOKS

 

たまに本棚を整理していて懐かしい本が出てくると、ついページを開いて一篇、一篇を拾い読みしているうちにいつのまにか止まらなくなって、結局最後まで読んでしまう本がある。今回ご紹介するのもまさしくそんな種類の本。それは児童文学者で医者でもあった著者トーン・テレヘンさんの名作童話『だれも死なない』。オランダ児童文学の金字塔といわれ、大人のための童話としてもとても優れた作品です。

 

この童話の主人公はアリやリスに、ゾウといった動物たち。彼らは一緒にお茶を飲んだり、互いの家を訪れたり、一人物思いにふけったり、パーティーを開いたり、といった日々の中で、時折ふっと立ち止まって考える。

 

例えばこんなエピソードがある。
歩くときにどこかにぶつかってばかりのゾウ。あるときリスの後ろをついて歩いたらぶつからないよ、と言われてそれを試す。どこにもぶつからずうまくいったはずなのにしばらくしてゾウはこう言う。

 

「この歩き方でほんとにいいのかな?」(略)「ときどき、ぼくがどこかにぶつからなくていいの?」「だって、いつもぶつかってばかりで嫌だったんじゃないの?」リスは驚いて聞き返した。「うん、そうだけど」リスとゾウは黙ったまま、またしばらく先に進んだ。

 

哲学する動物たちはまるで私たち。アリやリスたちの話すことは、大人になっても迷ったり、つまづいたり、分からなくなったりする読者の心を代弁しているよう。読者は動物たちによく似た自身の姿を見つけることになる。のほほんとしているようで、人生の核心をつく言葉の数々が胸に沁みる。シンプルなストーリーなのに、読む時々で印象は変わり、深い奥行きが感じられる内容に何度読んでも魅了される。

 

挿画は金子國義さんによるもの。「リエゾン・リーブル」という大人と子どもをつなぐシリーズから出た児童文学の本書は、子どもだけではなく、むしろ大人にこそ読んでもらいたい本。おすすめの一冊です。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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