『 エミリ・ディキンスン家のネズミ』隠者の如く生き、死後に才能が認められた女流詩人隠された心の内を明らかにする、白ネズミとの文通

 
エリザベス・スパイアーズ/著 クレア・A・ニヴォラ・絵 長田弘・訳
みすず書房  1575円/OMAR BOOKS 
 
― 白いスモックとジンジャーブレッド ―
  
早くも梅雨が明けて暑い日が続く毎日。
そんなときに活字の多い本なんて読みたくない!
という人におすすめの本書。
 
深緑と白を基調にした落ち着いた素敵な表紙の、
みすず書房から出ている詩人が贈る絵本シリーズの中の一冊で、
「大人の女性に似合う絵本」
と私が勝手に分類している本。
  
ストーリーは、実在した19世紀アメリカの自然を愛した、
女性詩人エミリ・ディキンスンの部屋に
白ネズミのエマラインが引っ越ししてきて
二人の間に密かな交流が生まれる、というお話。
 
エミリという暑苦しさとは無縁の、
白いスモックが似合うこの女性、
アメリカでは教科書で習うほどの有名な詩人で
私生活が変わっていたことで知られる。
 
一生を家からほとんど離れず、
「伝説を生きるひと」と呼ばれ
その姿を見かけた街の人は運がいいと言われたらしい。
 
彼女を主人公に著者エリザベス(彼女自身も詩人)が
この絵本の姿を借りてことばや詩について語っている。
なのでこの本は、絵本と詩集の間に位置すると言っていい。
 
また、収められている詩12篇も全て長田弘(著作に「世界は一冊の本」など)の新訳というのがツボ。
静謐さをたたえた、
どこか洗練された雰囲気も納得できる。
  
「ハチミツとクローバー」の詩でも知られる(某マンガのタイトルはここからきてる?)エミリは
あのターシャ・テューダーの存在に近いものを感じさせる。
ストイックに美しい孤独を好んでひたすら詩を書き綴って一生を終えた彼女のこういう生き方は、
なかなか出来ないと分かっていても憧れてしまうところがある。
  
また彼女の魅力は次のこういう部分。
 
「白を愛し、キッチンでジンジャーブレッドを焼き、
庭で空想にふける詩人。
エミリのジンジャーブレッドを
街の子どもたちは楽しみにしていた」
 
このジンジャーブレッドは彼女のオリジナルで
ジンジャー好きとしてはたまらない。
この絵本にはちゃんと、
後ろのページにそのレシピが載っている!
  
そして絵本で大事なのはもちろん「絵」。
中の挿画は鉛筆で描いたような優しい線。
そのシンプルさが、この本のイメージにぴったり合う。
  
アメリカでは子どもの本として賞もとったこの本自体は、
感受性の強い子どものような本として例えられるけれど、
子どもよりむしろ大人に読んでもらいたい。
孤独なエミリとエマラインのやりとりが胸に沁みます。
 
涼しい木陰に腰を下ろして、
一人心静かにページを開きたい一冊。



OMAR BOOKS 川端明美




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