『 向田邦子ふたたび 』自分に期待した人。向田邦子さんの人生を豊富な写真や手紙などで辿る一冊。


文藝春秋・編 文藝春秋 ¥686(税別)/OMAR BOOKS 

 

先日ある方と話していて、「季節で読みたくなる本はありますか?」と聞かれた。その場でぱっと答えることができず、少しして向田邦子さんの作品ですかね、という言葉がするするっと自分の口から出て来た。最近読み返したのは思い出せないくらい前なのに、なぜ出て来たんだろうと不思議に思っていたら、「そうだ、毎年この時期になると彼女の作品をなにかしら読んでいるからだ」と思い至った。身体が覚えていたのかもしれない。

 

30年以上も前の8月に、台湾旅行中の飛行機事故で亡くなられた、脚本家、エッセイスト、小説家として活躍された向田邦子さん。この時期、私のように彼女を偲んで本を手にとる方も多いことと思う。それで今回は、老若男女に今なお愛され続ける向田さんの魅力を百あまりの写真とともに辿る一冊をご紹介します。

 

ここで紹介するのは文庫ながら、向田さんの愛猫マミオ、自宅の部屋、直筆の手紙、好んで食べたもの、家族写真、旅土産、愛用品など百あまりの写真も収録されている贅沢な一冊。友人、作家や仕事仲間などが寄せた追悼文や弔辞、手紙や回想から、男女問わず惚れさせてしまう向田さんの人となりが伝わってきて、また彼女を突然失った彼らの深い思いが胸に迫る。

 

代表作の『寺内貫太郎一家』『あ・うん』『阿修羅のごとく』『父の詫び状』などを世に出した彼女は今で言うハードワーカーでありながら、家族友人思いで、気配りの天才だったという。向田作品を読んだり、彼女にまつわる本を読んでいるといつも抱くのは「自分に期待した人」という印象。身近な人たちから、また才能あふれる仕事人からも必要とされた彼女は、噂話、打ち明け話を好まずプライバシーを語ることが嫌いだったといわれる。彼女は他人に求めるよりもまず自分ですっくと立つことを選んできたからこそ、周りに求められたのだろうと思う。

 

まるで一本足で広い野に立っている美しい野鳥のような姿が重なる。なかなかこんなかっこいい女性は今の時代はいないもの。この本をサイドブックに、ぜひ多くの人に向田作品にふれてほしいと思います。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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