『 原稿零枚日記 』現実と異世界が交錯する不思議ワールドにいざなわれる

 

小川洋子・著 集英社 1,365円/OMAR BOOKS
 
― 他人の生活、見てみたい 一風変わった日記 ―
  
日記ものが好きで最近よく読むようになった。
 
ひと括りに日記といっても様々なタイプのものがある。
その日食べたものを記したり(武田百合子の『富士日記』などは傑作!)、
ブログを一冊の本にまとめたもの(最近特に増えましたね)や、
旅の記録など何でもよくて、
どうして好きかというと他人の知らない生活が垣間見えるから。
日記を読むことで、抱いていたイメージとは違うその人の意外な一面を知ることが出来たり、また誰しも皆他人の生活を覗いてみたい願望はあるもの。(名作映画「裏窓」もおすすめ!)
 
で、今回紹介するのは、表紙の絵が、こちら側にいる私たちが部屋の中を覗き込んでいるような『原稿零枚日記』小川洋子・著。
 
この本、とにかく変な話のオンパレード。
 
日記を書いているのは作家のある女性という設定。
「○月のある日」という感じで短編が続いていく。
淡々とその日の様子が綴られていくうちに、
気付くとあれれ、という感じで話は意外な方向へ転がっていってしまう。
 
本当なのか、嘘なのか。ただのこの女性の妄想なのか。
ひんやりとした空気をまとったエピソードの数々。
読めば読むほど異世界へ引き込まれ、一つ読み終わるごとにずいぶん遠くの場所から旅して戻ってきた感覚に陥る。
起きながらにして夢を見ているよう。
心もとない感じがあやういバランスで成り立っている物語。
 
それにしても何が何だかよく分からない話をよくもこう思いつくなあと感心することしきり。
「運動会巡り」の話を始め、まるで箱の中から何でも出してしまう手品師のようだ。
著者の小川さんの頭の中を覗いてみたい。
 
ただ変な話で終わらないのが彼女ならではで、一つ一つの短編の余韻が何とも切ない。
同じことの繰り返しのようで実は同じ日なんて一日たりともない、と日記を読むとつくづくそう思う。
 
また他人の生活ほど面白いものはない。
その人にとっては当たり前のことでも、他人にとっては考えられないことだったりするから。
 
それだけ人って不思議な存在。日記を通して読むことで書いた人の輪郭が浮かび上がってくるのも魅力。
何より書いた本人がいなくなっても日記は残り、
どんなに月日が経っても古びない、
なんてことを思いながらこの本を読んだ。
 
普通の日記ものとは一風変わったこの一冊、現実から遠く離れたいときに読むのをおすすめします。


OMAR BOOKS 川端明美



 

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