『 いつも彼らはどこかに 』人に優しくしたくなる、滋養のような短編集。

  
小川洋子・著 新潮社 ¥1,470/OMAR BOOKS

 

日中の日差しはまだ強いながらも、少しずつ日暮れが早くなってきた。
夏ももう終わりに近づいている。
8月のカレンダーの日付も減っていき、これからゆっくりと秋へ向けて進んでいく。

 

今年はとにかく暑かった。暑いとなかなか本が読めない、という気持ちもよく分かる。
でも今回ご紹介する小川さんの小説はそんなときでもすんなりと読めてしまう。
彼女の作品を読むといつも心の奥がしんと静まる感じがあって、暑さなんて忘れてしまう。
この、出てまもない『いつも彼らはどこかに』もまたそんな一冊。

 

動物たちに光を当てたこの連作小説。
優しい瞳をした馬や勤勉なビーバー、絶滅してしまった兎などが登場する。
単に彼らが主人公なのではなく、私たちの慎ましい日々の生活にそっと寄り添うような存在として描かれる。
声を発することのない彼ら。目立たなくとも、与えられた目の前の役割を淡々と果たすそのあり方に、私たちはいつだって救われる。

 

図書館をよく活用している知人から聞いた話によると、小川洋子の新刊は入ってすぐに予約でいっぱいになるそうだ。
彼女の小説がたくさんの人に読まれるのは、その理由のひとつに「不必要に人を傷つけない」からだと思う。
褒められることもなく、脚光を浴びることもなく、華やかさはなくとも、毎日を丁寧に生きている人たちにいつも温かな視線を向け、その消えそうな小さな煌きを掬い取る。
自分の分をわきまえたような、人としての品のようなものを備えた登場人物たちは皆、魅力的だ。

 

読み終えるといつも少しだけ ” いい人 ” になった気分になる。
人に優しくしたくなる。いつでも心に余裕を持っていたいと思う。

 

優しい滋養のような短編集。おすすめです。

OMAR BOOKS 川端明美




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