» 『 忘れられた巨人 』記憶と忘却。霧の向こうにあるものは。


カズオ・イシグロ著 早川書房 ¥1,900(税別)/OMAR BOOKS    

 

前作『わたしを離さないで』から待ちわびた人も多いだろう。イギリスの作家カズオ・イシグロさんの10年ぶりの新作長編『忘れられた巨人』を今回はご紹介します。これまでの作品とは違って、彼の初めてのジャンル、ファンタジーだということで刊行と同時に話題となったこの作品。

 

ストーリーは、アーサー王伝説(中世の騎士道物語。円卓の騎士など英雄の冒険とロマンスなど小説や映画のモチーフとして使われることも多い。モンティ・パイソンによるパロディなんてのも。)を下敷きに、老夫婦が不在の息子を探すために謎の霧に覆われた世界を旅する、というもの。旅の最中の竜退治や巨人との遭遇など、今までカズオ・イシグロの作品に親しんできた読者はきっと驚かされるだろう。

 

老いた身体を互いを支え合うようにして歩き続ける夫婦。二人の頭の中は霧に覆われ、また彼らを取り巻く世界全体もぼんやりと霞んでいる。
失われた記憶が時折戻ったかと思うとすぐに今度は新たな別の記憶が立ち上がり、それらは本当にあったことなのかそれすらも定かではない。
記憶の不確かさ。イシグロ作品に常にある記憶と忘却がここでも丹念に描かれる。会話の中には意味はもう無く、そこにお互いがいるのかどうか、ただそれだけを確認しているようでもある。夫婦や親子の絆について読む人は自身を重ね合わせたり、そこに今の時代が抱える問題も映し出されていることにも気付く。

 

また著者自身がこの作品についてのインタビューで「場所の持つ記憶というものについても考えてみたかった」と語ってらした。今私たちが自分の足で立っているこの場所にも、遠い過去の痕跡が残っている。
見過ごしてしまっているものは何だろうか。人は忘れる生きもの。
そしてまた繰り返す。だからこそ、特に今生きている私たちはそういったものに思いをめぐらしてみることが必要だと言いたかったのではないかと思う。

 

記憶と忘却、対話、信頼、許し、老い、孤独。人は分かり合えないからこそ分かり合おうとする。たとえそこに終わりがないとしても。
タイトルの「忘れられた巨人」の意味するところは?読者もまた霧の中をさまよいながら、それぞれの場所へ辿り着くはず。読み応えのある長編小説。
おすすめの一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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