『 写真とボク La Photographie et moi 』時間の真空パック。山陰地方の風景や身近な人やものを被写体に選んだ 写真家・植田正治の作品集。


植田正治・著 クレヴィス ¥2,400(税別)/OMAR BOOKS

 

                       
活字にまみれた生活を送っていると飽和状態になるときがくる。そんなときはどんなにいい文章を読んでも全く頭に入ってこないので、ついこの間も気付くとこの写真集をぱらぱらとめくっていた。今回ご紹介するのは写真家・植田正治さんの作品集『写真とボク』です。

 

写真のことはよく分からない。こういう私のような人つまり専門家でない「普通」の人でもはっと目を止めてしまう。植田正治さんの写真にはそんな不思議な力がある。これはどうやって撮ったのだろう?と首を傾げたくなるような実験的な作品から、愛に満ちた日常をそのまま切り抜いたような素朴な作品まで、初期作品群と(1930年−40年代)1950年代を中心に1990年頃までの代表作がこの写真集には幅広く収められている。

 

広い空を背景に、本と傘を持つ男性の後ろ姿。この表紙は1940年頃の作品「本を持つボク」。独特のアングルで砂丘に佇む男女や、カメラに無邪気な視線を向ける遊ぶ子どもたち、枯れた花や山陰地方の風景の数々にヨーロッパの街並。どの作品を見てもこの写真家にしか撮れない、といった力にあふれた圧倒的な存在感はなんだろう。

 

時間の真空パック。その瞬間を見極め切り取るセンスや技術、被写体への愛情や冒険心によってその時間の鮮度が保たれていて、何度見ても飽きさせない。また彼の写真を見る人を優しい気持ちにさせるのは、彼が撮りたいものしか撮っていないことがその写真連から伝わってくるからだろう。大きなものに属することなく、より身近な人、土地に関心を向けたところ。独自の道を切り開いたところにも彼の作風が他と一線を画している。そういった写真家の人間性にも共感を覚えた。

 

彼の写真を見ていて、風邪をこじらせ学校を休み、親に病院に連れられていった午後ふと見上げた空に赤い風船がふわりふわりと流れていくのをずっと眺めたことがあった事を思い出した。あの時間はまだしっかりと私の中に鮮やかに残っていた。

 

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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