『夏の水先案内人』水上のフロートハウスで大の男が作るかりかりベーコンとパンケーキの朝食、アラスカの町の夕暮れ…夏の夜に開きたい写真集。


新井敏記・著 スイッチ・パブリッシング ¥2,100/OMAR BOOKS
 
― 心が満たされていく豊かな写真集 ―
 
台風が近づいている。これもまた夏が近づいている証拠。
今回は、じめっとしたこの蒸し暑さを忘れさせてくれるような涼しげな写真集をご紹介します。
  
雑誌「SWITCH」や「Cyote」を創刊し、編集長として編集にたずさわってきた著者による本作。
仕事柄旅をすることが多い著者がアラスカを訪れるようになって10年以上。その長い旅の間に出会った人々の現在の暮しと風景が美しい写真とシンプルな文章で構成されているこの本。
  
とても豊かな本だなあと思う。
耳を澄ますとたぷたぷと水がたゆたう音が聞こえてきそうな小さな町の暮しと自然。読む人に笑顔を向ける人たちは皆満たされた表情をしている。
  
内容は、南東アラスカの小さな入り江にあるフロートハウス(水上に浮かぶ家)に暮らすジョン(66歳)とその長年の友人ピート(84歳)の暮らしぶりを伝える一章と、シトカという小さな町にある、ケイラスB&Bという素朴なペンションを営む先ほどのピート夫婦の生活とアラスカの自然を収めた二章から成っている。
  
水上に組まれた手作りのフロートハウス。
アラスカの水先案内人ジョンによる手作りの家。
船着き場を兼ねたデッキで読書したり昼寝をしたり。
こんなところで飲むコーヒーはまた一段と美味しいんだろうなあ、と憧れてしまう。
20歳近く年の離れた友人ピートもこの家を訪れる。
 
夏の水先案内人
 
この大の男二人が作る朝食がまた素敵。
かりかりに焼かれたベーコンとアラスカ風パンケーキと具のたくさん入ったオムレツ。
老齢にさしかかった二人の子供のような仲の良さが微笑ましい。
大きな窓ガラス一面に広がるのは光に反射する揺れる水面。
窓際には細かな生活用品が無造作に並ぶ。
自然に抱かれた静かな生活。
  
一方、B&Bでは長年連れ添った老夫婦の穏やかな日々が綴られる。
椅子に深く腰を下ろし、サンタクロースのような真っ白な立派なひげを蓄えたピートのうたた寝する様子。
出会った頃の若い頃や苦しい時期もあったと回想する妻バーサ。
ぽつぽつと明かりの灯り始めた海辺の町の夕暮れ。
 
人生の晩年を迎えた人々の平穏な日々を綴ったこの本。
アラスカの厳しい自然とともに生きてきた人たちの顔に刻まれた深い皺が言葉以上に語ってくれる。
年を重ねるということは悪いことじゃない。
 
これからの季節におすすめしたい。
夏のまだ涼しい早朝や就寝前にページを開くのもいい心満たされる一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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