『 琉璃玉の耳輪 』嗜好品のようにスリルを味わう。奇想天外で魅惑的な探偵小説。


津原泰水・著 尾崎翠・原案 ¥1,700(税別)河出書房新社/OMAR BOOKS  

 

ようやく朝晩はひんやりとするようになり、カーディガンを羽織るのが必要なこの季節。秋になると決まってミステリーが読みたくなる。
それで選んでみたのが今回ご紹介する『瑠璃玉の耳輪』という探偵小説。
尾崎翠・原案をもとに、幻想小説・ミステリ・青春小説など幅広いジャンルの作品を持つ著者により新たに描き出された、奇想天外で魅惑的なエンターティメント。

 

舞台は昭和の初め。ある探偵事務所にこんなような依頼が届くところから物語は始まる。
—瑠璃色の耳輪をした三姉妹を探して下さい。
女探偵・モダン・洋館・催眠・クラッシックカー・南京町・シルクハット・伯爵・旅芸人・などのキーワードに反応したら即、手にしてほしいこの本。幻想小説の世界観が好きな方に限らず、純粋なミステリーファンなども満足させてくれる。

依頼を受けた主人公の女探偵を始めとして、少々毒の強い個性的な登場人物の面々。語り手が代わりながら、それぞれの過去とともにからくりが明かされていく側から、また次なる仕掛けがエンドレスに続いていく。一旦ストーリーにのってしまえば、面白いほどに張り巡らされた伏線が読み進めるうちに繋がっていき、なるほどなるほど、と唸ってしまう。あとは結末の大団円に向かう、息もつかせぬ展開。
ただ面白いだけではないのは、一見表舞台から見えないような登場人物たちへの優しさと敬意が伝わってくること。彼らによってもしかしたらこの現実は支えられているのかも、と読者はいつのまにか想像している。

 

読み終わって「嗜好品としての本」という言葉がふと浮かんだ。普通なら味わえないスリルを楽しむために読む。普通なら経験することもないだろうことを経験出来てしまうのが読書。危険で、怖いけれど覗いてみたいような心理は誰にでもある。でも現実にはあってほしくない。だから人は本を読む。
夢中になって読んでいた本からはたと顔を上げたとき、家人ののほほんとした顔を目にしてほっとする。それはいつもの日常が待っているからこそ安心して読めるのだ。

 

この作品の成立過程も面白いのだけれどそれはあとがきに譲ることにして、よりこの小説を楽しんでもらうために、尾崎翠の傑作『第七官界彷徨』の併読もおすすめ。『瑠璃玉の耳輪』が刺激的すぎるのであれば、ぜひこちらの方を。

OMAR BOOKS 川端明美




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