『 向田邦子の青春 写真とエッセイで綴る姉の素顔 』プロ級の裁縫の腕、家族の想いの長女・・・敏腕脚本家の知られざる素顔

 
向田和子・編著  680円   文春文庫 文藝春秋/OMAR BOOKS  
 
― 手袋を探す 凝縮された人生 ―
 
こんな完璧な女性っているんだなあ。
読み終えてはーというため息が漏れたのは『向田邦子の青春』を一読したせい。
向田邦子本人が正面を凛と見つめる表紙に惹かれて手にした本。
読んでみてこれはぜひとも女性陣に読んでもらいたいと思いました。
  
編集者、放送ライター、脚本家として活躍した彼女の生涯を秘蔵写真100枚とともに妹・和子の視点から綴られた本書。
なんといっても写真が豊富で、
こんなにもきれいな人だったんだ、
という単純な驚き。
何枚もの白黒のポートレートはポーズも決まっていてまるで女優さんみたいだ。
 
さらに驚いたのは写真の中で来ている服や帽子のほとんどが彼女自身の手によるもの。
手製に見えないほどのクオリティ(クラシカルなコートまでもがお手製!)と彼女独特のセンスが際だっていてとてもおしゃれ。
堅実な家庭に育った彼女は、編集者時代には仕事でどんな遅くなっても妹の服を縫ってあげたり、兄弟のために徹夜で編み物をしていたという。
 
テレビ業界で華々しく活躍をしている勝手なイメージがあったので、
てっきり自分を強く出していくタイプの女性だと思っていたら、
全然そうじゃなかった。
 
この本で知る限りは古風な女性だったんだということ。
女性が仕事に生きることに理解があまりない当時、
長女だった彼女は家族の中でしっかりと自分のやるべきことをやったうえで、好きな仕事をめいいっぱい頑張っていた。
彼女の筋の通った家族や人に対する姿勢を目の当たりにすると
背筋がぴんと伸びる気がする。
 
彼女は自分を大切にする人だった。
自分に与えられたものを大切にして、
だから他人をも大切にして生きた。
人の悪口を言わない優しい姉だったと語る著者の和子さんは、
また姉にはツキがあったと言っている。
自分が夢中になるものを誠実にやっているうちに、
どんどん転がってシナリオを書くようになっていったと。
 
この本を読んで、30年前の夏に飛行機事故で逝ってしまった後も、
なお根強い向田邦子の人気の秘密が分かった気がした。
 
本の中で引用されている彼女の「手袋を探す」というエッセイが印象深い。
気にいった手袋が見つかるまでひと冬を手袋なしで過ごした自分の、
たったひとつの財産は手袋を探すということ。
そしていまだに手袋を探している、という内容。
この世の去り方も凝縮された人生を生きた彼女らしいと言えば彼女らしいのかもしれない。
 
秋の気配が感じられる、しっとりとした夜にぴったりな心にじんと沁み入る一冊です。


OMAR BOOKS 川端明美




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