『 Separate Ways 君のいる場所 』世界中でブームになった台湾の絵本。すれ違い続ける男女の結末は?


ジミー(幾米)著  1,365円   小学館/OMAR BOOKS 
 
― しっかり繋ぎとめておかないと ―
 
若い男女が秋に出会うところから始まる、
台北在住の絵本作家・ジミー・リャオの絵本
『君のいる場所』。
原題は『向左走・向右走』。
数年前に金城武主演で『ターンレフト・ターンライト』というタイトルで映画化もされているこの作品。
著者ジミー・リャオはこの本をきっかけに台湾に大人の絵本ブームを巻き起こし、彼の絵本はこの作品に限らず今では世界中で翻訳されて人気が高い。
  
旅先の本屋で偶然手にし、持ち帰ったホテルのベッドで読み終えたときのことを今でも覚えている。
ああ、この感覚知っている。
そのとき私が抱いたのは「共感」だった。
隣国とは言っても異国で描かれたこの物語に
何の違和感もなく感情移入出来たから。
 
物語の冒頭にはポーランドの詩人、シンボルスカの「ひとめ惚れ」からの引用。
この詩がまたいいのです(内容はぜひ本で)。
 
ストーリーの舞台は台北の街。
同じアパートに住むいつも左に向かって歩くバイオリン弾きの男性と
右に向かって歩く翻訳を仕事にする女性が偶然公園で出会う。
一つ壁を隔てた部屋に住みながら些細なことですれ違い、
出会えないまま淡々と日々が過ぎていく様子が
季節の移り変わりとともに描かれる。
  
二人の主人公が抱いている今を生きることにつきまとう閉塞感や無力感。
どこへ向かっているのか分からない、不確かな未来への不安。
お互いがようやく出会えた、と幸せな時を過ごすのも束の間、
何かのいたずらで細いつながりが切られてしまう。
 
その根底にあるのは都会の大勢の中の孤独。
街中で、地下鉄の駅で、デパートのエスカレーターで
すれ違い続けるのだけれど、さて結末は?
  
ジミーの作品の中ではよく巨大な黒い動物(この本ではうさぎ)が登場する。
それは著者は油断しない方がいい、と言っているように思う。
どんな幸せなときでも落とし穴はどこにでも転がっているから。
幸せならその幸せを、大切なものなら大切なものを
しっかりと繋ぎとめておかないと、と。
 
というのも、元もと広告代理店のデザイナーだった彼は
白血病をきっかけに絵本を書き始めたというのはよく知られたエピソード。
一度黒い影を知ってしまった彼の絵本はだからこそ
ただのロマンチックなストーリーではなく、
何気ない毎日の中で暗い深淵をのぞく瞬間がある。
  
細部まで丁寧に書き込まれた絵や色づかいもまた魅力。
この本に出てきた登場人物が、
別の絵本に密かに紛れこんでいたりする粋なしかけもあって
他の作品もぜひおすすめです。


OMAR BOOKS 川端明美



 

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