『 フランドルの四季歴 』四季折々の表情を、丹念に、色彩豊かに描いていく。 フランドル地方の自然を綴った散文集。


マリ・ゲヴェルス著 河出書房新社 ¥2,400(税別)

 

目覚めてすぐ起き上がることをせず、「ああいい音だなあ」としばらくじっと耳を澄ませていた。年が明けた。例年に比べるとひどく暖かなお正月が二日過ぎ、昨日今日と雨が続いている。葉から流れ滴る雨水の音、窓を叩く小さな音や通る車の上げる水しぶきの音。聞こえてくるのは賑やかな演奏なのに、一月の雨は静かで優しい。そう感じるのは雨粒に打たれながらじっと佇んでいる草木の気配のせいかもしれない。

 

今年最初にご紹介するのはベルギー仏語文学を代表する作家マリ・ゲヴェルスの『フランドルの四季歴』という一冊。訳者の解説によると、著者はベルギー本国では作家としての地位を確立していて、本書は園芸家、自然愛好家たちなどにも長く愛され、日本では初紹介とのこと。ご自身ガーデナーで知られる、イラストレーター・大野八生さんによる70点もの植物画も合わせて楽しめる、四季を綴った散文集だ。

 

画家ブリューゲルやルーベンスを生んだベルギー・フランドル地方。著者は、その土地で人々の暮らしが営まれている様を織り込みながら、万華鏡のように刻々と姿を変える自然の四季折々の表情を、丹念に、色彩豊かに描いていく。

 

例えば一月の章。
「外の世界は、誰もいない冷えきったベッドのようになって、生きとし生けるものが種を宿し、新たに誕生する時を待っています。外の空気には、額に感じても、両手でさわり、唇を押し当ててみても、初めて味わう手つかずの新しさがあります。」

 

その後も二月、三月と歳時記のように続くので好きな月から読むこともできる。本書からカレル・チャペックの『園芸家12カ月』やヘッセの『庭仕事の愉しみ』、幸田文の季節を綴ったエッセイやダイアン・アッカーマンの文章などを思い起こす人もいるだろう。

 

自然に心を委ねて、変化を味わいながら生活するのはきっと心身ともに気持ちがいい。それが難しいのであれば、せめてこの『フランドルの四季歴』のような書物を手にすることをおすすめしたい。

 

再び一月の章の中から。
「風が西と北のあいだを行ったり来たりして、木々の枝に下がる水滴もなかなか固まろうとしません。雪になりそうだと思うのは、空気が湿って氷のように冷たいからですが、それでもまだ魔法にかかった雨が家々をすっぽりと覆って降り続きます。」

 

本を読むのを中断して窓の外に目をやると、空はまだ一面雲に覆われている。
遠い春のかすかな気配を忍ばせて、外の雨はまだしばらく降り続くようだ。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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