『 エーミールと探偵たち 』心の曇りがとれていく。ベルリンの街を舞台にした少年たちの物語。

 

エーリッヒ・ケストナー著 池田香代子・訳 岩波書店 ¥640(税別)/OMAR BOOKS

 

三月ももう終わり。スタートの季節に向けて何かと忙しい。
そんなときはまた逃避の癖が顔を出す。
束の間ほっと一息つきたいときに、たまにはこんな本を、ということで取り上げるのは『エーミールと探偵たち』。

 

バーネットの『秘密の花園』、ドリトル先生シリーズ、アーサーランサムやサン=テグジュペリや日本の古典ものも少年少女が読んでも楽しめるようにと刊行されているこの岩波少年文庫のシリーズ。
この文庫で物語の魅力を知ったという大人も多い。
今回ご紹介するケストナーの『エーミールと探偵たち』もその一つ。人気シリーズの一作目だ。舞台はベルリンの街。
母に頼まれ、ベルリンに住む祖母に会いに向かう途中、大切なお金をどろぼうに盗まれてしまったエーミール。それを知った少年たちが一致団結して奪還するお話。

 

大人になった今、読んでも面白いのは変わらない。
いや、むしろ大人が読むとさらにその良さが心に沁みる。
エーミールと母親の互いを想い合うやりとり。
「いっしょにいることしか、ぼくたちにはできないんだよ―」どろぼうの張り込みをする二人の少年が星空の下交わす会話。
バラエティに富んだ登場人物たちの活躍する様は読んでいて微笑みたくなるほど気持ちがいい。
ワルター・トリヤーによる挿画も見ていて楽しい。

 

物語の中には時折、新聞社に努めていた経歴のある著者の、物事の真価を見極める鋭い言葉も挟まれる。押しつけがましくもなく、ユーモア混じりに。それはいつのまにか大人になって曇ってしまった私たちの胸を突く。
不思議なのは、エーミールや他の少年たちの活躍を追っているうちに、少しずつ自分の中のその曇りが取れていく。
物語の効用とでも言ったらいいだろうか。
だからこそ今でも長く読まれ続けているのだろう。

 

エーミールたちはどろぼうを捕まえてお金を取り戻すことが出来るのか?
ラストは見事。読んだことのない人はもちろんのこと、子供の頃に読んだことのある、という人にもまたぜひ読み返してもらいたい一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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