『 私の好きな孤独 新装版 』一杯の珈琲を丁寧に淹れる、そんな至福を味わうように読むエッセー集。


長田弘・著 潮出版社 ¥1,800 (税別)/OMAR BOOKS

 

雨の季節がやってきた。降り止まない雨音を聴きながら、傍らに本を積んでひたすら読書、という休日も悪くない。
今回ご紹介するのもそんなときの一冊に加えたい本。

 

ページを思うがままにめくっていると珈琲の香りに包まれる(ような気がする)。
現代を代表する詩人によるエッセー集。

 

目次をぼんやりと眺めてみると心惹かれる言葉たちが並ぶ。
「マーロウと猫」「アイリッシュコーヒー」「鉢植えパンのつくり方」「鍵束」「バスに乗って」「曲がり角」。
ミステリー小説の中でも、ひと際魅力的な私立探偵マーロウを生み出した作家・チャンドラーが、黒いみごとなペルシア猫を飼っていたことや、著者の長田さんが読んだ本から淹れ方を覚えたというアイリッシュコーヒーの簡単な作り方、などがさりげなくエッセーの中に記される。

 

詩人である著者が、日常の中で、あるいは旅先で出会った人々や景色、本や音楽の記憶を淡々と綴っていく。読んでいるとこんな風にものを、人を、じっと静かに見つめることを久しく忘れていたことに気付いた。
見ているようで、見ていない。それは心に余裕がないからだ、とつい反省してしまう。

 

街に出かけてぶらぶらとただ歩いていても、どこか自分を楽しませてくれるささやかなものをいつも探している。そういう人は魅力的だ。
心に遊べる空間がもっとあるといい。詩人はきっとその内に広々とした遊び場を抱えているのだろうなと思う。それはきっと孤独を楽しむ秘訣だ。
この本の中の「本屋さん」という章を読むと、その孤独を楽しむのに本屋はなんてうってつけの場所だろうと嬉しくなった。
著者があとがきでいう「明るい孤独」が全編とおして満ちている。

 

例えば、一杯の珈琲を丁寧に淹れる過程の至福。
宙に漂う香りを楽しむように、ひとつひとつのエピソードをリラックスして味わいたい一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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