アトリエm/アートレッスンで心に休息を。「とまり木」のようなアートスクール

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色のついた泡を紙にのせて描いたり、紙コップをひたすら積み上げたり、粘土でピーマンを形作ったり。ひときわシンプルでインパクトのある作業で、アートを体験できるスクールがある。中学・高校の美術教師でもある宮里裕美(ひろみ)さん、秀和さん夫婦が開いている、幼児から大人まで通えるアトリエmだ。レッスン内容がシンプルな理由について、裕美さんが教えてくれる。

 

「私たちがペラペラと説明ばかりしている『授業』はしたくないんです。学校では、『紫はどうやって作るでしょう』みたいに教えたりしますけど、ここでは教えなくても感じることができるようにしたいんです。たとえば、水に絵の具を入れて製氷皿で作った氷を、画用紙や和紙の上で転がすんです。すると、赤と青の氷が溶けていくと混ざり合って紫になったりするのを目にできる。それだけで楽しくもあるじゃないですか。単純な作業だけれど珍しくて楽しいレッスンをしたいと思っています。それに、難しいことをやったからって何か発見するかって言うとそうでもなくて、ただ知った気になりやすいんですよね。面白いものに気づくっていうのはやっぱり工作キットでは難しいんです。感動しにくい。できるだけ単純な方がガツンとくるんです」

 

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アトリエmの大きな特徴は、内容のシンプルさに加えもう一つ。それは少人数制であること。その理由の一つは人との関わりが楽しいからだと裕美さんは言う。

 

「人が増えすぎると、機械的になってしまうので、多くてもクラスは兄弟含めて3組、ワークショップなら5組くらいかな。ちっちゃいスペースというのもあるし、何よりコミュニケーションを大事にしているので。じっくり対話したいんですよね。だから、仲良くできたら『やった』って思いますね。高校の非常勤をしている時も、いい作品ができて、『やった』って思うよりも、この子と通じたって時に『やった』ってよく思うんです。だから授業ではできるだけ全員に一度は声をかけています。生徒に話しかけると、断然関係が良くなるんです。黒板に向かって授業を淡々とやるよりも、『この子と話した』、『先生と話した』っていう信頼の積み重ねができるんですよね。作品がどうこうなるってことじゃないんですけど(笑)。でも、信頼できない人の話って耳に入ってこないですし、受け止めてくれる人の前だと、自分を表現しやすいものですよね。制作はコミュニケーションのきっかけみたいな感じです。私が得意だったことがたまたま絵だったってことで」

 

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レッスンは秀和さんと裕美さんのどちらかが担当

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ワークショップ「墨だらけ」

 

もちろん、裕美さんが楽しいからというだけで、少人数制なわけはない。そうするのは、一人ひとりに目を配ることの大切さを知っているからだ。

 

「絵が苦手なんですっていう人多いですよね。でも、そういう人に限って、おもしろい絵を描いたりする。そっくりに描くことがうまいと思っているのかな。いいところに気づいて伝えてあげたい。そういう思いもあっての少人数なんです。それから、マンツーマンレッスンもしています。集団が苦手だったり、一人の方が集中できるという方など、障害の有無関係なく是非来て欲しいですね。小さいアトリエだからこそできることをやりたいんです」

 

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シンプルな作業と少人数のレッスンで裕美さんたちが目指すのは、人々の休息と気づきの場になること。

 

「単純なことをしているうちに、あ、これでいいんだ、私のままでいいんだって気づいてもらえたらいいなと思っています。何かを教えますよとか、これをしますよっていうよりは、ちょっと寄り道して、気づいて、共愉できて、元の場所、次の場所に飛び立てる。そんな『とまり木』のような存在になれればいいなと思っています。私たちの役割は、できるだけ邪魔をしないことです。彼らが自ら学べるであろう機会を奪わないようにと気をつけています」

 

アートを目的でなく手段ととらえ、裕美さんはアトリエの外でも様々なことに取り組んでいる。その一つが南部医療療育センターで行っている肢体が不自由な人たちへのアートレッスンだ。

 

「療育センターの看護部長さんからお声がけいただいて、友人で作家の宜保朝子さんも誘ってぜひやらせてくださいと引き受けました。身体を動かせない方たちに、どうやって制作してもらおうと、構えたくはなかったんです。だからと言って、すごく簡単なものを『はい、やりました』って幼稚なこともしたくなかった。身体が不自由でも他の生徒と同じようなことでいいんじゃないかなと、考えさせられながらやらせてもらっています。

例えば先日、木炭デッサンを行う予定で試しにイーゼルを持って行ったんです。無理かなと思いながら、車椅子の隣にイーゼルを立ててみました。そしたら、勢いよく描き出すもんだから、あれ、いけるじゃん!って。つい、勝手に気を使ったり、先走り過ぎたりしがちなんですけど、それって本当にお節介だったりするんですよね。困ったらその時に一緒に考えて対処すればいいわけで、失敗したっていいんです。

そういえばこの前、こんなこともありました。ある方が、雨は大嫌いだって知ってたんですけど、気をつかってやめるのもなんだろうと思って、思い切って雨をテーマにしてやってみたんです。すぐに部屋を出て行かれました(笑)。でも、途中で戻ってきて渋々描いてくれましたよ。レッスンの最後には、『今度雨をテーマにしたら許さない!』なんて言われました。そんなふうに言えるような関係になれるって素敵でしょ。

余裕がある時は、職員さんたちにも描いてもらったり制作してもらうんです。そして必ず最後はみんなで鑑賞し、評価し合うんです。このいろんな人のいろんな作品がある、『ごちゃまぜ感』のおかげで、さらに素晴らしい鑑賞会になるんですよ」

 

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裕美さんが力を注ぐもう一つの活動は、写真というアートを通して障害を持った人も社会の一員だという認識を広めること。それは、ダウン症候群を持って生まれた娘を育てている中で、裕美さんが感じた心の壁がきっかけだった。

 

「娘が生まれて100日写真を撮ろうという時にちょっとした違和感を感じたんですよね。沖縄って、子供の100日写真をデパートやスーパーに飾りますよね。でも障害がある子の写真って見たことないな、そもそも写真屋さんに撮りに行く人っているのかなって。それでも勇気を持って行ってみたら、店員さんは案外普通に接してくれて。かといって、写真展に出すかって言ったらやっぱり出しにくさがあったんです。みんなと同じように子どもをかわいいと思っているのに。そんな狭間で考えていたら、『一人では行けなかったけど、友達と撮りに行ったよ』って話を聞いて。だったら、ダウン症候群を持った子だけの写真展をやったらどうだろうって思いついたんです。どこにも出さないよりは、みんなで出ることをきっかけに外に出ていけたらいいなと思ったんです。それで数年前から『インターネット写真展 OYABAKA展』っていうのをウェブ上でやっています。これが今では全国規模の写真展になったんですよ。海外からの参加者もいて、今とても楽しいんです」

 

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裕美さんはアートの先生として、アトリエm、学校、療育センターと大忙しで活動している。また、3児の母として、妻としての役割も大切にしている。多くの世界を持って飛び回っている裕美さんだからこそ、時には立ち止まったり、振り返って戻ってみたり、その場から逃げてみたりする「とまり木」の存在が大切だと知っている。私たちはつい、いい作品を完成させることこそが大事だと思いがちだ。けれど、アートに触れることで自然と心を休ませている、その状態が何より必要な時間なんだと気づかされる。子どもだけでなく、大人にもアトリエmを開放している理由がここにあるような気がした。

 

ワークショップ写真提供/アトリエm

写真・文/青木舞子(編集部)

 

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アトリエm
沖縄県那覇市長田1丁目14番9号
mail atelier-m@outlook.jp
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