» おきなわ食べる通信「『おいしい』『たのしい』やんばるツアー」/生産者と消費者をつなぐ“食べもの付き定期購読誌”が企画! やんばるを味わい尽くす贅沢ツアー

おきなわ食べる通信

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背丈以上に高く伸びたトマトの畝。その中を、ピカピカと輝く宝石のようなトマトを探し求めて、目を上下左右と忙しく動かす。真っ赤に弾けるそれを見つけてプチンともぎ、口に運ぶと誰もが「甘〜い」と顔をほころばせた。

 

名護は源河にある真栄田丈夫さんの畑に集まったのは、“おきなわ食べる通信”の読者たち。“おきなわ食べる通信”とは、沖縄の生産者について詳しく紹介した冊子と、その生産者が丹精こめて作った食べものをセットにした、定期購読誌だ。生産者のことをより知ることができるようにと、このたび初めてツアーを開催。参加したのは、間もなく東京からやんばるへ移住予定の夫婦や、やんばるをもっと知りたいという那覇からの親子、農業に興味のある名桜大学の学生や、北関東から参加した舌の肥えたミドルエイジなど様々。

 

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めいめいがもぎたてを口にし、また持ち帰る分を袋に詰める。皆満足したところで、ハルサー真栄田さんが、トマトを甘くする工夫を話してくれた。

 

「沖縄では、トマトは2月3月が一番美味しいですけどね、その時期は曇り空が多くてちょっと困ったことになるんです。糖をつくるには炭素が必要で、その炭素をふつうは空気中の二酸化炭素から取り入れて、光合成によって糖に変化させるんです。でも、その太陽が出ないもんだから、糖を作るのに必要な光合成がなかなかできないんです。それでどうしているかというと、ススキや草を土の中にすき込み、菌の力を借りて、トマトが吸収できる炭素の形に変えるんですね。それで天候の左右されずに美味しいトマトができるんです」

 

沖縄の気候に合わせた栽培方法に興味津々の参加者たち。沖縄のハルサーと話せる貴重な機会と、次々と質問が飛んだ。

 

「台風の時、ビニールハウスはどうするんですか?」

 

「ビニールを外して骨組みだけの状態にします。骨組みだけにすることで風のあたる面積を減らして、ハウスが倒壊するのを防ぐんです。野菜は、這わせているネットをはずしてペタンてして、上から別のネットを張って、台風が通り過ぎるのを待ってあげます。ゴーヤーは沖縄の野菜なので、生き返ります。僕、キュウリもやってるんですけど、キュウリは元々沖縄の野菜じゃないので同じ対策をしても死んでしまいますね。風にあててダメにさせて、また苗を買って植え直しです。ハウスを守るだけなんです」

 

自然の厳しさに、参加者たちは一様にため息をもらした。しかし当の真栄田さんは淡々としていて、悲壮感などまるでない。その厳しさを当たり前のように受け入れる真栄田さんの、芯の強さを感じる。

 

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ハルサー 真栄田丈夫さん

 

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質問は続く。

 

「真栄田さんは、農業のどういうところが楽しいですか?」

 

「トマトとか甘みを糖度計で計って、少しずつ上がっていくのを見るのが楽しいんです。今年はね、去年よりまだ1度足りないんですよ。キュウリにしても、畑半分全滅しているんです。理由はだいたいわかってるんですけど、でも正解はないですよね。これなんじゃないかなというのがあって、じゃあ次はあれを試してみようって。試すのが楽しいんですね。試したくてしょうがない。それを考えると、明日休もうとか考えられないんですよ。トマトだったら1年に1回しかチャレンジできない。60歳までやるとしてあと20年。チャレンジできる回数が限られてるんです。あと20回しか挑戦できないと思うともったいなくて。ずうっと畑にいて、色々やりたいなと思うタイプなんです」

 

農業は決して稼げる仕事ではないと言う。けれどその様子からは苦しさは微塵も感じられない。少しでも美味しくしようと、楽しみながらチャレンジを繰り返す。そんな気持ちで育てられた野菜だから美味しいのだと、真栄田さんとの話を通して感じることができた。このツアーを企画した“おきなわ食べる通信”東京編集室編集長の唐木徹さんは、生産者と消費者のそんなコミュニケーションこそが、このツアーの目的と胸を張る。

 

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「今日いらした読者の方は、生産者の方と会話したわけだから、その生産者と知り合いになったってこと。今まで沖縄は遊びに来るところだったけど、知り合いに会いに帰って来るところになったと思うんですよ。『真栄田さんがいるから沖縄に帰ってきたよ、久しぶりだね、真栄田さん』って、親戚づきあいみたいな感じになるじゃないですか。それってすごく重要だなと思っていて。ゆくゆくは、『トマトが食べたい』じゃなくて、『真栄田さんのトマトが食べたい』ってなるのが一番ですよね」

 

親戚くらいに親しくなれるの?と疑問が湧く。けれど唐木さんは、そこまでの青写真を描いている。“おきなわ食べる通信”では、その読者と生産者がSNSでつながり、普段からコミュニケーションを取っている。読者が届いた野菜を使った料理を写真付きで投稿し、それを見た生産者は、自身の野菜をこんな風に食べてくれたんだと知り、コメントを残す。生産者と消費者がいつでも繋がれる場を用意しているのだ。そもそも食べる通信が目指すのは、生産者と消費者の距離を縮めることだと、唐木さんは続けた。

 

「もともと“食べる通信”が始まったのは東北なんです。“NPO法人東北開墾”の代表理事 高橋博之さんが、震災の復興で三陸海岸のカキの支援しようとしたところ、そのカキは東京では1個数百円で売られてるのに、漁師さんが実際に卸してる値段は1個数十円だったんです。あまりにもショックを受けたことから、消費者はもっと作っている人のことを知るべきなんじゃないかってことで、始まったんですね。僕はその趣旨に賛同して、沖縄の食べる通信を去年(2016年)から始めたんです。安いものが溢れている中で、消費者の『安ければいいや』っていう考え方と、いいものを作ろうと一生懸命手間ひまかけて作物を作ってる生産者の考え方が乖離してるなと思っていて。一般の消費者にもっと生産者のことを理解してもらいたいっていう思いがあったんです」

 

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全国の“食べる通信”。2017年7月現在、38もの食べる通信がある。

 

手間ひまかけている生産者のストーリーを、消費者が知り、認める。“おきなわ食べる通信”は、そんな生産者を丁寧に取材し冊子にして、または直接生産者に会う機会を作って、伝えてきた。いずれは、生産者と消費者が一体のような形になって、食べ物を共に育むことになるのが理想と、唐木さんは言う。

 

「ヨーロッパやアメリカで進んでいるCSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)を目指したいんです。要は、例えば真栄田さんのところから定期的に野菜を買うんです。毎月毎月前払いで買う。雨が降ろうが、台風が来ようが、関係なく消費者は金額を払うんですよ。それは生産者からすると、農作物に被害が出ようが、不作だろうが豊作だろうが、定期的にお金が毎月入ってくる。そしたら彼としては生活ができるし、野菜作りを続けていく資産にもなる。野菜が目的ではなくて、その人から買うということが目的なんです」

 

バックナンバー

やんばる畑人プロジェクトの特集

(写真提供/おきなわ食べる通信)

 

唐木さんの話にはっとする。私たちはただ消費するだけで、野菜を作ることは生産者に任せきりで無関心ではなかっただろうか。スーパーに並ぶ大量の野菜を前に、ただ価格と効率だけを追求してはなかっただろうか。

 

「食の健全化って、正しい作物が、公正に取引されて、人に繋がるってことだと思うんです。こだわった生産者さんのものは、相応の値段で取引すべきですよね。安ければ安いほどいいみたいな大量消費社会になっちゃってるんだけど、そろそろほんとに良いものってなんだってことを考える時期にきていると思うんですね。それに、日本の農業就業者って200万人を切っているんです。しかもその8割以上が75歳以上なんですよ。5年後にはどれくらいになっているか…。僕たち消費者が、真剣に農家さんのことを考える時期だと思うんです」

 

唐木さんがここまでの熱い思いを持つのは、農家の苦しい現状を目の当たりにしてきたから。

 

「僕、東京で育ってきてるから、親戚に農家や漁師がいるわけじゃない。だから、食べ物がどうやって届けられているか、どうやってスーパーに並べられているかなんて、全然知らなかった。ましてや生産者がどんな苦しい思いをしているかなんて、知る由しもないじゃないですか。食の販促の仕事に就いて、スーパーの仕入れ担当と一緒に生産者のところを回ったから知ってしまった。ああ、こんな思いで作ってるんだなと。知らない消費者が知ったら、考え方が変わると思うんですよ、僕みたいに。だから伝えていきたいんですよね」

 

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おきなわ食べる通信 東京編集室編集長 唐木徹さん(左)、沖縄編集室編集長 長嶺哲成さん(右)

 

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真栄田さんの畑を後にして次に向かったのは、この日の宿泊先となる“あいあいファーム”。使われなくなった小学校をリノベーションした宿で、取り囲む山々と、校庭だった場所に敷かれた芝生の緑がまぶしい場所だ。次にここで参加者をとりこにしたのは、養蜂家の三浦大樹さんによる、はちみつ採取体験。みつばちの巣からはちみつだけを取り出す作業だ。蜜蓋を薄〜くナイフで切り落とし、遠心分離機を手で高速回転させて、巣枠からはちみつを分ける。初めての体験に、参加者の顔がどんどん輝いていくのが見て取れた。

 

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おきなわbee happyを主宰する養蜂家、三浦大樹さん(右)

 

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作業をしている間、三浦さんによる“みつばちクイズ”が出される。

 

「みつばちは、巣箱からどれくらいの距離を移動しているでしょう?」
「みつばちが一生で飛ぶ距離はどれくらいでしょう?」
「一生かけて集めたはちみつの量はどれくらいでしょう?」などなど。

 

3択クイズに、めいめいが考えを巡らせて挙手して答える。正解を教えてもらうたび、「へえ〜」という関心の声が漏れてくる。三浦さんの説明によると、1回に飛ぶ距離は1kmくらいで、遠くて2km。1日のうちに12時間程度、150回くらい巣箱と花の間を往復して、せっせとはちみつを集める。40日という短い一生の間に飛ぶ距離は、なんと3,000kmも! そんな飛行距離にもかかわらず、一生かかって集めるはちみつの量は、ティースプーン1杯分ほどなのだとか。いつも何気なく口にしているはちみつが、とても特別で貴重なものに感じられた瞬間だった。

 

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そうこうしているうちに巣枠のはちみつが空になる。分離器の蛇口からひねり出されたのは、琥珀色に輝く美しい液体。思わず歓声があがる。濾した後、1本1本丁寧に瓶詰めをしていく。採取から瓶詰めまで三浦さんが全て手作業で行っていることなど、養蜂家の普段の仕事を垣間見ることができた。

 

そしてお待ちかね、たった今詰められたばかりのはちみつを味見をさせてもらえることに。

 

「おいしい〜」
「花の香りがする」
「シークワーサーの花の蜜が入っているからか、爽やか!」

 

口々に感想が飛び交う。この日の採取は、今年の春の初取りで、三浦さんも初めて味わったのだとか。三浦さんも、その出来に満足そう。去年の秋に味わったはちみつと、春のそれとは明らかに味が違う。春らしく爽やかで華やかな味わいだった。

 

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日が暮れて、いよいよ夕食の時間が訪れる。この日、畑見学から始まって、はちみつ採取、夕食までの1日の流れをコーディネートしたのは、“やんばる野外手帖”という「美味しい野遊び」をテーマにやんばるの旅をコーディネートしてくれる団体だ。運営母体は、やんばるを食を通して盛り上げる“やんばる畑人プロジェクト”。やんばるで美味しい野菜を作る農家たちと、その食材を積極的に使ってお客様を喜ばせたいと取り組んでいる飲食店などがタッグを組んで活動している。ツアー1日目のコーディネートを“やんばる野外手帖”にお願いした理由を、“おきなわ食べる通信”沖縄編集室編集長の長嶺哲成さんが話してくれる。

 

「代表の芳野幸雄さんを前から知っているんです。1人で農業やってる時からの知り合いで、彼は自分たちで販路を開拓して、自分たちで6次産業まで手がけたり、レストランをやったりしてる。1人ではできないことだからと、同じ志を持った仲間を集めたっていうのがすごいと思うんですよ。何か問題にぶつかっても、仲間と一緒に広い視野で解決してきたんですね。そういうのを目の当たりにしてきて、面白いなって思っていたんです。それで“おきなわ食べる通信”の2月号では、彼らを取材させてもらって、彼らの野菜をセットにしました。今日のツアーをお願いしたのは、今日の料理、材料はほとんどやんばる産じゃないですか。野菜はもちろん、魚もお肉も、調味料の塩や胡椒まで。このカッティングボードだって、やんばるで育ったクスノキから作ってるし、みつろうのロウソクや陶器のお皿もやんばる産だったりする。こういうのってなかなかないし、おもてなしの気持ちに溢れているでしょう。その気持ちが絶対、参加者の皆さんに伝わると思ったんですよ」

 

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料理を担当した“やんばるピクニック”満名匠吾さん(左)、コーディネーターの小泉伸弥さん(中)、やんばるハルサープロジェクト代表 芳野幸雄さん(右)

 

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やんばる産クスノキのボードでサーブされた前菜。フロマージュドテットのグジェル、キッシュ、近海魚ラグーのカナッペ、クックハルのピクルス

 

夕食の場に着くと、やんばるの豊かな自然を満喫できるロケーションや、野の花で飾られたテーブルセッティングに心が踊る。場のコーディネートから感じるのは、もてなしの心。そして何よりその気持が現れているのは、時間をかけ丁寧に調理された料理の数々。アグーは口の中でホロホロと崩れるほどに煮込まれ、その旨みが付け合せのひよこ豆やエリンギにもじんわり染み込んでいるし、ショートパスタは、野菜だけとは思えないほどのコクの詰まった味わい深いソースだった。それに、食材の今まで見たことのないような使い方も。豚の顔の肉は、塩味の効いたシュー皮に可愛らしく挟まれ、小魚のスクガラスは、やんばる野菜にかけるバーニャカウダソースへ。そして県内でもなかなかお目にかかれないような珍しい食材が、テーブルを盛り上げる。カルパッチョにした魚は、アカジンという沖縄の三大高級魚だし、コンフィにされた今帰仁アグーは、西洋豚と掛け合わせていないほぼ原種のアグーなのだとか。豊かなやんばるの食材、手間ひまを惜しまない料理の数々に、参加者は感嘆の声をあげるばかりだった。

 

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今帰仁アグーのコンフィ

 

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あいあいファーム産ハーブとアカジンミーバイの厚切りカルパッチョ

 

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やんばる新鮮野菜 スクガラスのバーニャカウダソース

 

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三浦大樹さんのはちみつをたっぷり使ったパッションフルーツソースのパンナコッタ

 

中でも私の心を動かしたのは、その日収穫させてもらった真栄田さんのトマトとキュウリを、バーニャカウダソースでいただいたこと。そして、みつばちワークショップで採取したはちみつを使ったデザートをいただいたこと。自分たちで採取した野菜だから、はちみつだから、ということももちろんあるだろう。けれどそれを口にする時に頭をよぎるのは、農家さん達の顔。苦労しながらも手間を惜しまずそれらを我が子のように栽培し採取した、真栄田さんや三浦さんの顔が浮かんでくる。味わうたび、自然と笑顔がこぼれ、ありがたい気持ちでいっぱいになった。

 

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あいあいファーム産有機野菜のショートパスタ。目玉焼きをくずしてからめる。

 

唐木さんは、「“食べる通信”の読者は、農家さんを支援しようという気持ちのある人しかいない」と言っていた。確かにそうかもしれない。けれどこの日集まった顔ぶれを見ていても、「農家を支援している」というおごった表情の人は1人もいなかった。参加者は、「送られてきた野菜の農家さんと話ができて嬉しかった」「その農家さんが作った野菜をその場で食べて、美味しかった」「みつばちのことなど、知らないことを知ることができて楽しかった」…等々。そこには、喜びしかなかった。

 

そして農家さんも、自身の喜びのために農業をしているし、普段会うことはない消費者の表情を間近に見、冬場にもかかわらず豊かな野菜が食べられたことへの満足の声を聞いた。両者を結ぶのは、お互いの喜びを分け合うような、農家と読者の対等な関係。食べる通信は、農家支援のシステムというよりは、農家と消費者をつなげて、それぞれの喜びを大きく広げてくれる、頼もしい橋渡し役だった。

 

写真・文 和氣えり(編集部)

 

バックナンバー

 

おきなわ食べる通信
http://www.okitabe.net

 

やんばる野外手帖
http://haruser.jp/yanbaru_wilddiary/

 

やんばるハルサープロジェクト
http://haruser.jp
(関連記事:やんばる畑人くらぶ

 

おきなわbee happy
https://www.facebook.com/okinawabeehappypj/
(関連記事:おきなわbee happy

 

今帰仁の里 あいあいファーム
http://happy-amenity.com