「LONDON meets OKINAWA.」 4月25日からロンドンで行なわれるLOOCHOO(ルーチュー)展。 ロンドンとオキナワ、過去・現在・未来。 琉球クリエイションが時空を超えて交差する。

文:幸喜 朝子 写真:大湾 朝太郎

 
4月に行なわれるウチナーンチュ作家の展示会LOOCHOOに参加する作家さんを
実行委員会メンバーであるブエコこと幸喜朝子が紹介します。
 
今回は、那覇市の首里で、オリジナルの器を制作販売しているdeccoの仲村盛隆さん、聡子さんと、YOKANGのテキスタイルデザイナーの田仲洋さんを訪問。
 
 
LONDON meets decco
 
白い壁にかけられた白い一輪挿し。
並べられたマグやお皿、スプーンなんかも、ぜんぶ白。
磁器作家のdeccoさんは白い作品しか作らない。
だからなのか、曇りの日でもショップはとても明るくて気持ちがいい。
おなじく明るく気持ちのいい笑顔で仲村さんご夫婦が迎えてくれました。
 

 
deccoは仲村盛隆さんと聡子さん夫婦2人の創作ユニット。
卵の形の一輪挿しやボタンがちょこんとあしらわれた豆皿、
フォークみたいな薬味置きなど、
どこかファンタジーで可愛い作品を作っています。
その可愛らしい世界観からてっきり
女性が作っているのかと思っていたのですが。
 

 
盛隆さん
「制作はだいたい僕で、妻がショップ店長。
僕、かわいいもの好きな“乙女オジサン”なんですよね(笑)」
 
聡子さん
「彼がショップにいるとお客さんも
『なんでいるの、このおじさん?』みたいな空気なんです(笑)」
 

 
乙女オジサン、かわいいネーミング!
思わず作品の説明を聞きながら一緒にきゃぴきゃぴ。
今でこそ白い磁器しか作っていませんが
以前は色や柄の入った陶器も制作していたというdeccoさん。
 
盛隆さん
「大学の頃は色のついた陶器も作ってたんです。
でも陶器はかけやすくて。
自分が作りたいのは壊れにくくて、かけにくい薄い器だと気付いて
それで素材を磁器にしたんです。
白という色も、ムダを省いていったら自然と行き着きました。
デザインが素敵でも使いにくいものって結局
食器棚のうしろの方に置いちゃうんだよね。
僕らが作りたいのは毎日気軽に使えるもの、
ハレの日とケの日があったら、ケの日に使ってもらえるもの。
棚の真ん中に置いてほしいからさ」
 

 
普段使いにこだわるだけあってdeccoさんの作品は本当に使いやすい。
人気のmugシリーズはちょうどいい口当たりのなめらかな薄さ、
しっくりなじむ持ち手、そしてレンジでも温められる便利さで
買ったその日から我が家の食器棚のセンターを勝ち取っています。
 
 
もちろん、deccoさん自身も暮らしの中で作品を使っているのだそう。
実感を持ってお客さんに作品を勧められるからね、と。
反対に、こんなの欲しいね、という会話から作品ができることも。
その一つが長い柄が特徴的なオリーブスプーン。
口の狭い瓶からでもオリーブが取り出しやすいように、と
オリーブ好きの聡子さんからの提案です。
 
聡子さん
「口の広い瓶だと全然意味ないんですけどね〜(笑)
でもお客さんはおもしろがって買ってくれたり。
オリーブ嫌いだけどマドラーに使うっていうおばちゃんもいたよ」
 
 
deccoさんの作品はシンプルなのに
2人の遊び心のスパイスが隠し味になっている。
だからきっとこんなに魅力的なんだろうなぁ。
お客さんにも遊び心が伝わるのか、
自由に使い方をアレンジして楽しむ人が多いそう。
 
 
聡子さん
「これにお菓子入れようね〜って豆皿を買っていった人が
今はアクセサリー入れにしてるよ、ってあとで報告してくれたり。
eggシリーズはボウルにもなるし茶碗にもなるし、取り皿にもなる。
そうやって使う人に自由にアレンジしてもらえるのが嬉しい」
 
 
中には作品自体がお客さんとの会話で
変わっていくこともあるんだとか。
使う人と一緒に作品が成長していくのを楽しむdeccoさん。
創作のテーマは「きほんのきほん」。
 

 
盛隆さん
「僕らのキャッチフレーズは『きほんのきほん』。
きほんって言うと型にはめるとか枠にはめるとか
ネガティブなイメージを持つ人もいると思うんだけど、
僕は基本に戻るとムダがなくなったり
自分の心を整えられると考えてて。
空手でも型を覚えてこそ自由なスタイルに挑戦できるさ。
deccoは単なる普段使いじゃなくて
もっと自由な暮らしへ向かうための原点になりたいんです」
 
 
こういったコンセプトを掘り下げて考えたのは
LOOCHOO展がきっかけだと言う2人。
 
 
聡子さん
「LOOCHOOに出品することになって
自分たちの作品づくりの根底を考えることが多くなったんです。
そもそも英語で「器」って何って言えばいいんだろう、
食器ともちょっとニュアンスが違うし…とか。
いろんなことを考え直しました」
 
そんなdeccoさんの気になる出品作品はまだ内緒!
 
盛隆さん
「内容はまだ明かせませんが、
一輪挿しのベースと本を使った展示をしようと思って
みんなからとにかく本を集めてます。
ロンドンでは一輪挿しの概念もないらしいから、
花を一輪で飾る美しさ自体も伝わるかどうか、楽しみだよね」
 

 
きゃぴきゃぴ、ほのぼの進んだとても楽しい取材の時間。
ロンドンで白い器たちと一緒にお客さんたちの
自由な反応を楽しむdeccoさんの姿が今から目に浮かびます。
 
 
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LONDON meets 田仲洋
 
 
鮮やかで力強い。でも、どこか繊細。
染色家・田仲洋さんの作品を眺めていたら、
なんだか「いのち」という単語が浮かんできた。
 

 
LOOCHOOに染色家として出展する洋さんは
沖縄を代表するブランドYOKANGのテキスタイルデザインと染色を担当しています。
奥さまであるカンナさんがデザインし洋さんが染色するYOKANG。
2人が生み出す世界観はとても斬新で
県内外、さらには国外にも熱狂的なファンを持っています。
いつかYOKANGのワンピースをさらりと着こなしてみたい!
そう想う女性は多いはず。もちろん私もその一人。
だから洋さんへの取材は数日前からワクワクしっぱなし!
 

 
もともと設計会社に務め店舗デザインをしていたという洋さん。
個人的に作る作品も立体物ばかりだったそう。
 
 
「染色を始めたのはYOKANGを立ち上げてから。
カンナと結婚して2人でできることを考えた時に
服を作ることになって。俺が仕事やめて
カンナについていくことにしたんだよね(笑)。
彼女のお母さんがオートクチュールの紅型を作ってたから
紅型を取り入れたのは必然だった」
 
 
そう、カンナさんのお母様は40年以上も前から紅型の
ファッションを提案する「マドンナ」のデザイナー。
これまた根強いファンがいるブランドです。
 
 
もちろん、洋さんのデザインは柄も手法も古典的な紅型とは違う斬新なもの。
一般的な紅型は図柄の中央しか使わないところを
YOKANGでは周りの捨てる部分もパターンとして使用。
さらに通常では2,3日かかる制作の工程を
洋さんならではの方法で3時間に短縮してしまった。
 

 
 
「染めに2,3日かけると商品の値段が高くなってしまう。
だから染めの工程をエアーブラシにしてるんです。
そうするとほんの3時間でなんの遜色もない紅型に仕上がる。
僕はこれをエアー紅型って呼んでます(笑)
もちろん、『それは紅型じゃない』って言う方もいると思いますが
高くて手が出なかった紅型の値段を下げられますから」
 

 
 
その新しい手法から最初は叩かれることも多かったというYOKANG。
でもカンナさんのお母さまは「おもしろい、もっとやれ!」と応援してくれたそう。
「お母さんが一番ぶっ飛んでるからね〜」と洋さん。
そうして10年前に立ち上がったYOKANGは
すぐに人気セレクトショップBEAMSのバイヤーの目にとまり全国へ。
今ではアジアでも展開するなど快進撃は止まらない。
 

 
 
その独特の世界観を作っている一つの要素が個性的な柄。
「普通の紅型では使わないものばっかり」と洋さんが言うように
タツノオトシゴやハブクラゲの柄も!
古典で使われる鳳凰も尾だけを大きくトリミングするなど
洋さんならではのセンスがYOKANGデザインを生み出しています。
 
 
「作る時に心がけてるのはいい意味での裏切りですね。
見る人が「こんなことできるの!」って感じるようなこと、
他の人が考えつかないようなことをやりたい」
 

 
 
2011年から個人での活動も始めた洋さん、
LOOCHOOにはYOKANGとしてではなく田仲洋として参加。
布ではなく和紙に染め幾重にも重ねた作品を展示します。
 
 
「壁に飾るんじゃなくて、作品を使って空間を作ります。
そこに生まれる光と影の陰影を見て欲しいですね。
僕の展示は入口からすぐの場所なのでお客さんが最初に目にする。
だから難しいことを伝えたいんじゃなくて
鮮やかな色とか柄とか、まずは沖縄を感じてもらえたら」
 
 
ほの明るいクリプトギャラリーに浮かび上がる鮮やかな紅型。
その美しさはきっと沖縄の気持ちいい風景や
おおらかな空気をロンドンに運んでくれる。
 
 
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 LOOCHOO展
 日時:2012年4月25日〜30日
 場所:ロンドン クリプトギャラリー
 HP:http://loochoo.ti-da.net/
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■プロフィール
【decco】仲村盛隆:磁器作家 仲村聡子:店長
 
02年よりアトリエをかまえ、03年沖縄では珍しい磁器制作・販売のオンラインショップdeccoを設立。07年にオフラインショップ(実店舗)を那覇市首里に開店。10年6月には初の個展を宜野湾市MIX Life-Styleで開催。11年6月に宜野湾市MIX Life-Styleで二度目の個展。同年10月に千葉県で開催された「第9回・工房からの風」に出展。同年12月東京日本橋ヒナタノオトで企画展出品。12年2月宜野湾市[そ]で企画展に出品。現在県内6店舗のギャラリーや雑貨店で作品の購入が出来、瓶入りオリーブ用に作った柄の長いスプーン等ユニークな作品が多く新しい沖縄産のおしゃれな磁器として女性を中心に人気を集める。
 
http://www.decco.jp/2010/index.php decco HP
http://decco.ti-da.net deccoブログ
 
【田仲洋】:YOKANGテキスタイルデザイナー/染色家
東京で設計会社勤務。沖縄に戻りデザイン会社を設立し、店舗デザイン等を多数手がける。02年よりアパレルブランドYOKANGでテキスタイルデザインと染めを担当。伝統工芸の紅型、藍型の技法を独自のスタイルで昇華させ新しいスタイルを提案。08年より伊是名淳とTHAIを結成YOKANGとして国内外で多数のコレクション発表とともに受賞作も多数。沖縄県出身の歌手や女優等の衣装デザインも手がける。田仲個人として11年には石垣ペンギンギャラリーにて初個展。同年9月にプラザハスGLOBAL GALLERYで万華鏡作家角敏郎氏と紅型で参加。その緻密なタッチと色彩は近年の若手作家の中で最も伝統工芸としての紅型に近いが、独創的なデザインは他に類をみず熱狂的なファンをかかえる。1969年 那覇市出身
 
http://www.yokang.jp/index.html YOKANG HP