Gallivant bakery(ガリヴァントベーカリー)道具はボウルと木べらだけ。たっぷり野菜が似合う簡単パン教室

ガリヴァントベーカリー

 

まさか、と思うほど簡単に焼けるパンの教室がある。道具はボウル1個に木べら1本。オーブンに入れるまでの工程は、わずか30分ほどで終わってしまう。

 

「ご飯を炊くのと同じくらい簡単なんです。あまりに簡単すぎて、パン作りの時間よりも試食時間のほうが長いくらい!」

 

Gallivant bakery(ガリヴァントベーカリー)のオーナー、河本美紀さんは笑う。

 

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まず、パンづくりの手順を説明。「簡単すぎて、手順説明もあっという間に終わっちゃう(笑)」

 

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「今日は500グラムの粉で作ります」

 

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上が一般的なパンづくりの工程で、下が美紀さん方式。「生地こね」のあと発酵するまでは、買い物に出たり本を読んだりと自由に過ごせる。寝る前に仕込んでおけば、翌朝には発酵が完了している。「女性はみな忙しいから、時間は有効に使いたいですもんね」

パン作りといえば、細かい作業に腕力勝負の大仕事だと思っていた。生地をこねて発酵させ、念入りに空気を抜き、正確に切り分けて休ませ、形を作ってまた寝かせて…。普通なら、軽く半日はかかってしまうプロセスだ。それを、ほとんど省いてしまうのが美紀さん式である。

 

「生地をぱぱっと作ったら、あとは自然に発酵するの待つだけ。逆に、生地をさわり過ぎないことが大切なんです」

 

たとえば生地を切り分けるとき、スケールで量っていたら時間がかかって硬くなる。成形も、まん丸にしようと思うとこね過ぎる。「丸、らしく」でいいのだと美紀さんは言う。手間をかけないのが、コツ?となれば、未経験者でも料理ベタでも、夢のように簡単にパンが焼けるのでは! と、期待に胸がふくらむ。

 

「材料の分量も、ほとんど決まっていません。パンの仕上がりは、その日の天気や温度、湿気などさまざまな条件によって変わるからです。梅雨の時期などは、粉も湿気を吸っていますよね。そこで微妙な水加減が必要になってくるのですが、慣れれば手の感覚だけで分かります。スケールもいりませんよ。ですから、この教室でぜひ覚えてほしいことは1つだけ。それは、生地の感触です」

 

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使用するイースト菌は、ほんの少しだけ。「レシピには分量1グラムとありますが、0.5グラム程度で大丈夫。ゆっくり発酵させるので、しっかりふくらみます。水の量は、その日の天候と生地の様子を見ながら調整します」さらに、砂糖と塩を加えて混ぜる。

 

「一般的な作り方だと、砂糖と塩はイースト菌と一緒にせず、後から入れるのが鉄則です。イーストと塩が混ざると、菌の発酵が抑えられてしまうからです。でも、私は入れちゃいます(笑)。大丈夫、それでもちゃんとふくらみますよ」

 

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「小麦粉はふるわなくても良いんだけど、ふるうとしたらこのくらい粗めのざるで、簡単に。あまり丹念にふるうとキッチンも汚れるし、洗い物も増えて大変ですから」

 

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ボウルに入れた粉と水をさっくりと混ぜ合わせる。

 

「少しずつ水を足していきます。たった 5~10 ccでも食感が変わりますので、少しずつ加えてくださいね。入れすぎてしまうのが心配なら、霧吹きを使うといいですよ。はい、これが少し硬めの状態の生地。木べらでさわって、感触を覚えてください」

 

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美紀さんのパン教室で一番大事な瞬間が訪れた。一人ずつボウルを抱え、木べらで混ぜながら生地の感触を確かめる。

 

「水が少ないとパサパサした食感のパンになってしまうし、多過ぎるとベタッとしてうまく膨らまないんです」

 

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「さらに水を加えると、ほら、のびが出てきたでしょう? さっきのすこし硬めの状態でもいいのですが、できるだけ柔らかいほうがもちっとして美味しいパンになります。柔らかいと扱いがすこし難しいのですが、慣れてきたらこのくらいまでゆるくしてみてください。さっきの硬めの状態からここまでがストライクゾーン。この感触さえしっかり覚えておけば、そしてボウルと木べらさえあれば、世界中どこへ行ってもおいしいパンが作れますよ。はい、これで生地作りの工程は終了です」

 

えっ、もう終わり?本当に、あっけなくできてしまった。あとは密閉容器に移して冷蔵庫に入れ、発酵を待つだけだと言う。

 

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「オリーブオイルを塗っておくと、発酵後の生地がスムーズにはがれます」

 

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「ボウルから容器に移す際、『カード』を使うと便利ですが、もちろんなくても大丈夫」

 

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「冷蔵庫に入れて発酵させます。寝かす時間はだいたい一晩、8時間。発酵の目安として、2~3倍ほどにふくらんだらOK。発酵前の生地の位置にテープなどを貼って印をつけておくといいですね」

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「今日はトマト入りの生地も作ります。トマトピューレは、つぶすほど水が出てくるので、水分調整に気をつけてくださいね」

 

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「何回も作って、ベストな生地の手ざわりを覚えるのが大事。やり方は簡単ですが奥が深いです」

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生地を入れるのは、冷蔵室よりも野菜室がおすすめだと言う。

 

「冷え過ぎないので、うまく発酵しやすいんです。また、焼く前に生地を常温に戻さなければいけないのですが、冷蔵室で冷やしてしまうと、常温に戻すのに半日かかってしまうことも」

 

いったん野菜室に入れてしまえば、そこから8時間は自由時間。他の家事もできるし、出かけても眠ってもいい。

 

「生地の中で材料たちが勝手に色々やってくれるのが、このレシピの特徴なんです。逆に、お世話をし過ぎない、触らない方がいいんですよ」

 

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左の2つが発酵前、右の2つが発酵後の生地。ふくらみ具合や気泡のようすで、発酵の状態を見極める。

 

美紀さんが、昨夜仕込んだ生地を運んできた。

 

「いい感じに発酵してくれました! 下のほうに大小の気泡があり、上に行こう行こう、としているのが分かりますね。これは生地が元気よく、自力でのびのび育った証拠。私はまったく手を貸さず、ただ冷蔵庫に入れて出しただけです。このふんわりした状態を作ったのは、イーストと粉と水。そして、生地が自然に発酵する力です。作り手はラクをさせてもらえます(笑)。そうそう、『ラクにラクに』というのも、このレシピのポイントですね。だから、バットに移す作業も成形も、できるだけ力を抜いて。『よしがんばるぞ』と力を入れる必要はありません」

 

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「生地が自分で降りてくるのを待ちます。急がず、ゆっくりと」

 

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「成形に入ります。普通なら一度、ガスを抜いてから成形しますが、生地が眠った状態なのにいきなり『ドン!』と落とすと目を覚ましてしまいます。ほんとは生地を休ませないといけないところですが、成形していることに気付かれなければ大丈夫」

 

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丸めるというよりは、台に置いたまま指先で軽く形を整えるだけ。

 

あくまでも優しく、そっと生地に手を添えて成形する。

 

「まだまだ生地は眠っています。いきなり力を加えると『何だ?! 誰だ?!』とびっくりさせてしまいますよ(笑)。起こさないよう、こっそり作業を進めましょう。

 

また、スケールなどで重さを量る必要もありません。好きな大きさで OK 。例えば、30グラムのパンをを10個作ろうとすると細かい作業になり、時間がかかって触り過ぎちゃいます。それが、生地が硬くなってしまう原因になるんです」

 

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ぐっすり眠ったまま!? オーブンに入った生地たち。ここまでくると、可愛くてたまらなくなる。「オーブンは200度くらいに予熱して。家庭用オーブンでもしっかり焼けますよ。だいたい25~30分ほどで焼きあがります」

 

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「野菜入りのパンとピザも作りましょうか」
県産の新鮮な野菜が運ばれてきた。

 

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「焼くと生地が膨らんで具材が浮き上がってくるので、生地に埋め込むような感じで並べてください」

 

横浜出身の美紀さんが沖縄に移住してきたのは2007年。友人が沖縄で立ち上げたベーグルショップのオープンを手伝ったのがきっかけだった。幼い頃から、お菓子作りが好きだったと言う。

 

「子どもの頃の夢はずばり、『ケーキ屋さん』(笑)。でも、高校時代のアルバイトでパン作りの楽しさに出会い、卒業後は『辻製菓専門学校』で学びました。パンコースがあったのが決め手で、その学校を選んだんです。卒業後はフランスパンの工房や、薪で火をおこす窯焼きパンの店、大規模な製パン工場などで働き、経験を積みました」

 

パン一筋の人生かと思いきや、ハードワークや機械頼みの量産体制に疑問を感じ、パンを作るのが辛い時期もあったと言う。

 

「パン作りの仕事を辞め、豆腐店で働いたこともあるんです。単純に『豆腐が好きだったから』という理由もあって(笑)。しかしある日、上司に言われたんです。『豆腐を使ったパンを開発してみないか』って。オーブン以外にパンを作る設備はなく、あるのはせいぜいボウルと木べらくらい。さて、どうしよう? と思いました。そこで考えた『できるだけ簡単なパンづくりレシピ』が、今のレシピのベースになっているんです」

 

旅先で、宿代がわりにパン作りを頼まれたこともあると言う。

 

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並べ方にも特に決まりはない。「なんだか楽しくなってきたな!」と生徒さん。

 

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ナスを飛び石のように配置したアメリカ人の生徒さんも。「ZEN(禅)ガーデンをイメージしてみたよ(笑)」

 

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塩・コショウ・ハーブ類・オリーブオイルなどをかけ、味をつけたらオーブンへ。

 

「南洋の島国、サモアに旅行した時のことです。海辺に落ちていたガラス瓶を使い、マンゴーの種から天然酵母を起こして作ってみました。ここでも、使ったのはボウルと木べらだけ。でも私、旅行に来ただけなのになんでパン作ってるんだろう? みたいな(笑)。何をやっても、パンの道にグイッと引き戻されてしまうんですよね」

 

そう言って美紀さんは笑う。

 

「パンを作る人生なのかな。亡くなった祖父がパン屋さんだったんですよ。私がパン作りをやめようとしても、その先にパンが待ってる。どこかでおじいちゃんがピピピーって指示を出しているのかもしれませんね(笑)」

 

沖縄に移住後、Ploughman’s lunch bakery(関連記事:売り切れ必至のパンのこだわりは「こだわり過ぎないこと」) での勤務を経て、2012年の6月に店をオープンさせた。

 

「自分のペースでパンを作れる、アトリエのような場所がほしかったんです。10数年かけて身につけたパン作りも、今後はもっと広めていきたいですね。家で作ってみたよ、と生徒さんが話してくれるときが一番嬉しいです」

 

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「はい、焼けましたー」

 

教室が始まってまだ1時間弱。生地はこんがり色づいたパンとなって、オーブンから出てきた。表面はパリッと薄く焼き上がり、ナイフを入れるとフワフワ湯気が立つ。

 

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中身はもっちりとしてツヤがあり、気持ちがいいほど大きな気泡もふくらんでいる。温かいうちにちぎって口に入れてみた。ほんのり広がる、素朴な小麦の味わい。やわらかい中にも適度な弾力があり、噛むほどにどんどん満足度が上がっていく。そして、深呼吸したくなるほど香ばしい。

 

これがほんとに、あんなに簡単に作った生地で焼いたパン?! 想像をはるかに超えた本格的な味わいに、なんだか狐につままれたような気持ちになる。

 

「素材のもつ力」。美紀さんが何度も繰り返していた言葉を思い出す。私たちが必死に手を加えないでも、こんなに美味しいパンになってくれるのだ。

 

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このまま何個でも食べてしまいそう…と思っているところへ、山盛りの季節野菜が運ばれてきた。

 

「さあ、みんなでランチにしましょう!」

 

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近所の「志良堂(しらどう)農園」から届く、摘みたてのベビーリーフを使ったサラダ。

 

「パンはあっという間にできちゃう。みんなでゆんたくしながらランチをとる時間の方がずっと長いパン教室なんです(笑)」

 

パン作りが簡単な分、バリエーション豊かな食べ方をゆっくり楽しめるというわけだ。テーブルに並んだのは、19種類もの野菜をミックスしたベビーリーフと、細く刻んだニンジンのサラダ。みずみずしい柑橘類が散りばめられ、見るからに新鮮でおいしそうだ。これらの野菜を好きなだけ、たっぷりとパンに挟んで食べる。オリーブオイルやバルサミコソースで味つけをしてもいい。黒コショウを挽いてピリリと仕上げるのもおすすめだ。

 

生徒の一人であるアメリカ人の男性が、美味しそうにパンと野菜を頬張りながら言った。

 

「パンも野菜もすごくシンプルです。だけど、味わいはものすごくダイナミック! そう感じませんか? こういう食事こそが最も素晴らしい。僕はそう思います。」

 

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「そのままだとフォッカチャ、チーズを乗せればピザになります」

 

続いて、オクラ&ジャガイモのフォッカチャに、ナスのピザも焼きあがった。

 

生地を少しアレンジするだけで、さまざまな味わいのパンが楽しめる。例えば、グラハム粉を入れればフォッカチャ、生地にトマトピューレを混ぜ込み、仕上げにチーズを乗せて焼けばピザ、といった具合に。一回のパン教室で、何種類ものレシピを習得した気分になれる。

 

「パンも食事も、毎回違うメニューをご用意しています」

 

レシピに縛られず、季節の野菜とともに楽しむパン作り。継続して教室に通う生徒さんが多いのも頷ける。

 

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野菜の煮物、ドラゴンフルーツのサラダも登場。「私が野菜好きなのを知っていて、農家さんや近所の方が、いつの間にか入口に野菜を置いて行ってくれることも(笑)」

 

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Gallivant bakery は、カフェスペースを併設したパン屋でもある。オープンは土曜日のみだ。土曜以外の教室がない日を、美紀さんは農園を見て回ったり、ジャムを作ったりして過ごす。パンを焼き、パンに合う食材を集め、より楽しくおいしく食べるために工夫する毎日だ。

 

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「ヘルシーな食事は大好き。でも、同じくらいチョコレートも好き(笑)」食後のデザートとコーヒーも欠かせない。

 

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美紀さんが作るパンの美味しさは、すでに多くの人をひきつけ、遠方から足繁く通う人も多い。それならば、パン屋の運営に力を入れたほうがいいのではないかと、おせっかいながらつい思ってしまう。

 

「皆さんが作り方を覚えれば、毎日おうちで焼きたてを食べられるでしょ? それが一番ステキなことだと思うから」

 

自分だけがひたすらパンを焼き、売りたいわけではないのだ。それでも、作り方を習得した生徒の多くは、土曜日になると美紀さんのパンを買いに訪れるという。自分が作ったパンと美紀さんのパンとの違いを確認するためだ。

 

「ありがたいことですよね。今まで色々なパン屋で働いてきましたが、今の私はこの状態がすごく心地良いんです」

 

簡単でおいしく、シンプルで贅沢なパン。パン作りなんてやったことがない私でも、こんなに簡単でおいしいのなら作ってみよう!と思った。だって、家族に食べさせてあげたいから。素材の持つ力と味わいも教えてあげたい。

 

それでもやっぱり土曜になったら、美紀さんの作ったパンを求めに、ここを訪れてしまうだろうけれど。

 

写真・文 中井 雅代

 

ガリヴァントベーカリー
Gallivant bakery(ガリヴァントベーカリー)
国頭郡宜野座村松田35
open 9:00~15:00(売り切れまで) 土曜日のみ
*パン教室の予定はブログをご確認ください

 

HP http://galliva.net
ブログ http://gallivantbakery.ti-da.net