8ism(ヤイズム)こだわりの茶葉で淹れる家庭的な紅茶をアンティークな空間で

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「練乳のフレーバーティーで淹れたミルクティーです」

 

フレーバーティーは多種あれど、練乳とは初耳。

 

紅茶の味わいを決定づけているのはその芳醇な茶葉ではあるものの、フレーバーがその味を唯一無二の存在に引き上げている。
これまでに飲んだことのない、それでいてどこか懐かしさを覚える優しい甘み。
子どもの頃から慣れ親しんだ練乳の香りがほのかに加わることで、一気にその味に親しみがわく。
「香り」とはこれほどまでに存在感があるのか。

 

「珍しいフレーバーがあるとつい試したくなるんです(笑)。
紅茶専門店というとストレートティーをおすすめするところが多いかもしれませんが、うちはフレーバーティーもあるしミルクティーもおすすめ。
実は私、以前はストレートティーが飲めなかったんです。ずっとミルクティー一辺倒で」

 

 

 

 

弥生さんがストレートティーを飲めるようになったのは、山梨の紅茶専門店でアルバイトしたのがきっかけだが、その当時、弥生さんはマクロビオテックの学校に通っていた。

 

「高校生の頃、急に肉を食べたくなくなったんです。
実家は肉屋を営んでいるのですが(笑)。
もともと白米も好きではなかったので、玄米食に切り替えて。
自己流で始めた菜食なのに、最初から超ストイックにやってしまって」

 

弥生さんを心配した母親が、マクロビオテックをしっかり学べる学校が山梨にあると勧めてくれたという。

 

「やりたいことは他にも色々ありました。
絵の学校も行ってみたいし美容師にも興味がある。
だけど、最終的に行き着くのはカフェを開くという夢かな?という気もしていたので。
自分が何をしたいのかを考えたとき、自分の中で一番強かったのが『両親と一緒に何かしたい』という思いだったんです」

 


 

 

「両親とともに」という弥生さんの強い思いの由来は、幼少期にさかのぼる。
肉屋を営む両親は、毎日朝早くから夜遅くまで働いていたため、家族一緒に過ごす時間はそれほど多くなかった。

 

「でも、私の中には良い思い出しかないんですよ。
ディズニーランドに連れて行ってくれたなーとか、お泊まりに行ったのが楽しかったなーとか。
私自身には寂しかった記憶はまったくないのですが、両親にそう思わせているのが申し訳ない気がして。
だから、まずは親孝行からだ!と。
それで、親とカフェをやるためにもとりあえずマクロビオテックを学ぼうと考えました」

 

菜食やマクロビについての専門知識を得るべく通い始めた学校だったが、そこで弥生さんは逆に、食に対する意識が大らかになったという。

 

「不思議な話なのですが、マクロビの世界を学ぶにつれ、何を食べても楽しければいいんだ!って感じるようになって。
自分の中で何かがパン!と弾けたような感じでした。
それ以降、マクロビに対する熱も落ち着いていきました。」

 

 


 

学校に通いながら、弥生さんは山梨県小淵沢の「紅茶専門店ラティス」という店へ足を運ぶようになった。
ミルクティーしか飲めなかった弥生さんが、その店の茶葉で淹れた紅茶だと初めてストレートで飲むことができたからだ。

 

「それまではストレートティーをおいしいと感じたことがなく、味も香りもミルクティーの方が上だと思っていたんです。
でもラティスの紅茶はおいしかった、一口飲んですぐに違いを感じました」

 

ラティスではその時期ベストの茶葉を提供するために、シーズンごとに仕入れ先の農園を変える。
そのため、毎シーズン同じ味が楽しめるというわけではないが、画一化された味ではなく、厳選されたこだわりの農園ごとのそれぞれの時期、それぞれの味を楽しむことができる上に、輸送には必ず空輸便を使用するため、新鮮な茶葉で淹れた紅茶が味わえる。

 

この店でアルバイトができたら…と思っていた矢先に募集があり、弥生さんはそこで働き始めた。
オーナーの価値観を知るにつれ、ラティスの魅力はその茶葉だけでなく、紅茶に対する理念にもあることに気づいた。

 

「ラティスの茶葉は日本の穂苦品安全基準122項目を満たしているだけでなく、その時期のベストクオリティーの茶葉を産出した農園から仕入れていますが、価格はとても抑えられています。
『紅茶は高級なものではなく身近な飲み物である』と、ラティスのオーナーはいつも話していました。特別な時にだけ飲むものでもなく、高いお金を支払わなければ手に入らないというのでもない。毎日気軽にゴクゴクと飲める、それでいておいしい紅茶であること。
ラティスの紅茶がおいしいのは、いつでもおいしい紅茶を楽しんで頂きたいという、お客様に対する想いにも由来しているんだと感じました」

 

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紅茶の淹れ方についても、アルバイト時代に弥生さんは目からうろこが落ちる経験をした。

 

「それまで私が行ったことのあるティールームでは、『紅茶といえばストレートティー』という強いこだわりを感じることが多かったのですが、ラティスは違っていました。
『砂糖を淹れてもいい、ミルクティーにしてもいい、フレーバーティーだっておいしい。その人が楽しく飲めたらOK!』というオーナーの考え方にとても共感したんです。

 

特に女性は気分によって飲みたいものも変わったりしますよね。
まったりしたいときはミルクティー、甘い香りを楽しみたい時はフレーバーティー、すっきりと朝を迎えたいときはストレートティーという風に。

 

私は昔からミルクティーばかり飲んでいたので、それで良いんだと肯定してもらえたような気がして、ホッとしました」

 

食事のスタイル同様、本人が楽しむ気持ちを優先するラティスの理念は、弥生さんにしっくり馴染んだ。

 

数年働いたのち弥生さんは沖縄に戻り、母親とともに店を構えた。
茶葉はラティスのものを使用すると決めていた。

 

 

 

 

 

 

店内に一歩はいると、そのインテリアの見事さ、センスの良さに目を奪われるに違いない。
いずれも両親が長年かけて蒐集したアンティークの品々だ。

 

「もともと父がアンティーク好きで。母も次第に夢中になり、二人が東京やイギリスなどで買い付けたものが家に沢山あったんです。それをすべてお店に持ってきた、という感じですね」

 

年月をかけて集められたというだけあり、そのインテリアセンスには相当の年季が入っていることが伺える。
どの雑貨も、一時的な寄せ集めではないことは一目でわかる。

 

「最初はカウンター席もある『お一人様カフェ』をやろうかと思っていたんです。
女性はお一人だと入りづらいかな?と思って二人席を増やしましたが、一人でも静かにゆっくり寛いでいただける空間にしたいと思っています」

 

 


「アーティストの方がいらして『創作意欲が湧く!』とおっしゃってくださったことも」

 

8ism の食事は焼き菓子からスモークサンドにいたるまで、すべて弥生さんの手づくりだ。
小さい頃から食べることが大好き。外で食べておいしいかったものを家で再現することも多いという。

 

「元来出不精なので、『外で食べるのは面倒だからおうちで作っちゃえ〜!』という感じで(笑)」

 

 


平和通りで肉屋を営む実家から仕入れるベーコンは、圧巻のボリューム。
ティールームのメニューと聞いて想像するイメージからは少し離れた、食べごたえのあるサンド。

 

 

お菓子作りが好きになったきっかけは、母親の14歳年下の妹である弥生さんの叔母がよく作ってくれていたお菓子だという。

 

「私が幼稚園生の頃だったと思います。高校生だった叔母がガトーショコラをよく作ってくれて。
家に帰って来たときの手づくりのお菓子の匂いや雰囲気が好きでよく覚えているのですが、あの時の叔母みたいに、当店に来てくださった方がご自宅でも作ってくれたらいいなぁーと。
お母さんたちが子どもさんに作ったり、逆に娘さんがご両親に作ってあげたり。
よく、どこかでお菓子作りを習ったの?ときかれるのですがすべて独学。逆にプロっぽくなりすぎないように気をつけています(笑)。
手作り感のある、家庭の味を大事にしたくて」

 

その思いはしっかりと料理に反映されている。
毎週のように通う常連客は、弥生さんの味を「とても優しい味」と表現する。

 

「『あなたみたいな普通の子でも作れるんだね〜』と思ってもらいたいんです。『それなら自分にも作れるかも』って。たずねて頂けたらレシピもお教えしています」

 

 

 

今後はドリンクメニューもさらに豊富にしていきたいと言う。

 

「今年仕入れた茶葉を来年も仕入れるとは限らないので、必然的にドリンクメニューは変わりますが、色々なメニューを増やしてお客様に楽しんで頂けるように頑張りたいと思っています。

 

雑貨を販売してないの?と聞かれることも多いので、今後は雑貨販売もしていけたら。

 

また、夜にも店を開けて、紅茶に関連したお酒を出すのも良いかな? と考えています。今はメニューの試作段階。
そのうち二号店も出せたら嬉しいですね」

 

 

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階段を上ると、目の前のハイセンスな空間に目を見張る。
那覇の新興地区にあって、アンティークに彩られたそのティールームはあまりに存在感があるが、ビルの3階という立地から知る人ぞ知るヒミツの場所という雰囲気だ。

 

外の世界とは漂う空気さえも違うような異空間だが、気後れする間もなく自然とそのドアを開け、店内に吸い込まれてしまう。
続々と店に入って来る人の多さを目の当たりにして、皆同じような感覚なのだろうなと思った。

 

両親が集めたアンティークに囲まれ、弥生さんはおうちでそうしていたようにお菓子を焼き、料理を作り、紅茶を淹れる。
8ism がその洗練されたスタイルをもって提供しているのは、スペシャルなものや時間というよりも、家庭の温もりそのものだ。
私の実家にも今住んでいる家にもアンティークなんて気のきいたものはないのに、まるで我が家のようにホッとして寛ぎ、そしてまた戻ってきたくなるのはそのせいかもしれない。

 

店内で過ごしていると、その雰囲気に知らず知らず気がゆるむ。
客はみな、カウンター越しに気軽に弥生さんに声をかける。

 

「8ism という名前の由来はなんですか?」
「お一人でなさっているんですか?」
「アンティークはどこで仕入れているんですか?」

 

きっとあなたも同じように会話をしたくなるだろう。
8ism という洗練されたおうちの中で。

 

写真・文 中井 雅代

 

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8ism(ヤイズム)
那覇市おもろまち4丁目6−17 
おもろパークテラス 3階
098-943-5767
open 10:00〜20:00(サマータイム)
close 月

 

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