» THE COFFEE STANDスペシャルティーコーヒーを、エアロプレスで。

 

「エアロプレス」という新しいコーヒーの抽出方法をご存知だろうか。

 

淹れ方でこんなに変わるものかと驚くほど、香り豊かな一杯を楽しめる。

 

coffee stand

 

用いるのは、注射器のような形状の器具。
チャンバー(管の部分)にコーヒー粉を入れて湯を注ぎ、しかるべき回数だけかき混ぜる。

 

「この回数を少し増減させるだけでも、味わいが変わるんですよ」

 

プランジャー(円筒形の部品)を差し込み、ゆっくりとプレスする。

 

 

方法としてはとてもシンプルだが、おいしいコーヒーを淹れるための様々な条件を兼ね備えている。

 

「お湯を上から注ぐペーパードリップ方式だと、豆の味わいを引き出すまでに時間がかかります。
僕は長年コーヒープレス(=フレンチプレス)で淹れていましたが、飲むときにコーヒーの微粉がカップの底にたまるのが気になっていました。カップの中でさらに抽出が進み、時間が経つにつれて味が濃くなってしまうからです。

 

エアロプレスは空気を圧縮して抽出するので、豆の味わいを手際良く引き出すことができますし、フィルターを通すので微粉が残ることもありません。
抽出にかかる時間も1〜2分と、とても速いのです」

 

一つの欠点も見当たらないような方法だが、豆の味わいを引き出すという点においては諸刃の剣でもある。

 

「その豆が持つ個性が全面に出るので、良質な豆を使えば最高においしいコーヒーが飲めるのですが、質が良くないものや鮮度の低い豆で淹れると、それもしっかり表れてしまう。隠しようがないんです。抽出器具が豆を選ぶとも言えます」

 

 

上原司さんが営む THE COFFEE STAND は、那覇市公設市場のすぐ近く、アーケードの中の一角にある。店構えは小さいが、訪れる人はひきもきらない。

 

市場で働いていると思しき男性客がやってきた。

 

「いつもの、お願いね」

 

「すみません、今ちょっと注文が立て込んでいて…。
お待たせすることになっちゃうかもしれないんですが、大丈夫ですか?」

 

「そっか。じゃあしばらく経ってから来ようかな」

 

「申し訳ございません」

 

上原さんは必ず、注文を受けてから一杯ずつ丁寧に淹れる。
大量に作り置きしたコーヒーを注ぐだけというスタイルではないため、エアロプレスのスピードをもってしてもそれなりの時間が必要だ。
そして、こちらの味を知った多くの人がリピーターとなり、次から次に人が訪れる。

 

しかし、どれだけ多くの注文が入っても、上原さんがコーヒーを淹れる手順や丁寧さは変わらない。
かかる時間を申し訳なさそうに告げるだけだ。

 

それでも客足が途切れることはない。
求められているのは早く出てくるコーヒーではなく、おいしいコーヒーなのだ。

 

そのおいしさの理由は、抽出方法以外にもある。

 

「当店では、スペシャルティーコーヒーだけを使用しています」

 


 

スペシャルティーコーヒーとは、世界で流通するコーヒーのうち、わずか5%ほどしかない良質な豆を指す。

 

「小さな地域や現地の組合、各農園というように産出場所を細かく区切り、専門機関が選り分けています。
豆の甘さ、酸味、口に含んだときの質感や風味、後味やバランスといった厳しい基準に合格したものだけが選出されるのです」

 

この日の「本日のおすすめ」は、エルサルバドルのエルカルメン農園の豆。

 

一口飲めば、その違いは明らかだ。

 

爽やかな酸味に、まろやかな口当たり。
のどごしにも特徴がある。ひっかかるような苦みがなく、甘く香ったかと思うとすーっと消えていく。
フルーティーな味わいに、コーヒー豆が果実であるという事実を思い出す。

 

「非常にバランスの良い豆です。
レイン・フォレストアライアンスの認証も受けており、珍しい野鳥が観察できるほど自然環境の整った農園で産出されています」

 

豆へのこだわりをゆっくり語る時間がとれないため、特性を記したメモをカップに貼って出している。

 

「お客様にも豆のことを知っていただきたくて」

 

 

コーヒーの道を歩み初めて14年経つという上原さんは、以前はインテリア雑貨店を経営していた。

 

 

「当時、仕入れのために東京や福岡に行くと、インテリアショップにカフェが併設されているところをよく見かけました。そういう店が沖縄にはなかったので、『僕もカフェの勉強をしないといけないな』と考えていたんです」

 

兄と共にコーヒーショップをやろうと考えたが、二人とも別に店舗を運営していたため、移動販売から始めることにした。

 

「とはいえ、兄貴も僕もコーヒーの知識などゼロに等しい状態でしたし、当時はコーヒー専門店も少なく、関連書籍も見かけなかった。
そこでとりあえず良い豆を取り寄せ、自分たちで淹れてみることから始めたんです。
やってみると、豆の挽き方一つ、淹れ方一つで味が大きく変わることがわかりましたが、どれが正解なのかが分からなかったんです。というのは、まず周囲においしいと評判のコーヒー専門店がなかったから。そして、僕も兄もコーヒーを飲まない人間だったからです(笑)」

 

コーヒー好きが高じて店を出したのだろうと思い込んでいたので、この一言に驚いた。しかし、コーヒーに対して強い思い入れがなかったことが、店の方向性を決定づけることになった。

 

「兄と二人で淹れ方を研究していたときに思ったんです。コーヒーマニアにウケる味ではなく、一般の人に喜んでいただけるように淹れようと。
そう考えると、俺たちちょうど素人じゃん、俺たちがおいしけりゃいいんだ、他の店なんて参考にする必要ないんだ! と気づいて」

 

メニューも値段も先に決まっていたが、肝心のレシピが固まるまで時間がかかった。研究を重ねていたある日、ふたりが「おいしい!」と口を揃える一杯がついに生まれた。

 

「これでいこう!と言って、翌日から販売を開始しました」

 

今から14年前、一般的なコーヒーショップの運営方法や使用している豆についてなど何も知らぬまま始めた移動販売店だったが、あっという間に人気に火がついた。

 

「夕方から夜にかけて販売していたのですが、平日は30~40分待ち、週末になると1時間待ちも珍しくないほど多くの方に来ていただきました」

 

当時から一杯ずつ丁寧に淹れるというこだわりを貫いていた。
店を続けていくにつれ、同業者の運営方法も耳に入るようになり、その違いに驚いたと言う。

 

「材料費にかけている金額がまったく違うんですね。
僕らがおいしいと思う豆はそれなりの値段がするわけですが、おいしいのだからそれを使うしかない。
コーヒー一杯淹れるのに使用する豆の量も、他店に比べるとすごく多いのだと途中で気づきました」

 

味わいだけを追求しながら手探りで始めたからこそ、妥協のないこだわりのコーヒーが生まれた。そして、多くの人に愛されたのだ。

 


一番人気のカフェモカ。まずエスプレッソを抽出する。

 


牛乳を泡立てる。30円プラスで豆乳に変更することも可能。

 


ホイップクリームとチョコレートをトッピングして完成。

 

 

濃厚なエスプレッソを、まろやかな味わいで堪能できるカフェモカ。
エスプレッソの香りをしっかりと楽しんだら、ゆっくりとかき混ぜてクリームとチョコを溶かし、大人のスイーツとして楽しむのも良い。

 

「チョコレートってエスプレッソによく合うんですよ。
僕、チョコが大好きで(笑)」

 

そんな上原さんに勧められて以来ハマったと、常連客が語るのがチョコ・ココア。コーヒー豆は使用しないメニューだが、ファンが多い。

 

「もともとコーヒーを飲む人間ではなかった」という上原さんの言葉と、「普通の人が飲んでおいしいと感じるものを」というコンセプトを思い出した。

 

 

4年間の移動販売と他の場所でのコーヒー店経営を経て、上原さんは2011年にこの場所に店をオープンさせた。
沢山の人が行き交う場所。
ともすると見逃してしまいそうなほど小さな店だが、市場の店員、買物客、旅行者…様々な人がやって来る。

 

 

「コーヒーが飲まれている理由は、おいしさだけじゃないのだろうと、最近気づき始めたんです」と、上原さんは語る。

 

「味だけで言うと、おいしい飲み物って他にも沢山あるでしょう? なのに、世界中で多くの人が毎日のようにコーヒーを飲んでいる。コミュニティの真ん中にある飲み物だと思うんです。
だからきっと、コーヒーじゃないといけない理由がおいしさ以外にもある気がする。特別な力を備えているんだろうなって。

 

でも、それ言い出しちゃうと難しくなるので、これからもシンプルにおいしいコーヒーを淹れよう!と。それだけを目指しています」

 

 

私たちはどうしてコーヒーを飲むのだろう。考えてみれば確かに少し不思議だ。
疲れたとき、ほっとしたいとき、スッキリと物事を考えたいとき、何かに集中したいとき…。
つい手が伸びるその飲み物が、できる限り上質であるように。
THE COFFEE STAND は、コーヒーとともに豊かな時間も提供している。

 

写真・文 中井 雅代

 


THE COFFEE STAND(ザ コーヒースタンド)
那覇市松尾2-11-11 1F
080-3999-0145
open 10:00~19:00