福豆 小さな台所から生まれる、身の丈に合ったベジ家庭料理

福豆

 

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「堅苦しいことはせず、家庭料理のベジごはんを目指したくて。誰でも作れて、気軽で、変わったこともなく、すっと受け入れてもらえるような感じ。身の丈に合っているので、作りやすいんですよね」

 

福豆は、お弁当販売やイベント出店等を活動の中心としているごはん屋だ。使うのは、植物性の素材だけ。主宰の若林史子さんの肩肘張らない料理は、やはり背伸びをしていない場所から生まれる。人ひとりが動けるくらいの、こじんまりとしたキッチンがその場所だ。

 

「この台所の大きさ、気に入っているんです。あまり広すぎないこれくらい。販売するお弁当を作るのでも、これで充分です」

 

普通の2口のガスコンロ、その上の棚に並ぶのは、実家から持ってきたという、ホーローの懐かしい雰囲気の鍋。揚げ物用の鍋も、コロッケを4つ揚げるのが精一杯という大きさ。どこにでもある普通のキッチン。

 

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史子さんは、おしゃべりしながらも、軽快に手を動かす。ふいに「もう1品作ってもいいですか?」と、冷蔵庫を覗き、食材を確認。そしてプレートに乗った料理とのバランスの確認…。考えること数秒、メニューを決めるや、また迷いなく、素早く手を動かす。とっさに作った付け合せは、農薬を使わずに育てられたシャキシャキのカブに、ドラゴンフルーツを合わせ、味付けはなんと自家製の梅ジャム。斬新!

 

「合いそうな気がして。食べてみないとわからないですけど(笑)。梅のジャムは、梅ジュースを作っていて、残った梅を潰してジャムにしてゴマとかを混ぜているんです」

 

カブがドラゴンフルーツの色に染まり、皿にピンク色の彩りを添えることも計算ずく。カブの優しい甘みと、ドラゴンフルーツの甘酸っぱさを、梅ジャムのコクが繋いでいた。どれも主張しすぎないけれど、それぞれの素材の味を殺さずまとまっていて、ちょうどいい優しい味。全くの違和感のなさに、少々驚いてしまった。1度の味付けで味をバシリと決めるあたり、史子さんの腕の確かさを感じずにいられない。

 

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おからのサラダコロッケ豆乳バジルマヨネーズソースのプレート。付け合せは、オクラの天ぷら、パパイヤのシークヮーサー和え、凍り厚揚げとえのきの炒め煮、じゃがいも人参玉ねぎのトマト煮、カブとドラゴンフルーツの梅ジャムドレッシング和え。

 

「いつもこんな感じで、その時の気分で作るんです。何が作りたくなるか、その時にならないと私もわからないですね。前日に『明日のお弁当は何ですか?』とお客さんに聞かれても、いつも『うーん、食材見てみないとわからないです〜』って感じです(笑)」

 

気分で作るから、レシピの数は無限大…いや、その存在はないに等しい。驚いたことに、史子さんは、同じ料理をほとんど出さない。

 

「気温や季節その時その時で、自分が食べたいものが違いますもんね。自分の感覚も違いますし。例えば冬だったら体を温める生姜を多めにしようとか、秋は香ばしさが欲しいから、にんにくや焦がし醤油を使ったり、蒸し暑いなと思ったら、酸味を入れたり。自分の食べたいものと、食材と、その食材に合う調理法の組み合わせですかね。同じ食材で同じ味付けだけど、作り方を変えてみたり。もちろん似たような料理はいっぱいありますよ(笑)」

 

今日出された料理は、今の史子さんの気分を反映したもの。その料理は、史子さん自身そのものだ。その時の気分を大事にすること以外にも、人のマネはしたくないと、オリジナリティを大切にする思いもあるからだ。

 

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グルテンミートと野菜のバルサミコ照り焼きどんぶり。バルサミコと醤油の香りが食欲をそそる。フライパンに残ったソースに粒マスタードを加え、最後に回しかける。

 

「私、人のマネをするのが嫌で。イベント出店とかで、バーガーが他の店と被るとか、避けたいんです。バーガーとかカレーが被りそうと思うと、作らないですね。作りたくなくなっちゃう。だからなるべく他の店と被らなそうなものを出します。メニューが重なっていない方が、お客さんにも楽しんでもらえると思いますし。この前の出店では、マカロニグラタンコロッケとか、その前はミートパイとか。ミートパイは、お豆腐と大豆ミートでミートソースみたいなの作って、オーブンで重ね焼きして。お豆でミートローフを作ったこともありましたね。他には、ライスコロッケとかシチューとか。お店では出しているかもしれないけれど、出店ではあまりなさなそうな、ちょっと変わったメニューを作るようにしています」

 

ちょっと変わったベジ料理。その言葉を裏付けるように、史子さんの作る料理は幅広い。純和食から、洋食やイタリアン、ガパオのようなタイ料理の風味を加えたものまで実に多彩だ。それもそのはず、史子さんはこれまで、料理のジャンルにとらわれず9店舗もの飲食店を渡り歩いてきた。和食の小料理屋や、創作洋食店にタイ料理店、はたまた沖縄そばを使ったパスタ屋まで。しかしどんな料理を作ろうとも、史子さんの料理の原点は、そのお母様にある。

 

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「お母さんは、例えば鰯を沢山買ってきて、骨を自分で丁寧に取って、つみれにしたりとか。お菓子もほぼ手作りで、焼きリンゴとかクッキー作ってくれたり。仕事もしていて忙しかったのに、休みの日におやつを沢山作ってくれて。仕事へ行くときに、そのおやつを置いていってくれていましたね。お母さんが作った煮豆と里芋の煮っころがしが今でも大好きで、実家に帰ると必ず作ってもらうんです。私の煮物は、お母さんの味に近いかな」

 

だからか、と合点がいった。史子さんの作るどんな料理も、お母さんのように優しいのだ。「ベジじゃない人にも食べやすいように、味付けはしっかりしている」と言うが、しつこかったり、食べ飽きたりすることはない。お腹にすーっと収まって、もっと食べたいと思う。そう思うのは、料理に愛情を込めるお母様をいつも見て、それを食べてきたから。史子さんの料理もしかりなのだ。

 

「いつも台所でお母さんの横に立って、お母さんの手伝いをしていましたね。小学生の頃から、自分で望んで料理教室に通っていましたし、その頃から家族6人分のご飯を作ったりしていました。昔から好きだったんですよね、料理が」

 

しみじみと振り返る史子さん。しかし意外なことに、これまで調理一筋ではなかった。料理を面白いと感じられなくなった時期があるという。

 

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那覇新都心メディアビル前で、お弁当を販売

 

「調理師の専門学校を卒業して仕事として料理をするようになったら、全然面白くなくなってしまったんです。それは、自分がやっていることだけで精一杯で、料理をする自分の手元だけしか見ていなかったから。周りを一切見られてなかったんですね。面白くないから、接客に回ったんです」

 

大阪という土地柄もあって、接客は「お客を笑かす」ことに情熱を傾けていたという。お客と会話を交わすことが面白くなりすぎてしまって、長年接客に携わることに。しかし、接客を経験したからこそ見えた世界があった。

 

「接客って全体を見渡さないとダメなんですよね。お客さんを見て、キッチンを見て、スタッフの動きを見て。そういうのを見ながら、自分も動く。全体を見られるようになったら、見え方が変わったんですよ。世界が違うというか。それからキッチンに入ったら、すっごく楽しかったんですよね。こんなに違うんや、見える世界が、と思って」

 

キッチンに戻ったのは、偶然だった。接客で店に入ったつもりが、キッチン担当のスタッフの合流が遅れてしまったため、調理師免許を持っていた史子さんが調理を担当することに。接客を経て遠回りしたようにも思えるけれど、史子さんにとっては、料理の楽しさを再確認する大切な期間だった。

 

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本格的に調理を再開したのは、沖縄に居を構えた約8年前のこと。東日本大震災の際、ゲストハウスの食堂で腕を奮っていた史子さんは、避難者に出す料理の食材選びに苦心した。心身共に疲れた頃、ネパールへ渡る。ネパールでは、肉は平飼いされ捌きたての新鮮なものばかり。3ヶ月の滞在を終えて日本に帰ってくると、日本の食肉の匂いが気になり、肉は食べられなくなった。それからベジ料理のお弁当、ケータリングとして、福豆を立ち上げた。

 

平日にはほぼ毎日作る30個ほどのお弁当は、1時間もしないうちに完売、イベントに出店すると、その前に長い行列ができることもしばしばだ。今後、店舗を持つ予定はないのだろうか。

 

「一度はお店を持ちたいと思いますね。でもその流れがいつ来るか。場所も、ここって所がそのうち入ってくるかなと思っているんです。でもお店を持つと、お店に縛られますよね。それはどうかなーと思っちゃいます。沖縄にずっといるかもわからないですしね(笑)」

 

史子さんは、気ままに吹く風のよう。流れに身を任せ、逆らわない。福豆の明日のメニューがわからないのと同じように、史子さんの今後のこともわからない。形に縛られない福豆の料理のように、史子さんは自由で、身構えることはない。背伸びもしない。だから客も気軽に、福豆の料理を楽しめる。この心地よい力の抜き加減が福豆最大の魅力、と納得した。

 

文/和氣えり(編集部)

写真/金城夕奈(編集部)

 

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