餃子平塚餃子ひとすじ40年。キャベツざっくざくの餃子

閉店いたしました。
餃子平塚

 

「ウチの餃子は、『野菜炒めを食べてるみたい!』ってよく言われるんですよ」

 

そう言いながら、「餃子の店 平塚」の店主 平塚浩史さんが差し出した皿には餃子が円盤のように並ぶ。焼きたての匂いと、表面についたキツネ色の焼き目が、期待値を上げていく。

 

表面はカリッ、下はモッチリした皮の中から、肉汁とともにキャベツがざくざくと躍り出る。よくぞ、これが皮の中に収まっていたものだと感心してしまう。

 

餃子平塚

 

餃子平塚

 

餃子平塚

 

「食感は、いっちゃんゆずれないところです。だから、具の中心はキャベツ。白菜でも甘みが出て美味しいんだけど、食感が出ないから。そのキャベツを口の中が楽しくなるように、細かいのから粗いのまで、3種類の大きさに切り分けてます」

 

野菜炒めみたいな餃子とは、言い得て妙。今の今まで餃子の具といえば挽き肉のイメージが強く、肉料理のひとつという気がしていた。

 

「餃子って、実は肉より野菜の方が多く入ってるんですよ。有名な浜松餃子では、9割がキャベツなんてのもあるぐらい。肉と野菜…比率でいうなら、ウチは3.5:6.5ですね。肉の印象が強いってのは、市販の餃子やチェーン店の餃子からきてると思うんだけど、それでも5:5じゃないかな。肉が多いと、硬くなって食感が悪くなっちゃう。肉はあくまで野菜のまとめ役。だから、餃子は野菜をたっぷり摂れて、肉も小麦粉も脂もバランス良く入ってる、すっごく健康的な食べ物なんです」

 

餃子平塚

ラー油も平塚さんの手作り。「自分の餃子に合うラー油は自分にしか作れないからね」

 

キャベツの存在感と肉の旨みがうまくまとまり、満足のいく味わい。

 

「1コめだけは、ぜひ何も付けないで食べてください。他はお好みで、酢とラー油をつけてどうぞ」

 

味をしっかりと感じられるため、調味料に頼らなくとも、このまま何個でも味わえそうだ。

 

 

店のメニューは、ただもうシンプルに、焼き餃子とテイクアウト用の冷凍餃子のみ。平塚さんの餃子への姿勢を物語るかのよう。日に500個作られる餃子は、ほぼ毎日完売だ。

 

「500個、それ以上はできないですね。ウチは、野菜を切る作業も、皮を手作りするのも、機械にはできないことをやりたいから、全て手でやってます。こんなに手で作ってる店って、ごくまれじゃないかな。時間も手間もかかって採算取れないから。俺みたいに1人でやってて、餃子が半分趣味みたいな人なら良いけど」

 

餃子平塚

 

餃子平塚

 

餃子平塚

 

餃子平塚

 

店内には、餃子の焼き方も貼られている。

 

1 フライパンに餃子を入れ、餃子がつかるぐらいのお湯を入れる。
2 沸騰から4分ほど経ったら、残った湯を捨てる。
3 油を回し入れて、フタをし、約2分強、焼きあげていく

 

初めに、お湯……? 油でも、水でもなく……?

 

「そう、ウチの作り方は初めにお湯を入れて、煮ていく感じ。油をひいて、餃子を焼いて、その後に水を入れる人もいるけど、俺はそれだと、せっかく付けた焼き目がフニャフニャになっちゃうと思ってて」

 

 

餃子を焼く際に、コツがあると言う。

 

「大事なのは、水じゃなくてお湯を使うこと。沸騰までの時間が短ければ短いほどいいんです。小麦粉だから、時間がかかると溶けちゃう。煮る時間は、餃子と鍋のサイズ、火力とかで多少変わってくるけど、他の餃子にも応用できる作り方ですね」

 

餃子は美味しい。だが難しい。自分で作ろうとすれば、皮が破れてしまう、焦がしてしまうなど、とにかく扱いづらいものなのだ。それを、やや八つ当たり気味に平塚さんに訴えると、

 

「触りすぎちゃうんじゃない? 餃子は時間さえ計れば放っておいてもできるんだけど、つい引っくり返しすぎたり、つついたりしちゃうんですよね。失敗の原因は、ほとんどがそれ。あとは皮も手作りしてみたらどう? 市販の皮は伸びなくって、俺でも難しいから」

 

…と、悩み相談にも優しくアドバイス。作ってみたくなる。できそうな気がしてくる。

 

餃子平塚

冷凍餃子だけでなく、焼き餃子をテイクアウトすることもできる

 

 

「誰も作ったことのない餃子、皆が驚くような餃子を作りたい。そう思って、2013年の春から沖縄に来て、この店を始めました。その前は宇都宮にいたんです」

 

実は、平塚さん。ラーメン界では知らない人がいないほどの超有名店、栃木県宇都宮市にあったラーメン屋「平塚」の元 店主である。あっさりスープと分厚いチャーシューの入ったラーメンを目当てに、毎日長い行列ができていた。その店でも、餃子はメニューに並んでいたのだが。

 

「本当は、餃子をメインにやりたくて、店名も『手伸し餃子 手もみラーメン 平塚』だったんです。それがラーメンの方に人気が出て、いつの間にかラーメン屋みたいになっちゃった。でも、常連さんには申し訳ないけど、やっぱり餃子をとことんやりたいって思ってて」

 

しかし、いくら餃子のためとはいえ、メディアをも騒がせた人気店を閉めることに迷いはなかったのだろうか。

 

「後悔したくない気持ちのが大きかったですね。ラーメン店って超忙しいんですよ。夜中2時に起きて、22時までずっと働く。8時間は鍋のそばに付きっきりですしね。そんな暮らしの中で、ぼんやりと『このまま歳とって、死ぬのは嫌だな……』って思って。それで、子どもも巣立ったし、店を出す時の借金や自宅のローンも返したし、タイミングなのかなって。まだ、元気で動けるうちに、理想の餃子を作りたかったんですよ」

 

平塚さんが幾度も繰り返す、理想の餃子。それは地元、宇都宮を離れなければ作れないものだったという。

 

「宇都宮は出なきゃいけなかったんです。そこにいる限り、冒険はできない。今まで通りの餃子を求められるから。まぁ、周りからは『なんで?!』『もったいない!』って言われましたけど。店主がよっぽどの病気なんだろうって噂まで流れちゃってね(笑) とにかく宇都宮以外なら良かったんだけど、沖縄に。碧い海~暖かい~って憧れもあったから(笑)」

 

知らない土地で、餃子に専念。この、平塚さんの情熱は、実はお母さんの作っていた餃子に端を発するという。

 

「おふくろも餃子屋をやってたんです。わざわざ遠方からもお客さんが来るぐらい、美味しい餃子で。俺も小さい頃から、『何か作ろうか?』と聞かれれば『餃子!』って答えてて、餃子以外あまり食べてこなかったかもしれない(笑) 店を手伝ったりもしてたから、今、俺は57才になるけど、もう40年以上は餃子をやってることになりますね。おふくろのあの餃子を超えたい。でも未だに超えられないんですよ。もうおふくろより長くやってるんだけど」

 

親子二代にわたる、餃子づくり。そして、平塚さんの餃子への想いをさらに深めたきっかけがある。

 

「10年以上前ですが、おふくろがガンで亡くなったんです。最期の3ヶ月は寝泊りしながら看病したんですけど、その時も餃子のことばっかり話してましたね。他に話なんてないんですよ。もう末期だし、苦しんでるのに『頑張れ』とも言えないし。でも、ずっとおふくろと『理想の餃子って、こんな風だよね』『そうそう、具はこんな感じが良いね』『それなら、皮はこんなのかな』って話してて、それがずっと頭に残ってるんです。その餃子を作ってみたい。おふくろは『儲けようとするな。良いものを作れば、お客さんが自然に食わせてくれるから』ってのが口グセで、俺もその言葉通り、マジメにはやってきたんです。…で、ラーメン屋がうまくいって、今ここで好きな餃子を好きにやれてる。もしかしたらおふくろが背中を押してくれてるのかなって」

 

餃子のためなら、平塚さんは海外にも飛ぶ。

 

「台湾やシンガポール…どこでも餃子、餃子です。それで、実は、おふくろの餃子に近付けるようなヒントをもらったんですよ。ジャカルタで食べた餃子が、驚くほど甘くって! 砂糖の甘みではない甘さです。今までいろんな餃子を食べてきたし、作ってきたから、一口食べれば、材料や作り方はほとんど分かるんだけど、そこのだけは分からなかった。酔ってるせいかと思って、翌日もまた同じ店で食べてみたけど、やっぱり分からない。でもね、想像してることはあるんです。常温で熟成させた、その甘みじゃないかなって。そういえば、おふくろも、店の冷蔵庫が小さくて入らないからって、腐らないギリギリの時間まで外で餃子を寝かせてたんです。スペースがなくて仕方なくやってたことだけど、そこに美味しさの秘密が隠れてるのかなって。肉でも、熟成させると美味しいって言いますよね? おふくろの餃子をそっくりそのまま作りたいわけじゃないけど、それも試したりしてます」

 

もしかしたら、平塚さんが理想の餃子にたどり着く日は、近いのかもしれない。

 

餃子平塚

 

「今は理想の餃子を作りたい!ってだけですね。儲けたいとか繁盛させようとか、そういうのはもういいから。だから、ここも餃子屋っていうより餃子製造研究所みたいなもんなんですよ。今は自分のペースで店をやって、本場の浜松にもちょくちょく出かけて餃子を勉強して、すっごく楽ちんです。やっぱり、一度きりの人生だから、やりたいことをやらないとね!」

 

平塚さんのストイックなまでの姿勢。美味しくないわけがなかった。

 

ただ、平塚さんは、餃子のためならばきっとどこへでも行ってしまう。それこそ沖縄にやって来た時と同じ身軽さで、またふっと旅立ってしまうかもしれない。今、ここで平塚さんの餃子が食べられるというめぐりあわせ、幸せ。味わえるうちにたっぷり味わおう。

 

文 石黒万祐子

 

餃子平塚
餃子の店 平塚
浦添市屋富祖1-4-1
098-878-4366
16:30 ~ 餃子が売り切れ次第終了
定休日 なし