» 金月そば(きんちちそば)モッチリ麺で味わう、今までにない創作沖縄そば

金月そば

 

「沖縄そばの革命を起こしたいと思って。革命じゃなくて革麺かな。沖縄そばは戦後、みんなのアイデンティティを支えてきた伝統の食ですよね。僕はさらにそこから進んで、美味しさをもっと磨いてみたいんです」

 

金月そばの店主、金城太生郎(たきろう)さんは言う。

 

一見、定番の沖縄そばのようだが、少し甘めの出汁が効いたスープにたゆたう麺をすすれば、金城さんの言葉に合点がいく。麺が強いのだ。沖縄そばには珍しく、弾むようなコシがあり、麺そのものにしっかりと味がある。この点、まるでラーメンのようでもある。

 

金月そば

 

金月そば

トロトロと骨まで食べられる軟骨ソーキを別皿で出すのは、まずスープもしっかり楽しんでほしいという心遣い

 

「ウチのそばは生麺なんですよ。普通は、ゆで麺を使うんです。僕は生麺の方が歯応えもあるし、小麦の風味がちゃんと伝わると思ってて。沖縄そば業界では、沖縄そばにはゆで麺でなくてはならないって定義もあるんですけどね。内地にいた頃、むこうの沖縄商店街では生麺の沖縄そばを出してたんです。それがすごく美味しかったし、お店を始める時に製麺所から、ゆでる前の麺をサンプルとして取り寄せて試食して、『やっぱり生麺だな!』って感じたので」

 

金月そば独特の食感と味わいは、生麺だからこそ。生麺とゆで麺の差が、ここに出る。

 

「ゆで麺は、製麺所で一度ゆであげた後、油をまぶして冷ましてあるから、ちょっと火を通せばすぐ使えて、便利ではあります。バーベキューで使う焼きそばなんかもゆで麺ですね。生麺は当たり前だけど、ゆでる時間が要りますよね。そのまま食べたらおなか壊しちゃう。だから、生麺の方が手間がかかるんですよ。『沖縄そばはサッと出てきてサッと食べるもの』ってイメージの方からすると、ウチは少し時間かかるから、面倒臭いかもしれません。それは自覚あります」

 

効率を考えれば、生麺の方がやや分が悪い。それでも、金城さんにはあえて生麺を選ぶ理由がある。

 

「おうちでは作れない沖縄そばを出したいんです。おうちではやっぱりいかに早くて簡単にできるかが大事になりますよね。あと安いのもあるかな。みんなが大好きなサン食品さんの沖縄そばなんかは、そのシンボルみたいな味だと思います。でも、せっかくお店に食べにくるのなら麺が生麺だったり、コツコツ時間かけて煮込むスープだったり、ここでしか味わえないようなものというのを基準にしたくて」

 

金月そばでは、ただ生麺というだけでなく、原料からこだわった数種類の生麺を使い分けている。

 

金月そば

 

 

「麺は3種類あります。地粉麺香り鰹そばとかゆし豆腐そばとか、スープや上に載せるものとの相性を考えて麺を合わせています。地粉麺には地元、読谷の小麦を40%ぐらい使ってますね。すべて製麺所にお願いして、特別に作ってもらってます。本当は自分自身で製麺所からやりたいんですけどね、それは近い将来に…」

 

このしっかりした麺ならば、個性的なメニューに圧されることなく、バランスを保てる。金月そばには、沖縄そば屋という枠にはおさまらないほど、多彩な創作そばが揃う。沖縄そばであって沖縄そばでないような、”沖縄そば””金月そば”があれば、ゴマの風味が印象的な坦々麺ならぬ”坦々そば”もあり、読谷村の特産品そら豆味噌を活かした”そら豆味噌野菜そば”もある。

 

金月そば

デザートのクリームブリュレ。黒糖の優しい甘みが乗る

 

「沖縄そばだから坦々麺やっちゃダメってことはないですし、こんな沖縄そばがあってもいいんじゃないかっていうプレゼンテーションみたいな気持ちでやってます」

 

沖縄そばの可能性は、どこまで広げられるのか。金城さんはそれをとことん追い求める。実は、金月そばは以前、つけ麺屋として名を馳せていた。やはりもっちりした生麺と3日間かけて作るスープが人気で、観光客にもその存在を知られるほど。

 

「今も前も、生麺で沖縄そばをやりたいっていうのは変わってないんですけどね。その頃は生麺の良さを一番味わえるのはつけ麺だと思ってて、2008年にオープンして2012年の2月までは、つけ麺をやっていたんです。内地からもたくさんの人たちが来てくれて、忙しさは半端なかったですね」

 

だが、つけ麺屋として繁盛すればするほど、金城さんは違和感を感じるようになった。

 

「僕の中では、あくまで沖縄そばの進化形として、つけ麺をやってたんですけど、『ラーメン屋?』ととらえられることが多くって。このままだと単なるつけ麺屋になってしまう、そうじゃないんだけどな…ってズレを感じたんです。それに、つけ麺はスープだけでも何種類も作らなくちゃいけなくて、忙しすぎたのもありますね。人を雇っても雇っても忙しすぎて続かなくて…。あとは、地元に根づいてなかったことも大きいです。読谷には特に親戚もいなくて、なんとなく良さそうという理由でこの地を選んだんですけど、きっと周辺の人たちからは、『よく分かんないけど移住者が来て、なんか商売してるな』って印象だったんでしょうね。でも、どんなに儲かってても、隣のおっちゃんが寄ってくれないのって寂しいじゃないですか」

 

そこで、人気店にも関わらず、いったんリセットする決意をする。それは、沖縄そばの延長線上に戻ることを意味した。

 

「思い切ってつけ麺を止めたんです。メニューをガラッと変えました。嫁さんからも、お客さんからも、もう全員から『なんで止めるわけ?』とか『美味しければ別にそれでよくない?』ってとめられましたね。実際に、いっときは客足も半減しちゃって、こんなにダメージ大きいのかって。だけど、今また僕のやりたいことが段々と伝わっていってる感じがします。地元にも認められたいという話でいうと、ここで夜に火乃鳥屋って炭火焼のお店も始めて、近所の人も飲みに来てくれるようになったんです。そこでようやく色々と話ができるようになって、『じゃ今度、お昼も食べにくるわ』という流れで、そばも気に入ってもらえたりとか。僕の方も、それまではトッピングに、沖縄そばには定番のカマボコを載せてたんですけど、地元の美味しい豆腐を使うようにしたんです。地元を、沖縄を良くしたいというのもあったので」

 

金月そば

 

金月そば

18時からは炭火焼の店、火乃鳥屋として営業。県産の鶏料理が看板メニューだ

 

今度は、地元から取りこぼさずに、地道に確実に。沖縄そば革命を広げていく。

 

「変わらず、観光客もたくさん来てくれますし、地元のお年寄りも来てくれて、『うんうん、昔はこんなそばだったんだよ』って懐かしそうに言ってくれたりもします。昔はゆで麺なんてなかったですからね。そういう意味では創作ではあるけど、伝統的な沖縄そばに立ち返った部分もあるかと思います」

 

金城さんの目指すのはラーメンでもなく、今までの沖縄そばでもなく、全く新しい立ち位置。

 

「ラーメンではないけど、今までの沖縄そばともまた違うと思ってます。『紅ショウガないの?』って聞かれたら、『ウチは針生姜にしてます』って答えますし、『スープ甘くない?』って聞かれたら、『僕は、これが美味しいなと思ってるんですよ』って答えてます。この食感だから、1年に2人ぐらいは『イメージと違う…』ってほとんど食べずに出てっちゃう方もいますね。地元の人の反応は二極化してますよ。メニュー表の裏にも、『沖縄そばの可能性を広げたい』って書いてるんですけど、それ読んで『なるほどね!』って頷いてくださる方もいれば、『こんなんいいから早く出して!』ってオーラ出してる方もいます」

 

万人ウケは狙わない。自分の信じた道を突き進む、金城さんとは何者だろう。

 

「麺好きですね。父が内地でもよく沖縄そばを作ってくれてたんですよ。僕、中学から東京に行ってて、沖縄を一度離れてるんです。ラーメン屋で働いたりして、飲食業をずっとやってきました。そこは日に600人ぐらい来る人気ある店だったんですけど、そこで働いた経験も今、いろいろと活きてますね。スープの取り方とか技術的なこともですけど、真面目にやれば真面目な反応が返ってくることを身をもって知りました」

 

 

いったん沖縄を出て、沖縄そばを客観的に見られる視点を得たことが、創作沖縄そばの発想の源となっているのかもしれない。

 

「10年前に、やっぱり僕には沖縄が良いなと感じて戻ってきたんですけど、戻ったばかりの頃は、『うちなんちゅっぽくないー』って言われましたね。色白だったのもありますけど、間とか立ち居振る舞いとかが違うって。今も、『うちなんちゅはそんなに働かないよ。この店、全然休まないよね』って言われることもあります。嫁さんからも、『休むことを忘れないで!』ってカードをもらったり。だけど、僕、やりたいことがいっぱいなんですよ。さっき言った製麺所も早く
やりたいし、いつかまた余裕ができたら、つけ麺の専門店も別でやりたいですしね。…って言ってる間に、すぐ50歳とかになっちゃうのかもしれないけど」

 

金城さんの情熱はやまない。

 

そばじょーぐーは誰でも、お気に入りの沖縄そばのお店を2~3軒は持っていて、日々ランキングを更新したり、新規開拓したりに忙しい。金月そばのそばは、その個性的な味わいから、ベスト3入りはしない異端の存在かもしれない。だが、沖縄そば談義において、『それはそうと、金月そばってどう思う?』と話題にのぼるのをたやすく想像できる。そしてきっと、『私は好き!』とか『アリだと思う。あんな麺も面白い』という声が続くことも。

 

文 石黒万祐子(編集部)

 

金月そば
火乃鳥本舗(金月そば&火乃鳥屋)
住所:読谷村喜名201番地
電話:098-958-5896
定休日:月曜日
営業時間
火曜日~土曜 11:00~15:00
日曜日 11:00~16:00

 

金月そばBlog:http://kintiti.ti-da.net
火乃鳥屋Blog:http://hinotoriya.ti-da.net