珈琲専科LOOP/コーヒーの世界から教わった「競争より共生」を、自分たちの色にして

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クラシックが流れている。心地よく優しい音色。曲が終わると、針を静かにレコードに落とし直した。その振る舞いが珍しくて、思わず見入る。再び流れる伸びやかな旋律に合わせて、ソファにゆったりと腰掛ける。ハンドドリップで丁寧に淹れてくれたコーヒーの、ふくよかな香りがあたりに漂った。

 

珈琲専科LOOPは、今どきのカフェというより、ノスタルジックな雰囲気のある喫茶店。そのオリジナルブレンドは、爽やかな酸味の中にほのかな甘みを感じさせる。時間が経過すると酸味が引き立ち、味の変化がよくわかる。長く楽しめるから、ここでの時間をゆったり過ごすにぴったりの1杯。

 

店主 中山学さんが、店の雰囲気同様に静かな口調で教えてくれる。

 

「この豆はKブレンドと言いまして、エチオピア、ケニア、タンザニアのアフリカの豆をブレンドしたものなんです。東京にいた時に馴染みのあったカフェファソンさんでブレンド、焙煎してもらっています」

 

奥様の緑さんが、このブレンドが誕生した経緯を明かしてくれた。

 

「以前東京のカフェに勤めていたんですが、そのカフェのオーナーが、私のオリジナルブレンドを作ろうよと提案してくれまして。沖縄をイメージしたブレンドを作って欲しいと、いつもお世話になってるカフェファソンさんにお願いしました。沖縄のエキゾチックなところとか、深い緑、深い青に包まれている鮮やかなイメージをお伝えしたら、このブレンドを作ってくださって。明るさや鮮やかさが、アフリカの豆の印象と重なったそうなんです。試飲してすぐに気に入りましたね。実は、Kブレンドの本当の名前は“喜屋武(きゃん)ブレンド”って言うんです。旧姓が喜屋武なので…。東京では喜屋武という名字はかなりキャッチーだったみたいなんですけど、沖縄ではちょっと恥ずかしくて…」

 

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低めの温度で豆の個性を引き出した浅煎りコーヒー。酸味や甘み、まろやかさなど味の層を感じられる。

 

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LOOPには、他で焙煎、ブレンドしてもらっている豆以外にも、学さん自ら焙煎している豆もある。メニューには載っていないが、お客の好みに合わせて、浅煎りコーヒーも淹れてくれる。総じて学さんの淹れ方はとても丁寧。熱伝導のいい銅製のポットで湯を沸かし、細い注ぎ口のドリップ用ポットに移し替えて温度を調節する。そして1杯1杯、真剣な眼差しでドリップする。その1杯に真摯に向き合う姿から、コーヒーに情熱を傾けていることが伝わってくる。

 

そんな学さんだが、学さんと緑さんがコーヒーの美味しさに目覚めたのはここ数年のこと。2人には、コーヒーの世界にはまるきっかけを作った共通の人物がいる。緑さんが勤めていたカフェのオーナーで、「喜屋武ブレンドを作ろう」と提案してくれた、通称“吉田先生”だ。

 

「僕、吉田先生にスペシャルティコーヒーを教えてもらうまで、コーヒー、苦手だったんです。一口飲んで、飲みきれなくて残しちゃう。この辺にまとわりつくような感じがあって」

 

胸のあたりをさすりながら、学さんは言う。“スペシャルティコーヒー”とは、「Seed to Cup(種から1杯まで)」という言葉があるように、生産段階から品質管理がしっかりされていて、飲んだ時にとても美味しいと認められた高品質なコーヒーのこと。スペシャルティコーヒーを出す吉田先生の店に勤めて、緑さんもコーヒーに対する考え方が変わった。

 

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「吉田先生の店で、コーヒーの美味しさに気づきました。それまではコーヒーをあまり重要視していなかったんです。製菓の専門学校へ行って、最初のカフェに勤めてからもケーキなどのお菓子を作っていたので、お菓子中心の考えでした。お菓子に合う飲み物をと思っていたんですけど、コーヒーの美味しさが分かってからは、コーヒーに合うお菓子を作ろうと思うようになりましたね」

 

コーヒーの美味しさに出会った緑さんが、その世界にはまるだろうと見越して、学さんを吉田先生に引き合わせた。緑さんの予想は的中する。学さんには特に、スペシャルティコーヒーの考え方が新鮮だった。

 

「こんな世界があるんだって思いましたね。味がものすごく美味しいのはもちろんなんですけど、スペシャルティコーヒーは、競争じゃなくて共生を生んでるんだなと思ったんですよ。僕、東京で9年間アパレル業界にいたんです。同業の人と集まって情報交換とかするんですけど、本音ではあまりいい情報は教えたくないっていう世界だったんです。例えばすごくいい工場を知ってるけど、同業者には言いたくない。それをどうにか拾えないかと水面下で探ってみたり。けれどコーヒーの世界は違ったんです」

 

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緑さんお手製のローズマリーのレアチーズケーキ。コーヒーの繊細な味わいに合わせて、さっぱりと食べやすい。

 

学さんが感激した「コーヒーが、共生を生む」とは、コーヒーに関わる人々が皆幸せであるということ。

 

「これまでコーヒー豆の消費国、いわゆる先進国ですね、の勝手な都合でコーヒー豆の値段が叩かれて、生産国の人は生活ができなくて、戦争や大量虐殺に繋がったりってことがあったんです。それで、先進国に左右されない仕組みを作ろう、ちゃんと美味しい豆を作ったら正当に評価して対等に取引しようっていうのが、スペシャルティコーヒーや最近のサードウエーブコーヒーの礎なんです。だからコーヒー業界には、幸せから逆算する人が多いんですよ。寝るヒマなく豆を作ればいいものができるかもしれないけど、生産者にとって幸せなのは、どうすることかって。そうやって自分の仕事の前の仕事をする人をリスペクトするんです。例えば僕達は生豆を買ってますけど、その豆の精選作業をする人をリスペクトしますし、その前の豆を手摘みしている人、その前の前のコーヒーの木を育ててる人をリスペクトするんです。だからコーヒー屋さんに行って『おいしいですね』って言うと、『いやいや、僕じゃなくて豆がすごいんです』って言う人が多いですね」

 

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2人が敬愛する吉田先生も、共生を実践する1人と、学さんが言葉を続ける。

 

「吉田先生は、他のコーヒー店のロゴがデカデカと入ったTシャツを着てたり、他店のステッカーを自分の店のポットに貼ったりする人で。それに何でも教えてあげる。『僕はこういうやり方しているよ』とか『どこどこのコーヒー、美味しいからぜひ行ってみて』とか、『それだったら、どこどこのカフェ行くといいよ。僕の名前を出したら、誰々さんが教えてくれるからね』とか、本当に楽しんでやっているんです。アドバイスされたお客さんは、その通りにして、また吉田先生のところに戻ってくる。そしたら、そのお客さんとのコミュニケーションが更に深くなっていくんですよね。それに吉田先生はコーヒーにとどまらず、他の食べ物も応援していました。例えば材料にこだわっているパン屋さんのパンを置いたり。事業を広げるというのではなくて、優しい思いでできているものを、みんなでシェアするという感じでしたね」

 

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そんな吉田先生を見てきて、先生のような店作りをしたいという思いが、2人にはある。緑さんが言う。

 

「来てくださったお客様に喜んでもらいたいというか、人と人を繋げたいというか。私も、『ここのコーヒー、美味しいから行ってみてください』とか他のお店をご紹介したりします。だからコーヒー店のショップカード、たくさん置いています。うちとは違う良さが他の店にはありますし。スペシャルティコーヒーの考え方とか世界を知っていただきたいというのもありますね」

 

それに、と学さんが言葉を続ける。

 

「吉田先生のお店にいて気づいたのは、お客さんがそれぞれ吉田先生にプラスアルファの何かを求めていたんじゃないかってことなんです。別にお金に困ったりしていないんだけど、何かモヤモヤしたものをみんな持っていて、それをスポッと埋めるのが先生は上手だったんです。『じゃここに描いた絵を飾っていいよ』とか、ちょっとしたやりがいみたいなのを見つけてあげるんですよね」

 

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吉田先生を手本にしつつ、土地柄も店の雰囲気も違うLOOPだからこその自分たちらしい店作りはなんだろうと、2人はたくさん考えてきた。緑さんは言う。

 

「私たちが好きなこと、私たちがやっていて魅力を出せるものをやって、自分たちの色を出していこうと思っています。私は本が好きなので、ゆっくり本を読む空間を作りたかったですね。それに、コーヒーやうちの店をきっかけに、ここを訪れる人の視野を広げられたり、こんな楽しい世界があるんだよってことを伝えられる場所になったらいいなと思います。例えばギャラリースペースに、自分たちが選んだ作家さんの器を置いたり」

 

学さんも思いを揃える。

 

「ちょっとした悩みとか行き詰まりって皆あると思うんですけど、結構些細なことで解決したりしますよね。その些細なきっかけが、美味しい食べ物だったりすると思うんです。だから美味しいご飯はちゃんとやっていきたい。今、新しい食事メニューを試作中なんです。美味しいご飯で気持ちがフラットになって、その上で本だったり器だったりで、視野を広げてもらえるような、リフレッシュできるような場所になれたらいいですね」

 

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自分たちの色を出す。その楽しさを知ったのは、緑さんの名前で販売したお菓子を、“彼女のお菓子”として認められた経験があったから。

 

「吉田先生のカフェに勤める前は、大きな会社が運営するカフェで働いていたんです。その時交流のあった方から『イベントにお菓子出してみない?』と声がかかって、すごく『やりたいっ』って思ったんですよ。でも会社の規則でできなくて。同僚が独立して好きな仕事をしていく姿とかも見て、私ももっと自分の色を出せることをした方がいいんじゃないかと考え始めたんですよね。会社を出て、会社の名前じゃなくて自分の名前でお菓子を出した時、『緑さんのお菓子、とてもおいしかった』って言ってもらえたことがすごく嬉しくて、自分の中で大きくて」

 

緑さんが、刺激が多く楽しかった東京を後にしようと決めたのも、自分の色を出すなら故郷の沖縄でだと気がついたから。

 

「東京で『沖縄出身です』って言うと『沖縄、いいよね。でもなかなか行けない』って大抵の人が言うんです。だったら私が沖縄にいて、沖縄に行こうって思ってもらえるきっかけになりたいって思いました。東京で出会った作家さんたちの素敵な作品を、沖縄の人にも見せてあげたいというのもありましたし。いつかはとは思っていたんですが、もう沖縄へ帰ろう、この店を継ごうと決めたんです。やっとふんぎりがつきました」

 

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LOOPの創業は1990年で、元は緑さんのお母様が切盛りをしていたお店。緑さんにとってこの店は、幼い頃、お母さんが家にいなくて寂しい思いをさせられた場所。小学校に上がってからは、隅っこで宿題をした場所。高校生になってからは店を手伝い、常連から「喜屋武さん、喜屋武さん」と慕われているお母さんを見て、お母さんをとても素敵と思えた場所…。

 

「常連さんは、母に会いにここに来るという感じでした。母もお客さんも一緒に年を重ねていっていて、こういう仕事っていいなあって思っていましたね。このお店、とっても好きなんです」

 

代替わりした今でも、お母様の常連が顔を出す。その頃は雑貨を多く置き、雑貨だけを買いに来るお客もいたという。そんなお客からは「なぜ雑貨を置かないの?」と言われることもあったそう。そんな時は、自分たちの思いについて丁寧に話をした。そうすると皆納得して、応援してくれるようになった。

 

若い2人が継いでからまだ1年ちょっと。自分たちの色を出すに、まだ試行錯誤をしている途中。しかし、店主にとってもお客にとっても色んな思いの詰まった大切な場所のこと、少しずつ2人の色に染めながら、更に長く愛される店になるに違いない。

 

写真・文 田中えり(編集部)

 

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沖縄市山内2-15-5
098-932-3751
10:30〜20:00(LO 19:00)
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