» タコス専門店 メキシコ沖縄タコスの老舗。亡き名物オーナーの味を引き継いで。

メキシコ

 

こんがり焼けたトルティーヤに包まれたタコス4ピース、そのお値段500円。
タコス専門店メキシコは、この価格を40年間貫いている。

 

「40年前はまだしも、今では元をとるのも難しい値段です。
でも、スタッフ全員このタコスにプライドを持って作っているので、価格を変えるつもりはありません」

 

オーナーの儀武(ぎぶ)直子さんは語る。

 

フードメニューはタコスのみ。
店に入ると、「ご注文は?」ではなく「何人前ですか?」と声をかけられる。
徹底してタコスにこだわる専門店だ。

 

タコスの皮・トルティーヤは、その硬さからハードタイプとソフトタイプとに分けられるが、こちらのタコスはその中間と言えるだろう。
こんがりと香ばしく揚げられているが、噛むともっちりしている。
この絶妙な弾力性のおかげでしっかりと具材を挟んで持つことができ、最後まで具をこぼすことなく食べられる。

 

また、具材の量も絶妙だ。
トルティーヤからはみ出すほどの具を挟むタコスもあるが、それだと食べながら具をぽろぽろとこぼさざるを得ない。
こちらの具は、トルティーヤでしっかり挟める量である上、特にビーフとチーズの量のバランスがとてもいい。
チーズの量が控えめなので、ジューシーなビーフの味わいをしっかり楽しめる。

 

すべての要素について、長年考え抜いて作られている。
そんな繊細さを感じさせるタコスだ。

 

メキシコ

 

メキシコ
ドリンクは瓶入りのもののみ。「最近は瓶タイプの生産が中止になるドリンクも多くて。でも、缶に変更するつもりはないんです」

 

タコスの老舗として名を馳せる「メキシコ」は、創業者・儀武息次(そくじ)の店としても多くの人に愛されている。
多趣味な人で、ゴルフはプロ級。三線と唄は趣味の域を超え、CD もリリースしたほどの腕前。
店を訪れる人々に気さくに話しかけ、三線片手に自慢の唄声を披露していた。

 

誰からも慕われていた息次さんが急逝したのは、2011年8月。
それから殆ど間を置くことなく、息次さんの妻・直子さんは店を再開させた。

 

メキシコ
息次さんの写真とともに、愛用の三線も飾られている。

 

メキシコ
息次さんと意気投合した旅行者から、手紙やフォトブックが送られてくることも多かったと言う。「誰とでもすぐに仲良くなる人でしたから」

 

「最初は、この店を続けるつもりはなかったんです」

 

と直子さんは言う。

 

「夫の生前、私は裏方として店を手伝ってはいましたが、決して表にでることはありませんでした。
夫が亡くなり、店をどうするか悩みましたが、夫が作りあげたタコスであり、夫の店ですから、私が継ぐのは手柄を横取りするような感じがしていやだったんです。
でも、沢山のお客様から『閉めないで』というお声をいただいて。
それに、店がなくなることで夫のことが忘れ去られてしまうのも寂しいと思い、再開することにしました。
あと少し、夫を巷のヒーローでいさせてあげたくて」

 

直子さんはその時、ただ店を再開させるだけでなく、1つの目標を掲げて努力することにした。

 

「夫の感覚が一番研ぎすまされていたころの味を再現しようと思ったんです。
コストのことを考えず、おいしさだけを追求しようと。
『息次さんが亡くなってから味が落ちた』とだけは言われまいと、決意しました」

 

息次さんが残したレシピと30年来のスタッフとともに、メキシコは新たな一歩を踏み出すことになった。

 

メキシコ
決して新しくはないが、隅々まで掃除が行き届いた清潔なキッチンで、1つ1つタコスが生み出されている。

 

メキシコ
サルサソースも手作り。30年来のスタッフが、息次さんの味を忠実に引き継いでいる。

 

「夫はね、えーかっこうしーだったんですよ」
と、直子さんは笑う。

 

「よく言えば『粋』というのかな。
例えば、フードはタコスのみの一品勝負でしょ。
タコスと言えば炭酸だから、ペプシを。でも、コカ・コーラは炭酸の量が多すぎるからだめ。
ドリンク類は絶対瓶のものを。缶やコップで出してはだめ。
食後にホットコーヒーが飲みたいという方も沢山いらっしゃるんですが、『コーヒーは出さない』の一点張り。なぜならタコスには炭酸以外あり得ないから。
ね、かっこつけでしょ?(笑)

 

そういうこだわりを貫くのって、経営的には結構大変なんですよ。
でも、私は夫のそういうところが好きだったんです。お金ばかり数えている人より素敵じゃないですか。
逆に金儲けに走っていたら、こんなに愛される店にはならなかったと思います。

 

タコス作りへのこだわりもすごく強かったですね、ハマると一直線の人だったもので。
結婚当初、私に熱く語ってくれたタコスへのこだわりを再現すべく、私も手間ひまかけることをいとわずに作っています。
夫の情熱を後世に伝えることが私の役目だと思ってますから」

 

メキシコ
毎日手作りしているサルサソースは、ソースだけ欲しいという人もいるほどのおいしさ。

 

メキシコ
「ほとんどが勤続10年以上のスタッフばかり。みんなで店を支えています」

 

息次さんのタコスを残したい。
その強い想いは、店にもタコスにもしっかり表れている。

 

最近では、亡くなった夫をライバルのように感じることもあると直子さんは言う。

 

「同月の売り上げ額を抜いたぞ! とかね(笑)。
テイクアウトもできるので、50パック・計200ピースの注文が入るなんてこともあるんです。
少ないスタッフでてんやわんやですが、お客様にタコスを楽しんでいただくためにはどうしたらいいか、いつも考えていますね」

 

そう言って笑う直子さんはオーナー夫人ではなく、今ではすっかりオーナーの顔になっている。

 

写真・文 中井 雅代

 

メキシコ
タコス専門店 メキシコ
宜野湾市伊佐3丁目1−3
098-897-1663
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