ringo cafe(リンゴ カフェ)/ 素材の味が飛び込んでくるオキナワマカロンを、瀬底島の古民家から

ringo cafe
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古民家に、トリコロールの国旗がはためく。古びた佇まいに、色とりどりの可愛らしいマカロンが並ぶそのギャップが、面白い。

 

瀬底島の、かつて家畜小屋だった場所。コンクリート瓦の屋根で天井も低く窓もなかった場所が、ringo cafeという可愛らしいカフェに生まれ変わった。ケーキや焼き菓子もあるが、一番人気はフランスを代表するお菓子、マカロン。営むのは、フランス人のドロメール・ヴァンソンさんと、奥様の田所慶子さん。

 

ringo cafeのマカロンは20種類。お勧めという塩キャラメルを。皮のサクッとした軽い食感と、濃厚なクリームが、口の中でどちらかに傾くことなく、バランスがいい。フランスのお菓子らしく、甘さがしっかりとあるのだが、その上にキャラメルの味がどしっと乗っている。ただ甘ったるい、皮の味しかしないマカロンではなく、組み合わせた素材がしっかりと主張するそれだ。慶子さんが、ヴァンソンさんの得意とするところを、独特の言い回しで伝えてくれる。

 

「主人は、どこでも砂糖の船に乗って生きていける人です(笑)。砂糖菓子っていう下地があって、その上に味を乗せるのがうまいんですよ。素材と素材の組み合わせ、ぶつけ方が上手なのかなと思いますね。必ず何か飛び込んでくるお菓子を作っているはずです」

 

そして、そのお菓子作りの特徴も。

 

「キャラメルの砂糖の焦がし方、キャラメリゼの度合いですね、それを若干苦めにローストしていますね。キャラメルソース、日本だとちょっと甘いくらいでストップさせるんですけど、彼はもう一段濃いめにして、少し苦味が出る程度にしています。だから皮は甘いんですけど、クリームはほろ苦くて、ちょうどいいバランスなのかもしれないです。ピスタチオやヘーゼルナッツのマカロンも、ナッツを一度ローストしているんですよ。普通はペースト缶を買ってそれをクリームに混ぜることが多いんですけど、うちは生のナッツを買って、それをローストして香ばしさを出してから混ぜています。だから味の盛り上がりがあるんですね」

 

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慶子さん曰く人見知りで寡黙だというヴァンソンさんは、15歳からパティシエとして働き始め、その道一筋。フランスでは、パティシエの資格に段階があり、数年の修業の後、テストを受け合格してランクが上がるということを繰り返す。最短で12,3年の修業で、最高ランクのシェフに昇格できる。もちろんヴァンソンさんは、シェフ。筋金入りの職人だ。職人だからこそ、プライドを持ってお菓子作りに励んでいる。

 

「彼は、自分でお菓子を作りたい、みんなに食べさせたいと一番最初に思った時から、大切にしている順番が変わってないんじゃないかな。例えば、日本では『どれくらい日持ちしますか』と聞かれることがすごく多いんです。日持ちしないことが当たり前なのに。お客様の要望を聞いて日持ちさせようとか、または湿気で割れないようにしようとかで、添加物やショートニングとか使うってなったら、あの人は職人辞めるって言いますね。お菓子作りで生きていくって決めた人は、ごまかすことなく何を入れているかちゃんと言える人、こちらが見てなくてもちゃんと作ってくれる人。それが職人さんだと思ってるし、私もそう思います。こうやったら利益が残るよっていう誘惑には、乗らないですね」

 

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誠実にお菓子作りをしてきたヴァンソンさんにとって、沖縄素材のマカロンを作ることも、さして苦労はなかったそう。

 

「私が、『泡盛使って』とか色々方向付けします(笑)。泡盛の消費低迷と聞いたんで、何か少しでも役に立てたらと思って。すぐにできました。泡盛の香りがふわんとして美味しいですよ。今の季節だと沖縄素材のものは、タンカンや金柑のマカロンがありますね。金柑は、先日出かけた先で出会ったんです。家族で本部町のみかん狩り体験に行ったんですよ。みかん取り放題で、なんとタダ。そこで金柑売ってて、買って帰ったらとても美味しくて。早速マカロンに入れて、『高良農園の金柑です』って言おうかなと思って。タダでみかん狩りさせてもらってさようならじゃ寂しいじゃないですか。ほんの恩返しのつもりで(笑)。農園の方に金柑のマカロンを持っていったら『こんな風になるんだね』ってすごく喜んでもらえて」

 

沖縄素材のマカロンは、特に観光客に好評とのこと。泡盛や季節の果物以外にも、お菓子に使う塩も沖縄のもの。沖縄素材を多く使うのは、地産地消という理由だけではない。慶子さんは、その土地の文化を大切にしたくて、地のものをたくさん使いたいと言う。

 

文化を大切にしたいという思いは、慶子さん一家が沖縄へ移住するきっかけにもなった。驚いたことに沖縄に越してきたのは、その文化を伝えるこの古民家を見つけたから。

 

この古民家に出会うまでの2人のストーリーはこうだ。フランスの修業先で出会った慶子さんとヴァンソンさんは、「日本の文化も学ぼう」と幼い子供達を連れて、まず慶子さんの実家のある宮城県に越し、そこで店を構えた。たくさんのお客が訪れ、店の運営も順調にいき始めた頃、フランスの友人が日本に住みたいと、物件探しを手伝った。たまたま瀬底島のこの物件をネットで見つけ、慶子さん自身が気に入ってしまったそう。友人が借りないことになった後も、ずっとそのサイトを見続けていたという。1度は他の買い手が決まりかけたのだが、諦められずまだ毎日サイトを確認する日々。ある日、この物件の”交渉中”の札が取れたのを見て、居ても立ってもいられず、その3日後にポケットに通帳を入れて飛行機に飛び乗った。

 

「もう買うつもりで。1度も現地を見てないし、それまで瀬底島に来たことなかったですよ。でもこういう歴史を刻んだ古民家を受け継ぐチャンスって誰にでもあるものじゃないと思うんです。運命があるとするならば、そのチャンスが私に回ってきた。壊さないで、受け継いで、バトンタッチする責任が回ってきた、と思ったんです。住めるようになった今、ここを大切にずっと愛していけたらなあって思っています」

 

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店の母屋にあたる慶子さん一家の自宅。店と同様、自分たちでリノベーションした。

 

慶子さんの文化を大切にする気持ちは、もちろん古い建物に対してだけではない。最も関心を寄せているのは、この土地に根付いて生活する人々との交流。

 

「ここに引っ越してきた当初は、みんないぶかしがって。旦那さんが外人だから、『どこの国なんだろう?』って。まずは『アメリカ?』って。国旗を見てもピンと来なくて『じゃあ、イタリア?』とか、『惜しいっ、ニアピン!』て(笑)。旦那が毎日『こんにちは』って挨拶してたら、ちょっと恥ずかしがってる感じがあったんですけど、だんだん安心してくれたみたいで。『お菓子屋さんなんだってよ〜』とか『子供が小学校通ってるんだってよ〜』とか、私達の生活が見えてきたのもよかったみたい。私達が外から来てるのを心配して、今では近所のオバアが、ゴーヤーチャンプルーとか果物とか色んな食べ物を持ってきてくれたりするんです。ありがたいですね。それに近所の小学生が、オバアからお小遣いもらって、150円握りしめてマカロンを買いに来たりするんですよ。駄菓子を我慢して、マカロンを1個ずつ買いに来る。横にいる子が『なんでそんな高いの買うん?』って聞いたら『美味しいんだからいいじゃない』って言ってて。『かわいい! 1個150円で頑張るよ〜』みたいな(笑)」

 

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文化を大切にしたいという気持ちは、慶子さんがフランスに長年身を置いてきたからというのもあるだろう。話は遡るが、慶子さんがフランスに渡ったきっかけは、東京のパン屋に勤めていた時のこと。フランスパンの焼き上がる時のパチパチという美味しそうな音にノックアウトされ、どうしても本物を見たくなった。ワーキングホリデーを使ってパリへ飛び、パン作りの修業を積んだ。

 

そんな慶子さんに、どうして文化を大事にしたいのかを尋ねても「それが普通じゃないですか」と、逆にそうじゃないことが不思議なよう。慶子さんにとって文化を大切にすることは、日本人として差別をも受けた土地で、その土地に馴染む術だったのかもしれない。その土地に根付いて逞しく生きる人を、心からリスペクトすることだ。

 

「私は日本にいた頃、すごく孤独感を味わっていて。モノがいっぱいあるのに寂しいぞって。フランス人を見たら、なんでこんなに生き生きしてるの、給料とかたいしてもらってないし、ボロいなっていうのでも大事にして、なんでこんなに喜んでるんだろうって思って。でもわかったんですよね。彼らは、自分を取り囲んでいるもので自分ができていると思っていて、周りを全て受け入れてるんです。自分に起こることが自分を作ってくれていると思うから、全てに感謝できる。前に進めるし、喜びも出てくる。だからみんな強いんだって。パン屋さんでも魚屋さんでも、みんなとっても生き生きしてます。もう手は荒れてるし、寒いところでマフラーガンガン巻いて魚さばいたりしてますけど、「う〜、寒いね! 魚食ってく?」って感じ。今やれることを楽しんでいるんですよね。家族とか友達とか、必ず自分を取り巻いているものを大事にして楽しんでる」

 

そんなフランス人に囲まれつつ、自分さえよければという真逆の行動をとる日本人も多く見てきたそう。

 

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「修業していたパン屋さんには、他にも日本人がたくさん来てて。他の国の人はそんなことしないのに、だいたいの日本人はその店に置いてあるパンやスイーツのレシピ本をコピーするんですよ。シェフとかがいない間にばーっとレシピ本を持ち出して、近くでコピーしてくる。日本の人たちはそれが欲しくて修業に行くようなものなんです。ダッシュで駆け抜けていって、あっという間にお店を辞めてっちゃう。そういう人はだいたい腕もいいんで、コンクールでトロフィーもらって、エコールなんとか出てどうとか、受賞歴とか経歴を並び立てるんです。日本で売れるからって。でもそっちに走っちゃうと、フランスの生きてる温かい文化とか、おじさんと交わした屈託のない笑顔とか、そういう土地のもの、土地に息づいているものを踏みにじることになりますよね。なんでそんな皿の上だけキレイに飾るの?って。そんなに詰め込まなくても、先走らなくても、と思ってましたね。いっぱい情報入れたとしても、できることには限界があって、毎日できることは何なのよって言うと、寝て起きてが基本だし。何より毎日が楽しくなくちゃ!」

 

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その言葉通り、慶子さんはここ瀬底島での生活を楽しんでいる。ここに息づいている人たちに近づいて生きるのが最高の生き方だと、迷いはない。

 

「沖縄は、神様とか目に見えないものを大切にするじゃないですか。きっと人の心だと思うんですよ。心を大事にしているから、例えば命がなくなっても、体がなくなっても、心を継承していくっていう文化。中身が充実しているから、人と触れてもとってもあったかいし。もう沖縄も沖縄の人もドンピシャ、大好き! 私も、自分の心を大事に守って年を重ねていけたらなあって思います」

 

職人気質だったヴァンソンさんにも変化があった。

 

「今までは、自分のペースを崩さず、ひたすら材料と向き合って寡黙に自分の作りたいお菓子を作ってるって感じだったんです。宮城の店ではずっと裏にこもりっきり。そこでそれを何十年も続けてたら、彼に残るのはモノを作っていたってことだけ。でも沖縄に来て、ここの店では裏方だけじゃなく、構造上お客さんと対面して接客もするようになったんで。今は、周りの人の顔を思い浮かべて、その人の温度を感じながら作っているというか。だからこっち来てほんとよかったなあと思いますね。周りに人がいた、いろんな人が雨の中、暑い中、買いに来てくれたっていう愛情みたいなのを感じながら、ありがたいって思いながら、作り続けてくれればなと思いますね」

 

慶子さんは、店がまだ完成途中で、製作中であることも隠さない。少しずつ、身の丈分だけ進んでいけたらいいという。スピードの出る車に乗るより、歩いて景色を見ていきたい、と顔をほころばせた。

 

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文化を大事にするって、どうすることなんだろうと最初は思っていた。

 

慶子さんと話しているうち、文化を大事にしていくって何も特別なことじゃないんだなと思った。自分を取り囲む人や、昔から息づいている家を大事にすること。先を急がず周りと歩幅を合わせてゆっくりと歩むこと。

 

人や家に寄り添い、慈しみ、そして敬う。慶子さんとヴァンソンさんの生き方そのものなんだな、としっくりきた。

 

写真・文/田中えり(編集部)

 

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ringo cafe(リンゴ カフェ)
本部町瀬底279
0980-47-6377
9:00〜18:00
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