瑠庵+島色 かき氷職人と陶芸家。2人のこだわり屋が作り上げた、シンプル イズ ベストな日本のかき氷

瑠庵

 

「フルーツやアイスを乗せずシロップをかけただけのシンプルな、日本でかき氷といえばこれ、という定番の形にしています。器の色がシロップの色を際立たせ、シロップの色が器を際立せるようにと思っていますね」

 

そう胸を張るのは、“瑠庵+島色”店主、西澤翼さんだ。背の高くない器に、こんもりとバランスよく乗る、柔らかそうな氷。フルーツの色そのままの鮮やかなシロップが、真っ白な雪山を覆う。その美しい形たるや、息を飲むほどだ。

 

西澤さんは、こだわりがすごいから、と横で微笑むのは、陶芸家でもう一人の店主、島袋克史さんだ。

 

「自分も陶芸でこだわってる。西澤さんがかき氷で、僕は器。お互いがこだわっていいものを追求していったら、かき氷だけですごいところまでいけるんじゃないかと思って」

 

“瑠庵+島色”は、2人のこだわり屋が、“器をも含めたかき氷”を追求した、かき氷と陶芸のコラボ店だ。

 

瑠庵

マンゴーみるくかき氷。みるくは別添えのピッチャーに。

 

瑠庵

いちごみるくかき氷。みるくは瑠庵で自家調合している。

 

西澤さんは、まず器選びから始める。書道家が書に向かう直前、空気がピンと張り詰めた時のように、ほどよい緊張感が漂う。真剣そのものの姿だ。島袋さんがかき氷用に作った器は、大きく分けて3種。型を使わず、一つひとつ手作りだから、微妙に色や柄、大きさが異なる。それに高台がついていたりなかったり。

 

「シロップの色とのバランスは一番に考えますね。それから何人様連れかによっても。同じグループ内での、色、形のバランスとか。あとは、この人のは金時入りだから、高台付きにしようとか。だからすごい時間がかかっちゃって(笑)」

 

器を選んだ後、氷をクーラーボックスから取り出し、マシーンにセットする。少し削っては手に取り、口に運んで、氷の具合を確かめる。1つ小さく頷いた後、左手に持った器を回しながら、氷を受け止め、そしてシロップをかけた。また削り、シロップをまわしかける。これを3回繰り返し、美しいかき氷が出来上がった。

 

瑠庵

西澤さんは、神奈川県鵠沼海岸にある有名店、“埜庵”で修業した。「“埜庵”でかき氷を最初に食べた時の衝撃を、沖縄の人にも伝えたい」

 

ふんわりと柔らかい氷。舌に置いた瞬間にほろりと溶けて水になる。もちろん、頭がキーンとすることはない。まるで果物そのものを食べているような、その美味しさがぎゅっと詰まったシロップ。果肉をも感じられて、みずみずしいことこの上ない。甘すぎないけれど、味がボケることもない、ちょうどよい上品な甘さだ。そしてどこにスプーンを入れても、シロップが乗ってくる。食べ進めると、嬉しい驚きについ頬が緩む。どのかき氷にも白玉が入っているのだ。最後は、氷に溶け出たシロップを、器の取っ手を持ちながら、迷うことなく飲み干した。

 

瑠庵

 

「3年修業したんです」

 

西澤さんのその言葉に、驚きを隠せなかった。かき氷は、昨今専門店も増え、こだわりのある店も多いと耳にする。一昔前、お祭りの屋台で、ガリガリ削った氷に市販のシロップをかけたものを、頭がキーンとするのを我慢しながら食べた。それと、専門店のかき氷は明らかに違う。そうだとしても、かき氷の修業に3年もかかるとは。

 

「かき氷って、奥が深いんですよ。氷自体の温度管理とか、削り方も、温度や湿度の高い夏と、そうでない冬とで違いますしね。最初削って手に取って食べて判断するんです。このくらいだったら今日の気候でいけるかなって。毎朝一番に削るときに確認しますけど、日によっては1日に2度3度、確認することもありますね。お客様が口に運んで舌に乗せたときに、氷がすっと水に変化するような厚さで削るんです。毎日削っているとマシーンの歯も減ってくるので、歯の出し具合も微調整します。体で覚えるのに3年かかりました。あっという間でしたね。削る前の氷も、冷凍庫から出してクーラーボックスに入れ替えて、1回常温まで上げるんですよ。頭がキーンとする氷って、舌に乗せたとき溶けずに氷のままなんです。氷のままだと体温を奪ってしまって、体に負担がかかる。だから頭が痛くなるんですよね」

 

氷選びもこだわった。県内の業者5社から取り寄せ、食べ比べをした。

 

「自分が思う、かき氷に合う氷って、味がしないことなんです。シロップの味をじゃませず、引き立てるような氷。それって不純物が少ない氷なんです。急速に凍らせると、不純物が残りやすいんですが、ゆっくり時間をかけて凍らせると不純物が抜けて少なくなる。だからうちで使ってるのは、時間をかけて凍らせた氷です。空気など余計なものが含まれていないし、氷も溶けづらくなるんです」

 

瑠庵

抹茶のかき氷には、愛知県西尾の香り高いお抹茶を使用。金時やぜんざい入りも。金時、ぜんざいは、西澤さんが店で丁寧に炊いたものだ。

 

店で出すシロップのほとんどは、西澤さんの手作り。もちろんシロップのこだわりも相当なものだ。

 

「シロップは、温度、粘度、糖度が重要なんです。フルーツと抹茶のシロップは毎日手作りしていて、その日の朝作ったものしか出しません。フルーツのシロップは果肉から作るんで、次の日になると状態が変わってきてしまうんです。抹茶も変わってしまいますね。ベーシックな“みぞれ”というかき氷があるんですけど、それにかける糖蜜が、全てのシロップの甘みのベースになっています。フルーツのシロップも、フルーツの甘みだけだと味がぼやけてしまうんで、この糖蜜を合わせます。この糖蜜も手作りしていて、数種類の砂糖をブレンドしているんですよ。これも、夏と冬ではブレンドを変えています。季節によって味覚が変わるので、糖度計は使わず、自分の舌の感覚で甘さを調整します。だからおおまかなレシピはあるんですけど、きっちり決まっているわけではないですね」

 

瑠庵

 

瑠庵

レギュラーメニューのかき氷に加え、季節限定のかき氷が2種。今後は白桃や、秋口には、コーヒー、栗のかき氷などを思案中。

 

氷もシロップもあっという間に姿を変えてしまう。お客の前に出されたときがベストな状態になるように、そして最後まで美味しく食べられるように、細かく考え抜かれたかき氷。その奥深さに、たかがかき氷とはとても思えない。されど、されど、かき氷なのだ。

 

西澤さんの真摯なこだわりに心を射抜かれたのが、一緒に店を営む島袋さんだ。

 

「かき氷だけで、しかも店を持つために3年も修業したって聞いて、その覚悟とこだわりがすごいなって。すぐにどんな人か会いたいと思いました。西澤さんと僕の妻が、東京の学校で先輩後輩だったんです。西澤さんから妻に電話がかかってきたのが、彼を知ったきっかけです。『沖縄でかき氷屋を始めたくて移住を考えてるんだけど、店を出すのにいい場所はない?』って。店の場所として、『那覇とか、港川とか、そういうところがいいかもね〜』なんて言ってたんです。でもこの倉庫の改装をし始めたとき、『西澤さん、どうしてるかな』ってすごく気になってしまって。妻に確認したら、まだ場所を探してるって聞いて、これはと」

 

島袋さんは、“瑠庵+島色”の隣に自身の工房を構えている。工房の隣の倉庫だった場所をアトリエやギャラリーに改装し始めた頃、自分の器を使った飲食店を出せたら、という思いがあった。とはいえ、宮城島は人通りがあまり多いとは言えないところ。西澤さんを誘っていいものか心配もした。ダメ元で誘ったところ、西澤さんの答えは…。

 

瑠庵

 

瑠庵

 

瑠庵

「宮城島に工房を構えてから、自然の色を反映した器が増えた」と島袋さん。

 

「結構早く、イエスの返事はしましたね。最初ここに遊びに来させてもらったとき、この倉庫の場所を貸してもらえないかなとは思ったんですよね。そしたら『ここでやったら』と誘ってもらえて、『じゃ、やろう!』という気持ちが半分。でも『この宮城島でどれだけ集客があるんだろう』という不安半分でしたね。ここでやっていけるっていう確信欲しさに、交通量調査とか1人で色々してみたんですよ。でもね、結局やってみないとわかんないっていう気持ちになって。人が来ないなら、わざわざ行きたくなるようなお店にすればいいだけの話だなって。島袋さんの器があって、僕のかき氷がある。1+1=2以上になるというか。よそでないものが、こんな辺鄙な場所にあるっていうのが逆に魅力になると思ったんですよね」

 

島袋さんも口を揃える。

 

「2人だったら、何か新しいものが作れるんじゃないかって期待がありました。僕と西澤さん、年は違うんですけど、誕生日が一緒なんですよ。それもあって、ちょっと運命的なものも感じていましたね(笑)」

 

瑠庵

 

瑠庵

 

瑠庵

 

その後2人は店をオープンするにあたり、何度も話し合いを重ねた。とりわけ重ねたのは、かき氷の器についてだ。島袋さんは言う。

 

「かき氷の器といえばガラスのものが定番じゃないですか。それを陶器でできないかっていうのが2人の間で出てきて。何度も試作をくり返しました。かき氷って最後、シロップが残るじゃないですか。それを全部スプーンですくうのは難しい。かといって、両手で器を持ち上げるのも少し抵抗がある。器に取っ手を付けて片手で持ち上げられるようにしたら、スマートだし、きれいに収まるんじゃないかって。それで取っ手を付けたんです。大袈裟だけど、これがかき氷の新しい容器の形になって、文化にまでなってくれたら嬉しい。挑戦ではあるんですけどね」

 

どうせならこだわり抜こうと、スプーンは、島袋さんの友人で金属を扱う作家の小西光裕さんに、かき氷用としてオーダーした。加えて“+”のマークも作ってもらった。

 

「“+”マークは、“瑠庵+島色”の“+”でコラボを示すものです。それと、この店とお客様を繋ぐ意味もあります。この店にいらっしゃることで、お客様自身に発見や感動がプラスされていく。そんな店になれたらという思いも込めました。お客様に気づいてもらえるよう、かき氷を乗せるトレーに埋め込みました。友人に機械を借りて木をカットして、彫刻刀で彫って、自分たちで“+”を埋め込んだんです(笑)」

 

瑠庵

 

瑠庵

島袋さんの作品は、店で購入できる。

 

瑠庵

島袋さん(左)と西澤さん。島袋さんの一番のお気に入りは、”キャラメルみるくかき氷”だ。

 

島袋さんは言う。

 

「2人ともここまでこだわるのは、お客さんに喜んでもらいたいから。西澤さんはかき氷で、僕は器。お互いに良いものを作って、食べてもらって、最後は笑顔で帰って欲しい。幸せになってもらいたい。そういう気持ちが一緒なんですよね(笑)」

 

かき氷職人と陶芸家。一見共通項がないようだが、抱く思いは同じ。2人のこだわり屋が作り上げたかき氷は、お客を喜ばせるための仕掛けが随所に散りばめられている。美しい見た目、洗練された味、最後の1滴までの食べやすさ…。1+1=2以上の魅力の詰まった、“瑠庵+島色”。宮城島までわざわざ足を運ぶ理由が、ここにある。

 

文/田中えり(編集部)

写真/金城夕奈(編集部)

 

瑠庵

 

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瑠庵+島色
うるま市与那城桃原428-2
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