Cuisina and Santé 皿の上の自然メニューのないレストラン。おいしさのヒミツは「当たり前」を大事にすること。

皿の上の自然

 

「『ピカソの好んだスープ』を下さい」。人気のスープをオーダーする人の中には、プロの料理人も少なくないという。すくおうとするスプーンが軽い抵抗を感じるほどのとろみ。チーズのように濃厚な風味となめらかでもったりとした舌ざわり。「ビシソワーズスープ」と聞いて頭に浮かんでいたイメージのすべてをくつがえす一皿。

 

その名にふさわしく一幅の絵画を思わせる鮮やかな赤、黄、緑の色彩はトマト、うっちん、ほうれん草。じゃがいもの風味を損なわず、逆に引き立てる名脇役達も風味豊かに香る。

 

一体どんな調理工程がこんなビシソワーズスープの存在を可能にするのか?頭に浮かんだ沢山のハテナを解明すべく、シェフの那須さんに種明かしをお願いすると、

 

「普通のビシソワーズスープですよ。県産の新ジャガを使っているから、より濃厚なのかもしれないね」

 

と、さらり。

 

もちろん、その深い味わいと高い芸術性実現の裏にはいくつもの種がひそんでいる。スープに色を乗せようとすると普通は沈んでしまうので、那須さん考案の特殊な方法を用いて絵を浮かべている。色味に用いた野菜も含め、素材は新鮮なものを厳選して使用。味付けにも最新の注意を払う。素材そのものの味わいを邪魔しないように。それらを那須さんが自ら明らかにしないのは、何ももったいぶっているわけではない。

 

「どれも当たり前のことだからです。素材にこだわるのも、その味の良さをひきだすのも、すべては料理人が行うべき当然のことですから」

 

グルクンのソテーの下に敷いた野菜の調理にも注意を払う。

 

「野菜の味をしっかり残したいので、くたくたになるまでは茹でません。日本人は欧米人とは違い、コリコリ、シコシコとした食感の食文化で育っていますので、野菜本来の旨味を残すために絶妙なタイミングの調理法を用いています。おいしい魚や肉料理をおいしく召し上がっていただきたいので、そのために主役以外の素材にも手間ひまをかけるのは当たり前のことです」

 

皿の上の自然
パッションフルーツの酸味がオクラと絶妙にマッチ。季節の一品「パッションフルーツとオクラのタルタル」実は店のまかない料理が原点、ご飯にかけて食べていたと言う

 

皿の上の自然
前菜盛り合わせ。恩納村のトマトのはちみつマリネ、アグーの自家製生ハムのメロン乗せ、ツムブリのカルパッチョ、紫キャベツのコンフィ、自家製ピクルス、ラタトゥイユのブルスケッタ

 

「よく、こだわりの強い店だろうと思われるのですがそんなことはないんです。当たり前のことをきちんとやっているだけ」

 

そう言う妻であり良きパートナでもある陵子さんも肥えた舌の持ち主だ。

 

「母親が料理上手で。外食した記憶もあまりないんです。とてもこまめに、おいしいくそして美しく料理を作ってくれ、なにより楽しい食卓を作ることを大切にする母親でした。そのためか、私は食べることや食べる時間が大好き。カフェやパン屋を巡るのが趣味で、いつか人が集まる場所をつくりたいという夢を抱いていました」

 

しかし、料理を職業には選ばず、フィットネスインストラクターとして勤めながら海外を旅する日々をすごした。

 

「旅行で訪れた沖縄が忘れられなくて。オーストラリアの旅先で、持ち歩いていた沖縄のあるホテルが掲載された雑誌の記事の切り抜きをふと思い出しました。『素晴らしいコンセプトと美しいお料理、やっぱりこのホテルこそが私のための場所だわ!』って一人で盛り上がってその場で国際電話をかけ、従業員を募集してないかきいたんです(笑)。そうしたらちょうど欠員があるというので、その電話で面接日を決めて帰国、無事面接に合格し、ホテルのレストランでホールスタッフとして働き始めました」

 

陵子さんがその料理に惚れ込んだレストランのシェフは女性だったが、料理のレシピはホテルのコンサルタントを請け負っている別の料理人が考案したものだとある日知った。

 

「その料理人は当時、全国各地のホテルや官公庁の施設のコンサルタントをしていて、各地域の料理人の指導にあたる、いわゆる『裏シェフ』でした。私が勤めていたホテルに指導に訪れた際、彼と運命的にめぐり逢って……それが那須だったんです。

 

今考えれば、パートナーとして最高のひとだったんですね。
彼は根っからの料理人ですからメニュー考案のプロ。
私はつくることではなく、人とコミュニケーションをとることや、作り手に代わって料理のことをお客様にお伝えするのが好きなんです」

 

皿の上の自然

 

皿の上の自然
「鶏胸肉を低温で40分間じっくり調理し、氷水で冷やすと驚くほどしっとりと仕上がります」。ブイヨンスープを卵白ですましてつくったソースを回しかけて

 

皿の上の自然
フランスの定番おやつ・食用ほおずきのチョコレートがけ、ティラミス、ホワイトショコラムースケーキ、プラムのコンポート

 

 

 

5年前、友人の好意によって理想の物件とめぐりあい、恩納村にレストラン「皿の上の自然」をオープンさせた。

 

「オープン当時は主人がコンサルタントの仕事で本土と沖縄を行ったり来たりする日々が続いていたので、料理教室から始めたんです」

 

那須さんの腕と料理の味が評判を呼び、プロも習いに来るほどの人気だった。

 

「オープンから約1年後、完全予約制のメニューのないレストランを開きました」

 

その日のメニューは仕入れの時に決まる。今日は活きのいい白身魚が手にはいったから、熟したトマトが並んでいたから、という具合に鮮度と質の良い素材を厳選、調理法はそれから決める。

 

「お皿から生まれる大自然…当店のこだわりは店名の通り『自然を感じる料理』をお出しすることです。自然から与えられた食材が本来もっている魅力を最大限にまで引き出すお手伝いをする、それがシェフの仕事です。そのためにかける手間は惜しみません。例えば、料理に添えるトマトソース一つとっても、缶詰めを使うことはありません。私たちの場合は、トマトを一つ一つ湯剥きすることから始めるんです。ブイヨンもソースもすべて手づくり。でも、それが当たり前だと思っています」

 

しかし、それは世間一般の「当たり前」ではないことに陵子さんは気づいた。

 

「勉強を兼ねて外で食べることも多く、どこでもおいしくいただくのですが、ソースなどちょっとしたものが手づくりじゃないとすぐにわかっちゃうんです。ですから先日、自分の誕生日には息子とふたりで『皿の上の自然に行こう〜。おいしい料理が食べたいから!』と店に予約を入れました(笑)。そう考えると私、主人の料理の一ファンなんですね、きっと。夫婦でなくてもきっとここに通い詰めてると思います」

 

陵子さん同様、那須さんの料理を一度口にした人の多くがリピーターとなる。こうして、「人が集まる場所を作りたい」という陵子さんの夢は現実のものとなった。

 

皿の上の自然左から、月のソース「パッションフルーツ&島人参」、太陽のソース「パッションフルーツ&人参」、「島らっきょカルパッチョソース」

 

姉妹店「丘の上のSARA」では、そんな手づくりの調味料が販売されており、人気を呼んでいる。

 

「添加物や着色料などはもちろん水も一切加えていないので、野菜や果物の旨味が凝縮されているんです。お出しする料理にも使用しているので、実際に召し上がって購入なさる方も多いですね」

 

沖縄の「おいしい」がぎゅっと詰まったソースはお土産にも最適。また、内祝いや引き出物など贈答品としても人気だ。

 

皿の上の自然
左から、パッションフルーツキャラメルソース、完熟トマトソース、島人参のコンフィチュール、無農薬ゆず島唐辛子胡椒、ハーブ塩

 

皿の上の自然

 

皿の上の自然
店内には『海の見えるパン工房エピシェール』が併設 

 

皿の上の自然

 

シェフの那須さんとコンシェルジュの陵子さん。果たす役割は違えど、二人の信条は同じだ。

 

「主人はかならずお客様のお顔を見ながら料理をするんです。ですから、同じ料理でも味付けが違ったり盛りつけを変えたり。それは接客も一緒。その日の天気やお客様、料理によってなど、状況によって毎回接客の仕方は変わります。私たちはタイプは違えどハートは同じなのかもしれませんね」

 

そんな二人の夢はオーベルジュ(宿泊できるレストラン)を開くこと。

 

「おいしい料理とお酒をたのしんでいただいたあと、オーベルジュなら車を運転して家に帰る必要がなく、すぐにそのまま寝られますよね。お家に招く感覚で素敵だな〜と思うんです。私たちの人生のテーマとして『出逢いとめぐり逢い』、『お心に感謝』という言葉があって。出逢いとめぐり逢いの場所として、人生最後の自分たちの居場所探しを始めようと思っています」

 

二人の夢への挑戦は、これからもカタチを変えて続いていく。

 

皿の上の自然
Cuisina and Santé 皿の上の自然
恩納村山田590−1
(現在は『丘の上の料理工房SARA』読谷村字長浜1189−3 にて)
090-1963-6048
*完全ご予約制
open 11:30〜19:00
close 日曜日ディナー、月曜日
ブログ:http://obn2008.ti-da.net

 

丘の上の料理工房SARA
読谷村字長浜1189−3
ブログ:http://okanouesara.ti-da.net