しまドーナッツまぁるい優しいママの味。地元食材の素朴なおいしさをどうぞ

島ドーナッツ

 

島ドーナッツ

 

「子どもたちに、安心でおいしいおやつを食べさせてあげたい――」

 

1人のママのひたむきな思いから始まり、オープンから1年あまりで完売続きの人気店となったドーナッツ屋さんがある。小さくてカラフルで、まるでお菓子の家、「しまドーナッツ」だ。

 

オーナーの山本真穂さんが話す。

 

「しまドーナッツという名前の通り、島どうふのおからや豆乳、黒糖など、原材料は地元産を中心に選んでいます。卵は『くだかのたまご』という、近隣の人なら誰もが知っているくだか養鶏場の直売品です。もちろん新鮮で、おいしさには定評がありますよ」

 

緑深いやんばる地帯の入り口に位置し、水も空気もさっぱりと心地いいエリアだけに、食材の美味しさにも期待が広がる。

 

島ドーナッツ

選び抜いた原材料のいろいろ。
石臼挽全粒粉は、八重岳ベーカリーのすすめで使い始めた。

 

 

「2011年の震災後、なるべくきれいな自然を求めて那覇から名護に移りました。子どもたちのため、生活環境にも食べるものにもできるだけ気を使って安心な暮らしを送りたいんです」

 

そんな真穂さんのおやつ作りは、材料の質にも味にもとことんこだわった愛情のたまもの。母親ならではの探究が、ドーナッツ専門店のオープンにまでつながったというわけだ。

 

 

午前11時になると、お店のショーケースには10種類ほどの焼きたてドーナッツが並ぶ。毎日のお楽しみは、季節のフルーツや新しいアイデアを盛り込んだ「日替わりドーナッツ」だ。種類豊富なおいしさを求め、近所の人や遠方から来る常連さん、沖縄観光中の家族やカップルと、途絶えることなくお客さんがやって来る。

 

「今日の日替わりは?」
「お友だちへの贈り物にしたい」

 

買う目的もさまざまで、誰もがワクワクしながら選んでいるのが分かる。ドーナッツならではのコロンと可愛い姿といい、地元素材の生かし方といい、おやつやお土産を選ぶとき真っ先に思い浮かぶ……しまドーナッツは、スウィーツファンの間でそんなポジションを獲得しているようだ。

 

島ドーナッツ

左 この日の日替わり「白あん」。右 定番のクランベリー&クリームチーズ。

 

コーヒーを淹れてもらい、日替わりドーナッツの「白あん」をいただく。

 

表面は黒糖色にこんがり焼き上がっている。少しだけいびつな手作り感がまた楽しい。両手で2つに割ってみると、意外なほどしっとり、もっちりしている。しかし口当たりは軽やかで、フワッととろけて広がるような味わいだ。食べながらその優しいおいしさにすっぽりと包まれ、いつの間にかとっても温かくて幸せな気分になっていた。

 

実は、強い香りや甘さがないせいか、私は最初の瞬間「味のつかみどころ」を探すような感覚を覚えた。が、それは風味の強いお菓子に慣れてしまった自分が、無意識に香りや甘さのインパクトを求めたのだと気付いた。

 

そして急速に「味の強いお菓子」から離れ、しまドーナッツの穏やかな世界に引き込まれてしまったのである。

 

島ドーナッツ

 

味のバリエーションは、「チョコ」や「バナナ」などスウィーツ系のほかに、「チェダーチーズ」や「トマト&バジル」などの食事系ドーナッツもある。ベース生地は基本的にどれも同じもので、塩気のあるチーズなどとの相性も格別だ。おやつに限らず、軽い朝食やブランチにも最適だろう。

 

ドーナッツにこんな楽しみ方があったなんて……。

 

 

興味深いのは、真穂さんが専門的にお菓子や料理の勉強をしたわけでも、お菓子屋さんで修業をしたわけでもない、ということだ。

 

「レストランの厨房で働いたことはありますが、いま作っているドーナッツのレシピはすべて自己流です(笑)難しいことはしていません。基本の生地がとっても素朴なので、味の応用がきくんですね。でも、新しいレシピは何度も試作して調整を重ねて、やっと完成。スーパーマーケットでも野菜市場でも、目にした食材をどうやってドーナッツに生かすかって常に考えています」

 

島ドーナッツ

レシピの数だけたまっていくプライスカード。

 

しまドーナッツの魅力は、プロが作るような完成度でも、華やかに目を引く飾り気でもない。ただしっとりと落ち着いていて、安定感がある。いつ食べてもおいしくて飽きない。その存在感は、長いこと地域に受け継がれてきた日々の食事やおやつにも通じる。まさに、母親が作る手料理の優しさそのものなのだ。

 

真穂さんは話す。

 

「小さい頃に食べていたものの記憶はずっと残っていくはず。安心で安全で、もちろん食べやすくておいしいものを、毎日手作りしてあげたいですね」

 

子どもたちが生涯にわたって、自分を守る良い食べ物を選んでいけるように――母親ならではの願いが伝わってくる。

 

島ドーナッツ

 

毎日300個以上ものドーナッツを焼くとのことで、厨房にはきっと大きなオーブンが……と思ったら、そうではなかった。小さなお店の小さなスペースに、1回で4個焼けるドーナッツメーカーが3つ。

 

「これだけで、ただひたすら焼いてます」と笑うのは、スタッフの乗松涼香さん。もともと真穂さんの友だちで、3人の子どものママでもある。真穂さんの思いに共感し、一緒にお店を切り盛りする仲間だ。

 

島どうふのおから。

 

作業台のまん中には、小さな厨房の中でひときわ目立つ大きなボールが陣取っている。その中に入った生地をかき混ぜ、手際よく絞り袋に詰めて、ドーナッツメーカーの型にくるりと流し入れる。そこにフィリングを加えたりトッピングをのせたりして、焼くこと約5分。フタを開けると、ふっくら焼き上がったドーナッツが顔を出した。

 

みんなのおしゃべりや笑い声とともに、まぁるくて温かいドーナッツがポコンポコンと誕生し、見ているだけでも楽しい。

 

ポコッ、ポコン…

 

リズミカルなイメージがふと、このお店が出来上がった経緯と重なる。というのも、真穂さんがお店のオープンを思い立ってからのステップは、いわゆるトントン拍子だったのだ。必要なものや人手が、まるで示し合わせたように集まってきたのである。

 

島ドーナッツ

 

島ドーナッツ

 

「物件は、かつてお刺身屋さんだった古い瓦屋です。売りに出ていたわけでも、賃貸物件でもありませんでした。でも、お隣の床屋さんが大屋さんを紹介してくれて、改装OKですぐ借りられることになったんです。

 

改装は、大工である夫が中も外も全部やってくれました。私は『何となくこんな感じ』って、イメージだけ伝えて。ドーナッツを入れるショーケースを作ったのも、塗装などもすべて夫です。厨房もいつの間にか出来上がっていて。

 

窓の飾り格子や棚受けは、鉄筋加工が趣味の知人が作ってくれました。ショップカードやメニューは絵の上手な友だちが……私はというと、クッションなどのファブリックを少し作っただけ(笑)」

 

店舗を作るのにかかった時間は、なんとわずか2週間。おいしいものが好き、楽しいことが好き、そんな人たちの心が集まり、ドーナッツの輪っかのように丸くつながったのだ。

 

島ドーナッツ

 

「本当に、たくさんの人に助けられてここまで来ました。最初は不安もありましたよ。もともとは、どちらかといえば地味なOLだったし(笑)でも、小さなお店をやってみたい、という夢はずっと抱き続けていたんです。それが、子どもたちに安心な食べ物を作ってあげたい気持ちと重なって、同じ思いをもつママたちと出会って。仲間に恵まれていると思います。

 

みんな3人、4人という子だくさんのママ。私にも3歳の双子と1歳の子と、お腹にもう1人。だから、お互いの暮らしや気持ちがよく分かるんですね。誰かが急にお休みするときは、すぐに別のスタッフが入ってくれます。みんな子育て優先で、フォローし合って。営業時間も、保育園の送り迎えをゆっくりできる時間帯です」

 

さすが、子どもたちへの愛情からスタートしたドーナッツ屋さん。働く母親にとって理想的な職場環境が、自然にできあがったというわけだ。

 

島ドーナッツ

 

島ドーナッツ

 

こんなに素敵なお店なら、もっとたくさんドーナッツを作ってほしい、都心部にも出店してほしい、そんな声も少なくないだろう。しかし真穂さんは決めている。

 

「お店を大きくするより、もっと深くこの地域に溶け込んでいきたいです。手作り品が集まるマーケットに参加したり、学校や保育園の行事に関わったり。そんな中で、これまでにもたくさんの大切なつながりができました。お豆腐屋さんや農家さん、お店作りを手伝ってくれた人たち。力を貸してくれるみんなの優しさに応えていきたいですね。みんながつながっている、って思えるからがんばれるんです」

 

島ドーナッツ

 

そんな思いが通じ、しまドーナッツは地元のイベントやお祝い返しの注文を受ける機会も増えている。スタッフはみんな、それをとても楽しんでいるという。

 

「できるだけ細かく、お客様の希望に応えたいですね。バースデーケーキのように、ドーナッツにメッセージを書いてみたり。ある結婚式では、ウェディングケーキの代わりに『ドーナッツタワー』を作ってとても喜ばれました。リクエストをいただくと格別にやりがいがあります」

 

自分なら、たとえばどんなリクエストをしてみようか?思わず想像がふくらむ。子どもの誕生日に、年の数だけ重ねた「バースデードーナッツ」とか。子どもが驚き、歓声をあげる姿が目に浮かぶ。

 

優しい味だから、お年寄りへの贈り物にも良さそう。どこか懐かしい島どうふや黒糖の風味、どんなに喜ばれるだろう?考えるだけで、大切な人たちの笑顔が次々にあふれてくる。今度だれかにプレゼントを贈るときは、しまドーナッツにしよう。ワクワクしながらリクエストを出したら、きっと私の想像を超えた素敵なアイデアで応えてくれるに違いないから。

 

 

写真 青木舞子/文 大城こりん

 

島ドーナッツ
しまドーナッツ
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