ChineseKitchen 宙華(そらはな)化学調味料なしでつくる、白くて辛い麻婆豆腐

宙華

 

白い麻婆豆腐?・・・メニューのその一行に目が留まらない人はきっと少ない。

 

「『白いけど、ちゃんと辛いのかな?』って、皆さん興味をもってくれるんですよ。辛いか辛くないかってきかれたら、『しっかり、辛いですよ』ってお答えしてます」

 

一般的に、麻婆豆腐は赤くて辛い料理。だから、赤くない→唐辛子が入ってない→辛くない。と、勝手に計算式が出来上がる。しかし、一口するとその味は、予想の数段上をポンポーンと飛び越えていった。

 

「パンチに驚きますよね(笑)。皆さんそうなんですけど、白いのに普通の麻婆豆腐より辛いくらいかもって感想をお持ちですね。付け加えると赤い麻婆豆腐は、豆板醤を2種類ブレンドして使ってますから白よりもっと辛いんですけどね」

 

そう話してくれるのは、ChineseKitchen 宙華(そらはな)の荒谷貴さんだ。決して辛さだけが先行する激しい味ではないのに、パッと花開くような辛みと香りの輪がひろがってゆく。そのワケは、聞き慣れない食材にあるようだ。

 

「そうそう、この意外な辛さですね?これには野山椒(のざんしょう)の辛みがまずあってですね。山椒って言っても、あの粒々の山椒ではなくて青唐辛子の仲間なんですけど、あまり流通していないから、『めずらしいね~』って注目してくれるお客さんもいますよ。あとは、最後の仕上げにつかっている山椒油(さんしょうあぶら)かな。これで香りと更に辛みを添えているんで、この2つの素材が見た目以上のインパクトになって、料理の味わいに深みを出してますね」

 

宙華

紹興酒は甕で寝かせた3,5,8年とあり、熟成が進むごとに味がまろやかになる

 

宙華

野山椒の瓶詰めが並ぶカンター

 

その野山椒、中国の中でも内陸の内陸と言われる、四川省などで昔から保存がきく食品として用いられてきたという。青唐辛子を酢漬けにした発酵食品で、流通が行き渡らない昔から、四川地方で多用されてきた伝統食材だ。そして山椒油は、山椒が色づいて香りが立つまで火にかける油で、その溢れだす香りと辛みが特徴だ。この2つの合わせ技が、白い麻婆豆腐に効いている。

 

「もとも白麻婆は、動物性たんぱく質を苦手とする方に、大豆ミートで作ろうと思っていたんですが、沖縄だと手に入らなくて、同じ白なら…と、鶏肉でやってみたんですけどね。鶏だと味もでますし、貝柱からとった出汁とも相性がいいから、大豆ミートが手に入らないけど、これだったらアリだなと。色の意外性だけじゃなくて、口の周りがピリッとするような山椒油の爽やかな辛みと、絹豆腐の繊細さが人気ですよ。中には、両方の麻婆豆腐を注文して紅白で食べ比べするとか、お客様それぞれで楽しんでらっしゃいますね。楽しんだ上で、美味しいって言ってくれるからこちらも嬉しくて。僕は職人ですから、お客さんが美味しいねって言ってくれれば、それでよし。珍しい食材にこだわろうが、県産野菜にこだわろうが、それは何でもないことになっちゃうんです」

 

宙華

ホタテのワサビ醤炒め

 

食材同士の味の構成を考え抜いた上でも、どこか控えめな荒谷さん。あえて、こだわりという言葉を使うなら、化学調味料を一切使わないところだという。

 

「調理学校をでてから、東京の中華料理店で働いている間も、僕はずっと化学調味料をつかったことはありません。僕にとっては、当たり前に過ぎないことなんですが店のコンセプトにもなっています。耳にしたのは、バブルの頃には味も見た目も、強く華やかにっていうのが主流だったから、うまみ調味料としての化学調味料が流行ったみたいなんです。それ以降は、そういう流れもおだやかになってきたっていう。そもそも、中華料理には化学調味料なんていうもの存在してなくて、乾物から出汁をとっている料理ですしね。元々の中華に戻りましょうってなったわけです。日本人が味噌汁に、かつお節や昆布から出汁をとるみたいに、干し貝柱や鶏から出汁をとるのが中華の味のベースなんですよ。食材の旨味があるのに、わざわざ化学的なものは使いたくないとも思いますしね」

 

宙華

 

化学調味料を使わない=無化調が、荒谷さんにとってのスタンダード。できれば、自然からのものを口にしたいと願う人が増える今でも、それを声高に主張することはないのが荒谷さんだ。化学調味料を必要としないのは、素材からの出汁を引き出しているからだが、そこには別の強みも並ぶ。

 

「旨味も大事ですが、僕は調理する上で、香りを重視しているんですけどね。そこで大事になってくる油4種類は、店で仕込んでいるんです。ラー油、ネギ油、蝦油、山椒油を、月に一度ぐらいまとめてね。そこまでの手間もかからないんで、作っちゃったほうが市販品よりも香りがいいぞってことで。やっぱり、独特の香りがあってこその中華だと思いますから」

 

一種類の油を作るのに、二時間ほどはかかるというが、そのお陰あって香り豊かな、宙華の油が出来上がる。でも、そのこだわりは荒谷さんの内だけに留めている。

 

「こだわりって、押し付けるものじゃないというのがあるからでしょうか。『これも、あれもこだわってます、このこだわりを味わってください!』っていうのは、僕にはナンセンス。香りと辛みがポイントだけど、うちの麻婆豆腐も嫌だってリクエストがあれば、当然辛みとかを抜きますし、そういう意味ではこだわりがないのかもしれませんね、僕って。でもそれでいいと思ってます。食材や調理法にこだわるのは、僕の領分で、そこから先の『おいしいね!』って、お客さんが思ってくださるのが重要。言ってしまえば、前段階はなんだっていいと思うんです。変な話、『こだわってるから、美味しいね』」じゃなくて、『美味しいね!へ~こだわってたんだ』って言われたほうが、なんだか嬉しいですしね」

 

宙華

 

職人肌な荒谷さんからは、お客さんを満足させる一皿のためには、手段さえ厭わない真っ正直な心持ちが感じられる。

 

「お客さんが美味しいと感じるなら、化学調味料だって否定はしませんよ。ただ、僕は使わないだけ。僕だって、こんな料理をつくりたいというのが出てきて、そこにはどうしても化調が必要だってなれば、使うかもしれない。化調って入れればなんでも一皿できるわけじゃなくて、酢豚だったら、ケチャップ、砂糖、醤油、酢のベースがあって、その『補い』として化学調味料を使うんです。その必要性があればの話ですけどね。でもなぁ…化調を入れることを前提に、元の味を決めていくのは僕はあまりすきじゃないから、やっぱり使わないですね!」

 

寛容にも映る、荒谷さんの姿勢だが、貫くものに一分の緩さもない。

 

「自分が『ん??』と思う味には、お客さんだって『ん??』と思うはず。だから、自分がやってきた中華というベースを大切にしながら、その日の味を組み立てます。暑い日であれば、塩分が若干強くなったりですね。日々の厨房では『味の入れ方と、味の出し方』を大事にしていて。味を入れる『さしすせそ』で味をつけ、出し方では調理法つまり、炒め方でも、高温がいいのか、低温でじっくりがいいのかってことが素材それぞれにあるんですよ。それが出来ないと、いくら素材に気を遣っても、魅力を殺してしまいますからね。毎回判断は間違えられません。どの場面でも真面目に作るというのが、大事なんです」

 

宙華

一緒に店を切り盛りするのは、奥様

 

荒谷さんが、定年まで務め上げると考えていた東京の中華料理店を辞め、沖縄に来たのは、震災もきっかけの一つだったという。

 

「僕らアテもないまま沖縄に来ていたので、こちらで中華料理店をみつけて、そこから暮らしを始めていければと考えていました。でも沖縄で自分が行きたいと思う中華料理屋さんがなかなか見当たらないし、ホテルの中華ってのも違う気がしていたので、アルバイトをして過ごす日が続いていました。でも誰もが、安心して楽しめるよう、食材の産地は米から野菜まで表示できる中華料理があってもいいよね、と話しているうちに周りの方に背中を押してもらったこともあり店を開けることになったんです。独立心がそんなになかった自分が、店を開くとはまさかでしたけどね。よっしゃー!やるぞー!って空気感当初は無かったですから」

 

宙華

 

ぽんっと宙華が生まれて、1年半月が過ぎようとしている。

 

「地元の方に味わっていただきたいんですけど、まだまだ沖縄でいう食堂だと思われちゃってますね。『ご飯と味噌汁ってつくの?』と尋ねられて、夜メニューは基本的に単品なのでこちらもピンと来ず、『??』となってしまうこともあります。その反応にお客様もピンとこず、お互いぼや~ってなったり笑。火元が間近にみられるということで、カウンター指定でご予約されるご家族連れもいらっしゃるんですけど、いまだに視線がこのガラス越しに注がれすぎて内心ドキドキしてしまうので、交わすようにお皿を洗ってしまうこともありますね」

 

ギャラリーの熱視線の中、アクション的に中華鍋をふるうのは、確かに荒谷さんの柄じゃないのかもしれない。それよりも、お客さんの見えないところでこそ、素材に正しく手を加える職人気質が当てはまる。だからこそ、どのお皿にもみなぎっているのは身を委ねる安心感そのものに他ならない。

 

文/松本都
写真/金城夕奈

 

宙華
ChineseKitchen 宙華(そらはな)
住所:沖縄県那覇市久茂地2-19-5
電話:098-868-3039
営業時間:月~金 11:30~14:00/18:00~24:00
     土 12:00~14:00/17:00~24:00
定休日:日曜日・祝日
HP:http://sorahana.ti-da.net
FB:https://www.facebook.com/Chinesekitchen.sorahana