豚々ジャッキー(とんとんジャッキー)沖縄名産・アグー豚の熟成肉を、トンカツで 

豚々ジャッキー

 

「もう肉汁からして全然違うから、食べたらすぐ分かると思いますよ。うちのトンカツは、沖縄県産のアグー豚とやんばる島豚の2種類しか使いません。ジューシーで、肉そのものに甘みがあるんですよ」

 

トンカツ屋「豚々ジャッキー」謝敷宗典さんの作るトンカツは、誰もが思い浮かべるような、黄金色のワラジ型。千切りキャベツも付いた定番のもの。しかし、一口食べてみれば、肉の柔らかさと濃いうまみに驚く。それはロースでも、ヒレでも変わらない。謝敷さんは、あらゆる角度から豚肉の美味しさを最大限引き出すことに力を注いでいる。

 

 

豚々ジャッキー

 

まずは、豚肉選びだ。このアグー豚とやんばる島豚のみに絞る理由はなんだろう。

 

「アグー豚って、ただ焼いただけでも充分美味しいぐらい旨みが濃いんですよ。ごくたまにケモノっぽいって人もいますけど、それぐらい濃いんです。栄養的にも優れてて、ビタミンB1やミネラル、コラーゲンがたっぷり入ってますしね。それに、脂身のコレステロールが普通の豚の、4分の1ぐらいで、すごくヘルシーなんです。やんばる島豚も、アグー豚と一般的な白豚をかけ合わせた種で、アグー豚の血統を60%くらい受け継いでます。“やんばる島豚アグー”と呼ばれることもありますね。アグーよりはリーズナブルで、これも旨みがあって充分おいしいですよ」

 

ただ、アグー豚はとても希少価値の高い肉。苦労もある。

 

「アグー豚が市場に普通に出回るようになったのって、まだここ2~3年じゃないですかね。昔は沖縄で豚肉といえばアグーだったんですけど、一度、絶滅の危機に陥ったんですよ。一度に生まれる数も少ないし、発育も遅いですからね。それで県立北部農林高校の生徒さんたちが、アグー種の戻し交配を繰り返して雑種化をくいとめて、なんとか復活させたそうなんですが、小型だから当然取れる肉の量も少ないし、安定した仕入れが難しいんですよ」

 

それでも妥協はしない。あくまで、この2種類のみにこだわるという。

 

「一般的な豚肉でもその都度、使う分だけを仕入れるっていうのは難しいんですけど、その上、アグーですからね…。特に正月やGWとか、業者さんが休みに入る前は、他店も多く仕入れるので、なかなか手に入りづらいです。やんばる島豚も、アグーよりは手に入りやすいですが、それでもない時はないですね。他の豚肉も使えば楽ではあるんですけど、そこはやっぱり譲れないので、手に入らない時はもう営業時間を縮めたり、店を閉めるようにしています」

 

さらに、ここからが勝負。豚を長年見続けてきた目利きの目が光る。

 

「それにアグー豚ならなんでもいいってわけでもないですね。パッと見て、肉の色やサシ、脂のノリが悪いものはもちろん使えません。業者さんも、そのへんは分かっててくれるので、こちらが求めるレベルのものを持ってきてくれるんですけどね」
豚々ジャッキー

 

そして、謝敷さんは選び抜いた豚肉の、最良のタイミングをじっと見極めるのだ。

 

「うちは一切、冷凍保存しません。冷凍すると、せっかくのジューシーさが失われちゃうんですよ。これは沖縄県内の店だからできることですけどね。県外だと、どうしても冷凍して運ばなきゃ傷んじゃいますから。それに、冷凍しないと言っても、仕入れてきた生肉をすぐ使うわけでもないんです。2~3日は必ず熟成期間を置くようにしています。この間に肉のたんぱく質がアミノ酸に変わるので、柔らかくなって、甘みも増して、一番良いなって状態になるんですよ」

 

いよいよベストの状態となった豚肉は、ここでようやく謝敷さんお手製のパン粉をまぶし、たっぷりのラードで揚げられていく。

 

「パン粉は、“目が立つ”って言うんですけど、揚がった時に一粒一粒が立つような姿が理想なんです。だから自分で粗目に作ることで市販のパン粉よりも目が立って、サクサクした食感が出るんですよ。揚げる油はラードですね。豚肉はやっぱり豚の油で揚げるのが一番いいんです。香ばしさが、サラダ油とかとはもう全然違いますからね」

 

柔らかさを保ちながら、こんがりと揚がるトンカツ。その秘訣は、油を張った2つの鍋にある。

 

「トンカツは二度揚げするんです。まずは180度の高温の油で揚げて、周りを固める。その後、80度の低温の油で15~20分かけて、じっくり揚げていきます。こうすると焦げずに、外はカラッと中はジューシーな食感になるんです。そのタイミングは気泡の大きさや音の変化で判断するんですが、20年やっているので、勘としか……。ただ、お客さんから、『おうちだとこんなキレイに揚がらないよ』ってよく言われるんですけど、それには『油の量が少ないんじゃない?』って答えてます。油の量が少ないと、表面だけ高い温度で中は低いままとか温度が一定にならないからうまく揚がらないんですよね」

 

豚々ジャッキー

 

謝敷さんは素材選びから揚げ方まで、トンカツを完成させるまでには徹底的にこだわるが、それから後はお客さんの好みに委ねるという。

 

「自分のトンカツの味が引き立つようなタレをって考えて、ブランデーで香りづけしたタレを作ってます。でも別に、これを使って召し上がって頂かなくてもいいんですよ。何も付けないままでも良いし、塩も醤油もご用意してます」

 

こだわりの多い職人でも、そのあたりはいたって大らかな謝敷さん。そんな人柄を見越したのか、お客さんは、何を付けて味わうかだけでなく、さまざまなリクエストをしてくるという。

 

「揚げ具合にも、ステーキの焼き加減みたいな好みがあるんですかね。『しっかり揚げて』って人もいれば、『あんまり揚げないで』って人もいます。トンカツの切り分け方も、『思いっきり食いちぎりたいから、大きく切って!』と言われたり、『歯が悪いから小さめでお願い…』と言われたり。面白かったのは『ニンニクを入れてほしいんだけど』という注文ですね。あとは、脂身がおいしいロースなのに、『ロースの脂を取ってから揚げて』なんて人もいました。かと思えば、良いとこどりで『ロースの脂身を、ヒレに付けて揚げられる?』と言う人もいて…」

 

そんなリクエストにもできる限り応えるという謝敷さんだが、たった一人で切り盛りしているお店。時間も手間もかかるリクエストは正直、面倒ではないのだろうか。

 

「全然面倒じゃないですよ。せっかく良い豚肉ですから、美味しく食べて頂きたいので。それぞれのお客さんの好みで味わって頂ければ、それでいいんです」

 

その言葉からは、自身の作るトンカツへの自信と余裕も感じる。謝敷さんは、トンカツ一筋の人生を歩んできた。

 

豚々ジャッキー

 

「僕、トンカツ屋以外やったことないんですよね。今から他の事しろって言われても困っちゃう。10代の頃に何気なく始めたアルバイトが始まりだったんですけど、それから1年間、埼玉に修業にいって、戻ってきて国際通りのトンカツ屋に勤めて、3年前からこのお店で独立して…と考えたら、もうかれこれ20年になりますね」

 

あまり多弁ではないが、謝敷さんの誠実さは、ピカピカの店内からもうかがい知れる。揚げ物屋には珍しいオープンキッチン。シンクもレンジ周りも磨き抜かれていて、新品のように光る。この清潔なキッチンだからこそ、お客さんは揚がる音と香りからも楽しみ、いろんなリクエストが飛び交う活気を生むのだろう。

 

「トンカツは毎日食べるものじゃないです。月に2、3回でも思いっきり楽しんでもらえればそれでいい。やっぱり揚げ物だからね…。たまに2日続けて来てくださるお客さんもいるんですけど、こっちが『大丈夫かな?』って思っちゃうんですよ」

 

商売のことよりもお客さんの心配をしてしまう。そんな言葉からも謝敷さんの実直な人柄が伝わる。

 

豚肉文化の沖縄だが、意外に正統派のトンカツ屋は少ない。トンカツは各家庭で作るものという意識なのだろうか。たまにチェーン店を見かけるぐらいで、牛肉のステーキレストランの方が圧倒的に多い。だが、せっかく沖縄が誇るブランド、アグー豚とやんばる島豚だ。さらに、その旨みが最も活きるタイミングで供されるのだから美味しさは格別。サクサクのパン粉に包まれたトンカツで頂く機会が、もっとあったっていい。

 

文 石黒万祐子

 

豚々ジャッキー

 

豚々ジャッキー
沖縄県那覇市久米2-9-11 abc久米ビル2F
098-866-1010
open 11:30~14:00、17:00~21:00
定休日 毎週火曜日