宇那志豆腐店(うなしとうふてん)糸満限定の糖度8パーセント島豆腐

うなし豆腐

 

UNASI TOUFU TENの横文字とモノトーンのパッケージに、カッコイイじゃないかと思わず手が伸びる。
ジャケ買いの結果は…大当たり!!

 

漫画やCDの話ではなく豆腐の話だ。それも島豆腐。口に運ぶ前から、香ばしさが鼻先で踊り、口にすればクリーミーな舌触りと甘みが広がる。

 

「このね、袋の真ん中にある『ウ』の字は、先代の時から使ってる木箱の刻印からもってきたんですよ」

 

そう教えてくれるのは、糸満で33年続く宇那志豆腐店の2代目店主の大城光さんだ。豆腐の作り手であり、デザインの生みの親でもある。売り場で異彩を放つこのパッケージには、産みの苦しみがあったという。ボツになったいくつもの試作パッケージを眺めながら、印刷会社と何度もやり取りしたことを回想する大城さんの表情には、やり遂げた満足感がにじんでいる。元来、文字しか印字してこなかった豆腐のパッケージにデザイン性を導入したのも大城さんが初めてだった。味に絶対の自信があるからこそ、見た目にも妥協できなかったというわけだ。

 

「味には自信があっても、手に取ってもらわなければ話にならないでしょ?人に知ってもらうためには看板が大事だと思って、見た目にもこだわったんです。無地の袋を使っていた母である先代には、『なんでそんなことわざわざするの?』と不思議がられたり、袋の印刷業者には『文字以外のプリントはやったことないから出来ない』って散々言われましたけどね。でも見た目のパッケージも、僕の豆腐作りの一つなんで絶対に譲れなかった」

 

うなし豆腐

 

うなし豆腐

 

自慢の味は、先代から受け継がれた技術、そして、香りと甘みにこだわった、大城さんオリジナルのやり方から生まれている。

 

「うちは昔から地釜製法という、豆乳を釜に入れて直火で炊くやり方なんですけどね、わざとうっすらと焦がして豆に香ばしさを纏わせるんです。火を消してから撹拌して、柔らかい香りだけをつけます。そして甘みも十分に引きだすために、焦げつくギリギリまで炊き上げて、糖度8パーセントの甘さを豆から引っ張り出す。糖度8といったら、フルーツトマトくらいの甘さですね。しばらくは僕もそうとう焦がしましたよ。でも次ならいけるかもって何度も、繰り返しました。焦げるのが怖いからって糖度7どまりになるのは嫌で、他がやらないからこそ、糖度8の甘みには特に思い入れがあるんです。簡単に出来るもんじゃないからね」

 

味には自信がある一方で、価格ではほぼ手作業ゆえ、大手に対抗するのは難しいと語る大城さん。反面、工程のほとんどが手作業だからこそ細部にまでこだわれるのだという。そのこだわりから生まれた糖度8は、実は忍ばせた試みから始まったものだった。

 

「代替りする前の数年、朝一は先代の仕込んだ豆腐、それ以外の時間は僕の豆腐を販売していた時期があったんです。しばらくしたら、違いに気づいた人から『なんか夕方の方が美味しいんじゃないの』って声が上がって。こっそり作り方に僕流のアレンジを幾つか入れていたから、気づいてもらえて嬉しかったんですね。その一つが糖度8の製法なんです。けど、本当かなって思いも半々あって。それでも徐々に、認めてもらえてるっていう実感が増していって、今の自分のやり方でいいんだって自信が持てるようになったんですね」

 

今でも、大城さん方式の豆腐作りは進化を続けている。その向上心は探究心であり、宇那志の看板を背負ったプライドと言える。

 

「飽きないんですよね。毎日が勝負ですから。豆腐作りは単純に見えるけれど、だからって単一じゃないんです。宇那志の看板を傷つけるものは出せないから、気を抜ける作業はありません」

 

その言葉の通り、材料、工程ともにシンプルな豆腐作りには、微細な変化こそ大切になってくる。大城さんが言う『勝負』は、どこにあるのか。

 

「水温が2度変わると、それってとんでもないこと。浸す水温が昨日と変われば、今日の豆は昨日とは全く違うわけ。だからそれ以降の作業で、水に浸ける時間、にがりを打つタイミング、塩の入れ方、その全てで判断が必要になる。つまり、昨日と今日とではやることが同じってことはありません。気温も水温も1日の中でコロコロ変わるし、その判断の境目全部が勝負どきというわけ。毎日の工程は同じだけど、やってる作業は違うんですよ。最後のにがりを打つところにならないと、正しい判断ができたのか本当のところはわからないから、勝負でもあり、それが楽しさでもあるんです」

 

驚いたことに作業工程を、大城さんは隠すことをしない。県内外の豆腐のプロや、観光で訪れる人を受け入れるというのは、自信の表れのひとつのようだ。

 

「同業者の方なんかから『作業場を見学させてくれ』って問い合わせ、結構ありますよ。時間がある時なら、どうぞどうぞって見てもらってます。普通だったら断るらしいけど、ちょっと見たぐらいじゃウチの技術は盗めないぞって自信があるから、そのぐらい構わないって気持ちからですね。それよりも、一人でも豆腐に興味を持ってくれるなら、むしろ喜びたいくらいなんです」

 

それは全ての人、特に若い人たちにも豆腐の魅力を知ってほしいという考えからだ。それは、外に向けた想いだけではない。

 

「うちのスタッフは、自宅から店まで1㎞しかないような糸満の若い子たちばかり。その子たちが、豆腐に興味を持ってウチで働いてくれるのと同時に、その友達なんかが『なんで豆腐屋で働いてるの?』とか『豆腐って美味しいの?』とか興味持ってくれるのも嬉しいことなんですよね。そんなことでも豆腐とのちっちゃな接点の始まりになりますから」

 

うなし豆腐

 

うなし豆腐

 

とことん豆腐愛に溢れる大城さんだが、家族以外のスタッフと共に作業をするようになって、気づいたことを大切にしているという。

 

「面白いことに現場の雰囲気って、味に出るんですよ。せかせか作ると、とんがった味になっちゃうことに数年前に気づきました。今は1日240kg以上の大豆を使うくらい忙しいから、製造チームと配送チームに分かれているんですけど、それぞれの意志がぶつかっちゃう時があるんですね。どういうことかと言うと、水温や豆の状態によっては作業時間がずれ込むことがあるんです。製造チームは生半可なものは出せないから少しでも時間が欲しい。でも配送チームは、スーパーさんやお客さんのことを考えれば納品時間は守りたいわけです。だからね、うちでは持ち場を固定せず、ローテーションを組みます。どちらの立場も経験すれば、双方の気持ちもわかるし、課題も見えてくる。意見を言いやすい環境さえあれば、改善できて結局は豆腐の味につながるんです。だから和やかでなんでも言える雰囲気作りも、豆腐の要素になるから大事にしています」

 

うなし豆腐

 

そんな大城さんには、いつか実現したい夢がある。

 

「どうしても復活させたいものがあって。それは僕が子どもの頃食べていた豆腐。母ちゃんが昔作ってくれた豆腐ですね。『ホントに、あの味覚えてるの?』って、母ちゃんには言われるけど、あの味は忘れられない。あれをいつか作りたくて豆腐屋を続けてるようなものなんです。うちの子供やスタッフにも食わせてやりたいし。値段は張っちゃうだろうけど、やりたいんだよな」

 

そう話してくれる声は弾む。母ちゃんこと、先代が叔母から店を受け継いだのが33年前のこと。当時の製法は、今とは異なるものだったという。

 

「昔は、大豆を干すところから始まるんですよ。ザルに入れた大豆を、軒先で干してから水に浸して作ると、大豆の味がギュッと濃くなるんですね。そうして浸した大豆を、ハンドルを手で回すような専用の絞り機で絞ってたんです。手動だと、力をかけすぎないから、変なエグミが出ないのが最大の特徴でしたね。機械だとパワフルすぎて、どうしてもうっすらエグミが出ちゃうんです。手動だと時間がかかってしまう問題があるけど、ゆくゆくはあの旧式の機械で作る豆腐もやりたくって」

 

未来を思い描きながらも、変わらないのは、糸満の地に根付く豆腐屋だということ。

 

「うちの豆腐は、ほぼ地元糸満にしか卸していません。『那覇とか他の場所でも売ってよ』という声はいただくんですが、自分が生まれた場所を大事にしたいから、糸満にこだわっています。宇那志豆腐は、この土地で育ってきたものだから。昔でいえば、大豆を干している時に雨が降れば、近所の人が真っ先に取りこんでくれました。今は、店を探して迷った人を案内してくれるのも、ご近所さん。しかも、買いに来てくれたお客さんに『うちはずっとここの豆腐よー、もう他のはでは食べられないさ』という話から、おすすめの食べ方までアレコレ教えてくれてるから有難いことです」

 

うなし豆腐

 

そんなやり取りからも、豆腐の味だけではなく、宇那志豆腐店自体が地元から愛されていることが伝わって来る。並々ならぬ大城さんの豆腐への情熱は、こんな間柄で育まれてきたんだろう。

 

「豆腐はね、今この瞬間が一番うまいとき。だから、買ったら寄り道しないで帰って欲しいっていうのが本音なんです。豆腐の寿命は、厳密には3・4時間だけ。豆腐の中から出てくる水分は直ぐ捨ててもらって、酸化しないように水につけてくれたら日持ちしますよ。食べ方かー。そのままもいいけど、僕は、何もつけずカリッとなるまで素揚げしたのが好きですね。揚げてみると、中のクリーミーさがよくわかると思いますよ」

 

大城さんは、豆腐は主役になれない食材だと形容する。しかし宇那志の豆腐は、主役食う存在感を十二分に見せつけてくれる。糸満が誇る名脇役は、ローカルの宝に他ならない。

 

文/松本都
写真/金城夕奈

うなし豆腐
宇那志豆腐店(うなしとうふてん)
住所:沖縄県糸満市糸満152番地
電話:098-992-2522
定休日:日曜日
駐車場:有り※店前の駐車場には限りがあります。
営業時間:6:00〜15:00
※直接工場での購入6:00〜15:00まで販売しております。
(お電話での予約を入れて頂けるとスムーズに購入ができます。売り切れの際はご容赦ください。時期、時間帯によっては売り切れの場合があります。)
fb https://www.facebook.com/unashi.toofuten/

 

主な販売店
※豆腐は糸満市内のスーパーや道の駅へ、数量限定で1日2~3便に分けて納品しています。
※店舗ごとに納品時間が異なりますので、店頭の時刻表にてご確認ください。
《サンエー》糸満、小禄、八重瀬方面 各店舗
《かねひで》糸満、八重瀬方面 各店舗
《丸大》糸満店
《JAファーマーズマーケット》糸満店