ヤソウカフェyamacha(やぁまちゃ) 石窯料理も手作り調味料も、始まりは「家族で楽しむため」。家族の愛情溢れる日常が、そのままカフェに

 

「5,6年前にこの家に引っ越してきたときに、庭もこんだけ広いし、駐車場にトタンの屋根ついてるし、なんかすごい色々やりたい!、家族で楽しむためにって思って。で、裕二さんに『石窯が欲しい』って言ったんです」

 

石窯は、お店のためでなく、家族のためが始まりだった。こう話すのは、古民家カフェ、ヤソウカフェやぁまちゃ店主、加藤律子さんだ。

 

律子さんの突拍子もないお願いに、旦那様の裕二さんは、もちろん戸惑った。

 

「石窯って言われても、最初さっぱりわけわかんなくて。僕は、石窯に全然思い入れないし。ネットで調べたら、安くても10万円はして。これ買ったら借家だし引っ越しできないし、どうしようって。でも、律は欲しいって言ってるし…」

 

ヤソウカフェ

 

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「裕二さん、色々考えてくれたんです。元々大工やってたんで、構造とか自分の頭で組み立てたんでしょうね。ああやったら作れるかなって。で、できたのがこの移動できる石窯だったんです」

 

庭先の石窯は、裕二さんの、律子さんに対する愛情の現れだ。見ると、ブロックを積んで、その中でただ薪を燃やす、とてもシンプルな造りの石窯。

 

「このブロックをここに置く意味っていうのがそれぞれあって。組み方が悪いと、火がうまくつかないし、熱がちゃんと回らないんですよ。この石窯のいいところは、自分のしたいスタイルにどんどん形を変えられるところ。組み方で全然味が違うんです」

 

裕二さんは、しゃべりながら途中、手袋をした手を窯の中に突っ込み、皿を回して向きを変える。その手つきはためらいがない。1分経過しただろうか、あっという間にグラタンが焼きあがった。窯から出すとまだ薄かった焼き目が、余熱でみるみるうちに美味しそうなきつね色に色づいた。グツグツと沸き立つような音とともに、チーズのこんがり焼けた香りが、辺り一面にぶわっと漂う。

 

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いい色の焦げ目は無添加チーズならでは。普通のチーズだと真っ黒になってしまうそう。ホワイトソースは小麦粉、バターは使わず、県産もちきびとオリーブオイルと豆乳で。「アレルギーのお子さん連れもいらっしゃるので」

 

グツグツのアツアツを頬張ると、これが石窯の威力なのかと、うならずにいられない。グラタンの芯、具のチンヌクの芯までじんわりと、そしてふっくらと火が入っている。表面のチーズはカリッカリで香ばしいことこの上ない。改めて火の力に驚かされる。

 

じんわりふっくらと火が入っているのは、石窯パンも同じ。噛めば噛む程甘みが感じられて、小麦の香り高さも存分に味わえる。外側の少し焦げたところが、また香ばしくってたまらない。お焦げの香ばしさは、オーブンでは決して味わえない、石窯ならではの醍醐味だ。

 

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石窯料理のレパートリーはどんどん増え、今はガトーショコラやベイクドチーズケーキ、焼きプリンなどのデザートや、コーヒー豆の焙煎までやってしまう

 

「家族で楽しむため、が基本だから、材料はちょっといいものを使うんです。子供にちゃんとしたものを食べさせたいし、自分も美味しいもの食べたいし。自分たちが食べないものはお客さんにも出さないです」

 

律子さんの言う“ちょっといい材料”は、“週替りごはんプレート”にももちろん満載だ。

 

「野菜や果物は、沖縄産の無農薬で、旬のものしか使わないです。わざわざハウスで作ったような県外のものは買わないの。そのもやし、シャキシャキでパリパリでしょう。うちの近所の小さな八百屋さんので。その八百屋さん、県産無農薬の野菜を沢山扱ってて、もやしはいつも採りたてですっごい新鮮なの! もやしと和えてるカンダバーは、庭の畑に勝手に生えてたのね。それからこのスープの紅芋、無農薬で栽培してる農家さんから直接分けてもらって。芋自体がすごく甘いの〜。お米は石垣の無農薬米で。麦も一緒に炊いてるんだけど、麦は、粉を分けてもらってるオジイから、丸のまんまも分けてもらってて。炊いたらこんなに丸くなって、プチッとして甘いでしょう?」

 

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良質な食材で料理するだけでなく、目の前にあるものを大切にしたいと言う。

 

「なるべく身近にある、生産者さんの顔の見えるものを使いたいんです。だから、パンやピザ生地に使っている小麦粉も、主に沖縄のものなんですよ。たまたま知り合った、うるま市の小麦農家さんの。その農家さん、小麦をほとんど市場に出してないんだけど、特別に分けてもらってるんです。殻は農薬を吸収するらしいんですけど、無農薬だから、殻ごと食べても安心。ふすまも全部混ぜ込んだ全粒粉を、荒くつぶつぶが残る状態に挽いてもらってます。だから香りもいいし、甘みも出るし、美味しいの! うち、パンはイースト使ってるんですけど、みんな天然酵母だと思うみたいで、『何の酵母使ってますか』ってよく聞かれる。みんなオジイの全粒粉のおかげなんです」

 

律子さんは、農薬を使わずに手間暇かけて育てられた食べ物を敬まっている。作った人を知っているからなのかもしれない。全ての食材に対して愛情を注ぎ、大事に大事に調理しているのだ。

 

「チキンカツのソースは手作りで、今日のはマンゴーがたっぷり入ってますよ。それから、自家製の梅干し、今帰仁村で採れた梅なんだけど、ちょっと破れちゃったのを酸味代わりに入れて。自家製の醤油や醤油味噌も隠し味で入れてるかな。調味料はね、醤油や味噌、お酢なんかも手作りしてるの。発酵に必要な麹は毎年冬に立ててます」

 

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チキンカツは衣まで美味しい。
「自分のところで焼いた石窯パンを細かくして使ってるの」

 

石窯も、かなりいい材料も、元々家庭で使っていたもの。まるで家庭に友人を招くように始まったのが、ヤソウカフェやぁまちゃだ。

 

「暖かいところで子育てしたいねって埼玉から移住してきて、この家で裕二さんが石窯作ってくれて。週末ごとに、子供と一緒に朝食のパンを焼いたり、おやつにピザを焼いたり、すごく楽しくって。3年くらいたって、石窯にもだいぶ慣れてきた頃に、お店を始めるタイミングがそろって、せっかくあるから使おうって」

 

近くにあって、せっかくあるもの。それは庭に自然に生えている野草もだ。

 

「野草はね、私が元々興味があって。 当時沖縄の野草の本ってあんまりなかったんだけど、古本屋さんで“沖縄の野草辞典”っていう古ーい本を見つけてね。それと、たまたま知り合った野草の先生に、食べ方や使い方なんか教えてもらって。へーっ、これ、食べられるんだ、ってうちで使い始めて。沖縄の野草は体にもいいし、みんなにも知ってもらいたいなって、野草も出すことにしたんです。それでうちは石窯料理と野草のお店になったんです」

 

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自宅をお店にしたのは、空いている部屋を使わない手はなかったから。

 

「最初この家に引っ越してきた時はね、台所で作ったご飯を、表の一番座に一生懸命運んで食べてたんですよ。でもだんだん難儀〜になって、裏の部屋しか使わなくなって。家族4人だと裏だけで生活できちゃうの。表の1番座とか友達が来たときしか使わないし。じゃ、こっち空いてるから、こっちをお店にしちゃえって。大家さんに、ここでお店をしたいって言ったら、快諾してくれて。近所のオバアとかが、ここ空いてるから駐車場にしなって貸してくれたりしてね」

 

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自然の成り行きとでもいうように、トントン拍子で自宅の一角がお店になった。律子さん家族がこの地域に愛されていることも、手伝っているのかもしれない。

 

「ここの地域ね、ほんとにいいんですよ。オジイオバアがいっぱいいて、『コウタとゲンタ置いて、遊びに行っておいで』とか言ってくれるの。ここに来たのが、下の子が生まれてまだ1ヶ月しか経ってないときで、みんな赤ちゃんの頃を知ってるから、『ゲンタ、大きくなったね、ああ、走ってる〜〜』って、子供の成長を喜んでくれる。親兄弟とか知り合いとか1人もいなかったけど、子育てが全然大変じゃなかった。もうここから離れたくないですね」

 

屈託のない明るさのせいだろう、律子さんは沢山の友人に囲まれている。ママ友始め、こんなの作ってって言える農家さん、いつも買い出しする八百屋さん、野草を教えてくれるおばさま、子供の面倒をみてくれて、畑でできたものを分けてくれるオジイオバア、果ては青年会のメンバーまで。老若男女問わず幅広いのだ。沖縄市久保田という伝統ある町に、地元の人のように溶け込んでいる。

 

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コーヒー豆はタイやペルーのオーガニックのものを。焙煎して1週間以内のものしか使わない。「ちょっとずつ焙煎して新鮮なものをお出ししたいので」と裕二さん

 

「将来はね、民宿とか民泊やりたい! お客さんに手伝ってもらって一緒にできるさ〜。お客さん体験型、そんなのがいいな。いずれヤギ飼って、ヤギチーズ作りたいし、ニワトリも飼って卵取ったりね」

 

目に浮かぶのは、ちょっとない特別な体験ができる民宿や民泊の様子。庭の野草を摘み、麹を立て、作れるものは自分達で作る。窯に火を起こし、自分で捏ねたパンを焼く。律子さんは、お客と一緒に丁寧にご飯を作り、教え、自分も楽しむ。いずれこの地域の頼もしいオバアになりそうだ。「そんなオバアになりたいかも〜」と律子さんの笑顔がはじけた。

 

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「お客さんは、ベジタリアンの人とかがいっぱい来てくれるのかなって思ってたらそうでもなくて。一番多いのは、ベジタリアンでも観光客でもなく、地元の沖縄の人。みんな、子連れでも気を使わないでゆっくりできるからって」

 

律子さんは、料理をしつつ、時にはお客の輪に入って楽しそうにおしゃべりをし、裕二さんは、台所と窯のある庭をひたすら往復し、黙々と料理を焼き上げる。育ち盛りの2人の息子さんは、外へ遊びに行き、お腹が空いたら帰ってきて、自分で生地を伸ばしてピザを焼く。

 

律子さん一家の日常の生活が溶け込んでいるカフェだから、地元の人は気を使うことなくゆっくりと食事やおしゃべりを楽しめる。客に温かな空気が伝わっているのは、“ヤソウカフェやぁまちゃ”に、家族への、食材への、地域への愛情が、溢れているからに違いない。

 

                     

文/田中えり(CALEND OKINAWA)

    

 

ヤソウカフェ
ヤソウカフェyamacha(やぁまちゃ)
沖縄市久保田1-21-12
0989270554
11:00~16:00
close 水・木

 

http://yamacha.ti-da.net