giceto(ギチェット) 小窓から垣間見えるのは、ウソのようなホントの世界。森の小さな雑貨店

 

森の中、延々と続く細い山道。ちゃんと辿り着くのだろうかと不安になる。
“giceto”と書かれた白い矢印の案内板を見つけ、胸を撫で下ろす。そんなことを何回か繰り返した。ふいに現れた、小さな小さな店を目にしたとき、「ああ、こんなところに、ほんとにあるんだ」と思った。

 

元は農具小屋だったという白の建物は、青い空と濃い緑に一際映える。アヒルがクワックワッと鳴いて、お出迎えをしてくれる。この畳6枚ほどの小さな世界に足を踏み入れたとき、思わず声が出た。「わあっ、かわいい」。小さな世界に、無限の夢が詰まっているような気がした。

 

 

 

「店名のgicetoって、”窓”という意味があるんです。窓を覗いて、作家さんの世界を垣間見るっていう。“分岐点”とか、“交差する場所”という思いも込められていて、そういうの、空間と空間、ものとものの境目じゃないですか。その境目の部分がgicetoなんです」

 

店名の由来を、店長の三浦絵美さんが教えてくれた。どこの言葉なのか聞いてみると、“エスペラント語”という耳慣れない答え。アートディレクターを務める、神元尚千(なち)さんが続ける。

 

「エスペラント語って、昔、あるお医者さんが作った世界共通語なんですよ。どこの国の母国語でもないので、あまり広まらなかったみたいです。エスペラントってどこにも所属しないというか、国籍とか人種とか関係ない。gicetoも、国籍とか関係なく、沖縄風でもなく、どこでもない空間にして、どこのものを置いてもgicetoらしく、ここで交わっただけの空間にしようって思ったんです。このコンセプトにはエスペラント語が合うねと、店名にしました」

 

エスペラント語を店名に冠したことで、店のオープン日にもこだわった。

 

「エスペラント語って、自然発生的に生まれた言語じゃなくて、人工的に作った言葉。それってウソって言ってしまえばウソじゃないですか。そんな言語が店名になってるし、お店もホントにあるのかなってところにある。そういうのも含めてまるごと、店をウソみたいな空間にしたいと思ったんです。それでオープンの日を、4月1日のエイプリルフールに決めたんです」

 

 

gicetoがオープンしたのは、2013年4月1日。この4月、2周年に合わせて、gicetoのキャラクターを誕生させた。春の海を思わせる、柔らかで淡い色味の魚のキャラクターだ。尚千さんが楽しそうに言う。

 

「エイプリルフールって、外国では魚にまつわる話が沢山あるらしいんですよ。魚がバカみたいに穫れる日と言われていたり。だから、泳ぎが下手そうな、ちょっとマヌケなお魚にしたんです。おっちょこちょいでマヌケなんですけど、かわいいでしょ? この魚、アプリーロ君っていうんです。アプリーロは、エイプリル、4月を指すエスペラント語です」

 

尚千さんが描き下ろした絵をもとに生地をつくり、田仲洋服店が縫製を手がけた。肩から下げるバッグや、ポーチ、キーホルダーなどが出来上がった。gicetoと作家のコラボ作品だ。

 

 

 

gicetoと作家のコラボ作品は、他にもある。年間を通して人気なのが、庭作りキットparto arbaro(パールト・アルバーロ=パーツの森)だ。fondajo(フォンダージョ=土台)にパーツを刺し、好みの庭を作る。

 

「gicetoで1周年のときに企画したんですけど、土台をgicetoで作って、それに刺すお庭のparto(パールト=パーツ)を各作家さんに作ってもらったんです。土台になるカップは、古道具屋さんなどで出会ったお菓子用のものなどを用いています。芝に見えるのは、本物の苔なんですよ。ブリザーブド加工をしてるので、お水はいらないんです」

 

 

Florgardeno

 

それぞれのカップの苔は、青々としていたり、少し枯れたようだったり、微妙に色味が異なる。片手に乗るような小さなものから、ボウルくらいのものまで、大きさも様々。その土台に、きのこや、鳥の巣、動物などを配置して、自分だけの小さな庭を作る。まるでミニチュアになった童話の世界だ。

 

パーツの中でも人気の高いきのこは、各作家で表情が異なるのが面白い。

 

「ガラスのものだったり、古い時代の紙をレジンコーティングしたものだったり、樹脂粘土のものだったり、素材も様々なんですよ」

 

作家には、季節を意識してオーダーをかける。「夏だからマリンっぽいカラーで」とか、ハロウィーンの時期は、「ハロウィーンっぽい毒々しい色で」など。これから新しい作家のものも加えていく予定だそうだ。

 

 

2人は互いを補い合うように話をする。息もピッタリだが、店では役割分担がしっかりとある。アイディアを出して、企画の発案や作品選び、ディスプレイをするのは、アートディレクターの尚千さんの担当。その企画を実際に組立てたり、接客等のお店の運営するのは、店長の絵美さんだ。尚千さんは言う。

 

「私、ものは作るんですけど、お店をやるのは1人じゃ無理だってわかっていたので、しっかり者で支えてくれる人が必要だったんです。絵美さんは、雑貨屋の店長をしていた経験もあるし、彼女に店長を任せたら、かわいいお店になりそうだなって思ったんですよね」

 

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Chalk Chalk(FOREST MARKET)

 

Ryo Tsuda

 

田仲洋服店

 

2人は、尚千さん夫婦が主催する八重岳でのイベント、“FOREST MARKET”で出会った。絵美さんが、思い出したように笑う。

 

「ちょうどハロウィーンの時期のFOREST MARKETで、この夫婦、ヘンテコなことやってたんですよ。“サーカスの黒猫”っていうテーマで仮装してて、すごい濃い化粧して、ハイテンションで、アヒル連れて、犬も連れてて。『なんなんだ、この人達は!』と思って、ちょっと仲良くなりたいなあと近づきました(笑)」

 

尚千さんも返す。

 

「絵美さんは出店してくれていて、彼女が売っているお洋服とか輸入雑貨とか、すごくかわいいものがいっぱいあったんです。『かわいい人がいる〜』とナンパしたんです(笑)」

 

数日後にはお茶をして、数週間後には、一緒に店を営もうという話になった。このスピードの理由は、運命的な出会いと感じていたから。

 

「世代が違うにも関わらず、よく聞いていた音楽や好きな絵画が一緒だったり。私のマイナーな趣味をすごく理解してくれたんです。こんなに趣味が合う人に会ったことなかったです」と絵美さん。

 

 

 

なちさんの作品。なちさんは、”ランド・ポピンズ”という作家名で活動

 

尚千さんは、絵美さんを「彼女のセンスをすごく信頼している」と言い、また絵美さんは、なちさんを「アイディアが素晴らしくて、才能が豊か」と言う。2人は、作家としても自身の作品を店に置いている。

 

尚千さんは、“ランド・ポピンズ”という架空の国のお話を書いていて、その国のものを、蝋引き紙(ワックスペーパー)で作る。

 

「例えばオーナメントの気球は、ランド・ポピンズの住人の足なんです。私達がマイカーに乗るみたいに、ランド・ポピンズでは、マイ気球に乗ってて、それぞれ違う柄の気球なんです。架空の国で、その国の住人が作ったり売ったりしているものを、私が商人として仕入れて商いをする。そういうコンセプトで、制作販売しています」

 

まず、紙に原画を描いて、水彩のペンで点画を描き、パソコンに取り込む。しかし、ただスキャンしたのでは手描き感が無くなってしまうので、手描き感が残るよう加工して処理をする。それを刷って、カットして組み立てて、蝋引きを施す。長い工程を踏んでやっと完成する、手の込んだ作品だ。驚いたことに、尚千さんは、ワックスペーパーの作り方を誰かに教えてもらうことなく、手探りで完成に辿り着いた。およそ14年前のことだ。

 

「10代の頃、友人からもらったプレゼントのラッピングにワックスペーパーが使われていて、かわいいなと思って。そこからどうやって作るんだろうって、自分で試行錯誤しながら作り始めたんです。今だったらネットで作り方が紹介されているんですけど、その当時はそんなのなかったですから。蝋は熱で溶けるからと、まず熱で溶かして、色んな紙に染み込ませてみて。蝋や紙によって染み込み方が違うので、この紙に染み込ませたらかわいいんじゃないかとか、色々試しました。徐々に自分好みのワックスペーパーが作れるようになりました」

 

 

 

 

絵美さんの作品。作家名”ニキノセカイ”

 

尚千さんの創造性に触発され、絵美さんも自分で作ってみたいと作品を作り始めた。雑貨は好きだが、売る側の人で、まさか自分で作るとは思っていなかったそうだ。

 

「キラキラしたものが好きで、朝の太陽や、初夏の日差し、水辺の稲穂とか、星空や海。そういうものをイメージして、ビーズやスパンコールを刺繍して、アクセサリーを作っています」

 

gicetoは、作家とのコラボ作品の他、現在10名あまりの作家の作品も置いている。gicetoに合う作家や作品に出会い、タイミングや縁に恵まれて、徐々に品数を増やしてきた。

 

「主張してないのに、持っているとちょっと幸せになれそうなものが、選ぶ基準かな。手にするとちょっと、フフ(ニッコリ)ってなるような。例えば、このガラスの雨つぶのオーナメント、飾ってある風景もかわいいんですけど、この雨つぶを覗き込むと、また違った風景が見えるんですよ」

 

梅雨時に開催されるイベント、”Rainy Fair”に合わせた作品。Ryo Tsuda 

 

 

「先日の2周年のフェアでは、アイリッシュ民謡の演奏家が、この庭で演奏してくれたんです。アイリッシュ民謡、私達もすごく好きですし、演奏もとてもよくて嬉しかったですね。ある日、お客さんとして来店され、帰り際『ここで是非演奏したいです』って言ってくださったのがきっかけなんです」

 

お伽話に出てくるような小さな店の庭で、演奏家が楽器を奏で、いにしえから伝わる音色を響かせる。その光景を想像すると、空想の世界に迷い込んだような不思議な感覚に陥る。gicetoは、ウソのような童話の世界を、目の前に「ほら」と広げて見せてくれる。長い山道を越えて、森の中のウソのようなホントの世界に迷い込む。そして、フフと手のひらに乗せた幸福を味わう。gicetoなる窓は、ささやかな幸せへの入り口だ。

文/田中えり(編集部)

写真/青木舞子(編集部)

 

 


giceto
国頭郡本部町字伊豆味3360-2
080-8120-4163
open 13:00〜17:00
close 水・木
http://www.giceto.com