日月 -HIZUKI- おおやぶみよ再生ガラスから生まれる温かみのあるうつわ

おおやぶみよ
 
きらめく気泡に目を奪われて思わず手に取ったコップを、つい手から離せなくなってしまう。
吸い付くような感触、なめらかな質感、すっぽりと手におさまりの良いカタチ。
ガラスのうつわというとシャープでクリア、クールでドライな雰囲気を想像するが、日月のうつわから受けるイメージはそのほぼ対極にある気がする。
柔らかなフォルム、気泡を閉じ込めた部分は美しく不透明、温かみとみずみずしさをあわせもったガラス。
 
日月 おおやぶみよ
日月 おおやぶみよ
 
おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
全国に多くのファンを持つ「日月 -HIZUKI-」。
作家のおおやぶみよさんは吹きガラスという技法を用い、たった一人でひとつひとつ作品を生み出している。
その工房にお邪魔すると、強力な扇風機の風すらその役目を果たさぬほどの熱気に一瞬で包まれる。
 
「一度作り始めたら途中でやめられないんです。
この熱気だから食べ物を胃に入れると気分が悪くなっちゃう。
だからいつも、お昼ご飯は抜き。
一段落つくまでは手をとめず、作りつづけます」
  
みよさんの仕事をいつもそばで見守るギャラリー担当の由紀子さんをして
「みよさんは本当にストイック」
と言わしめる働きぶり。
  
今はガラス一筋のみよさんだが、その経歴をきくと
  
「私、実はモード学園を卒業しているんですよ(笑)」
 
と、思わぬ答えが。
京都出身。高校卒業後に大阪のモード学園に進学、4年間は服作りに没頭して過ごした。
 
「でも、ファッションの世界ってコレクションも毎年春夏と秋冬の2回あるし、どんなに新しいものを買って着ても、いつの間にか古くなって着なくなっちゃう。在学中もコンテストばかりで常に斬新なものを追い求めて過ごして…。そうやってめまぐるしく変わっていく世界が果たして自分が本当に求めている世界なのかな?って疑問を感じて、卒業後も就職しなかったんです」
 
そんな折、素材としてのガラスに興味を持ち、全日制のガラス講座を開講している石川の「能登島ガラス工房」の門を叩いた。
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
「他の機関だと何年も勉強が必要なのですが、吹きガラスだけを集中して1年で習得するというコースがある学校だったんです。
また、全寮制なので集中して勉強できました。
服作りを学んですぐにガラスを学び始めたわけですが、服もガラスも素地から作り出すもの。そういう意味では共通点があったのかもしれませんね」
 
ガラス工芸といえど、その技法は吹きガラスのほかにも電気炉を使うキルンワーク、ガラスに砂を吹きかけて磨りガラス状にするサンドブラスト、カット、ミルフィオリガラスなど様々。
その中からみよさんが吹きガラスを選択した理由は、
 
「せっかちな性分に合うから(笑)」
 
熔解炉で溶かしたガラスを吹き竿で素早く巻き取り、息を吹き込んで成形する。
 
日月 おおやぶみよ
 
「技法によっては冷めるのに3日かかったりと完成まで時間を要するものもあるのですが、吹きガラスは吹いた次の日には結果がわかるのが良い。
また、素早くつくらないと冷めて固まってしまうし、即興的な要素が強い技法でもあります。
そういうところが私の気性に合ってるみたい。
他の技法も学びましたが吹きガラスが一番楽しいし、ずっとやってるのに飽きないんです」
 
ガラス工房でのコースを修了後、大阪のガラス会社に就職した。
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
「20名ほどいる職人の多くは雪駄にはちまき姿が似合う60歳前後の方ばかり。集団就職の時代を経て若いころからガラスを吹いてきた熟練の職人に囲まれて仕事ができたのは、私にとってとても良い経験でしたし、その後の制作活動にも大きな影響を与えてくれました。
当時は実家のある京都から始発に乗って出勤、先輩方の吹き竿を磨くことも仕事のひとつでした。休日は練習していいと社長に言われていたので休みもなく毎日出勤していましたが、本当に楽しかったしすごく勉強になった。
今は気泡を入れた作品を多く作っていますが当時は泡ひとつ入れてはいけなかったり、グラム単位で寸分違わず同じものを作らないといけなかったりと、規格に対しても厳しい会社だったんです」
 
会社に勤めながら、みよさんは独立したときの青写真を描くようになった。
 
「京都出身なので骨董市などにもよく通いましたし、割烹料理店を営む実家も古さのあるたたずまいなので、もともとアンティークの雰囲気が好き。
それでアンティークに似た質感が出せる再生ガラスを見にいってみよう!と」
 
沖縄は本土と比べると廃ガラスを扱う業者が多く、量も沢山手に入る。
 
「本土ではこうはいかない。
沖縄の青い海や澄んだ空に憧れてというわけではなく、再生ガラスが入手しやすいということが一番の理由で移り住んだんです」
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
みよさんの作品のコンセプトは、そのブランド名「日月-hizuki-」にも表現されている。
 
「地球という規模でみると沖縄という場所は小さな点に過ぎないわけですが、狭い視点にとらわれて作品を作らないようにしようと。と言っても沖縄じゃなくて『日本全体』というのでもなく、もっと別の視点で。
日と月ってどんな場所でも上り、沈みますよね。そうやって太陽と月が上るところであればどんな場所にもしっくり馴染む作品を作りたいと思っています。そのためにはひとりよがりではなく、客観的な視点が必要だと思うんです。
作る際、『使い勝手がいいように』ということは意識しますが、使う人や使われるシーンについては考えません。県外にお住まいのお客様も多いので、自分が沖縄に住んでいるからといって沖縄の風土にだけ合うように作ってしまわないよう、またあまり突拍子のないものは作らないように、どこで使ってもぴったりくるようなものを作ろうと思っています」
 
日月のガラス作品は琉球ガラスではないとみよさんは言い切る。
 
「技法も違いますし、作品をつくりだすときの意識も違うと思います。
私は自分が作りたいもの、お客様に使って頂きたいものを作っています。
ずっとガラスと向き合い、毎日作っていても飽きないけれど、ガラスとは何ぞや?!というような重厚な探究心のもとで制作しているわけではないし、自分の興味が服からガラスへと移ったように、今後ガラスから何かへと興味が移っても不思議ではないと思っていて。それくらいのラフさでガラスと付き合っています」
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月のうつわは食卓で一層その魅力を放つ。
自身もコップや皿などを愛用しているギャラリー担当の由紀子さんは言う。
 
「何しろ使い勝手がよくて。
何を盛っても食材の色を引き立ててくれるし、大きさも丁度良い。
お皿ってデザインは良いのになんだか使いづらくて登場しないものってありますよね。みよさんのはもう常に出しっぱなし! しまうのが寂しいくらいで。
大きめのボウルには果物を盛っていつもリビングに出しているし、グラスも定番で子どもも一緒に毎日使ってます。これで飲むと何でもおいしく感じちゃう。お客様からも同様のお声をよくいただきます」
 
その高いデザイン性だけでなく、使い勝手の良さから飲食店からのオーダーも多い日月のうつわ。
理由はみよさんの育った環境にも由来するようだ。
 
「実家が京都で割烹料理店を営んでいるので、鉢、蓋物、蒸し碗、さしみ用皿…と様々ななうつわが大量にあり、うつわ用の倉庫があるほど。京都のお膳って数がもう半端ないんです。
また、両親の仕事が忙しいと『料理を皿に盛ってー!』と手伝わされたり、『昼ご飯は自分で作ってね』と小学生の時から料理を作ったりしていたので、おのずとお皿のサイズ感や高さについての感覚が備わった気がします」
 

みよさんの制作現場を見ていると、それが一朝一夕にできるような技法ではないとわかるのに、「やってみたい、なんだか自分にもできそう」とつい思い込んでしまう。みよさんがいとも簡単にひとつひとつの過程をこなしていくからだ。
それはもちろん、これまでの努力と経験に裏打ちされた熟練の技。
  
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
日月 おおやぶみよ
 
まるで楽しい音楽に合わせてステップを踏んでいるかのように、軽やかにリズミカルに、みよさんは作品を作り続ける。顏だけでなく腕や首筋と身体中に浮かぶ玉のような汗を目にしてやっと、溶解炉と真夏の沖縄が生むもわっとした熱気はやはりみよさんをも包んでいるのだという当たり前のことを意識する。
 
私も同様にその熱を肌に感じながらも、みよさんの動きから目が離せず、その場から足を動かせなくなってしまう。
 
「子どもたちにとってもすごくおもしろいみたいで、もう食い入るようにして見てますよ(笑)」
 
日月 おおやぶみよ
 
最近はパリでも企画展に参加した。
クリスタルなどシャープなフォルムのガラスに親しんでいるパリっ子たちにも日月のガラスは人気で、多くの人が買い求め、「太陽と月がのぼるところならどこでも馴染む」という日月のコンセプトが実現されていることを証明した。
 
「海外での個展もまたぜひやりたいですね。
ゆくゆくは色んな表現方法を試してみたいと思っています。
素材も再生ガラスにだけこだわっているわけではないですし、技法も違うものを取り入れてみたい。
組み合わせたり二次加工を加えたりして表現のバリエーションを増やしたいと思っています」
 
その見事な仕事っぷりはなんだか男らしささえ感じるほどだが、生み出される作品は女性的でやわらかな雰囲気に包まれている。
 
手に吸いつくように馴染む作品を手離したくなくなるのは私だけではないようで、ギャラリーを訪れる多くの人が並べられている商品を片っ端から手にとり、大事に両手で包み込んでその感触を確かめる。
そしてみな、自宅の居間やキッチンを思い浮かべて真剣に悩み始める。
 
「こっちの色合いのほうが家に合うんじゃない?」
「あのコースターにはこれがピッタリだと思うんだけど…」
 
日々のくらしにすぐに持ち込みたくなる。
日月にあるのはそんなうつわ達。
 

写真・文 中井 雅代

 
日月 おおやぶみよ
日月-HIZUKI-
読谷村渡慶次273
098-958-1334
open 10:00〜17:00
close 土、日 
 
※日月では土日にギャラリーで働けるスタッフを募集中。
詳しくは上記連絡先、担当平井さんまでお問い合わせください。