» 一級建築士事務所 simple 複雑さをとっぱらい、ゆとりあるシンプルライフを叶える家

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「僕、左右にポケットが付いているズボンしか買わないんです」

 

設計士の赤嶺しげたかさんは言う。
それには、はっきりとした理由がある。

 

「あるべきところにその物が無いという状態がイヤなんですね。
子供用の爪切りだとか、ヘアブラシだとか、そういう細々としたものってすぐ見当たらなくなるでしょ? 探しものをする時間ってすごくもったいないし、非効率に感じるから、必ず置き場所を決めます。

 

出かけるときも同じ。出先でいちいちバッグの中を探らなくていいように、ズボンの右ポケットには鍵、左ポケットには携帯電話を入れると決めてるんですよ。だから、左右にポケットのあるズボンしか買いません。
また、日時や曜日を別々にチェックするのも手間なので、時計を選ぶときは必ず曜日と日付けの表示があるものにします。

 

几帳面すぎますかね(笑)?
確かに、人から見たら少しおかしいのかもしれませんが、貴重な時間を探しものではなく、すべて設計にあてたいと思っちゃうんですよね。生活のペースをしっかり保つことで、脳みそをフルに使えると思うから」

 

赤嶺さんの効率への意識や几帳面さは、設計にも表れている。

 

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「家事動線には特に気をつけて設計します。
僕もわりと家事をやる方なんですが、動線が長いと労力を無駄使いすることになるでしょう? 家事って毎日のことだから、少しずつでも確実に疲労が蓄積されちゃうので、家事動線はできるだけ短くなるよう設計します。

 

また、作業台やテーブルなどの高さにも気を遣いますね。
立って使う作業台の場合、使う人の身長÷2プラス5センチ前後の高さがベストなんですが、低めのキッチンを使ってきた方は、高ければ高いほど良いと思いがちなんです。でも、その考えは危険。低すぎると腰を痛めますが、高すぎると肩がこりやすくなるんです。1センチの違いがその後のくらしを大きく左右するので、手は抜けません。

 

また、机やテーブルなど座って使う物は、高さ70センチが基準。椅子は40センチ。つまり、椅子の座面とテーブルとの距離は約30センチが基準です。そこから、使う人の体格によって下げたり上げたり微調整するんです。

 

ファストフード店やファミレスなどで測ってみると面白いですよ。お客さんの回転率を上げようと、わざと少し居心地を悪くするために、椅子とテーブルとの距離を25センチ以下に設定している所が多いはずです」

 

笑顔を絶やさず、いかにもおおらかそうに見える赤嶺さんだが、設計のこととなると徹底的に緻密になる。そのギャップには、施主である座喜味さんも驚いたと言う。

 

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「初めてお会いした時からずっと、ニコニコキャラは変わらないんですよ。だけど、設計のことになると、とにかく細かくて真剣。施主である僕ら以上にこだわってくれて。

 

例えば、天井に埋め込む『ダウンライト』をいくつか取り付けたのですが、完成間際になって赤嶺さんが、『ライトを埋め込む穴を少し大きくできないか』と、電気屋さんに相談してるんですよ。理由を尋ねると、『光量を調節できないタイプの照明だから、後からもう少し明るい電球を入れたいと思ったときにちゃんと取り付けられるように』とのこと。僕らの考えが及ばないところまで考えてくれて、電気屋さんにも『すみません』と頭を下げていて…。

 

また、部屋を仕切る扉のサイズや枚数についても、綿密に計算してくれました。3部屋ある子供部屋は、子供たちが小さいうちは仕切り扉を収納し、一間として使うことは決めていました。赤嶺さんは、『扉の枚数や厚みによって、扉の収納スペースの幅が変わってくる。そのスペースも掃除しやすいように』と、『クイックルワイパーが入るには何センチ必要かな?』『掃除機はどうだろう?』と、職人さんと真剣に話し合ってるんですよ。僕らは、扉がきちんと収納できさえすれば良いと思っていたので、そこまで考えてくれるなんてびっくりしちゃいました。
設計を依頼したとき、『自分の家を造る気持ちでやります』と言ってくれたのですが、まさにその通りだなーと、何度も感心しましたね」

 

そうやって、細部までこだわり抜いた家の住み心地を問うと、座喜味さんは満足気に微笑んだ。

 

「住みやすさはイメージしていた以上! マイホームを建てた知り合いには、『住んでみると色んな不便や不具合が出てくる』という人が多いのですが、我が家は逆。住み始めてから『あ、赤嶺さんが言ってたのってこういうことだったんだー』と、設計の良さに気付かされることが多くて」

 

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大きなキッチンと、テラスに面した開放的なリビングが心地良い座喜味さんの家。 「リビングだけでなくトイレや子供部屋も、日中は照明をつけなくても自然光だけで充分明るいんです」 季節によって変わる風向きを考慮して設計されており、夏でもクーラー無しで過ごせると言う。

 

simple 沖縄人が集まる家にしたいという座喜味さんたっての希望で設けた、掘りごたつのある酒盛りスペース。「今週末は誰呼ぼうか?っていつも考えてますね(笑)」階段の手すりも、強度やつかみやすさ、子どもたちの安全性などを考慮して設計されている。

 

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人の動きを注意深く観察しているという赤嶺さん。「人間工学を設計に活かしています。例えば玄関で靴を着脱するとき、人は必ずどこかに手をつきます。無意識にやっていて気づかないので、高齢者のいない家には、玄関の手すりは不必要だと思っている方が多いんですね。でも、手すりがないと壁に手をつくので、壁紙が手垢で汚れてしまう。そこで、靴箱を手がつきやすい高さにしたり、シンプルな平板の手すりを付けたりするよう提案します」

 

座喜味さんの奥さんのお気に入りは、トイレの横と廊下の突き当たりにある小さな坪庭だ。

 

「赤嶺さんから、採光と風通しをよくするために必要だと言われたのが作るきっかけ。でも、最初は1つで充分だと思っていたんです。すると赤嶺さんが、『ぜひ2つ作りましょう』とおっしゃって。2つも必要かな? と最初は疑問でした。見た目が良くなるだけなら、収納スペースにでもしたほうがいいんじゃないの? と思ったのですが、『長い廊下の奥まで風を通すには2つあった方がいい』と言われて。
住み始めてすぐ、赤嶺さんが言った通りだと実感しました。夏でもほとんどクーラーをつける必要がないくらい風通しが良いし、薄暗くなりがちな廊下がすごく明るくて開放感があるんです。坪庭1つだったら、きっと後悔していたと思います」

 

当時を思い出し、赤嶺さんも笑った。

 

「奥様が怪訝そうに『2つも必要なんですか?』と言ったのをよく覚えています。そして、『本当は3つ欲しいところですよ』と説得しました(笑)。
立地や方角にもよりますが、座喜味さんの家の長い廊下には、2つないと風が抜けないことはわかっていましたから。
また坪庭は、家の『遊び』の役割も担っています。住んでいる人が好きなように使えるし、暮らしや気持ちのゆとりにも繋がるんですよ」

 

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マスブロックが印象的に使われてた外壁にも、赤嶺さんのこだわりが。「座喜味さん宅は公共施設に隣接しているので、向こうから丸見えだと困る。かといって普通の壁だと閉鎖的になりすぎてしまう。小さな穴の開いたマスブロックを使えば、陽の光も入るし、風通しも良くなります。また、座喜味さん宅に使用したマスブロックは、外側と内側でマスの大きさが若干違うんですよ。内側の方が少し小さくなっているので、家の中の様子が外から見えにくいんです。穴が小さめなので強度もあるし、利点が多いんですよ」

 

赤嶺さんは、自身が設計士を志すきっかけとなった、小学生時代のエピソードを鮮明に記憶している。

 

「小学6年生の時です。図工の課題でペン立てを作ることになったんですが、先生が『インスタントコーヒーとかブライトの空き瓶を、綺麗に洗って持ってきてね』って言ったんですよ。それに紙粘土をはりつけて作るからって。それに対して僕、すごい疑問を持っちゃって。なんで最初から決まってるんだ?って。実は、ペン立てを作ると聞いた瞬間、僕の頭に明確なイメージがポンって浮かんだんです。ちょうどその時期にはやっていた、コンバースのハイカット・スニーカーに見立てた木製のペン立てを作ろう!って。足首の部分がペン立てで、つま先部分は引き出しになっていて小物を入れられるっていう。そこまで細かくイメージができあがってた(笑)。
それを先生に話したら、『思うように作って良い』って言うので、急いで材料を準備しました。その材料をスケッチし、サイズを書き入れて、小学生なりに図面をひいてみたんです。準備した材料でおさめるには引き出しは小さく作らなきゃなとか、ペン立ての高さはこれくらい必要だなとか色々と計算して。僕が生まれて初めてひいた図面ですね。
実際に木を切って作る段階になると、図工の授業だけでは時間が足りず、家に持ち帰って削ったりもしてました。

 

みんなが紙粘土に色を塗ってそろそろ完成ってときに、僕のペン立ても接着剤が乾いてきていたので、つま先部分の引き出しを初めて入れてみることしたんです。図面通りに作ったつもりだけど、本当にちゃんと入るのかな? ってどきどきしながら。すると、『スーッ、ストン!』と綺麗に入って、奥行きもピッタリで。
その感覚が最高に嬉しくて、めちゃめちゃ感動しました。『うぉー、入ったー!』って(笑)。
こういうことを大人になってもやりたいなと、その時思ったんです。それがどんな職業なのか分からず親に訊いたら、『設計士じゃないか』と。
あの時コンバースのペン立てを作ってなければ、僕はたぶん設計士にはなってないですね」

 

高校卒業後、コンクリートを流し込む為の型枠職人として1年ほど働いた後、東京の建築学校へ進学。卒業後は、東京の建築事務所で経験を積み、沖縄に戻ると再度、型枠職人として2年間現場を渡り歩いたと言う。そして、建築事務所で働きながら建築士の資格を取得、2005年に独立して「一級建築士事務所 simple」を立ち上げた。

 

「事務所の名前はずっと前から決めていました。家事動線など、日々の暮らしで複雑になりがちな部分をできるだけシンプルにして、余った部分で楽しむ。ゆとりある生活ができる家になるように、という想いを込めました」

 

コンバースのペン立てが完成した時の感動は、今の仕事でも感じられますか? と尋ねると、赤嶺さんは満面の笑みを浮かべた。

 

「もちろんです。いや、今はさらに大きな感動をもらっていますよ」

 

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どの家を設計するときでも、必ず心動かされる瞬間があると赤嶺さんは言う。

 

「座喜味さんと初めてお会いしたときもそうでした。 家作りに対する想いが人一倍強くて、自分で描いた理想の家のスケッチを持ってきてくれたんですよ。それを見た瞬間『おお!』って感動しちゃいました。自分の夢を絵に描いてきてくれる人はなかなかいないですから。

 

特にご主人がこだわっていたのが車庫。屋根付きにするのが夢だとおっしゃって。屋根付き車庫は人気なのですが、どうしてもコストがかさむので大体の方が諦めるんです。ご主人のスケッチを元に図面を描いて見積もりを出すと、やはりそれなりの金額になってしまって。
見積もりを座喜味さん夫妻に見せると、金額をじっと見た後にご主人が一言、『俺にまかしとけ』と。その次の瞬間、奥様が『私も半分頑張るからね』って言ってくれたんですよ。
一緒に頑張ろうとか、私も頑張るねというのではなく、『半分頑張る』という言葉は初めて聞きましたね。旦那さん一人に負担させるのではなく、家は二人で建てるものという奥様の考え方が垣間見えた気がしました。お二人の絆の強さを感じ、感動してウルウルきちゃいました(笑)。

 

家づくりって感動がたくさんあるんですよ。だから楽しい。施主様の言葉にグッときて、涙をこらえたことは数知れずあります」

 

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座喜味さんの兄弟は自宅を建てる際、屋根つき車庫を諦めたと言う。「雨が降るとすごく不便らしくて。うちは絶対屋根付きにしたいと思いながらスケッチを描きました。そして、そこにハマーを停めたい。まだ持ってないですけど(笑)。それが僕の夢」と、ご主人。家の顔とも言える座喜味さん宅の車庫は、ご主人のスケッチをそのまま図面に起こして完成させた。

 

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二世帯住宅の設計を依頼された際、90歳目前のおばあちゃんの言葉に胸を突かれたと、赤嶺さんは言う。

 

「たった一言、『私は、おじいちゃんがいる仏壇の近くにいたい』っておっしゃったんです。他には特に要望はないと」

 

おばあちゃんの唯一の望みを叶えるべく、赤嶺さんは試行錯誤した。

 

「最初は単純に、仏壇の裏におばあちゃんの部屋をつくろうと思ったんです。でも、それだと開放感に欠けた部屋になってしまう。
おばあちゃんは、もあい仲間やグランドゴルフ仲間などお友だちが多く、10名くらいで集まってお茶することも多い。それなら、お友だちが庭から直接行ける場所におばあちゃんの部屋をつくったらどうかな? と思ったんです。
その代わり、仏壇のある畳間に、おばあちゃんが腰かけやすい座椅子を置いてもらいました。朝はそこで、ゆっくり過ごしていらっしゃるみたいです」

 

仏壇の前におばあちゃんの居場所を作り、友だちと交流しやすい場所に部屋と縁側デッキを配置した。おばあちゃんの気持ちを大切にしつつ、今の暮らしを再優先に間取りを決めたのだ。

 

住む人の思いを叶えるだけでなく、さらにその先まで慮って提案する。
赤嶺さんはどの家を設計する際も、それを無意識にやっているのだ。

 

施主とのエピソードを語るとき、度々目を潤ませるその様子から、いかにも情に厚い赤嶺さん。
几帳面さだけでなく、生来の心根の優しさもしっかりと設計に反映されている。だからこそ、抜群に住み心地の良い家が生まれるのだ。

 

「赤嶺さんにお願いしてよかった」という声は広まり、simple のファンは確実に増え続けている。

 

写真・文 中井雅代

 

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