「自然を映すテキスタイル ヨーガンレールの仕事」

Text by Ayumi Tahara

 
ものを持つということは、ある意味「何を持たずにいるか」ということにつながり、自分が選んだものを通して「自分自身を知る」ということにもつながる。
 
Shokaに来たことのある方は知っていると思いますが、私の居住スペースでもあるこの空間は至ってシンプル。
「ものがない!」「本当にここに住んでいるの?」と、多くの人が私に聴いてきます。
プライベートなことなので秘密ですが、本当に住んでいます。
 
元々シンプルな生活が好きな方でしたが、15年前にある人が「あなたが死んだ時に、みんなが喜んで持って行くもの以外はみんなゴミだ」と言った一言が胸に響いて、それからは「何となくものを選ぶ」ということをやめました。
 
ただし、素敵だなと感じるサービスや、感動したもの、本当に好きなものには喜んでお金を支払うようにもしています。
ものを持つという側面では、そういう自分の感覚で選んでいます。
 
そして自分に合わなくなったもの、今は違和感を感じてしまうものに関しては、様々な形で手放すようにしています。
これは「何を持たないか」という側面です。
 
この二つの組み合わせの先に、本質的な「わたし」が見えてくる様に思います。
 
その私の選ぶ感覚を多いに刺激してくれた人がいます。
彼から私は多大な影響を受けています。
 
「仕事というのは、整理整頓。何がいらないのかを知ることはとても大切です」
 
そう言う彼の姿勢は一貫していて、14歳の頃に初めて触れてから、彼のデザインしたテキスタイルの世界に私はずっと畏敬の念を感じています。
 
 
彼の名前はヨーガン レール。
 
親しい友人達からは親しみを込めて、「頑固者・利休・タネジイ(種爺)」等と呼ばれている。
彼は自分の興味と感覚、美意識に忠実で、譲らない。
 


 
レールさんと海を初めて歩いたのは約18年前。
 
私は子どもの頃から貝殻拾いが好きで、きれいなものを見つけることに自信があった。
2時間ほど一緒に海辺を歩いただろうか。
たまにレールさんはゆっくりと立ち止まり、じっと眺めては立ち去り、ごくたまにかがんで何かを手に取ってみたりしていた。
 
最後に拾ったものを見せあったときのこと。
レールさんの手のひらには、たった二枚の貝殻だけがのっていた。
見た瞬間に、私は自分が拾った貝殻を全部捨てたくなってしまった。
 
そこには、自然の美しさが簡潔に描かれていたからだ。
 
「自然がこのように美しいものを用意しているのだから、わたしは飾り物のような不要なものは作りたくない。自然への尊敬の念を込めて、環境を汚さない、土に帰る素材で、丁寧な手仕事をされた服や暮らしの道具など、自分にとって必要不可欠なものを作りたいと考えたのです」

「ヨーガンレールとババグーリ を探しに行く」より

 

 
象牙色に墨黒の模様が浮き出ていた、その時の貝殻を思わせるニットのテキスタイル。
ラミーのひんやりとしたとろみが心地いいニットドレス。
 
ものを選び取る究極の物差し
 
レールさんは印象に残った景色をほとんど完璧に記憶している。
それがどこで、いつ頃だったのかまで。
自然の美しいところや、すばらしい手仕事が残っているところがあると聴くと、そこへ行く旅人でもあるレールさん。
南米・東南アジア・イラン・マダガスカル、自然の中のある一瞬の色彩、花や植物、陰影が作る景色、様々な瞬間を記憶に留めて、それを布に映してゆく。
 
いつか歩いた水辺にうつった景色なのか。
海で迎えた朝焼けの光なのか。
二度染めをした後に針でプリーツを作り、板締めをしてもう一度染めるという行程を経て出来上がったストール。
 

 
手織り手紡ぎのシルクのブラウスの裾。
手撚りを強くかけて作ったプリーツは自然界に溶け込むような柔らかさがある。
ハイビスカスの花びらが広がってゆく様な質感。
 
 

 
私はヨーガンレールの服を20代前半から着だして、それからはほとんどフルコーディネートで着てきた。
 
麻、綿、ラミー、絹、ヘンプ、ウール、カシミヤ、アンゴラ。
土に帰る天然の素材は肌にやさしく、縫い糸も、縫製も良質なので着心地がダントツに良かった。
なので、当時私はよそのものがなかなか着れずにいたほど。
 
レールさんの沖縄の家に滞在するようになると、一緒に雑草を抜いたり、好きな植物を植えたり、畑の野菜でお料理をしたり、彼の哲学や自分が使うものを作るという生産的な姿勢もまた、私に着る喜びをあたえてくれた。
彼のライフスタイルや生きる姿勢から発信された服を、頭でも感覚でも捉えることが出来たから。
私のクローゼットの中には、今でも現役で活躍している15、6年前のヨーガンレールの服達がたくさんある。
時代に左右されない服。
自然を身にまとうような服達。
 
さて、ヨーガンレールの服の良さはきっと伝わったことでしょう。
 
上質で、長く生活を共に出来るこの美しい服達をあなたならどのように着ますか?
 
うんちくは頭で、服は感覚的に楽しんで着る。
というのが私の愉しみ方です。
 
感覚こそが「わたし」を導いてくれる究極のナビ。
喜びもしあわせも感覚で感じるものだから。
 
最後に、cafe Roguiiの美佳ヨーガンレールを着る。
 

 

 
ピンタックプリーツが一杯の白いロングブラウスを着て。
何やら楽しそうな美佳は最近お母さんになりました。
お母さんの柔らかいラインをやんわりと包むコットンの肌触り。
 
11月の涼しい風に吹かれながら、Shokaのベンチでかしこまり。
 

 
インターシャという技法のニットは、シルクとウール。
模様の部分を別個に編んで、最後に本体にはめ込んで行くので、切り絵のような独特の雰囲気がただよう。
動きやすい素材と、飽きのこないデザイン。
今日一日の「わたし」を楽しく着よう。
 

 
ヨーガンレールの服と布はShokaの展示会で触れることが出来ます。
会場で色々物色中の美佳。
何が見つかったかな?
 
「ヨーガンレールの蔵出し展」
11月20日(日)までShokaにて開催中。
 

Shoka
住所:沖縄市比屋根6−13−6
電話:098-932-0791
HPとブログ:http://shoka-wind.com
 
年に10回ほど、それぞれ10日間の展示会形式でシンプルで、自然で、美しいものや、暮らしを楽しむものやことを提案しています。

 
Jurgen Lehl・Babaghuri・ギャルリ百草・mon Sakata・mina perhonen・Vlas Blommeなど