「冬のある日」

写真・文 田原あゆみ

 

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「湯気」

 

冬になるとアラジンの灯油ストーブの上で小豆をコトコトと煮る。
白い湯気と青い炎をぼーっと見ながら、もこもこソックスの恥を引っ張り上げる。
四方から寒気が包む外国人住宅は寒い。
餅を焼いて柔らかくなった小豆の上に置くときのじゅわっという音を聴くと、舌の根がキュッとする。

 

温かなぜんざいをふーふーいっていただく。
足元にはもじゃ犬が丸くなっている。

 

私のここ最近の冬の景色だ。

 

が、今年は違った。
年末に憩室炎を起こしてから体質改善を図り、厳格な食事制限をしているからだ。
穀物・豆類・白糖・添加物・乳製品・アルコール類・揚げ物を基本抜いている。
大好きな日本酒とワインも、この半年ほどぐっと控えている。

 

 

好物の欄に「炭水化物」と書いたことがあるほどのでんぷん質好きの私が、それを絶っていられるのは憩室炎が痛かったからだ。

 

ときに身体は「痛み」という強硬手段を使って私たちの方向修正を計る。
痛みの前で私は白旗を揚げ、否応無く従うしかない。

 

大好きな小豆の香りと、餅のしっとりとした粘り。
舌の上に載ったつぶつぶたちのほのかな甘みよ、湯気の向こうにきらめく艶のある景色は冬の幸福の象徴・・・しばしの別れと内側のほっぺを噛み噛み。少し白玉の感触。

 

 

 

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「混じり具合」

 

冬は集まりが多い。
クリスマス・忘年会・新年会。
寒いから集まって暖をとりたい習性が働くのだろうか?

 

身内にも、友人にもお料理好きが多い。
類友は人種も国境も越えて惹かれ合うのだろう。

 

写真は新年会と称して集まった、背の高い女性たちの料理を楽しむ会。
というのは今写真を見てこじつけているのだけれど、三姉妹の長女の私は164cm。けれど妹たちと並ぶと、お姉ちゃんは小さいのね、といわれることがある。
次女も三女も170cm前後。
そこに、友人K.Kが加わると私は3人の影なの中に隠れてしまう。
彼女を4女と見立てた新年会は、美味しいものに囲まれた至福の会。

 

チーズが大好きなのに食べられない私は、せめてみんなが食べている姿を楽しもうとスペシャルな白カビのチーズを東京で購入(名前を忘れた)。
ドライあんずにとろりとしたチーズをねぶりつけて、アーンと大きな口の中に放り込む。
んんんんん~~~おいし~~~~~い!
目をパッチリと開いた後、目も口もしっかりと閉じてうっとりと味わっている。
「買ってきてよかった~」
のあと、私は鼻腔を開いてその匂いを大きく吸い込んだ。
白カビの奥に生きている乳製品のダンス。白いふくよかな妙齢のもち肌に抱かれたような気がして、私はとろけた。

 

口の中は満ち潮。潮は抱き溶かしたい対象を求めてさらに満ちてくる。
そこにドライあんずだけを入れたら、甘みだけが強くてすんごい欠落感。
慌てて口の中にトマト味噌を放り込む。
甘みと塩気と、トマトの出汁と味噌の深みが満ちてきて、人生ちょうど半ばの発酵具合、塩気と甘味の混じり具合だわ。
そんな幸せの味がした。

 

 

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「白」

 

この子は白い子ジャイちゃん。
無垢で、おしゃまで、いじらしい。
ちゃんと自分の立ち位置をわきまえていて、人様の領域はおかさないようにボーダーを伺う。

 

例えば私の寝室には入らない。
ドアが開いていると、覗き込みはするものの私と目があうと「すみません見ていただけです」と去って行く。

 

うちに初めてあらわれたソファー。私や娘がだらーっと寝そべっているのを見ても決して上がってはこなかった。
が、しかし。

 

ある晩のこと、寝入り際に聞きなれない音と、うめき声が聞こえてきた。
ボリボリ、ア、ウ~~~~~~ン、アアアアア、ウ~~~ン、ガリガリガリ・・・

 

寝室を出てリビングに行ってみると、暗闇の中で何かがうごめいている。
目を凝らしてじっと見つめていると、白く浮かび上がってきたそれは、掘ったり、ならしたり、その上に寝転んで身を擦り付けくねらせている。
買ったばかりのソファーの上で巣作りをしているジャイだった。
本来の巣は打ち捨てて、こちらに鞍替えしようと企てていたに違いない。

 

「ジャイ」私が低くしっかりとした声をかけると、硬直してソファーからでんぐり返しで腹を見せながら飛び降りた。
腹を見せまくって、お詫びをしている。

 

「ダメよ」とひとこと言って私は寝た。

 

3日後、ジャイはお留守番が長かった腹いせにソファーの上で放尿。
乾いた後に、気がついてやられたと思った。
新品のソファーのカバーを剥いで、中のクッションに水をジャージャーかけて洗った。
洗って乾かし、元の状態にもどるのに4日かかった。

 

その日から寝る前にダイニングテーブルを動かしてジャイがソファーに上がれないように、昼間のお留守番は庭、という取り決めが決まった。
純真無垢とは、くそーと思ったときに歯止めが効かない状態でもある。
こうしてジャイは、報いを受けボーダーを学ぶ。

 

 

私たちの間には愛はある。
しかしその愛は種の尊厳をおかすようなボーダーを超えてはいけない。

 

ジャイが死んで干からびた魚の上でご満悦の叫びをあげながら転げ回っていても、それはなるべく止めないで犬独特の喜びってあるのよねーと眺めている。

 

ボーダーを探るのは、思いやり。

 

かも

 

 

 

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「出会い」

 

2月6日の朝10時過ぎ。
浦添市当山1丁目付近でふらふら、とぼとぼと車道を歩く黒いわんこを発見。
現場は車道の真ん中を歩くこの子のせいで渋滞気味。

 

わ、わ、わ、ひかれちゃう~~~と、とっさに車を空き地に停めて、この子の元へ走って行った。
手を差し伸べると、少し逃げて距離をあける。全速力というわけでもなく、少し遠ざかるような感じ。
「どうしたの~~?もうだいじょうぶよ」と。

 

痩せこけた中型犬。
半年前に打ち上げられた干からびた海藻を枝で掬ったみたいな被毛。
色はは黒だけれど、陽にさらされて茶色く焼けてたくさんの毛玉とびっしりこびりついた種まみれ。
手で背中を撫でてみると、はっきりと骨の形が分かる。
骨と皮と毛だけのむく犬。

 

「だいじょうぶ、あんたの面倒は私が見るよ」と、抱き上げてその軽さに胸が痛む。
けれど両手で抱きとめた身体は温かく、鼓動が伝わってきて力が湧く。だいじょうぶこの子は生きていける、と。

 

車に乗ると、窓から外を見つめて不安そう。ずっと心ここに在らずで何かを探している。
ノミとダニの薬をつけて、「ご飯は食べられるようだからしばらく様子を見ましょう。先住犬のことの直接の接触はしばらく避けた方がいいでしょう」と、テキパキと処置をすませると、
「保護してくれてありがとう」先生はそう言うと私に紙袋をくれて、「今日はお代はいただきません」と。
紙袋の中にはドッグフードが入っていた。

 

その後、動物愛護センターや市役所、警察に届けて主を探す手続きを取った。
ネットでも色々探してみたけれど、主が探している痕跡は今の所皆無。

 

目に白内障が出ているので8歳は超えているだろう。
一体この子に何があったのかははっきりと知ることはできないのだけれど、この子が何かを探していることははっきりとわかる。
尻尾を巻き入れて敷地をふらふらと歩き回る。ずっと何かを探している。

 

私は彼女の愛らしい目を見つめて語りかける、
「だいじょうぶよ~」
「何があったかわからないけど、ここにいていいんだよ」
「いっぱい食べていいんだよ」

 

そして浮き上がった背骨やあばらを包んでいる、パサパサの被毛を優しくゆっくりと撫でる。

 

今日は3日目。
少しずつアイコンタクトも取れるようになってきた。
巻き込んでいた尻尾の先が上向きになっている。
ご飯の時間に私に駆け寄ってきた。

 

冬の温かい出会い。
彼女を撫でると私もぬくい。

 

 

今回はこの冬のあれやこれやのエッセイでした。温かい冬をおすごしくだださい

 

 

 

 

  Shoka: あゆみ
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