今だから、地震について⑧ 建物や家具に押しつぶされないために、今できること

消太郎:今回の地震では津波による犠牲者が多くを占めていましたが、阪神・淡路大震災での犠牲者は、その8割以上が住宅等の倒壊による圧死だったことを知っていますか?
特に、昭和56年(1981年)以前に建てられた住宅については、約64%が大きな被害を受けました。


昭和56年以前ですか。この年に何かあったのですか?


消太郎:建築基準法は、いくつかの地震災害を踏まえて変遷を重ねてきました。
1978年の宮城県沖地震で、不整形な建物やピロティ部分の崩壊が見られたことを受けて、1981年に「新耐震設計法」が施行され、耐震性能にとって大きな転換期となったのです。
構造設計がダイナミックに変わった年です。



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本土に比べ沖縄は鉄筋コンクリート造が多いので、頑丈で安心だと思うのですが。


消太郎:最近の建物はそうかもしれませんが、はたしてそうでしょうか。
建築物の耐震基準として「地震地域係数」という、地域的な地震頻度を考慮して決定される係数があります。
そこでは東京が1.0と定められ、沖縄は0.7と全国で最も低くなっています。
問題は、この係数が1981年に制定されたものであるということです。


当時は沖縄の地震活動についてはほとんど明らかになっていませんでした。
不十分なデータを元に定めたことで、地域係数が過小評価になってしまったか、もしくは、沖縄がアメリカの施政権下にあったときに用いられていた低い耐震基準が、改定後に大きく食い違ってしまわないように、大幅な変更を行わなかった可能性もあります。


地震地域係数が低いということは、言い方を変えれば低い値で建物を作ってもとがめられないということですよね・・・。
沖縄の建物は1階部分が駐車場の「ピロティ建築」が多いですよね。ニュースでピロティ建築は1階部分の倒壊が多いと聞いた事があります。



消太郎:よく知っていますね。沖縄の1981年以降の建物の70%がピロティ建築と言われています。
地震地域係数の値が低い上に、地震に弱い造りのピロティ建築が多いとなると、倒壊の危険性はさらに高まります。


住宅の耐震診断を実施し、耐震性がないと判断された場合には、柱や土台などの補強が必要です。


耐震診断や耐震補強となるとある程度の費用がかかりそうですが・・・でも、これこそプライスレスですよね。


消太郎:そうです。命に代えられるものはないのですから。
住宅だけでなく、ブロック塀や石塀の補強も重要ですよ。
塀が倒れて押しつぶされるといった被害は、基準通りの鉄筋が入っていないとか、転倒防止の塀に直角に「控壁(ひかえかべ:壁の安定性を高めるため、適当な間隔で壁面から突出させた柱状や袖壁(そでかべ)状の部分)」を設けていないなど、施工上の欠陥によるものが多いのです。もう一度自宅の塀を点検する必要があります。
通行人を巻き込んでしまう可能性もあるため、責任重大です。


歩道を歩いているときに地震が起こり、塀が倒れてきたら怖いですよね。
家の中での家具の転倒によって被害を被るのは自分や家族ですが、塀が転倒したら第三者を巻き込む可能性があるのですよね、今まで考えたことがありませんでした。



消太郎:家具の転倒の話が出てきましたので、次は家具等の転倒、落下防止についてお話します。


新潟県中越地震で負傷された方の約4割が、家具の転倒や家具からの落下物によるものであったとされています。
また、気象庁発表の震度階級関連解説表によると、震度5弱で『家具が移動することがある』とあり、震度4でも『座りの悪い置物が倒れることがある』と記載されています。
たとえ建物が無事でも、家具が転倒するとその下敷きになってけがをしたり、室内が散乱することにより逃げ遅れてしまったりする可能性があります。
特に、背の高い家具や重量のある家電製品は要注意です。


大地震の時にテレビが飛んできたとかよく聞きますよね。今は薄型テレビが多いですが、当時はブラウン管の箱型テレビですよね。あんな大きくて硬く重いものが飛んでくるなんて怖いですね。
でも、どうしてテレビが飛んでくるんでしょうか。



消太郎:言葉での説明は難しいですが、このイラストを見ると理解できますよ。



転倒のメカニズム(クリックで拡大します)


地震で家具が揺れても転倒しないようにするためには、家具転倒防止器具などの設置が必要です。
その設置効果は、家具、天丼、壁及び床などの材質や構造によって変わります。
また、家具の上下2箇所を器具で固定すると、片側だけで固定するときよりも高い効果があるといわれています。


転倒防止対策の一例です。





なるほど。よくホームセンターなどに転倒防止グッズを見かけますが、転倒のメカニズムを見てその重要さに気付きました。


消太郎:転倒防止器具などの設置のポイントを記しておきます。


部屋に固定する
L字金具やチェーンやベルト、突っ張り棒で、壁・柱・横木・鴨居・天井と家具を固定するタイプがあります。
家具の転倒防止器具を取り付けて家具を固定するためには、設置場所と家具の両方に十分な強度が必要ですので、家具や部屋の状況をよく確認して取り付けましょう。


家具と家具を固定する
上下に積み重ねて使う家具は、上部の家具を壁や柱に固定しても、下部の家具が地震が揺れるとずれてしまい、前に飛び出して転倒する危険がありますので、重ねた家具の側面を金具で連結し、さらに上部の家具を壁等に固定しましょう。


扉の開放を防止する
開き戸タイプの家具には、扉が地震で開かないよう留め具を付けましょう。さらに、収納物の落下を防ぐために、棚板に滑り止めのふきんやゴムシートを敷いたり、棚の前面に板や棒による飛び出し防止枠を付けると安心です。また、ガラス扉には、万が一割れても破片が飛び散らないよう、飛散防止フィルムを貼りましょう。


家具の重心を下げる
重いものほど下に入れることが家具を倒れにくくするための基本です。例えば、食器棚では陶器やガラスでできた大きくて重いもの、本棚では事典などの重い本を下段に入れると、家具全体の重心が下がるので倒れにくくなります。また、重いものが高い位置から落ちてくることの危険性も避けられます。




家具の転倒を防ぐための固定は大切ですが、住宅の土地や構造など、さまざまな条件によって揺れ方が違うため、必ずしも万全とは言えません。
安全面から家具の配置を見直すことも、転倒などによる被害を防ぐ大きなポイントとなりますのでこの機会に見直してみてくださいね。





家具の転倒・落下防止対策を万全にして、家庭での被害を防ぎましょう。

消太郎