» Birth the suite(バース ザ スイート) / 琉球王国からの贈り物、備瀬のフクギ並木

Birth the suite

写真提供/Birth the suite

 

Birth the suite

 

賑わいをみせる海洋博公園と美ら海水族館を過ぎ、コバルトブルーの海に向かう坂道を緩やかに下ると、突然辺りの空気が一変する。そこは、「備瀬」という集落。村人が穏やかに暮らす民家一軒一軒を、フクギと呼ばれる樹齢300年の大木が取り囲み、それが見事に連なり独特の木陰の森を呈している。この海のすぐ側にある砂の上の集落を、台風からも、強烈な陽射しからも護る迷路のようなフクギの小径が縦横無尽にかよう様は、まるでおとぎの国のよう。

 

落ち着いた色合いの無垢材の床に座ると、まさに、おとぎの国に迷い込んだという言葉がふさわしいのは、ポプラや杉並木など、人のゆきかう街道に並木として植えられた樹木ではなく、村人の家の「屋敷囲い」が連なって出来た並木は、世界でも唯一と言われ、幻想的な雰囲気をかもしだしているからだ。

 

Birth the suite

写真提供/Birth the suite

 

その集落の中にまるで隠れるかのように、静かな湾の波打ち際に、一軒のヴィラが佇んでいる。その名はBirth the suite(バースザスイート)。生い茂る亜熱帯の樹木の下をくぐるようにして外階段を登ると、丸みを帯びてふっくらとしたフクギの葉先に包まれたテラスから、目の前のどこまでも青い海が一人締めに出来る。

 

テラスから大きなガラス戸を開けて部屋に入り、落ちついた色合いの無垢材の床のリビングに座ると、ただただここに寝そべり、ひがな一日、何んにもせずにのんびりと過ごしたい、という感覚になる。客室の正面は大きなガラス窓になっており、客室内に居ても、フクギの森と珊瑚礁リーフに包まれている安心感がある。けれども守られていながら、内と外との境界は曖昧で、まさに自然のゆりかごに居住まうようだ。

 

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写真提供/Birth the suite

 

沖縄ならではの、外の明るい世界を味わうために、室内はあえて灯りを落としてあり、インテリアは、かつて琉球王朝時代に交易のあった東アジアの品々で品良くしつらわれているが、視線は自然と外の世界に向いて行く。昼は、明るい太陽に照らし出された美しい海と森に、夜は月明かりにフクギの葉のシルエットが陰影を重ねて、深い闇が広がる。

 

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写真提供/Birth the suite

 

この備瀬の環境を見事なまでに取り込んだ、そんな魅力的なヴィラのオーナーは、東京の大手建築会社でインテリアデザイナーとして長く活躍していた中村麻実子さん。

 

それまで、何の縁もゆかりもなかったこの地に、ヴィラを建てるまでに至ったのは、ひとえに備瀬の不思議な魅力に取り付かれたからに他ならないと中村さんは言う。「休暇を利用して沖縄を旅していたとき、迷い込んだようにこの村に足を踏み入れました。その瞬間、いったいこの場所は何なんだろう、何という心の惹かれ方をするのだろうと、自分の魂が震えるのに驚きさえ感じました」

 

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写真提供/Birth the suite

 

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最初は何が何だかわからず、ただただ胸が高鳴るだけだったそうだが、東京に戻った中村さんは、備瀬の事がどうしても頭から離れなくなり、集落の歴史や、フクギの集落について調べ始める。そして調べれば調べるほど、このフク
ギ並木の素晴らしさに魅了されて行くのだ。

 

「フクギは300年以上前、琉球王国の政治家であった蔡温という人物が植えたものです。現代いえば総理大臣の役職にいた政治家でしたが、蔡温は風水による国造りや環境保全を推進しました大海の孤島である自国を、今、そして将来、どのように改革していかなければならないのか?と言う国家プロジェクトの重要な役目を担った人物です。王命により中国で、実践的な風水を学んで来た彼は、そのプロジェックトの行動理念に風水思想を置き、沖縄は山脈の龍気によって形作られる豊かな島なのであるから、未来永劫山脈を犯してはならない、山脈は龍の背骨である、という教えを説きました。その龍の気である山脈のエネルギーが、海の外へ流れ出ないように、また逆に、海から台風などの暴風や砂を防ぐためにこのフクギが植えられたのです。フクギは砂地であっても、中心の根を真っすぐと地中深くに伸ばす特徴と、大きく育つと地上に根を隆起させて、互いに根を絡ませあうという特徴を持っているので、一定間隔で植えられたフクギは、いつしか家全体を取り囲みつつ、お隣りのフクギとも連なり、いつしか集落全体を包み込む守りの森として成長したのですよ」

 

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写真提供/Birth the suite

 

Birth the suite

 

若かりし蔡温が、中国で風水の勉強をした時、このフクギの種を持ち帰ったのではないかと中村さんは考えている。備瀬の言葉で、丸いフクギの実の事を「とうぷるぎんない」と呼ぶのだそうで、つまり「唐(中国)で拾って来た価値ある実」というわけだ。繁殖が旺盛なこのフクギの実生の可愛いらしい芽吹きは、集落の足下の砂地の随所に見られるが、この木は大変に成長の遅い木としても知られ、成人女性の背丈程に伸びるまでには、軽く40年程かかる

 

「蔡温は、この集落が元々持っていた地形を生かして、台風などの災害から村を守る為に、道や路地をゆるやかにカーブさせて通したりし、風の通り道を計算した上で、御嶽(うたき)を中心に、まずその周囲から種を植えていったのではいかと思うのです。けれども最初フクギはまだ幼いですから、防風の役目などは果たせなかったはずで、台風が来る度に倒されたり、枯れてしまったり、家が飛ばされたりもしたのでしょう。それでも村人は次の世代、またその次の世代のためにと、祈るような気持ちでこのフクギを大切に、必死で育てて来たのでしょうね。だからフクギは一言で言えば、先祖の心、とーとーめーなのだと知ったのです」

 

神仏やご先祖様に手を会わせる事を沖縄では「うーとーと」言い、ご先祖さまの事を「とーとーめー」と呼んで敬う。
また中村さんは、この土地が持つ心地よい安心感というものは一体どこから来るのだろうと、深く検証を続けていく。まず備瀬の集落全体の地形に眼を向けてみると、集落が寄り添うこの浜の最大の特徴は、イノーと呼ばれる珊瑚礁に囲まれていることだ。珊瑚礁のリーフは伊江島との間に楕円形に広がり、備瀬の湾がそれを抱く姿になっている。このリーフが「魚湧く海」と呼ばれるのは、温かな海水の下から、次々と新しい命が生まれる生命誕生の温床を意味している。

 

「沖縄の精神世界には抱護(ほうご)という思想があって、例えばお墓の形が子宮の形を示していたり、女性祭祀が中心だったり母性原理の社会ですから、この母性に守られるという精神性を体現しているのが備瀬の地形であり、蔡温もここならば長く未来に続く集落が残せると考えたのではないでしょうか?私は初めてこの備瀬の入江に立った時、まるで母親の羊水の中に魂が抱かれているような安心感を覚えたものです」

 

Birth the suite
Birth the suite
Birth the suite

ディナー、朝食は共に姉妹店のULTRA BLUEで。ディナーは前日までの予約が必要です

 

土地の持つ精神性を、建築で表現することは、長年の中村さんの夢でもあった。20年以上、住宅のインテリアデザイナーを続けて来た中村さんにとって、この備瀬との出会いは神秘的な出来事の連続であったという。「この地に宿を建てたい」ただその純粋な思いを、自分の中から消すことが出来なくなってしまった中村さんは、それをいよいよ実行に移す事になる。けれども多くの人がそうでありがちなように、ただ独りよがりに自分の世界観を建築を通し自己表現するという事には、中村さんは興味がなかった。ヴイラを建てるにあたり、この土地の声に耳を傾け、この土地の本質をいかに建築を通し表現出来るか?という事にしか眼が向かず、このフクギの物語に深く感性を震るわせていったのだ。かの蔡温は、自分の国が大海に浮かぶ、とても小さな島であることを受け止め、風水の思想から、自らの国、島々のありようを読み解いていったように、中村さんは、この備瀬の土地の本当の扉を、感性で開けた。備瀬を思う中村さんの想いは、17世紀に、何百年先の琉球王国の存続を願い、島の人々を未来永劫守りたいと願う蔡温の心を知ることになる。

 

「でも想いはあっても、それを具現化するというのは、本当に大変な作業でした。けれども土地の半分をフクギが占めているわけですから、建築物を建てるのに、極力フクギの枝や根を傷つけたくはないという想いを貫く設計にも、随分と時間がかかりました」

 

Birth the suite

姉妹店 ULTRA BLUE の朝食。海辺の生活を楽しんで

 

Birth the suite

 

多くの困難を乗り越え、Birthはついに産声をあげる。

 

「私の姉は神官です。沖縄でいうところの女性巫女ヌルです。姉との日常の長い長い会話の中で、時間が過去から未来へ向かい、一定の方向に進んでいると思っているのは、人間の勝手な概念でしかない事を良く知らされます。宇宙全体において、そこにおける時間というものは、瞬間瞬間のつながりであり、輪のようにつながっていると私は認識しています。その概念の中では、結末がどうなるのか?等に執着する事はあまり重要ではありません。私にとっての人生の目的は、より良く生きることではなく、与えられた一瞬をいかに味わい尽くすかにあると思っております。小さい頃からの、自分の内面へと深く探求していく性質が、この備瀬での事業につながったのだと思います」

 

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写真提供/Birth the suite

 

中村さんにとって備瀬での事業は、自分自身の魂と向き合い、現実に起きている事象から本質を照らし、そしてそれを具現化するために行動を起こす事。それは結果として心の平安につながり、世界平和に貢献することを目指している。そして神様をお迎えするように、ゲストをお迎えしたいと彼女は言う。現在中村さんは、この備瀬の神聖な空気の中での結婚式もプロデュースしているが、来年に向けて、同地区に新たに挙式をするための神聖な空間を手掛けている。

 

「備瀬は不思議な土地です。過去、未来、現在という時間が一点に、同時に存在するような場所です。そんな場所は世界にそう多くは存在していません。それは奇跡とも言える珊瑚礁リーフを抱く備瀬の地形と、フクギの森の物語に起因しています。備瀬を訪れた方々には是非ご自身の内面を静観することで、この世で与えられたご自身の美しき人生の意味を感じていただきたいと思います」

 

中村さんはお客様には、ここにたどり着いて来て欲しいと言う。今日もBirthというゆりかごで、フクギの精霊に護られながら、波打ち際に遊び、風の歌を聴き、何もない一日を過ごすことで、自分自身の生まれ変わりを願う。

 

 

Birth the suite
Birth the suite(バース ザ スイート)
沖縄県国頭郡本部町備瀬484
0980-48-2595
http://www.birth-bise.com