ちいさな島宿 cago/また、必ず来たくなる。オーベルジュのような大人の旅宿

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一度行くととりこになって「また必ず」と、多くのお客が再度訪れる、そんな宿がある。竹富島の“ちいさな島宿cago”だ。こじんまりと部屋は3つ。オープンは2014年だが、すでに3度4度と足を運んだお客も少なくない。驚くことに、リピーターは日本国内からだけでなく、遠くアメリカやヨーロッパ、オーストラリアからも。

 

竹富島 赤瓦
竹富島 景色

 

cagoには日常を忘れさせる、ゆったりした時間が流れている。

 

cagoがあるのは、琉球古民家の並ぶ集落の中。石垣と赤瓦の屋根が続き、サンゴのかけらを敷き詰めた白い小道を、鮮やかなブーゲンビリアが彩る。竹富島自体が、いにしえの文化の残る特別な場所。そんな場所にあって、cagoはさらに別世界を用意している。小さな門の向こうは、沖縄であって、沖縄でない空間。熱帯の緑、背の高いヤシの木、月日を感じさせるヴィラ、水の音が心地よい可愛らしいプール…。ああ、旅に来たんだと実感させるに十分な光景が広がる。

 

中庭を囲むようにヴィラが建ち、その中庭がレセプションやダイニングの役割を担う。マンゴーのウエルカムドリンクで喉を潤しながら、時間を忘れてぼーっとその風景を眺む。印象に残るのは、目に入るものだけでない、島の風の気持ちよさも。温かくって、柔らかい。心地よくて、これから始まるここでの時間に期待が高まる。

 

竹富島cago

 

居心地がいいのはヴィラも同様。シングルベッド2つに、テーブルや椅子がちょこんとあるだけ。そのこじんまり感がちょうどよくて、心が落ちつく。大きな掃出し窓にかかる薄いシフォンカーテンが、気持ちよさそうに風に揺れる。それを眺めていると、わざわざ出かけなくても、ここでのんびりしようという気分になる。木々の揺れる音を聞きながら、本を開く。浮かんだアイディアを書き溜める…。自分だけの平穏な時間。こんな時間を持てることが最高の贅沢と気づかせてくれた。

 

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日が暮れてくると、カーテンの向こうに灯籠の柔らかい光が透けて見えた。中庭のテーブルにお皿やカトラリーを並べる音が聞こえる。待ちかねた夕食だ。料理を作るのはオーナーの松田マリコさん。「全身全霊をかけて準備をするから、夕食は連泊してくださったお客様に1度だけしかご用意できないの」と、少し申し訳なさそう。

 

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その言葉通り、どのお料理もありったけの手間をかけ、丁寧に仕上げられていることは、舌が存分に伝えてくれる。

 

八重山食材でつくられる、美しいフレンチスタイルのお料理の数々。脂のりがよく新鮮さがダイレクトに伝わる白身魚のカルパッチョ、野菜と魚の旨みがたっぷり滲み出たアクアパッツァ、甘みのあるソースが肉の旨みを引き立てる国産牛の軟らかいステーキ…。そんな洋のお料理があるかと思えば、じーまみー豆腐やラフテー、ゴーヤーチャンプルなどの沖縄料理も。食べ慣れたいつもの料理だって、マリコさんの手にかかれば洗練された一皿に。ラフテーは出汁の染みた小ぶりの大根にのせて上品に、じーまみー豆腐はツヤツヤの黒豆を添えて色と食感のアクセントを加えて。

 

見た目の美しさ、味のおいしさに加え、ル・クルーゼの鍋ごと、ご飯の土鍋ごとサーブされ、蓋を開ける楽しさまでもがついてくる。

 

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まるで、雰囲気のいい宿と美味しいレストランを兼ね備えたオーベルジュのよう。心のこもったもてなしの数々が、私たちの心をグイグイと掴んでいく。

 

そんなもてなしの数々が心に残り、お客を再訪へと向かわせる。それらには、マリコさんの揺るぎない想いが根底にあるからだ。経験のない宿の運営に戸惑っていたオープン間もない頃、マリコさんには1つの心積もりが生まれた。

 

「1,000人に好かれる宿ではなくても、100人のコアなお客さんにずっと愛してもらえる宿を目指せばいいじゃない、自分の好きなようにやればいいじゃないって思えたの。そしたら気持ちがスッと楽になったのよね」

 

基本的には宿泊客を30代以上の大人に限定しているのも、マリコさんの目指す宿のあり方があるから。

 

「長年、福岡でウエディングプランナーをしていたの。全てを任されて仕事をしていた頃、常にウエディングのアイディアを求めてたのね。それでよく、アイデアを考える非日常が欲しくて旅に出てたわ。旅先だと五感が研ぎすまされてね。旅先でアイデアをしたためて、福岡っていう現実に戻ってカタチにしてきたのよね。同じように一生懸命仕事をしている女性の場所にしたいし、役にも立ちたい。だから20代の若いお客様は、ちょっと違うのかなと思うのよ」

 

竹富島cago
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マリコさんの思いは、多くのスタッフを束ね、仕事に熱中してきた経験がもたらしたもの。やりがいのある大好きな仕事を辞めてまで宿を始めるきっかけとなったのは、旅行で訪れた竹富島の西桟橋に立った景色。

 

「松田聖子のようにビビビと来たのよ。あ、年代がわかっちゃうね(笑)。でも、『ああ、ここ好き』ってシンプルに思ったの」

 

竹富島西桟橋

 

ビビビと来たのは、場所を指しただけではなかったのではないか。マリコさんの人生の役割が変わった瞬間だったのだろうと思う。忙しく仕事をしている人が癒され、インスピレーションをもらえるような非日常の空間を提供することへと。

 

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マリコさんはcagoの中庭を「人の役に立ちたい」「離島で何かやりたい」と考えている方に、自由に利用してもらえる場にできたらと考えている。コラボ企画第一弾は、昨年春に2日間開いた青空美容室。テラスに白い布を敷き、その上に椅子を置いただけのヘアーサロンは、2017年も4月19日20日に予定している。

 

竹富島 cago

 

いにしえからの文化と美しい自然が残る土地で、忙しい日常を忘れてゆったりと過ごせる宿。手作りの丁寧なお料理で、心もお腹も満たされる宿。まるで昔からの友人のように親しみを込めて、「おかえりなさい」と迎えてくれる宿。背中を押されて元気に日常へ戻っていける宿…。そんな宿を続けていくことが、これからのマリコさんの役割。

 

「常連さんの予約が入ると、その方の来島を、ほんと〜に指折り数えて待ってるの。おかしいよね、大人になっても指折り数えて待つってね。それくらい私にとっては、待ち遠しいの」

 

マリコさんが訪ねてくる常連を心から大切にしているのは、常連とかつての自分が重なって見えるからに違いない。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

ちいさな島宿cago
ちいさな島宿 cago
八重山郡竹富町字竹富362
0980-85-2855
http://taketomi-cago.com