tinto*tinto(ティントティント) 帰ってから日々を大切にしたくなる、理想の暮らしを感じる宿

 

 

部屋から臨む、遠浅のターコイズグリーンとディープブルーのグラデーション。その海へ水着で飛び出す。心ゆくまで泳いだら、海水を滴らせながら戻ってくる。庭先のシャワーで体を流した後は、そのままテラスのチェアでひと休み。

 

陽が落ちると宿の周りには静けさが漂い、聴こえるのは、木々にとまるフクロウや虫の鳴き声ばかり。天を仰げば、無数の星の瞬きが目に映る。

 

 

雄大な自然の中で誰の目も気にせずに過ごせる宿が、沖縄本島北部の今帰仁村にある。江本祐介さんと文子(あやこ)さんが、夫婦で営む「沖縄のひとつ宿tinto*tinto」だ。両親が営む宿「マチャン・マチャン」と敷地は同じくしているものの、プライベート感を大切にしていると祐介さんは言う。

 

「和洋室のお部屋は離れだから、本当にリラックスできると思います。ビーチに行くには公道を少し歩くのですが、そこでも人に会うことはほとんどありません。鳥や虫、それと波や風の音しかしないほど静かだし、人がわぁーっていない場所なんです。そういう場所だからこそ、ひとつ宿っていうのが生きてくるんじゃないかなと思います」

 

 

 

 

ひとつ宿の醍醐味は、もてなしの手厚さにも表れる。例えば子連れの家族の場合、子ども用便座やおむつ袋、コップを置いたり、事前に性別を聞き、サンダルの色を合わせたりする。また、チェックインの日には手書きのメッセージを置くのが常だが、二度目以降からは子どもの名前もしっかりとそこに書く。内容は、親しい人からの手紙のようだ。

 

「あと何組か多かったら、ここまできめ細やかには出来ないかもなと思います。最初は敷地の問題もあって止むを得ず1組からスタートしたのですが、結果的に、丁寧に気を配れるからよかったなって思っています。都会で何かサービスを受ける時って、その他大勢の中の1組なんだという感覚を受けることがあるじゃないですか。でもここは、その方たちに合ったサービスができるという点で特別感があると思います。お子様に関して言えば、小さいお子様はたとえ添い寝だとしても、タオルやグラスもお付けしたりして、接客はもちろん、サービス面でも1人のお客様としてちゃんとおもてなしします」

 

 

すぐにポストに投函できるよう切手を貼ったハガキを準備している

 

 

tinto*tintoのもてなしは、さり気ない。でも、気づかないうちに深く心に刻まれる。それを象徴するのが、朝食の料理だ。言われなければ分からない人がほとんどだと思うが、メニューを考案した文子さんの思いやりが込められている。

 

「旅行だとあんまり野菜を食べられないことが多いと思うんです。だから、朝ごはんくらい野菜が食べられるようにという思いで作っています。また、生の野菜を出すだけではなく、いずれもひと手間かけたものを出すように心がけています。ご連泊の方には、調理法や食材が同じにならないように気を配っています」

 

メニューの内容は、やんばる野菜を使った10品もの和琉食。調理法がオリジナルで、沖縄ではお馴染みの野菜の新しい魅力を知ることになる。

 

「調理は素材の定番をあえて外す感じで考えます。ゴーヤーは味噌炒めにしたり、もずくは火を通してお焼きにしたり。野菜もナムルにするとか。こういう食べ方もあるんですねって言われることもありますよ。それから、冬瓜とかパパイヤって、あまり普段の生活でも旅行でも口にしないじゃないですか? だから、沖縄らしさを感じていただけたらと思ってお出ししています」

 

 

祐介さんは、朝食の時間をどう過ごしてもらうかにも気を配っている。

 

「朝食は和洋室にお泊まりのお客様だけにしかご提供していなくて、完全に1組だけでお召し上がりいただけます。ゆっくりと過ごしていただきたいと思っているので、僕は、最初にお料理をご説明して、終わった頃に顔出すくらいです。だいたい1時間くらいカフェルームでお過ごしになる方が多いですね。朝ご飯をおうち以外の場所で食べるっていう状況って非日常の最たる例だと思うし、宿って朝ごはん屋さんだなって思うんです。お部屋の違いやお部屋からの景色の違いはもちろんだけど、朝食の内容も、その場の雰囲気も大切にしています。その違いも感じていただきたいですね」

 

文子さんセレクトの沖縄の作家ものの器。購入も可能だ。

 

 

「部屋にも敷地内にも、沖縄の昔ながらの良さと現代的な物をミックスして取り入れています」。白い壁に赤瓦を敷き詰めて。琉球石灰岩の石垣が建物を台風から守る。

 

 

絶好のロケーションとその手厚いもてなしとが相まって、tinto*tintoに訪れた人のバカンスは特別な体験となる。それゆえだろう、後日二人宛に手紙が届くことはめずらしくない。概ねもてなしへの感謝や、旅の楽しさを綴ったものかと思いきや、その内容は意外なもの。

 

「朝ごはんを、子供たちにちゃんと作ってあげないといけないなと思いました」
「好きなものに囲まれてゆったりと生活したかったのを思い出しました」

 

目立つのは、「もっと暮らしを大切にしたい」という意識の変化を伝える内容だ。祐介さんは、これこそが二人のやりたかったことだと目を輝かせる。

 

「こういうところに住みたいとか、こんな生活をしたいと言われるのは嬉しいですね。僕ら自身も子供を沖縄で育てたい、仕事だけにならないように家族でゆっくり生活できるようにと思って沖縄に来たので、その思いを一端だけでも感じてもらえるのは、やっててよかったなと思うところです」

 

そう、かつては祐介さんも多くの宿泊客と同じように多忙な毎日を過ごしていたのだ。それが「旅を通して暮らしを提案する仕事がしたい」と考えが変わったのは、オーストラリアへの旅がきっかけだった。

 

「妻がワーキングホリデーを利用してオーストラリアに滞在していたことがあって、その時に遊びに行ったんです。俺は仕事でボロボロだった時で(笑)。着いてみたら彼女は、それまでで一番開放的でキラキラしてた(笑)。食べることにしか興味がなかったのに、料理が楽しいと言ったりしてるんですよ。向こうで出会った人々の心の余裕、暮らしそのものを楽しむ姿も衝撃的でした。僕はあくせく働くだけの生活を送っていたから。あと、人の優しさに触れたのも大きかったですね。車のトラブルに遭ってしまって。何もない荒野でのトラブルだったから、途方にくれました。その時、同じように旅をしていた方々が近くの街まで連れてってくれたり、通りすがりの地元のおじさんに『大丈夫か?』と言ってもらったり、電話を貸してくれる人とかもいて。その時、ほんと、人ってこうじゃなきゃいけないよね、自分もこういうふうになりたいなと思ったんです」

 

 

その後、祐介さんはオーストラリアから帰国し、思いを実現するために、リゾートホテルの面接を受けたことがある。

 

「面接官に、『ご滞在いただくことで、そのお客様が現在のライフスタイルを見直すきっかけになるような仕事をしたい』と語ったんです。僕の語りが悪かったからか(笑)、その時は分かっていただけなかったのですが」

 

一方、あやこさんは帰国後、調理師の学校に通い始める。そして、結婚して子育てをするならオーストラリアに似ている沖縄で暮らしたい、という思いを強くする。

 

「オーストラリアでできた調理師の友人が、現地で美味しいご飯を作っているのを見てて、羨ましかったんです。旅の途中で使えるお金もそんなになかったから、食べたい物を自分で作れるって魅力的でしたね。将来のことも考え始めていて、やっぱり生活に料理って必要だなと感じ、帰国したら調理師学校に通って、調理師免許を取ろうと考えていました。その頃、ちょうど彼の両親が沖縄で宿を始めるかもという話が出ていたのです」

 

その後も2人の思いは変わらず、結婚後沖縄へ移住、那覇での準備期間を経て、今帰仁の地で宿を始めた。

 

 

 

2010年のオープンながら、すでに何度も宿を訪れているお客様も多い。中には、最初の年から毎年宿泊している家族もいる。それはここでの時間が彼らにとってバカンス以上の時間になるからだ。

 

 

子供を沖縄でのんびり育てたい、仕事だけの生活にならないように家族で生活を楽しみたい。江本さん夫婦と同じように考えてはいるけれど、なかなか思いきることができない。それなら、まずは「こんなふうに暮らしたい」が味わえる旅をしてみるのはどうだろう? 理想の暮らしに近づくきっかけにきっとなるから。

 

 

写真・文/青木舞子(編集部)

 

 

 

おきなわのひとつ宿tinto*tinto
沖縄県今帰仁村渡喜仁385-1
0980-56-5998
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