石黒 万祐子

ぴにおん

 

まるで地層の断面図のように、はっきりと分かれている。

 

「ラー油は、普通なら具材と油の2層のところがほとんどですが、うちのは3層なんです。間にフルーツ酵母の層を設けてるので」

 

ぴにおん 沖縄ライカム店の店長、金城拓磨さんが指し示すのは『スパイシー島のラー油』の、具材と油に挟まれた真ん中の部分だ。

 

「ラー油は具だくさんの方が美味しいですから、うちは島唐辛子とニンニクはもちろん、ゴマは2種類、黒糖、ウコン、ピーナッツなんかも入れてます。ただ、具を入れれば入れるほど、具に含まれて酸素も入ってくるんです。その酸素が触れることで、油がどんどん酸化しちゃうんですよ。でも、そこで人工的な保存料や酸化防止剤を使うのではなくって、石垣島のパパイヤやパイナップルから採れたフルーツ酵母の層を間に設けて、具材と油を分離しておくんです。使う時だけ、よく振って3層を混ぜ合わせる形ですね。こうすれば酸化も防げますし、味もフルーティでまろやかなんですよ」

 

ぴにおん

 

舐めてみれば、初めはフルーツの甘み、後からピリッと辛さが主張。そして、差し出されたお茶を飲めば、あっさりと辛さは引いていく。この引き際の潔さこそ、油が良質な証拠。

 

「人間は喉のヒダヒダに辛さを感じる部分があるんですけど、サラッとした良い油だからこそ、辛さが飲み物と共にスッと流れてくれるんです。酸化した油だと、辛みが喉のヒダヒダにくっついたままになって、こうなるとヒーヒーして、他に何食べても味分からないとなってしまいます。普通はラー油って3ヶ月も経てば、油がねっとりしてくるんですが『スパイシー島のラー油』は約1年は酸化せず、味が落ちないんです。落ちないどころか、酵母を使うので風味が増すぐらい。僕たちはもう20年前からラー油を作り続けてますが、数年前のブームでラー油自体は全然珍しくなくなっちゃいましたよね。でも、添加物を使わずに劣化を防いで、こんなに甘みも辛さもあるラー油はちょっとないと思うんです」

 

『くうす味噌』(くうす=島唐辛子)にも、フルーツ酵母が使われている。このため、じか箸さえしなければ、賞味期限である一年間を過ぎても酵母の力で熟成が進み、カドがとれてまろやかな味わいに。熟成を楽しみに待つファンも多いという。

 

 

 

素材が持つ力を、そのまま活かしたい。それが、ぴにおんの想いだ。お店の棚には、そんな想いで作られたラー油やくうす味噌などの調味料やドレッシングの他、燻製やジャーキーなどもずらりと並ぶ。その数、ゆうに150種ほど。またこれまで手がけてきた商品は300種類にのぼるという。驚くのは、これら全てが添加物なしで作られているということ。

 

「お客さんからも『これ全部、無添加でやってるの?』『こんなのできるわけ?』とよく驚かれるんですけど、うちの商品は自然由来のものだけで作ってます。限りなく100%に近い形で無添加ですよ。原材料そのものの旨みを活かしきるというのが僕たちのやりたいことですし、他のお店にない個性にもなるのではないかなと。そのために、使うのはフルーツ酵母などの自然の成分だったり、あとは製造方法も独自なんですよ」

 

ぴにおん

 

ぴにおん

 

ぴにおん

 

用いる素材だけでなく、作り方も。それは肉の持ち味を堪能できる『特選生ハム』からもうかがい知れる。

 

「うちの生ハムは塩を最小限にしか使わないので、肉の本来の旨みが分かると思います。ハム、しょっぱいもの多いですよね。あれは塩を使い過ぎて肉の旨み成分やミネラルが塩分に負けちゃってるんですよ。僕たちが、添加物は当然、塩をはじめ他の調味料をも使い過ぎずに済む理由は、水分の抜き方にあるんです。抜く水分をそれぞれの食材に合わせた最適な量…生ハムならこれだけの%、もずくなら、枝豆なら…というように1~100%まで本当に細かく調節してるんです。これによって原材料の表面を傷つけずに、芯の部分から水分を抜けるんですよ」

 

ぴにおん

 

ぴにおん

 

ぴにおん

 

ぴにおん

 

ぴにおん

 

 

持ち味を損なわないための鍵は、食材に含まれる水分のコントロールにあった。

 

「生ハムって、とにかく腐らせないように寒冷地で塩をたっぷり使って、食材をしめてしめて塩漬けに作るイメージですよね。だから、石垣島みたいな高温多湿の土地はずっと生ハム作りには向いてない、あり得ないと言われてきたんです。そして、燻製作りには温燻法、熱燻法、冷燻法とあって、冷燻法が一番旨みを損なわないやり方と言われてますが、うちはその冷燻法からも、少し変えた製法なんですよ。簡単に言えば、素材をひたすらしめてしめて作るのではなくて、しめて緩めてしめてと交互にしながら水分を抜くんです。石垣島の暑い気候を逆に活かした、緩めるという過程を作ることで、食材の芯から水分を抜き、最大限の旨みと原材料の個性を凝縮できるんですよ。食材の表面はそのままですから保存が効くんです。人間の肌もケガしなければ消毒液とか何もつけなくていいじゃないですか。それと同じで、使う塩も最小限で済むし、原材料そのものの風味も損なわないんです」

 

 

それは突き詰めれば、こんな考えに行きつく。

 

「牛は牛、豚は豚、野菜は野菜であるべしというのが、僕たちの考えです。今の技術は進んでますから、極端な話、牛から豚の匂いをさせることも可能といえば可能なんですよ。化学調味料や香料、着色料を使えば、どんな風にもできますし、それで美味しく作ってるところももちろんあると思います。でも、それでは素材が持ってる個性が死んでしまうと僕たちは思うんです。あるがままの味を尊重したいんですよ」

 

ぴにおん

 

ぴにおん

 

ものづくりの自信が、商品を勧める姿勢にも表れる。ぴにおんでは、なんと棚に並ぶ、全ての商品を試すことができるのだ。ぴにおんといえば、試食の載ったトレイを持って店頭に立つ金城さんやスタッフの姿が印象的だと挙げる人も多い。

 

「やっぱり実際食べてみないことには、違いが分からないですよね。たまに『こんなにもらっちゃっていいの?』『お店、大丈夫ねー?』ってお客さんに心配されるんですけど(笑)、僕たちとしてもどんどん食べてみてほしいです。なんとなく買ったけどイメージと違うとなると、自宅でも使いづらいですよね。プレゼントやおみやげも、もらった側は『ありがとう、美味しかった』としか言えないじゃないですか、たとえ気に入ってなくても。そういうガッカリをなくしたいんですよ。全てを試食できるというのは、味に自信があるからこそ、食品メーカーの直営店だからこそできることです。実は、お茶だけでなくコーヒー、ワインの用意もあります。ワインは運転しない方限定ですが、生ハムや魚の燻製ではワインにこそ合うものも多いので、ぜひ試してください」

 

ぴにおん

 

試食の大盤振る舞いからも、真摯さが透けて見える。そんなぴにおんの原点は、36年前までさかのぼる。

 

「1978年から、石垣島で食品メーカーとしてやってきました。ビーフジャーキーにはじまり、燻製や調味料、ドレッシングなどを作り続けるなかで、やっぱりお客さんと直に触れ合いたいとなって、直営店を開いたんです。石垣島の店は8年前、沖縄本島の店は5年前からになりますね。お客さんから『おみやげ用に「くうす味噌」は小さいサイズもほしいんだけど…』とか生の声が聞けるのもいいですし、僕たちからも、『「スパイシー島のラー油」は力入れて、ちょっと長く振ってくださいね』とか、ちゃんとお伝えできるのもいいです」

 

そして、2015年春。ぴにおんは国際通り店から、沖縄ライカム店へ拠点を移し、また新たなファンを増やしている。

 

「移転したことで、また新しい出会いがたくさんありました。もちろん今までのお客さん…スーパーみたいに日常使いされる方や、毎回、旅行のついでに寄ってくださる内地の常連さんも変わらず来てくださいます。一番嬉しいのは、『「くうす味噌」はナーベラーと炒めるのにも合うよ!』とか、お客さんから使い方を教えてもらえることですね。僕も料理の学校出てるので、料理は一通りするんですけど、『そんな工夫があるのか!』と驚くこともありますし、楽しんでもらえてるんだなって。うちのオーナーは、とにかくパワフルなんです。常に『この商品はこんなしようかな』『次はこういうのも作りたい』が湧き出てくる人で、新しいものも楽しみにしてほしいですし、今後も僕たちは無添加のもので、素材の持ち味を伝えていきたいです」

 

ラー油も生ハムも、決して初めて味わうものではない。だが口にすれば、素材がもたらす瑞々しさにすぐ、これまでのものとは違うと気づく。自然な味わいを噛みしめる場所、それがぴにおんだ。

 

本文/石黒万祐子(編集部)

写真/金城夕奈(編集部)

 

ぴにおん

 

ぴにおん ダイレクトショップ 沖縄ライカム店
沖縄県中頭郡北中城村アワセ土地区画整理事業区域内4街区
イオンモール沖縄ライカム店 1F
OPEN 10:00~22:00
TEL 098-923-5527
年中無休

 

ぴにおん ダイレクトショップ 石垣店
沖縄県石垣市字大川276-1-1F1
OPEN 10:00~20:00
TEL 0980-82-8686  
http://www.pinion-kikaku.com

 

石黒 万祐子

そーめんちゃんぷるー

 

こんにちは、CALENDスタッフの石黒です。

 

事務所のまかないでうちなー料理を覚えよう企画、3品目は「ソーメンチャンプル」です。

 

そーめんちゃんぷるー

 

そーめんちゃんぷるー

 

ソーメンチャンプルーは、使う材料が大事と吉田は言います。

 

「ソーメンチャンプルは簡単だよ。簡単ていうか、材料次第だね〜。シーチキン(ツナ缶)じゃなくってマグロのお刺身を使うこと、ソーメンはできるだけ『揖保乃糸』を使うの。これでもう美味しくできるよ」

 

私が沖縄で驚いたことのひとつに、ツナ缶の重宝されっぷりがあります。ギフト用だという、箱詰めのツナ缶はこちらで初めて見ました。しかし、このレシピではあえてツナ缶を使わないそうで…。

 

「シーチキンって、魚なのか!って気づいたときに、代わりに魚使えばいいのかと思って、刺身で作ってみたら美味しかった! それで、お刺身ならばなんでも美味しいのかと思って、カツオでもやってみたけど、それは食感があんまりだった…。あ、サクでなく、お刺身で買うのは単に安かったからだよ(笑)」

 

そして、揖保の糸。これ以外だと吉田はうまく作れないのだそうです。なぜでしょう?

 

「ソーメンチャンプルの何が決め手かって、ソーメンと具材がちゃんとカラむことよ。ソーメン同士がくっついちゃうと具とうまくカラまないから美味しくないわけ。いろんなソーメン試したんだけど、『揖保乃糸』が一番くっつかずにできる。やっぱり値段高いは高いけどね・・・。他のソーメンでもくっつかずできるならいいけど」

 

ということで、材料はマグロのお刺身と揖保の糸に、ニンジン、ニラも用意してスタートです。分量は適当ですが、ソーメンよりも具材が多い方が好みのようで、具材を多めに作ります。

 

そーめんちゃんぷるー

 

そーめんちゃんぷるー

 

まず、ニンジンはしりしり。マグロのお刺身とニラも適当な大きさに切っておきます。

 

そして、吉田のレシピ恒例、油ドバー(笑)。たっぷりの油でニンジンとニラをさっと炒めます。本当にささっと。

 

そーめんちゃんぷるー

 

そーめんちゃんぷるー

 

そーめんちゃんぷるー

 

これも味付けは塩(ぬちまーす)。パラパラッと入れます。

 

「ソーメンは早めには茹でないでね。具材を先に作っておいて、ソーメンは後から茹でるの。茹でてあげといちゃうと、フライパンに入れようと思ったときにはくっついてるから」

 

そーめんちゃんぷるー

 

そーめんちゃんぷるー

 

マグロも、表面の色が変わったらもうお終い。

 

「作っている間に火は通るし、火を通し過ぎると、いくら油どっさり使ってもパサパサになって美味しくないからね」

 

そーめんちゃんぷるー

 

ここでようやくソーメンを茹で、取り出します。

 

「しつこいけど、くっつきにくいように、説明書きに1分半~2分で茹でてって書いてあるとしたら、1分半にしてね」

 

そーめんちゃんぷるー

 

くっつかないようにとこだわっただけあり、確かに、小さな具材がソーメンにからまります。

 

そーめんちゃんぷるー

 

最後に風味づけで醤油を垂らします。醤油の良い匂いが立ち上ったら、完成。

 

そーめんちゃんぷるー

 

ヤキソバもそうですが、麺と具が良い感じに混ぜ合わさると美味しいものです。それには、麺を柔らかめに茹でればいいのだと思いっきり勘違いしてましたが、少し強度のある方がフライパンにもくっつかないので、結果的に味が均等になるのですね。マグロの旨みとニラが効いて美味しい主役の一品。ニンジンも入って栄養バランスも良く、食べ応えがあります。

 

文 石黒 万祐子(編集部)

石黒 万祐子

 

 

すっくり立つフランスパン、ゴロッとしたカンパーニュ…ショーケースに並ぶパンの中でも、特に目を惹くのがハード系のパンだ。その素朴で力強い佇まいは、シンプルな味で勝負できるという潔さの表れ。内田製パンの内田彩(さやか)さんは何よりも生地づくりに自信をみせる

 

 

 

噛めば噛むほど味が深まる感じがします。具材が何も載っていなくても、この生地だけで充分満たされてしまいますね。

 

「パンは生地を味わうものだと思ってます。特にハード系のパンはシンプルだからこそ、ごまかしが効かない。うちのハード系パンは、小麦そのものの甘みを噛みしめる…というか、噛みちぎるぐらいの歯応えで味わえるのが良いところです。シンプルだからお米代わりに食べられますし、いろんな料理とも相性が良いんですよ。シチューやパスタに添えても良いし、何かディップを載せてもいい。お酒好きの友達も『ワインに合うから』とフランスパンをよく買っていきます。私自身もよくパンの食べ歩きをしますが、ずっと飽きないのはこんなパンですね」

 

シンプル イズ ベストな生地は、どのようにして生まれるのでしょうか

 

ハード系のパンは粉の味がそっくりそのまま出てしまうから、いろいろ試しました。今はフランスパンの粉、ライ麦の粉、全粒粉と3種類の粉から、それぞれのパンに合う配合を見つけ出して作ってます。全粒粉は北海道産100%で、特にこだわって選んだんですよ。

 

また、生地を作る上では酵母が重要です。パン屋のカラーが一番出るところでもありますが、うちはレーズンからおこした酵母を使っています。天然酵母というと『酸っぱそう…』とも言われますけど、菌を上手におこしてあげればそんなことないんですよ。うちでは酸味がないのはもちろん、風味を保って小麦本来の味を引き立てるような酵母にしています。

 

 

 

秘訣は粉の配合と自家製酵母にあり。この良さを伝えるために何か工夫されていることはありますか?

 

フランスパンを『どうせ硬いんでしょ』とか『すぐ悪くなるから持て余しちゃう』とか敬遠する方にも、工程を変えて、風味を変えて、この生地の良さを味わって頂けるようにしています。実は、うちのフランスパンとトマトのリュスティックは生まれは一緒、生地の配合が全く同じなんですよ。フランスパンは硬さを楽しんでほしいから、そのまま一般的なフランスパンの作り方で作るんですけど、トマトリュスティックは工程が違うので、モチモチっとしてるんです。フランスパンは生地をカットしたら、4~50分休憩させてから焼いていくんですけど、トマトのリュスティックは休ませずにすぐ作っていくんですね。これで、同じ生地だとは、言われなければ気づかれないぐらい食感が変わります。それに、フランスパンの生地は老化が早いけれど、トマトのリュスティックは袋に入れておけば翌日でもまだ楽しめるので、それも取っつきやすいかなって。

 

 

 

フランスパンの形や焼き色がキレイ! 他のパンもピーナツバターがくにくにっとしていたり、どのパンも細かいところにまで凝って作られていますね。

 

パンは味が一番、見た目が二番だと思ってるので、うちのパンはもう全部可愛くしてます。フランスパンなら、切れ目。均等にパカッと開くように作りますね。これ、生地の状態が良くないと綺麗に開かないんですけど。ピーナツバターの入れ方も、少し入れてはねじってを繰り返してモコモコっとさせたり、あえてハサミを使って切れ目をつけるパンもあるんです。もちろん具材の色彩にも凝ってますよ。パンを食べ歩く中で、見た目イマイチでも美味しいパンはありましたが、どうせなら見た目から気分があがる方が良いと思って

 

パン屋さん自体をあまり見かけない、ここ南部でハード系のパンを中心に据えるのはずいぶん思いきったことのように思いますが…

 

開店した当初は、ハード系のパンの知名度、全然なかったんですよ。お年寄りやお子さんが多く住む土地柄か、パンなら甘くて柔らかいアンパンとかが人気で。フランスパンならまだしもカンパーニュなんか『何これ?』『食べられるの?』という空気だったので、初めは1~2個だけ作ったり…。一度食べてみたら絶対良さを分かってもらえるんでしょうけど、まずお客さんの手が伸びないことにはな…というのが正直ありました

 

そこで伝え方を工夫して、まず試食をたくさん出すことにしたんです。『見た目はごっついけど、ぜひ一度食べてください! 外はカリカリッと中はしっとりですよー』とか言いながら配って。メニューカードに、『ライ麦はビタミンもミネラル、食物繊維も豊富です』と長所をアピールしたり。それに、パンの美味しい食べ方も『保存は冷蔵庫でなく冷凍庫で!』とか『解凍時に霧吹き等で水をかけると美味しいです』等、手描きで作りました。パンは保存方法に気をつければ全然味が違うんです。それをちゃんと伝えて苦手意識をとってもらおうと

 

魅力の伝え方にも腐心。お店にひっきりなしに訪れるお客さんたちを見れば、それが幅広く広がっているのだと分かります。

 

今では近所のお年寄りにも、ごはん代わりにとハード系のパンをたくさん買ってもらえますし、沖縄じゅうのパン屋をめぐってきたという方が、『やっと納得いくカンパーニュに出会えた!』と喜んでくださったこともあります。カンパーニュはレストランにも置いてもらえるようになったんですよ

 

 

人気のメロンパンも、下の生地に一般的な菓子パン生地を使うのではなく、ブリオッシュ生地を使い、モゴモゴしない口溶けの良い食感になっている

 

こだわりのパンですが、メロンパン1個130円など、全体的にリーズナブルな印象を受けました。

 

都会でもないですし、パンの値段を高くはできないというのがありました。だからメロンパンも1個130円に外税。小学生が1名で買いにこられるような価格にしたかったんです。今、バターは品薄ですし、クルミやナッツ類も地味に値上りしてて正直厳しい。でもそこは生地の美味しさで魅せられればと。すごく高級なバターを使っているわけではないけど、生地でパンってこんなに違うんだと伝えたいですね。

 

低価格にしなければならない”しばり”があっても、あえてこの地でパン屋を開いた理由がありそうですね。

 

のんびりした場所でやりたかったんです。それにはここがうってつけ。周りにお店屋さんすらあまりなくて、最寄りのコンビニまでも結構な距離ある場所ですけど、そこが良くって。那覇だと賃料高いし、駐車場スペースも取れないっていう現実的な理由もありますが、近所のお年寄りやこどもたちが気軽に来られるようなパン屋をやりたかったんです。今は、おばあちゃん達が『こんな辺鄙なところに、こんな可愛いパン屋ができてー!』って喜んで通ってくれるのが嬉しいですね。

 

パン屋さんを目指したきっかけはどんなことだったのでしょうか?

 

突きつめると、ハード系のパンを充実させたパン屋を、沖縄の中でも田舎の方で…ということになりましたが、元々パン屋を沖縄でやりたいというのは小さい頃からあったんです。パン屋にはずっとなりたかった。私、おばあちゃんと住んでて、おやつがいつもおばあちゃんが作る粉もん…パンとかホットケーキ、クッキーだったんですね。それで身近だったし美味しかったしで。それで調べたら、パンの専門学校というのがあるらしい。でもそこへ行くには高校を出ないといけないらしいから、とりあえず高校行ってって専門いって、その後パン屋さんで働いたりして、ずっとパンの勉強をしてきたんです。

 

それと同じぐらい強かったのが沖縄に行きたいということ。私が育ったのは神奈川ですが、移り住んできてもう11、2年になります。小学校の図書室に日本各地の図鑑みたいなシリーズがあって、読むと沖縄県だけ、他ともう全然違う。海キレイだ、最高だと、沖縄県の本だけ借りまくってましたね。そしていつかここに住みたいと。

 

 

 

「何が今日おすすめ?」「もう少しでクリームパンが焼き上がりますよ」など、ショーケース越しに会話が弾む店内。こんなに賑やかなパン屋さんって珍しいかも。

 

お客さんと触れ合えるお店でいたいから、店内もトレイとトング持って回るんじゃなくて、ショーケースにパンを並べる形にしています。これだと嫌でも話さなきゃいけないでしょ(笑) プライス表示も文字が小さめだから、お年寄りだとちょっと読みづらいかもしれない。でもあえて書き直さないんです。『これいくらね?』ってところから会話が生まれるので。お年寄りだと、『美味しいのある?』とか『何食べればいい?』とか漠然とした質問も多いです。これはもう一緒に、『甘いものか甘くないものか、どっちがいいですか?』とだんだん絞って考えていきますね。こういうお客さんとの会話や反応から、私もまた新しいパンのアイデアをもらっています

 

 

 

常連さんも多く、もうすっかり八重瀬の街に馴染んでいるようですね。お客さんからのアイデアが活きたパンもありますか?

 

アイデアというかヒントですけど、すぐそこに住んでるおじいちゃんが庭で育てた無農薬の野菜を、『良かったら使って!』と持ってきてくださることもあるんです。これはもう八重瀬産どころか富盛産の超新鮮なもの(笑)。ホウレンソウとトマトのリュスティックに使ったホウレンソウも、おじいちゃんからのものですね。前にも、すごく青々としたセロリを頂いたので、これに合うパンを…と考えて、生地全体にセロリを練りこんでセロリの風味を活かしたパンにしました。具材が上に載ってたり、中に入ってたりするパンだと、その部分だけ楽しいってこともありますが、生地全体ならどこから食べてもずっと楽しい。それぐらい堪能したい、立派なセロリだったんですよ

 

今後も、ハード系のパンの良さを伝えていく姿勢に変わりはないのでしょうか

 

2014年の夏に店を開いてから半年経ちますが、週末は、那覇やもっと北から来てくださるお客さんも増えました。いずれはショーケースの上段、まるっとハード系のパンが並んでも良いなと思ってるんです。ただ、ハード系のパンに限らず、パンは生地が物をいうことを知ってほしいのもあります。どんなパンでも食べ応えを意識して作っていて、クロワッサンも層を折りこむ時にあえて層を細かくしないようにするんですけど、そうするとサクサクっていうよりザクザクって食感になるんですね。全てのパンで、生地の面白さが伝わればいいなと思ってます

 

インタビュー/石黒 万祐子(編集部)

写真/青木 舞子(編集部)

 


内田製パン
沖縄県島尻郡八重瀬町字富盛337
098-998-0322
11:00~19:00
定休日 毎週日曜日、月曜日

 

石黒 万祐子

アーサ汁 

CALENDスタッフの石黒です。
前回の「ニンジンしりしり」レシピを機に、しりしり器を買いました。
その名も「蜂の巣」。直接的なネーミングですね。ピーラーには出せない、しりしり具合が嬉しいこの頃です。

 

さて、引き続きうちなーレシピを覚えよう企画。第2弾はアーサー汁です。

 

アーサ汁
アーサ汁

 

材料は、アーサー(あおさ)、カツオブシ、島豆腐、塩、水のみ。

 

まず、アーサーを水に戻します。

 

アーサ汁
アーサ汁

 

アーサーが戻るのを待つ間に、カツオブシを削っていきます。
この作業が、今回唯一の山場といっても。

 

「お中元の鰹節を今日は使おうね。いつもは花鰹を買ってきたもので作るんだけど、今日は頂きものがあるから。削ってみよう(笑)。やっぱり削りたては風味が違う。美味しいから。こうやって削るそばから、周りの子供たちがつまんで食べよるよ(笑)。いつまで経っても終わらないわけ」

 

想像すると微笑ましい光景です。このカツオブシ削り器(?)、私は初めて見ました。同じCALENDスタッフの金城も、「おうちに1個はあったはずー」と言うので一家に一台が普通なのでしょうか。自らの手で削ったものは確かに香りが強い気がします。ところが…ふわふわっと上手く削れなかったようで。

 

「あ、やばい~!完全に失敗だ! 削り器がマイ削り器でないから~」と、削り器のせいにしてました。

 

アーサ汁

 

島豆腐を、”とにかく細かく”切ります。細かすぎてグチャグチャにならないのかという心配は杞憂らしく…

 

「島豆腐は硬さがあるから大丈夫よ。アーサは味が優しいから、豆腐が大きいと負けちゃうから小さくするの」

 

アーサ汁

 

沸騰した湯に、少しだけ水を差します。その後、削っておいたカツオを投入。しばらくしたら火を止めて、荒すぎる削り節が沈むのを待ちます。ここで、良いダシが出る…はずなんですが、今日は削る段階で失敗したので、あまりダシは出ていない様子。

 

アーサ汁

 

アーサ汁

 

漉します。(※ダシの色が確認しづらいので、鍋を変えました)

 

アーサ汁

 

島豆腐を投入。

 

アーサ汁

 

アーサーを投入。

 

アーサ汁

 

味を見て、薄いようなら塩を少々足します。吉田はもちろんぬちまーすを使います。

 

アーサ汁

 

もう完成してしまいました。なるほど、これは簡単です。

 

「アーサー汁は簡単よ。お味噌汁作ろうと思ったら、もっとたくさん野菜切って入れてしなきゃいけない。
でもアーサー汁は、カツオを削るだけ削ったら、もうほぼ終わったも同然だね」

 

箸要らずで、すいすい飲めます。アーサーと島豆腐のほのかな塩加減が、味が濃いめの主菜との相性も良さそう。そして、この優しい味わいに似合わず、アーサーは食物繊維やカルシウム、なかなか摂れないビタミンB12も豊富なのが嬉しいところ。次回は、花鰹を使って作ってもらおうと思います。

 

文 石黒 万祐子(編集部)

石黒 万祐子

にんじんしりしりー

 

こんにちは、CALEND スタッフの石黒です。

 

CALENDの事務所では、お昼ごはんを自炊することが多く、皆でお喋りしながら作って、食べながらお喋りしてのひとときが楽しいです。私が行く時はナイチャーだからとニンジンしりしり、ソーミンチャンプル、沖縄そばを使ったヤキソバなど、うちなー料理をよく作ってもらえます。

 

そういえば私も沖縄歴6年、うちなー料理のレシピをあまり知らないのも残念なので、このたび生粋のウチナンチュ吉田に、弟子入りすることにしました。題して、お隣さんちのレシピ 番外編。第一弾は、ニンジンしりしりーです。

 

吉田の料理の特徴は、なんといっても大量の油にあります。この健康志向の世の中で油は敬遠されがちですが、「油脂は身体に良い!」との信念を曲げない吉田は、すべての料理に油をドバドバ使うのです。吉田のニンジンしりしりーは、油を思いきり吸ったフライドポテト ならぬ フライドニンジンの味がします。

 

* * * * * * * * *

 

「私、ニンジン好きじゃないわけ。カレーとかにゴロゴロ入ってるのは残すぐらい。でも、ニンジンしりしりだけは美味しいんだよね〜。自分からすすんで作って食べるくらい! ニンジン料理で一番美味しいのはニンジンしりしりーだね」

 

にんじんしりしりー

 

「材料は、ニンジンと卵と細ネギだけ。味付けも塩のみよ。塩はもちろん『ぬちまーす』。ニンジンしりしりーに何を入れるかって、おうちそれぞれで本当に面白いよね。ツナ使う人は多いけど、ポークランチョンミート入れる人もいるってよ。それはもう別物の気もするけど(笑)」

 

にんじんしりしりー

 

「まずは、ニンジンをしりしりする。量は1人前でニンジン1本の半分を使うぐらいかな。前に『ためしてガッテン』で観たんだけど、スーパーで売ってるニンジンって、それでもう皮が剥けた状態なんだって。店頭に並べる前に高圧洗浄かけて、皮を薄く剥いでるってよ」

 

「とにかくニンジン嫌いだから、なるべく小さくしりしりするの。ニンジンを縦に持ってしりしりしたら短いのができるでしょ。横に持つと一つひとつが長くなっちゃう。あと普通だと、ボウルの上でしりしりすると思うんだけど、わざわざ後でフライパンに移すの面倒さ? だから私はフライパンの上で直接やっちゃう。炒める時にニンジンを寄せて油を入れればいいさーね」

 

にんじんしりしりー

 

「ネギは大好きだから、どっさり入れようね。いつでもいいんだけど、このあたりで卵も割って混ぜておくね」

 

にんじんしりしりー

 

「それじゃ、ニンジンから炒めます。油はドバドバドバッっと思いっきりね! 油は大好きなの。というか、油が少ないと美味しくできない。使う油の種類には特にこだわらないよ。でも、オリーブオイルは味があるから、ニンジンしりしりには使わないかな。あとね、ベータカロチンとかいうニンジンの栄養は、脂溶性だから油と一緒に摂った方が吸収率もいいんだってよ」

 

にんじんしりしりー
にんじんしりしりー
にんじんしりしりー

 

「ニンジンに火が通ったら、次にネギ、卵と加えてスクランブルエッグ作るみたいにかき回す。そして最後に塩をパラパラっと振ったらできあがり!」

 

にんじんしりしりー
にんじんしりしりー

 

「おかずの一品としてもいいけど、私にとってはオヤツ。オヤツ代わりに食べたい。これ食べた人で『ゴハンの上にのっけて食べたい!』って言う人がいたよ(笑)」

 

* * * * * * * * *

 

油の量に驚きつつも、食べてみるとニンジンが甘くて柔らかくて、美味しいんです。ニンジン嫌いのひとも「はっ」となるはず。ベータカロチン云々のおかげなのか、揚げ物を食べ過ぎた時の胃もたれも皆無。これがなぜオヤツ感覚なのかはついぞ分かりませんでしたが、天ぷらがスナック代わりの県民性からくるものなのでしょうか。でも確かにスナックのようにずっと食べ続けてしまうので、しりしりーの手間さえ厭わなければニンジンたくさんで作っても良いかも。ニンジン余らせてる!なんて時に良さそうです。

 

文 石黒 万祐子(編集部)

 

石黒 万祐子

シャム

 

シャム

 

「トムヤムクンも日本のお味噌汁と同じで、地方や家庭によって味つけや具材が変わるんです。キュウリ入れるとかココナッツミルク入れるとか、本当に人それぞれなんだけど、うちのトムヤムクンが飲みやすいって言ってもらえるのは酸っぱさをレモンで出してるところが大きいかな」

 

飲みやすさの鍵はレモン。タイ料理の店『シャム』を営む井上康さんが言う。その言葉通り、トムヤムクンは辛いは辛いが胃をいじめない辛さ、スッキリしているから匙をとめられなくなる。

 

「トムヤムクンの酸っぱさはレモンやタマリンドという、そら豆みたいな形の果実を使って出すことが多いですね。ただ、僕はタマリンドを使ったトムヤムクンは3~4口だけ飲む分にはいいけれど、そのうちしつこくなってくると思ってて。同じ酸っぱさでもレモンはおかわりできるぐらい爽やかで、タマリンドはコクがあるといえばいいけど、少しくどさもあって…」

 

井上さんの妻、ノッコさんことタノームワンさんはタマリンドをかばうかのように続ける。

 

「タマリンドはカレーや煮込み料理との相性がいいのよ。おなかの調子を整えてくれる効果もあるし、便秘の時には乾かしたタマリンドを噛むといいの」

 

シャム

グリーンカレー 茄子は一度揚げてから入れることで食感を保つ

 

トムヤムクンが象徴するように、タイ料理はバランスの料理だ。いろんな味が一度に押し寄せるダイナミックさと繊細さを併せ持つ。井上さんはこのバランスを守ることに心を砕いている。

 

「タイ料理は辛さ、酸っぱさ、甘さを同時に味わえるのが魅力です。酸っぱさと辛さが同じぐらい強い料理とか、辛さが初めにきて後から甘さもくる料理とか、料理ごとに味のバランスがあるので、食材と調味料、ハーブをうまく組み合わせて味を調えていくんです。トムヤムクンの酸っぱさを何で出すのかって話もそうですが、甘さを出す時にココナッツミルクかパームシロップのどっちをどれぐらい使うのかとか。最後には作り手の好みというか、味覚になってくるのでしょうけど」

 

味のバランスを保つということは、言い換えればタイ本場の味をそのまま崩さないことでもある。

 

「メニューはタイの一般家庭で食べられている料理ばかりですし、味もほとんど変えていないんです。本場の味が一番美味しいと思うから。ただ、タイの人は『疲れたから激辛料理食べて元気出そう~』って言うぐらい辛さに強いし、辛いのが大好きなんですよ。汗をかくのがストレス発散なんでしょうね。ノッコも昔、故郷を思い出して『タイの辛い辛いカレーが食べたい…』って言ったこともあります。辛さへの感覚は日本人とは少し違いますけど、それは唐辛子の量を調節すれば対応できるので、ベースはタイと同じです。だからか、タイからの留学生もよく来てくれますよ」

 

辛さは和らげるものの、ゼロにはしない。外国の料理は日本人向けを狙うあまり、その国の人からすると全く別物になってしまうケースもあるが、シャムにそれは当てはまらない。

 

「やっぱり辛さも少しは出さないとバランスが崩れてまとまらなくなってしまうんです。だからカレーなのに、『辛いの一切だめだから、唐辛子は全部抜いて作って!』というようなリクエストには『それだと味がぼやけて、美味しくなくなっちゃいます』と正直に言うようにしています」

 

唐辛子をはじめとして、タイ料理ではバランスを出すためにハーブ類が欠かせない。お店の裏でミント、パクチー、バジル、モリンガ等、たくさんのハーブを栽培するノッコさんが言う。

 

「タイは暑い国だから食材を腐らせないように、昔からハーブが使われてきたのね。魚を南部から北部に運ぶのにも丸一日はかかってたの。ハーブはたくさん種類があるから、味や効果が似てるハーブの中から、どれをどれぐらい使うかが大切ね。レモングラスだって量が少なすぎたら消化を助けてくれないし、疲れも取れない。でも量が多すぎると胃がキュウウウってなってしまうでしょ」

 

シャム

 

シャム

 

ハーブや調味料、スパイスなどの適材適所を熟知し、自在に使いこなす井上さん夫妻。井上さんはかれこれ30年以上、タイ料理を作り続けている。

 

「このお店は20周年だけど、タイ料理自体はもう27年はやってるかな。初めは恩納村にあるホテルがタイ料理のレストランを始めるってことで採ってもらって。そこで通訳として来日したノッコとも出会って結婚して。それまでは中華料理をやってたし、タイ料理、衝撃でしたね。ナンプラーとか調味料からして未知で、初めはタイ人のコックから言われるまま作るだけでした。でもタイ料理は不思議と夏バテの時や風邪の時でも食べたくなるし、食べれば元気になるし、これは良いなと思ってひたすらやってきました」

 

ノッコさんも続ける。

 

「私は祖母が王室で働いていたの。お料理の毒見る係ね。おうちでもちゃんと料理していたから、舌は確かかもしれない。私が『タイのおうちではこんな風な味!』というのをしっかり再現してくれるのが井上さん。だから私たち、良いコンビよね」

 

そして、もうひとつ…とノッコさんが付け足す。

 

「あとはやっぱり愛情ね。お客さんの顔を思い浮かべて作るの。パパイヤひとつ剥くのだって、スライサーでやっちゃえば簡単だけど私、まな板も使わないでパパイヤを縦にしてトントンって切っていくの。時間はかかるけど、その方が絶対美味しいの」

 

シャム

 

 

味覚と長年の経験、技。そして丁寧さ。そうして作り上げてきた味には自信がある。だから飾りっ気は要らない。

 

「タイ料理って飾ろうと思えば凄く綺麗にできるの。カービングってあるでしょ。あの本場だから飾り切りをしたり、こねてお花みたいに作ったり。ただ、それをすると手間かかるからお値段も高くしなくてはいけない。それよりは美味しさで満足してほしいの。花ひとつペロンって載せても、お客さんも『キレイだけど食べられるのか…?』って箸がとまっちゃったりするからね」

 

シャム

 

実質本位な美味しさ。そんな2人の料理には根強いファンがたくさんいる。

 

「もうずっとトムヤムクンとチャーハンだけを19年間食べ続けてるお客さんもいるの。しかもほぼ毎週ね。お付き合いが長いから、たまに新作を試食してもらったりもするんだけど、いつも『あ、これも美味しいね』とは言ってくれるんだけど、注文するのはやっぱりトムヤムクンとチャーハンだけ…」

 

ノッコさんがおかしそうに続ける。

 

「20年やっていると、お客さんが就職とか結婚で沖縄を離れてしまうことも多いのね。だけどみんな帰省の時に欠かさず寄ってくれるの。空港から直接来て、『まだ実家寄ってないけど、とりあえずパッタイ食べたい!』とか。アイスランドに嫁いでいったお客さんも、帰国のたびに来てくれて、『このブアローイ持ったまま飛行機乗りたい~!』って言ってくれるの。そういうのもすごくうれしいね」

 

井上さん夫妻の願いは、これからも人を元気にするタイ料理を作り続けること。

 

「お店はこれからも大きくも小さくもしたくないです。この味に、お客さんがついてくれているから。ずっとこのまま続けられたら…それだけですね」

 

文/石黒 万祐子(編集部)

写真/青木 舞子(編集部)

 

シャム

 

タイ料理レストラン シャム
沖縄県南城市玉城字冨里136-1
098-948-2057
営業時間 11:30~14:30 17:00~22:00
close 月曜日、第4日曜日

 

石黒 万祐子

金月そば

 

「沖縄そばの革命を起こしたいと思って。革命じゃなくて革麺かな。沖縄そばは戦後、みんなのアイデンティティを支えてきた伝統の食ですよね。僕はさらにそこから進んで、美味しさをもっと磨いてみたいんです」

 

金月そばの店主、金城太生郎(たきろう)さんは言う。

 

一見、定番の沖縄そばのようだが、少し甘めの出汁が効いたスープにたゆたう麺をすすれば、金城さんの言葉に合点がいく。麺が強いのだ。沖縄そばには珍しく、弾むようなコシがあり、麺そのものにしっかりと味がある。この点、まるでラーメンのようでもある。

 

金月そば

 

金月そば

トロトロと骨まで食べられる軟骨ソーキを別皿で出すのは、まずスープもしっかり楽しんでほしいという心遣い

 

「ウチのそばは生麺なんですよ。普通は、ゆで麺を使うんです。僕は生麺の方が歯応えもあるし、小麦の風味がちゃんと伝わると思ってて。沖縄そば業界では、沖縄そばにはゆで麺でなくてはならないって定義もあるんですけどね。内地にいた頃、むこうの沖縄商店街では生麺の沖縄そばを出してたんです。それがすごく美味しかったし、お店を始める時に製麺所から、ゆでる前の麺をサンプルとして取り寄せて試食して、『やっぱり生麺だな!』って感じたので」

 

金月そば独特の食感と味わいは、生麺だからこそ。生麺とゆで麺の差が、ここに出る。

 

「ゆで麺は、製麺所で一度ゆであげた後、油をまぶして冷ましてあるから、ちょっと火を通せばすぐ使えて、便利ではあります。バーベキューで使う焼きそばなんかもゆで麺ですね。生麺は当たり前だけど、ゆでる時間が要りますよね。そのまま食べたらおなか壊しちゃう。だから、生麺の方が手間がかかるんですよ。『沖縄そばはサッと出てきてサッと食べるもの』ってイメージの方からすると、ウチは少し時間かかるから、面倒臭いかもしれません。それは自覚あります」

 

効率を考えれば、生麺の方がやや分が悪い。それでも、金城さんにはあえて生麺を選ぶ理由がある。

 

「おうちでは作れない沖縄そばを出したいんです。おうちではやっぱりいかに早くて簡単にできるかが大事になりますよね。あと安いのもあるかな。みんなが大好きなサン食品さんの沖縄そばなんかは、そのシンボルみたいな味だと思います。でも、せっかくお店に食べにくるのなら麺が生麺だったり、コツコツ時間かけて煮込むスープだったり、ここでしか味わえないようなものというのを基準にしたくて」

 

金月そばでは、ただ生麺というだけでなく、原料からこだわった数種類の生麺を使い分けている。

 

金月そば

 

 

「麺は3種類あります。地粉麺香り鰹そばとかゆし豆腐そばとか、スープや上に載せるものとの相性を考えて麺を合わせています。地粉麺には地元、読谷の小麦を40%ぐらい使ってますね。すべて製麺所にお願いして、特別に作ってもらってます。本当は自分自身で製麺所からやりたいんですけどね、それは近い将来に…」

 

このしっかりした麺ならば、個性的なメニューに圧されることなく、バランスを保てる。金月そばには、沖縄そば屋という枠にはおさまらないほど、多彩な創作そばが揃う。沖縄そばであって沖縄そばでないような、”沖縄そば””金月そば”があれば、ゴマの風味が印象的な坦々麺ならぬ”坦々そば”もあり、読谷村の特産品そら豆味噌を活かした”そら豆味噌野菜そば”もある。

 

金月そば

デザートのクリームブリュレ。黒糖の優しい甘みが乗る

 

「沖縄そばだから坦々麺やっちゃダメってことはないですし、こんな沖縄そばがあってもいいんじゃないかっていうプレゼンテーションみたいな気持ちでやってます」

 

沖縄そばの可能性は、どこまで広げられるのか。金城さんはそれをとことん追い求める。実は、金月そばは以前、つけ麺屋として名を馳せていた。やはりもっちりした生麺と3日間かけて作るスープが人気で、観光客にもその存在を知られるほど。

 

「今も前も、生麺で沖縄そばをやりたいっていうのは変わってないんですけどね。その頃は生麺の良さを一番味わえるのはつけ麺だと思ってて、2008年にオープンして2012年の2月までは、つけ麺をやっていたんです。内地からもたくさんの人たちが来てくれて、忙しさは半端なかったですね」

 

だが、つけ麺屋として繁盛すればするほど、金城さんは違和感を感じるようになった。

 

「僕の中では、あくまで沖縄そばの進化形として、つけ麺をやってたんですけど、『ラーメン屋?』ととらえられることが多くって。このままだと単なるつけ麺屋になってしまう、そうじゃないんだけどな…ってズレを感じたんです。それに、つけ麺はスープだけでも何種類も作らなくちゃいけなくて、忙しすぎたのもありますね。人を雇っても雇っても忙しすぎて続かなくて…。あとは、地元に根づいてなかったことも大きいです。読谷には特に親戚もいなくて、なんとなく良さそうという理由でこの地を選んだんですけど、きっと周辺の人たちからは、『よく分かんないけど移住者が来て、なんか商売してるな』って印象だったんでしょうね。でも、どんなに儲かってても、隣のおっちゃんが寄ってくれないのって寂しいじゃないですか」

 

そこで、人気店にも関わらず、いったんリセットする決意をする。それは、沖縄そばの延長線上に戻ることを意味した。

 

「思い切ってつけ麺を止めたんです。メニューをガラッと変えました。嫁さんからも、お客さんからも、もう全員から『なんで止めるわけ?』とか『美味しければ別にそれでよくない?』ってとめられましたね。実際に、いっときは客足も半減しちゃって、こんなにダメージ大きいのかって。だけど、今また僕のやりたいことが段々と伝わっていってる感じがします。地元にも認められたいという話でいうと、ここで夜に火乃鳥屋って炭火焼のお店も始めて、近所の人も飲みに来てくれるようになったんです。そこでようやく色々と話ができるようになって、『じゃ今度、お昼も食べにくるわ』という流れで、そばも気に入ってもらえたりとか。僕の方も、それまではトッピングに、沖縄そばには定番のカマボコを載せてたんですけど、地元の美味しい豆腐を使うようにしたんです。地元を、沖縄を良くしたいというのもあったので」

 

金月そば

 

金月そば

18時からは炭火焼の店、火乃鳥屋として営業。県産の鶏料理が看板メニューだ

 

今度は、地元から取りこぼさずに、地道に確実に。沖縄そば革命を広げていく。

 

「変わらず、観光客もたくさん来てくれますし、地元のお年寄りも来てくれて、『うんうん、昔はこんなそばだったんだよ』って懐かしそうに言ってくれたりもします。昔はゆで麺なんてなかったですからね。そういう意味では創作ではあるけど、伝統的な沖縄そばに立ち返った部分もあるかと思います」

 

金城さんの目指すのはラーメンでもなく、今までの沖縄そばでもなく、全く新しい立ち位置。

 

「ラーメンではないけど、今までの沖縄そばともまた違うと思ってます。『紅ショウガないの?』って聞かれたら、『ウチは針生姜にしてます』って答えますし、『スープ甘くない?』って聞かれたら、『僕は、これが美味しいなと思ってるんですよ』って答えてます。この食感だから、1年に2人ぐらいは『イメージと違う…』ってほとんど食べずに出てっちゃう方もいますね。地元の人の反応は二極化してますよ。メニュー表の裏にも、『沖縄そばの可能性を広げたい』って書いてるんですけど、それ読んで『なるほどね!』って頷いてくださる方もいれば、『こんなんいいから早く出して!』ってオーラ出してる方もいます」

 

万人ウケは狙わない。自分の信じた道を突き進む、金城さんとは何者だろう。

 

「麺好きですね。父が内地でもよく沖縄そばを作ってくれてたんですよ。僕、中学から東京に行ってて、沖縄を一度離れてるんです。ラーメン屋で働いたりして、飲食業をずっとやってきました。そこは日に600人ぐらい来る人気ある店だったんですけど、そこで働いた経験も今、いろいろと活きてますね。スープの取り方とか技術的なこともですけど、真面目にやれば真面目な反応が返ってくることを身をもって知りました」

 

 

いったん沖縄を出て、沖縄そばを客観的に見られる視点を得たことが、創作沖縄そばの発想の源となっているのかもしれない。

 

「10年前に、やっぱり僕には沖縄が良いなと感じて戻ってきたんですけど、戻ったばかりの頃は、『うちなんちゅっぽくないー』って言われましたね。色白だったのもありますけど、間とか立ち居振る舞いとかが違うって。今も、『うちなんちゅはそんなに働かないよ。この店、全然休まないよね』って言われることもあります。嫁さんからも、『休むことを忘れないで!』ってカードをもらったり。だけど、僕、やりたいことがいっぱいなんですよ。さっき言った製麺所も早く
やりたいし、いつかまた余裕ができたら、つけ麺の専門店も別でやりたいですしね。…って言ってる間に、すぐ50歳とかになっちゃうのかもしれないけど」

 

金城さんの情熱はやまない。

 

そばじょーぐーは誰でも、お気に入りの沖縄そばのお店を2~3軒は持っていて、日々ランキングを更新したり、新規開拓したりに忙しい。金月そばのそばは、その個性的な味わいから、ベスト3入りはしない異端の存在かもしれない。だが、沖縄そば談義において、『それはそうと、金月そばってどう思う?』と話題にのぼるのをたやすく想像できる。そしてきっと、『私は好き!』とか『アリだと思う。あんな麺も面白い』という声が続くことも。

 

文 石黒万祐子(編集部)

 

金月そば
火乃鳥本舗(金月そば&火乃鳥屋)
住所:読谷村喜名201番地
電話:098-958-5896
定休日:月曜日
営業時間
火曜日~土曜 11:00~15:00
日曜日 11:00~16:00

 

金月そばBlog:http://kintiti.ti-da.net
火乃鳥屋Blog:http://hinotoriya.ti-da.net

 

石黒 万祐子

グリーンリーフ

 

フルーツをふんだんに使ったスムージーが、健康に良いことは知っている。知ってはいるが、たまにフルーツ特有の酸味が胃にくることも。そんな経験から少し構えて飲めば、予想に反して、やわらかい口当たり。きちんと瑞々しいが、まろやかに仕上げられている。

 

「基本的にスムージーは筋や繊維もまるごと飲むので、つっかえるような感じがするものもありますよね。でも、私たちのスムージーは試作に試作を重ねて、とにかく飲みやすいことを第一に作りました。失敗してオェーてなったこともありますけど(笑)、ベストな材料と配分を見つけ出したんです」

 

そう話すのは、グリーンリーフのオーナー上地亮一さん・ゆきさん夫妻だ。

 

「スムージーに入れる果物や野菜は、農薬や化学肥料を使わないもの、または有機栽培で採れたものにしています。こういう育ちのものって、味が全然違うんですよ。“レモネード”に使ってるレモンも切るとフワッて、香りからして違うし、元気で力強い味がしますね。一番人気の“ベリーベリースムージー”には、質の良さで話題のトルコ産のストロベリーやカナダ産のブルーベリーを使ってます。ベリー類は有機栽培のものがなかなかないんですけど、信頼できる業者さんが見つかって、そこから取り寄せてます」

 

グリーンリーフ

 

グリーンリーフ

スムージー、ジュースとも着色料は一切使われていない

 

グリーンリーフ

 

瑞々しい味は、選び抜かれた果実がもたらすもの。では、まろやかさの理由はなんだろう。

 

「甘みのあるスムージーには砂糖じゃなく、グッと喉に詰まる感じがしないアガベシロップという甘味料を使っています。植物由来で、上白糖の1.3倍の甘さがあるのにまろやかに仕上がるんですよ。それに、摂った後の血糖値の上がり方が上白糖に比べてすごく緩やかなので、身体にも良いですね。血糖値が上がるとインシュリンが分泌されて、シミ・シワの原因にもなるので女性は気にされる方が多いんですけど、これはそういう心配もあんまりしなくていいですし」

 

それに・・・と、ゆきさんが打ち明けるように続ける。

 

「実は、豆乳が入ってるものもあるんです。豆乳って、スムージーの定義からするとあんまりよろしくないんです。豆乳はタンパク質だから、栄養を吸収する時に、酵素を取り入れにくくしてしまうんですね。でも、身体に悪いものではないし、味がマイルドになってスッと飲みやすくなるので。美味しくなくて飲めないよりいいかなって」

 

理論に縛られることなく、いたって合理的だ。さらに、上地さん夫妻の言う”飲みやすさ”には、味だけではなく、価格も含まれている。上質の素材を使う割に、スムージーはどれもワンコインでお釣りがくるのだ。

 

「ちょっと寄って飲んでくかって時は、手軽なお値段じゃないと手が出ないですよね。なので、価格も一生懸命がんばってます。たとえば、ニンジンやゴーヤのジュースなどに使う野菜は、農家さんのB品C品を仕入れてるんです。形が悪いだけで、無農薬ですし、ポストハーベストも使っていないし、味は良いものなので。それがごっそり捨てられちゃうのはもったいないというのもあって」

 

誰もがとっつきやすいスムージーには、オーガニックな暮らしの扉を開ける存在になってほしいとの願いがこめられている。

 

「このスムージーが入口になってくれたら良いですね。ココ、あえてちょっとカフェっぽい感じにしてるんですが、ドリンクだけふらっと飲みにくるのも大歓迎なんです。その10人に1人にでもいいから、『あ、ココは野菜や果物とかも売ってるんだな』って知ってほしくって。それに、『オーガニックってなんじゃろ?』って人が、スムージーを飲んで、『あれれ?なんか味が違うぞ』って感じてもらえたら、それがオーガニックの食べものについて興味持つキッカケになるかもしれないですし」

 

そう、グリーンリーフは、オーガニックの食品を中心に扱うお店だ。野菜やフルーツ、加工食品、お酒、果てはオーガニックコットンに至るまで、ゆうに1000種類以上が並ぶ。世界各国の認証機関、有機JAS(日本)、BIO(ドイツ)などが定める基準を満たしたものばかりだ。

 

グリーンリーフ

 

グリーンリーフ

大豆でできたチーズ。味は実際のチーズと変わらない。ヴィーガンのひとたちからのリクエストにより置かれることになった。トランス脂肪酸ゼロ。

 

グリーンリーフ

横文字の添加物が一切入っていないソーセージ。材料は豚肉、塩、ハチミツ、香辛料のみといたってシンプルだ

 

グリーンリーフ

抗生物質や薬品を一切与えられない無投薬で育てられた宮崎県産の鶏のもも肉

 

「『健康食品って、おばあちゃんが買うサプリとかかと思ってたよ』なんて方も覗いてくださるんですが、そういうイメージを変えたいんです。うちの店の一番の特長は、身体に良いものならなんでもあるってことですね。こういうオーガニックのお店だと、植物素材が中心になるので、肉や卵は置かないところも多いんですが、うちはありますよ。もちろん、自分の目で実際に見て、『これだ!』って納得できたものだけですけどね」

 

誰でも来やすいように間口は広く、だが、目に適ったものだけを。たまごももちろん自身で足を運び、厳しく選び抜かれたものだ。

 

グリーンリーフ

 

グリーンリーフ

 

グリーンリーフ

 

グリーンリーフ

 

「たまごは、“命卵”というんですけど、沖縄県で唯一、発酵させたエサで育ってるニワトリのたまごなんです。実際に見せてもらったんですが、鶏舎が全く臭くなくてビックリでした。ここはニワトリが口にするものは自分たちが口にするものだという意識で、自分達も食べられるような食材を使ってるんです。普通だと、エサに抗生物質とか防腐剤とか着色料とか、もういろんなものが混ぜられますからね。それに、平飼いでのびのびと育ってて。これも珍しいんですよ。狭いゲージで、身動とれない中でたまご産まされるところ、多いですから。他では、ここまで徹底した飼育方法って見つからなかったので、こちらをお願いすることにしました」

 

このようにひとつひとつ吟味された商品は、一度食べてみれば違いが分かるという。

 

「いろいろ食べ比べてみてください。オーガニックのものはニンジンひとつとっても、すごく甘くて、アクがないんですよ。だけど、オーガニックでないものは、エグミがなんか舌に残る感じがするんです。実はこれって農薬の味じゃないかと思うんです。オーガニックでもやむを得ず、農薬を使うこともあります。ただ、石灰や食酢など天然由来のものを農薬として使うので、やっぱり味が変わってくるんですよ。そういう違いを味わってほしいですね」

 

ただ、有機栽培のものは自然であるがゆえに難しさもある。安定した供給はできないのだ。

 

「この間も、農家さんに『明日、お野菜お願いできますか?』って電話したら、『ごめんなさい。虫が入って全滅しちゃった…』って言われて。農薬まいちゃえば簡単なんですけどね、無農薬だとビニールハウスに蝶が入っただけでダメになっちゃうんです。卵を産みつけられて孵った幼虫が葉っぱ食べちゃうから。だからもう手作業で虫を一匹一匹取り除いたり、手間がすごくかかるんですよ。だけど、皆さん、自分が食べて安全なものを信念持って作ってるんです。そういうものをこの店で紹介していきたいですね」

 

グリーンリーフ

ヴィーガン弁当。お客さんとのコラボ商品もある。ヴィーガンであり、常連さんでもある、平野紫映さんが作って持ってきてくれるヴィーガン弁当は生野菜が多く、酵素がたっぷり取れる。完全予約制

 

グリーンリーフ

 

自然で優しいものを身体に取り入れてほしい。そして、続けてほしい。そのための取り組みがある。瓶のリユースだ。

 

「どんなに良いものでも、価格が高かったら続かないですよね。でも、それじゃ意味がないので。このアカベシロップは、1296円なんですけど、瓶をそのまま捨てずに持ってきてもらえれば、割安で同量を詰め替えるようにしてます。アガベシロップは、オリーブオイルみたいに空気に触れて酸化しないからできることですけどね。エコにもなりますし」

 

また、ポイントカードのシステムもお客さんのためのもの。

 

「ポイントカードは、お買上げ頂いた累積総額に応じて、2%、3%、4%、5%…と、どんどん割引率が増えて、それが毎回のお買物に反映されるものなんです。しかも有効期限もなくって半永久的です。儲けを考えたら全然良くないんですけど(笑)、できる限りのことをしたくて」

 

品揃えを充実させるだけでなく、サポートも徹底的に。上地さん夫妻がここまでする理由は、オーガニックを根づかせたいから。亮一さんが言う。

 

「僕は昔から食には関心があったんですが、留学や仕事で海外で過ごすうちに、日本はオーガニック的にはずいぶん遅れてるなと気づかされて…。特に、ここ沖縄は昔は長寿県だったのに今は違いますよね。こういうお店を持つことで、地元からもう一度、食に対する意識を高められたらなと思ったんです。それで、お店をやっていくうちに、自分たちが志の高い生産者と消費者をつなぐ位置にいて、うまく循環させないと続けられないんだというのを実感したので、価格面もですけど、続けられるオーガニックを提案しているんです」

 

接客も担当するゆきさんも、オーガニックの良さは身を持って知っている。

 

「私は、気づいたらお店に立ってた!って感じです(笑) 完全に巻きこまれましたね。でも、ちょうどお店のオープンと息子の出産がカブってて、自分が食べるものは、子供も食べるものなんだって意識が出てきて、あれこれ勉強するうちに面白くなって。それに食に気をつけるようになったら、味覚も鋭くなったし、太りにくくなって、肌ツヤも良くなったんですよ。そういうのを伝えられたらなって」

 

実践あるのみで進んできた2人。だが、上地さん夫妻は、あくまで自分たちは初心者の立ち位置にいると言う。

 

「初心者が開いた、初心者のための店ぐらいに思ってるんです。実際、初めの頃は、アーモンドミルクを作りたいと言うお客さんから、『アーモンドって、そのままジューサーに入れていいの?』と質問されても全然分からなくて、必死で調べて、『それは生なら約12時間、水に浸けてからですね』とか答えてました。もう玄米の炊き方から、ひとつひとつ勉強してきた感じです。でも、だからこそあんまり専門店っぽくなくて、初心者の方にも来やすい空気になってるんだと思います」

 

グリーンリーフ

 

グリーンリーフ

 

そう、グリーンリーフには多くのひとが集まる。ヴィーガンやベジタリアンをも満足させる充実した品揃えは、オーガニック=なんとなく身体に良いものという認識を持つだけの人の興味も惹きつけてやまない。たまごや野菜、甘味料など身近なものから一度変えてみるのもいいかも・・・と思わせるのだ。

 

食に対して、決して無頓着なわけではない。いつも、それなりに成分表示や産地を気にしたりはしている。だが、どうもオーガニックという言葉を、自分のものにしていない。なぜだろう。健康を謳う人のストイックさに気後れしたことがあったからか。添加物は悪!みたいに、やたらと危機感を煽るものを見かけたことがあったからか。もちろんお財布との兼ね合いもある。

 

だが、ここでなら、オーガニックをちゃんと自分のものとしていける気がする。上地さん夫妻の姿勢は柔軟で、声高に何かを否定することもない。なにより2人の健やかな笑顔が、身に取り入れるものの大切さを語るかのようだ。

 

「『ファーストフードでシェイクも飲むけど、今日はここのスムージーにしよう、ビタミンも摂れるし』とか、『いつもの買物はスーパーだけど、週に1度はここも寄ってみるかな』とか、無理なくオーガニックのものを取り入れて頂ければうれしいです。オーガニックコットンだって、24時間全身に着られるわけはないんですよ。でも、いつものものと比べてみて何がどんな風に違うかを知って、感じてほしいですね」

 

ゴクゴク飲みやすい優しいスムージーは、グリーンリーフの親しみやすさの象徴だ。

 

文 石黒万祐子(編集部)

 

グリーンリーフ
ナチュラル&オーガニック食品のお店 グリーンリーフ
沖縄県中頭郡北谷町北谷1-8-8
Tel: 098-923-0298 Fax: 098-923-0299
Open: 10:00 Close: 19:00
定休日 月曜日
http://www.greenleafoods.com

 

石黒 万祐子

スーリール

 

スーリール

 

「パンで楽しい気持ちになれますように…と思って作ってます。たまにパンを見ながら『ププッ』って噴き出すお客様もいて、そうなるとこちらも『やったー!』って嬉しくなっちゃいますね」

 

宇地泊製パン所スーリールの店長 町田千亜希さんが言う。スーリールが目指すのは、美味しさはもちろん、面白さも味わえるパンだ。

 

「週末限定の上に、1~2個しか作らないレアな登場の“スパイシーベーコンハブ”ってパンもその一つで、見かけたらラッキー!です(笑)。フランスパンの硬い生地でリアルなハブの姿を作っているので、皆さん一瞬『何これ!』って驚かれますね。中身はベーコンとカマンベールチーズが入ってます。黒胡椒も効いてて、強烈な見た目のインパクトに負けないぐらい美味しいんです」

 

他にも、ウインナーを火星人に見立て、“囚われた火星人”と名付けられたパンや“エロガッパ”など、ネーミングとキャラ達のそれっぽい表情が笑いを誘うパンもある。

 

火星人こと、カリッとしたウインナーには、さらに香ばしく焼かれたチーズもまぶされている。エロガッパは、抹茶の練りこまれた生地にメロンパン生地で頭の皿を作られ、中にはホワイトチョコ。ひとつひとつがなんとも凝った作りなのだ。どちらも、いろんな素材の味がして、舌が忙しい。

 

「ウチのオーナーの儀間はダジャレとかお茶目なことが大好きなんです。パンに名前を付けたり、アイデアを出したりするのは、だいたい彼ですね。店名のスーリールは、フランス語で微笑みって意味なんですが、いつもどうしたらお客様が笑ってくれるか、考えながらやろうねって言ってるんです」

 

 

スーリール

人気No.1の”あんバター”は、北海道産の小豆を使用。苺の時期には”イチゴあんバター”も。

 

それにしても、パンの種類が多い。ところ狭しとパンが並ぶ棚には、ユーモラスなパンだけでなく、旬のタンカンを使ったデニッシュや、具だくさんなのが見てとれるサンドイッチなど、いわゆる定番のパンも。ひとつひとつのパンや説明書きをじっくり見比べても、どれにしようか全然決められない。

 

「今、全部で80種類ぐらいかな。とにかくたくさん置きたいので1種類につき、3~4個しか作らないものがほとんどです。品揃えも、朝と夕方で違いますし、季節の野菜やフルーツもふんだんに取り入れるので、入れ替わりも激しいですね。食べる時だけじゃなくて、パンを選ぶ時から楽しんでほしいので、いっぱい作ります。いっぱい迷ってほしいですね」

 

スーリール

 

スーリール

 

スーリール

 

スーリールでは、新たなパンがどんどん生みだされていく。そのスピードと量が凄まじい。

 

「季節とかあんまり関係なさそうなカレーパンも、春から夏にかけての短い間に“根菜カレーパン”から“夏野菜カレーパン”に切り替えたりとか、旬を感じるようにしてますね。もちろんスパイスからルーを手作りしてますよ。あとは季節のイベント…お正月やクリスマスやバレンタインはシュトーレンや干支のパンなど、当然それに合わせたパンを作るんですけど、他にもW杯の時は開催国のブラジルにちなんでシュラスコサンドを作ったり、ある美術館でピカソ展をやっていた時は、ピリ辛ソーセージとゆで卵でピカソの自画像を表現したピザパンを作ったりとか…突発的なイベントのパンもよく作ります」

 

スーリール

 

スーリール

 

スーリール

 

選びきれず、立ち尽くしてしまうほどの種類の多さ。でも、こんなにパンがあるのに、似たようなものはひとつとしてない。たとえば、クルミが入ったパンだけでも、“クルミのカンパーニュ”“クルミロール”“クルミのミルク棒”“クルミベーコン”と何種類もあるのだ。クルミのアクセントを効かせつつも、組み合わせた具や生地でそれぞれに個性がちゃんとある。

 

その個性を際立たせるために、土台となる生地も何種類も揃えているという。

 

「ハード系の生地だけでも、一般的なフランス生地、カンパーニュ生地、天然酵母を使った生地の3種類ありますね。あとはバターロール生地や菓子パン、ブリオッシュの生地とかも。クロワッサンの生地は3日間かけて作ったりと、長時間発酵させるんです。野菜やフルーツなどの具材もたくさんありますが、生地で食感の変化をつければ、より多くのパンを表現できるので、何種類も用意してます」

 

スーリール

“まんまる” 外側のサクサクしたクロワッサン生地と、内側のブリオッシュの生地の食感のギャップが不思議。棚の木目と同化するかのような見た目も個性的だ。

 

スーリール

 

面白いパンも、もちろん美味しさがあってこそのもの。町田さんも美味しいのが大前提だと胸を張る。

 

「儀間はダジャレ好きではありますが、パンを作る時は小麦粉の1g、焼き上がりの1秒の差にもこだわるぐらい物凄く几帳面なんです。一番おいしいパンを作りたいっていう情熱が人一倍ありますし、そのためのアイデアもたくさん出てくるんですよ。食感でいうなら、“クローネ”というクロワッサン生地のパンは、注文を頂いてから中にクリームを詰めるので、生地のサクサクした感じが失われないんですよ。夏に人気の、冷やしパン”ブリオッシュフロマージュ”も、通常のパンよりも卵やバターをたっぷり使って、冷やしても生地がキュッと縮んじゃわないようにしてます。そういう工夫や手間を惜しみたくないので」

 

スーリール

 

スーリール

 

スーリール

 

スーリール

 

また、今までにない味わいでお客さんを楽しませたいともいう。

 

「抹茶とサツマイモの甘露煮に、オレンジピールを効かせたパン…試食してみたら美味しいし斬新だったんですけど、どうもイマイチ人気が出なくて…。イチジクとブルーチーズのパンも甘さと塩気が絶妙で、私は大好きだったんですけど、やっぱり皆さん、味のイメージがしやすいものを手に取られる傾向があるので、この2つは涙のお別れとなりました。だけど、独創的なパンを作りたいっていうのはいつも頭にあります。まだ誰も作ったことがないようなパンも喜ばれるかなって」

 

面白さと美味しさの両立を追求するあまり、空回りすることもあるようだ。でも、決して一人よがりにはならない。

 

「ウチの店は製造部門と接客担当みたいにスタッフを分けずに、全員がレジに立つんです。パンを作る時も、売る時もあるんです。その方がお客様の反応が直に分かりますよね。そうしてつかんだ声をまた新しいパンに活かそうと思って」

 

それは決して、売れた個数などの数字ばかりを重視するというわけではない。

 

スーリール

 

「お客さんにウケが良いか悪いかはもちろん大事ですけど、たった1人でも気に入って頂けたなら、その人のために作るようなこともあります。“ミルクフランス”なんかがそうですね。あるお客様が数年に渡って、これだけを週2のペースでずーっと気に入って買ってくださってるんですよ。いらっしゃる曜日はバラバラですけど、いついらっしゃっても大丈夫なように、切らさないようにって。そういうコアな方が他のパンにも付いてるので、そんなパンはちゃんと残しますね」

 

スーリールは2009年にこの地でオープンした。その前は与那原で、ガマシバル商店という名前で3年ほど。場所や店名は変わっても、お客さんを楽しませるパン屋でありたいという想いは変わらない。そんな姿勢が、幅広い世代から愛されている。

 

スーリール

人気NO.2のふわふわ白パン。スーリールのパンはEM牛乳がたっぷり使われている。大きく焼くことでふわふわの食感を実現。卵不使用で、離乳食の時期の子供でも食べられる味と柔らかさ。

 

スーリール

 

「『この子、ここの食パンしか食べないんだよ』って、お子さん連れの方に言われた時はうれしかったですね。お子様も多いですね。ふわふわ白パンは1才前でも食べれますし、チョコでコアラの顔を書いた“コロネパン”も可愛くて人気です。抹茶生地のものや餡が入った和風のパンはお年寄りの方に好かれていて、菓子パンだけでもいろんな年齢の方に来て頂けるのが自慢です」

 

この楽しげな雰囲気に感化されるのだろうか、お客さんもパンの楽しみ方を研究しているようだ。

 

スーリール

 

「一番うれしいのは、私たちも思い付かなかったような楽しみ方をお客さんから教えてもらえることですね。“ショコラフランボワーズ”ってチョコレートのパンがあるんですが、『あれ、温めて食べるとフォンダンショコラみたいにトローリとして、すっごく美味しいからやってみて!』とか『クロワッサンにアンチョビとオリーブオイルがすごく合った!』とか」

 

ここには、週末にしか会えないパン、見た目がひょうきんなパン、季節の移り変わりを感じるパン、味わったことのない味を冒険するパンなど、遊び心にあふれたパンが豊富に揃う。ここに立って、パンをじっくり眺めていると、スーリールの名の通り、知らず知らずのうちに口角が上がっていく。そして、苦心して選んだ個性豊かなパンを口にした時、より一層の笑顔が弾けるのだ。

 

文/石黒万祐子(編集部)

 

スーリール
宇地泊製パン所 sourire(スーリール)
宜野湾市宇地泊734
098-953-7070
定休日 月曜・隔週火曜
営業時間 10:30 ~ 21:00
blog http://pangamasii.ti-da.net

 

石黒 万祐子

 

biotope

 

「ワックスとかスプレーを僕は使いたくないんですよ。あのベットリ重い感触が苦手で。湿気がすごい沖縄だと特にそう感じますね。手触りも見た目も自然なのが好きなんです。じゃあ整髪料に頼らなくても決まるスタイルって?と考えると、お客様が美容院にいる間に、僕がどれだけ作りこめるかになるんですよね。そうすれば家では乾かすだけで良いものができるから」

 

しましげおさんは2013年に、故郷の沖縄で一人っきりの美容院を開いた。それ以前は、数多くのヘアサロンがひしめく東京は渋谷で23年間働いていたベテランの美容師だ。

 

 

biotope

 

整髪料は、使わずに済むなら使いたくないのが本音。美容院に行くたび整髪料を操る美容師の指先を凝視し、勧められるまま同じものを買い、自宅で懸命にマネするも、全然違う!…という失敗が多々あるから。だが、これまでの経験から、整髪料を手にしない美容師の方が少数派の気がする。そんな稀有な美容師、しまさんが自信を持って勧めるのが、パーマだ。

 

パーマこそ、ヘアクリームやスプレーが不可欠では?と思いながら見遣れば、柔らかなカールが顔回りを品良く見せている。まるで天然パーマのような質感。思わず触れてみれば、パーマ後の髪にありがちなミシミシとした軋みもない。

 

「洗い流さないトリートメントとして、リタオイルという16種類もの植物性オイルが入ったものだけは毛先に付けていますけど、あとはもう何も。状態の良い髪なら何も付けずにドライヤーで大きく乾かすだけでも大丈夫ですよ。ずっと整髪料を使ってきたって方も、ブローやオイルだけで仕上げてみれば『これだけで十分なんだ!』とか『これから楽になるわ』って気に入ってもらえますね」

 

感触も、印象も自然なスタイルにするために、しまさんのパーマは、通常のそれよりもずいぶん手のこんだものになっている。

 

「ロッドの巻き方ですね。僕はあるタイミングで、ロッドをいったん外して、また巻き返していくんです。そうすると、カクッってならないから、この部分からパーマかけただろって見破られないような、わざとらしくないカールができるんですよ。のび方も自然で、3ヶ月経っても良い味が出ますし。これは別に僕オリジナルのやり方ではないですけど、時間や手間だけじゃなく薬剤も倍かかるから、ここまでやる人って、あまりいないと思います」

 

パーマでは、やはりダメージも気になるものだが、髪を傷ませないための工夫も。

 

「薬剤も、ソフトからハードまでレベルがあるんですが、なるべく優しいものを使ったり、機械を使って加温せずに、薬剤を温めておいて、その熱でかけたりと髪への負担を少なくして、手触りもごく自然な感じにもっていきます」

 

この触り心地の良さは、しまさんが薬剤からロッドの巻き方まで、片っぱしから試して掴んだものなのだ。

 

「前にいた店では、よくあるデジタルパーマはやってなかったんですけど、デジタルパーマで失敗して駆け込んでくる方は結構いて、触るともうすごく傷んじゃってるんですよね。その後に、クリープパーマっていうのも出たけど、それもまだ軋む気がして。エアウェーブも根元のおさまりもちょっと…。どうしたら見た目も良くて、ダメージも最小限にできるかなって考えた結論がこのパーマですね」

 

練り上げたのはパーマだけではない。全ての土台となるカットもそうだ。今まで3桁近い数の後輩たちに教えたというカットの巧さは、技術の差が出やすいショートカットで見れば、一層明らか。

 

ビオトープ

 

 

しまさんは、「この生え癖だと、こう流れませんか?」「顔型や首の長さ的には、このあたりのラインが綺麗に見えると思います」「ここの位置で締めてあげるとポンッと後頭部出ますよ」など、次々に言い当てながら、迷いなく、丁寧にカットしていく。現れたのは、綺麗な丸み。どの角度から見ても立体的なフォルムだ。このスタイルも、もちろん整髪料要らず。

 

ビオトープ

「こんなに後頭部がクッキリ出たの初めて!超絶壁なのに・・・」と喜ぶ

 

「カットで言うと、僕はセニングシザー(梳きバサミ)を使わずに、ハサミだけで仕上げていくんです。セニングで切った髪って、ダン、ダンって引っかかりが多少なりとも出るんですよね。だから時間はかかるけど、ハサミで少しずつ重たいところを取ってやれば、キレイに落ち着くんです。ショートカットって冒険ですけど、カットしたお客様には『今まで良い風になったことないけど、切って初めて良かったと思う』とか『横顔とか後ろからも褒められたよー』って言ってくださる方が多いですね」

 

1人っきりの店だが、作業効率よりもお客さんの満足度のために手間を惜しまない。だからこそ、自宅では乾かすだけで良い、楽ちんなスタイルが実現するのだ。そして、これがしまさんのやりたかったこと。しまさんは自身を“やりたがり”と分析する。

 

「たとえばカラーでも、1色だけでザッと塗るんじゃなくて、層みたいに何色も塗って表情豊かに見えるようにしたり、シャンプーも毛先と頭皮でシャンプーを使い分けたり…そういうことを思いっきりやりたくて。僕、やりたがりなんでしょうね。でも普通のお店では、やっぱり利益や効率を優先しなきゃいけないから、『そんな余分なことするなら別料金もらったら?』とか『あと5分で、そのお客様のシャンプー終えてね!』とかあるので…じゃあ隠れてやろうってこっそりやってましたね(笑)」

 

biotope

 

 

何にも邪魔されず、納得いくスタイルをイチから作り上げたい。“やりたがり”は、シャンプーなどの基本的なことにも及ぶ。

 

「そもそも『シャンプーやロッド巻くのはアシスタントの仕事だ』って言う人も多いし、立場が上になるにつれて、もうハサミしか持たなくなるってことも多いけど、僕は全部やりたいんですよ。今までの店でも、手が空いてる時は他の人の手伝いしてましたしね。シャンプーも人任せにしたくないし、髪を良い状態にするために頭皮のマッサージだって、僕がじっくりやりたいんです。まぁヘトヘトにはなるけど、『スタイリストさんのシャンプーってやっぱり違うね』とか喜んでもらえるし、もうそこから思うようにやりたいなって気持ちが膨らんで」

 

その想いが積もり積もって、沖縄に帰り、自分だけのお店を持つことを選んだ。東京よりも沖縄の方がより自由な環境が得られるから。

 

「東京だと、店舗を借りるにしてもお金が高いから、どうしても効率重視になっちゃうでしょうし、それじゃ意味ないなって。だったら沖縄戻って、イチから自分の気に入るように作ろうと思ったんです。元々、渋谷で働いている時も、同僚たちに、『しまさんって楽しそうにやるよね!』って言われてたんですけど、本当に楽しいんですよ。髪についてやりたいことはどんどん出てきますし。しかも今は全部、自分で良いと思うようにできますからね。たとえば大型店だと忙しい時は、もうみんな声張り上げちゃってて、テンション高すぎて『うわぁ…』って思うこともあったんですけど、ここなら落ち着いて、お客様の空気に合わせてできますし」

 

biotope

外人住宅のようなたたずまい。この建物を見たいと、南風原町からわざわざ自転車でやって来た人もいるほどだ。

 

biotope

 

biotope

 

しまさんの“やりたがり”は、空間づくりにも表れている。目にまぶしいほど白く、開放感あふれる建物はOKINAWA STANDARDのもの。高く縦にとられた窓からは、手入れの行き届いた庭が臨める。

 

「僕1人の店ではあるけど、座面を2つにしたのは、カップルや友人同士、親子で連れだって来てほしいなっていうのがあって。ここでお喋りしながら髪切って、そのあと食事に出かけていく…なんて使い方も良いですよね。好きなようにくつろいでもらいたいなって」

 

biotope

キッズカットも好評だ。「僕も子供が2名いるから分かるけど、子連れでヘアサロンって敷居高いじゃないですか。でも、ここなら僕しかいないし楽なのか、近所の子供たちもよく来てくれますよ。」

 

 

涼しげなプールの水面や刈り込まれた芝に目を細める。まだまだのびるという、生け垣のハイビスカスの成長も楽しみだ。内装やインテリアだけでなく、窓の風景から楽しめる美容院ってあまりないかもしれない。自然を感じながら、自然なスタイルを作ってもらう。今までの美容院のイメージが変わっていきそう。

 

パーマもショートカットも、賭けだ。決まれば、脱・無難。垢抜けたスタイルが手に入る。だけど、リスキー。今まで何度、涙をのんだことか。気づけば弱気に「傷んだところだけ切る感じで…」とか、つまらないオーダーを繰り返すことに。でも、もう一度だけ、しまさんを信じて冒険してみてもいい気がしている。この一人と一人だけの空間なら、髪の悩みや希望を切々と訴えたって、きっとあやまたず聞き届けてくれるはず。そして、すでに”整髪料が要らない”という時点で、大きなアドバンテージをもらっているから。

 

文 石黒万祐子

 

biotope
biotope HAIR WORKS(ビオトープ ヘア ワークス)
HP http://biotope-hairworks.com

 

沖縄県沖縄市池原2-15-12
098-911-8293
Open 10:00 ~ 20:00 (要予約)
Close 火曜日

 

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石黒 万祐子

LSDリノベーション

趣味のサーフィンからデザインした、サーフボートが似合う空間

 

LSDリノベーション

画家モネが好きなお客様に材質と色味で絵画の世界観を表現した家

 

LSDリノベーション

思い出の和室はそのままに、希望のレトロモダンな空間も叶えた家

 

 

「これ、全部リノベーションです。最近多いですよ。予算的に土地探しから始める新築よりコストを抑えられることがほとんどですし、長く使われた建物にしか出せない風合いを好む方も多いですね。リノベと一口に言っても、ご要望は色々なんですよ。ご夫婦そろってサーフィンやアウトドアに夢中なお客様が『趣味を満喫できる空間にして』とか、他にも『モネの絵みたいな美しさがほしい』と望む方。それから、ご両親から受け継いだ家で、『親戚が集まる仏間は残したいけれど、好きなレトロモダンな空間もあきらめられない』と言う方も…」

 

LSD designがデザインした空間には、住む人のライフスタイルが色濃く現れている。それは何かと制約の多いリノベーションでも、だ。世に全く同じ好みの人がいないように、LSD designの手がけた家にも似通ったものは一つもない。

 

代表の平良玄峰(はるたか)さんは、幅広いデザインが可能な理由を、30名いる個性的なスタッフの力によるものだと考えている。

 

「一般的な設計事務所だと、社長の色がすごく強く出るんですよね。スタッフは、その色に添ってやっていくという形が多い。でもうちはスタッフ全員に個々の色と実力があるので、僕のお客さんじゃないお客さんも多いんですよ。初めにじっくりお話して、お客さんとスタッフの個性をマッチングするので、お客さんも自分の好みを一番よく理解してくれる人に依頼できる。いろんな個の集合体なので、どんな要望にも応えられるんです」

 

LSDリノベーション

 

LSDリノベーション

 

LSDリノベーション

 

LSDリノベーション

 

個性的なメンバーが30名もいると、それぞれの得意分野は多岐に渡る。

 

「目立つところでいうと、女性スタッフはやっぱりキッチン周りに強いんですよね。キッチンに要望が多いのは、やっぱり奥様の方ですけど、それを上手に引き出してくれます。グラフィックが得意なスタッフは、設計後にデコレーションって意味でのデザインができますし、家具のセレクトやスタイリングのセンスが良いスタッフは、空間の雰囲気を作りあげるお手伝いが喜んでもらえてるかな。あとは、手続きというか、現実的なことというか、土地探しや銀行からの借り入れなどが専門のスタッフももちろんいます」

 

そして、その30名全員が共通して持っているのが、デザインへの情熱だ。

 

「なによりみんな、デザインが好きなんです。デザインのことはいつも考えていますよ。飲みに行って酔ってても、ここの天井までの高さは…カウンターの材質は…とか考えてて、もうみんなオタクですよね(笑) でも、居心地が良いお店って、単に料理がおいしいだけじゃなくって、イスの高さや照明の明るさがちょうど良いとか、他の要素も積み重なってのものなので、それを突き詰めて共有して、またデザインに活かすんです」

 

LSDリノベーション

子供たちが駆け回れるようにと、動線とスペースを考え抜いたキッチン

 

LSDリノベーション

 

LSDリノベーション

 

個性の強い面々だが、彼らをデザイン集団としてまとめているのが、LSD designのメソッド。それは、家具から始める空間デザインだ。彼らの設計はいつも、小さなお気に入りのひとつを聞くことから始まる。

 

「マグカップ1個でもいいし、イス1脚でもいい。その答えが、サーフボードなら、それが映える壁の質感は? 床の色は? それに合うイスやテーブルは?…という風に点から線を、面をつないでいけば、お客さんの望む通りのデザインができるんです。空間は小さなものから作り上げていくことで、緊密でバランスの良い空間になりますからね。これはリノベーションも新築も同じですが、リノベーションは、空間がシンプルになりやすいので、特にこだわりたいところです」

 

そんな家づくりの窓口になればとの思いからLSD designが始めた家具や雑貨のセレクトショップ『P+(ピープラス)』は、より充実したサービスを提供するために、販売だけにとどまらず、サロン的な相談窓口へと変化を遂げる予定だ。

 

「スタッフはみんなプロですから、家具や照明だけでなくて雑貨についても常に新商品をチェックしていますし、定番や名産品っていうのかな、ヴィンテージ家具や伝統工芸品の深い知識を持つスタッフもいるんです。なので、お気に入りの何か一つを聞くだけで、お客様の望む空間構成がパッとイメージできるんですよね。そんなスタッフの知識をうまく活用してほしいなって思うんですよ。家具を買って、いざ家に置いてみたら大き過ぎた…なんて失敗談もよく聞きます。家具1つ、照明1灯選ぶところから、コーヒーでも飲みながら気軽に相談してほしいです。うちのスタッフは、選んだ家具や照明がどれぐらい空間に影響するのかっていうのも、工事の中でも家具が占める予算のウェイトも一緒になって考えることができますから。たとえば照明器具なんて、ちょっとこだわって良いのを入れても実はそんなに高くないんですよ。ダイニングテーブルに、自分の好きなペンダントライトが灯るだけで食事の時間も楽しくなるとか、そんなことを伝えられる店になりたいんです」

 

空間を作るための家具へのこだわりは、その空間に合わせたオリジナル家具の製作にも及ぶ。

 

 

P+ ピープラス

 

P+ ピープラス

 

「もちろん手間は凄くかかりますが、自分たちでデザインしてしまった方が、その空間の持つ雰囲気とのズレがないですから。キッチンなんかは特に、人それぞれこだわっている部分が違いますからね。僕たちも、オーダーキッチンはやはり喜ばれていますよ。しかも中途半端じゃない、図面から引いて身長1センチごとに対応できる完璧なオーダーキッチンですから。あとは、テーブルやボードといった木などの硬いものだけじゃなくって、ソファみたいな布や革のデザインもできますよ。背もたれにクッションを入れたチェアを作ったり、デニムのパッチワークで座面のカバーを作ったり。よく売っているような学習机じゃなくて…っていう要望で、子供部屋の机を作ったこともあります」

 

家具ひとつもおろそかにしないのは、バランスの取れた空間への強い想いがあるから。

 

「リノベーションはできるだけコストをかけずにデザインする場合が多いですね。だから修繕して、外枠を整えて、内装を決めてってやっていくと、家具は最後になり、息切れしてしまいがち。でも、デザイン的には本当は家具から始めるべきなんですよね。家って、人生でも大きな買い物じゃないですか。せっかく大きな買い物をするのに、時間がないからとか値段が安いからと妥協して買った家具をポンとひとつ置いただけで、空間全体が台無しになるのは見たくないんです。ちゃんと空間全体が調和するように、モノからこだわりたいんです」

 

LSD

新築住宅や商業施設でも、シンプルなモノから広げていく、緊密でオリジナリティを大切にした空間デザインは変わらない

 

LSD

スキップフロアを駆使した、移動さえも楽しい忍者屋敷のような住宅

LSD

 

フェルメールの絵画と燦然と輝くシャンデリアの異素材がミックスした空間

LSD

 

お客さんの選んだ家具一つから求められているデザインを推し量り、個性をマッチング。時には家具までを手がけ、そのひとのためだけの空間を作りあげていく。その満足度は、その後のお客さんからも知ることができる。

 

LSDリノベーション

 

「うちには設計士や現場をやる人間はもちろん、グラフィックデザイナーや家具のアドバイザーなど、いろんな人間がいます。でも、この会社に唯一いないのが、営業マンなんですよ。お客様がお客様を紹介してくれるから、営業は必要ないんです。店舗を手がけたお客様に、住宅のリノベーションも頼まれたり、新築住宅のお客様にまた新しいお客様を紹介して頂けたり、そんな風にどんどん関係が広がって深まっていくのが一番うれしいことですね」

 

文 石黒 万祐子

 

LSD design co.,ltd (エルエスディ デザイン)
HP http://www.lsd-design.co.jp
Mail info@lsd-design.co.jp
FB https://www.facebook.com/LSDdesign.co.ltd

 

OFFICE+SHOP(P+)
宜野湾市宜野湾 3-1-2
TEL : 098-894-4282 FAX : 098-894-4334

 

SATELLITE SHOP
宜野湾市我如古 2-8-3-1
TEL : 098-943-7975 FAX : 098-943-7976

 

 

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石黒 万祐子

ペタルーナ

 

「”中毒”っていう意味の名前なんです。トリコになるように、愛されるようにって願いが”アディクション”という言葉にこめられているんですよ」

 

アロマショップ ペタルーナの屋冝さんが言う。アディクションナチュレイの石鹸は、まるで外国のお菓子みたいに色とりどり。その良い香りが店内に漂っている。

 

「初めてのお客様は二度驚かれるんです。初めは、見た感じから『これ、石鹸?』って。次に、これは100%ナチュラルのもので作っていますとご説明すると、『この見た目で自然派なの?』って。当店で扱うアディクションナチュレイの石鹸は、可愛い外見と確かな品質にギャップがあるとよく言われます」

 

ペタルーナ

 

見た目と中身の両立。それは可能なのだろうか? よく巷で耳にする、合成着色料や合成香料など…なにか人工的な力を借りなければ作れないものではないのか。この石鹸たちから連想する、カラフルなお菓子がえてしてそうであるように。

 

「色は、クレイといって自然のミネラルを使って出しています。このブルーもピンクも、ミネラルの色なんですよ。上に飾ってある粒々も植物の種ですね。安心して使える自然のもので、でもそれだけじゃなく、石鹸を眺めているだけで気分がアガったり、気持ちが安らいだりするものを…という作り手の想いで、こんな見た目なんですよ。この香りの高さも、よく驚かれますが100%エッセンシャルオイルのものなんです。ほら…」

 

石鹸に鼻を寄せてみる。確かに、今まで出会ったどの石鹸よりも強く香るが、刺激には感じない。ほわんと香りに染め上げられていくような快いものだ。

 

「香りを嗅ぐことには、いろんな効果があるんですよ。香りが脳に指令を与えて、毛穴を開き、血行を良くするので、頬をピンク色にしたり、むくみが解消されたり…。この石鹸は、アロマオイルの配合が他のものよりかなり多いので、3ヶ月ぐらいは香りが続くと思います」

 

もちろん、肌に直に触れて洗い上げていく成分も、すべて自然由来のものだ。

 

「洗いあがりが、本当にしっとりするんです。全てオリーブオイルや米ぬか、ココナッツオイルなど植物性のオイルがベースで、その天然の力を削がないように低温で1ヶ月以上かけてじっくり完成させるコールドプロセスという工程をとっています。敏感肌やアトピーの方でも安心して使って頂けるんですよ」

 

そのベースに、それぞれゴートミルク(ヤギの乳)やアロエ、シアバターなど、プラスアルファの成分を加えて、石鹸ごとの特長を出している。

 

「冬は乾燥しにくいもの、春は角質ケアに良いものなど季節によって1~2個、ラインナップに変更はありますが、常時30種類はありますね。それぞれに個性があるんです」

 

ペタルーナ

手前)催淫作用のあるイランイランも入った、
女子力に効く”パッション”と”フルール・ド・リス”

 

ペタルーナ

食べ物からヒントを得た石鹸も多い。
手前)チャイティーの香りの”チャイタイム”
手前から2個目)”チョコミントアイスのような、ひんやりした洗い上がりを
イメージした”クリームデメンテ”
右)バニラの香りの”バニラクリーム”

 

ペタルーナ

奥)ゴートミルクを配合。子供にも使える、優しい石鹸の中でもさらに優しい”ララバイ”

 

ペタルーナ

手前)活性炭が入り、毛穴をさっぱりと洗い上げる、男性からの人気も高い”デトックスバー”

 

どれも可愛くて、目移りしてしまう。肌当たりの優しさ、女子力、毛穴ケア…惹かれるキーワードばかりだ。この魅惑の石鹸は、どこからきたのだろう?

 

「これは、マーガレットさんというオーストラリアの女性が作っています。彼女は元々看護師だったんですが、アトピーで悩む旦那様のために、自分で肌に優しい石鹸を手作りしよう!と思いたったそうです。それがアディクションナチュレイのはじまりですね」

 

素材には徹底的にこだわるが、石鹸を作る着想は遊び心に富んでいる。

 

「毎年のヴァカンスで訪れる先々でインスピレーションを受けて、石鹸を作ることもあると聞きました。プロヴァンスを訪れてから作られたものもあるんですよ。ベルガモットが有名なところなので、ベルガモットがふんだんに入っていて、すごく華やかな香りがするんです。沖縄にいてもプロヴァンスの風を感じてほしいって。私たちスタッフもフランスの風景写真をパソコンで見ながら、石鹸の香りを嗅いで楽しんでます。去年は沖縄にもいらっしゃって、今は沖縄をイメージした石鹸も試作してるそうです。沖縄の人の人柄とか、景色の素晴らしさをイメージしたものだそうで、『沖縄のひとって、いつも笑顔だし、ゆったりしてるし、オーストラリアの私たちと似てるかもね』って言ってました」

 

そして、オーストラリア発の石鹸を日本に持ってきたのがペタルーナだ。

 

「当店のオーナー、伊藤がオーストラリア留学中にこの石鹸と出会って、とりこになってしまい、なんとかこれを日本で、沖縄から石鹸を広めていきたい!って情熱を持ってアピールして、ペタルーナだけならいいよとOKをもらったんです」

 

ペタルーナ

 

マーガレットさんが夫のために、伊藤さんは日本人のためにと欲した石鹸。ひとつひとつが手作りで、一度に作られる数に限りがある。そのため、オーストラリアでも2店舗、日本ではここペタルーナでしか買えない。そして今、この石鹸はアディクション(=中毒)の名の通り、とりこを増やしている。

 

「ニキビに悩まれていた若い男性のお客様に、雑菌を抑える作用のある”ティーツリー&グリーンクレイ”をご案内したんです。3ヶ月ほど経って、また来店された時には、ニキビがかなり改善されていて、『ニキビはだいぶ良くなったから、今度は乾燥に効くやつが良いな』ということで、次は保湿効果に優れた”ゴートミルク”をご案内しました。『肌の調子が良くなった!』と喜ばれたこともですが、だんだんと『次はこうなりたい!』と、いろんな希望が出てくることがうれしくって! あと、くすみとニキビに悩んでいたお客様は、デトックスバーとティーツリーのどちらの効果も欲しいと、2つをお買い上げになり、一緒に使っておられました。それぞれを半分にカットして、泡立てネットにフレーバー違いで石鹸を1つずつ入れて、という工夫をなさってたんです。これを聞いたときには、負けてられないなと感じました(笑) お気に入りのひとつを使い続けるだけでなくて、その時々のコンディションで石鹸を選ぶ方もいて、とにかくアディクションナチュレイとは長いお付き合いになる方が多いんです」

 

乾燥しやすいけれど、油断すれば吹出物も出る。最近はシワや毛穴も…と、肌の悩みは増えていく一方。でも、この石鹸なら、「治りたい…」という切実さよりも、もっと楽しみながら「きれいになりたい!」という攻める気持ちを引き出してくれる気がする。

 

ペタルーナ

 

それは石鹸そのものの魅力だけでなく、石鹸を扱うスタッフの姿勢が心強いせいもある。屋冝さんをはじめ、スタッフはいつも、ただ石鹸について説明するだけでなく、まずは、お客さんの話を念入りに聞くという。たとえばニキビで悩む人なら、ニキビになった経緯…食事や睡眠時間、ストレスなどの生活まで含めてじっくりと。もちろん、ほどよい距離感を保って。

 

「お客様が話してくださったことは、カルテにまとめて、スタッフで共有しています。いつ来てくださってもちゃんとお応えできるように。たとえば、アトピーが悪化してるお客様には洗浄力の強い石鹸は刺激になるのでおすすめしないようにということをスタッフ全員で覚えておくとかですね」

 

かかりつけ医のような手厚いフォロー。それには、こんな想いがある。

 

「最終的に、石鹸を買われなくても、スタッフとの会話だけでもいいんです。お客様の中には、乾燥肌とか敏感肌、体臭などの体の悩みだけでなく、精神面の悩みを相談される方も多いんです。でも、悩みごとってちょっと話すだけでも楽になって壁が取れるじゃないですか。お客様が、お店に来た時より少しでもスッキリして笑顔で帰っていかれれば、本当はそれが一番うれしいことなので」

 

屋冝さんは、アディクションナチュレイの石鹸に触れることで、知ってほしいこと、考えてほしいことがあるという。

 

「アディクションナチュレイの石鹸を知って頂くことで、肌に触れるもの、身体に取り入れるものについて考えるきっかけになればと思ってます。自分を守るのは自分しかいないから、ちゃんとこだわってほしいんです。最近は震災の影響で、自然のものですら安心できなくなり、かといって風評被害もあるので、本当に優しいものを見極めるのが難しい時です。でも、だからこそどんな素材を使って、自分たちが生活しているかを知ることが、とても大切なんです」

 

ペタルーナ

ペタルーナが独自に、月桃やモズクなど沖縄の素材を活かして作った石鹸もある

 

ペタルーナ

 

ペタルーナ

 

ペタルーナではオーガニックにこだわったアロマオイルや化粧水、クリームなどの製造なども手がけている。その中には、ACOというオーガニックの厳しい基準をクリアしたものもある。

 

「この”オーガニック”という言葉も、なんとなく肌に良さそうと言う方が多いのですが、認証機関によって基準が違うんです。アディクションナチュレイが生まれたオーストラリアは日本よりもオーガニックが進んでいて、ACO(Australian Certified Organic)という団体が、商品をオーガニックだと認証する基準はとても厳格です。たとえば、最低3年以上、農薬を使わない畑で栽培するといった条件ですが、オーガニックとは何かとかを詳しく知って頂きたいですし、そこから自分の心と体を健康にするためにどうしたらいいのかを考えて頂きたいんです」

 

この真摯な気持ちは、お客さんの話を聞く姿勢や店内の居心地にも表れている。なんとはなしに石鹸を見ていたつもりが、つい長居してしまうお客さんも多いそう。

 

「このお店、そのうち公民館みたいになるんじゃないかって(笑) お店で過ごす時間が、皆様とても長いんです。いろいろ話しながら石鹸を見る時間ももちろん、そこからさらにハーブティーを試飲して頂いたり、イスに座ってくつろがれたり、雑誌を読んでいかれたり…初めは15分ぐらいの滞在だったのが、今もう1時間ぐらいはいらっしゃるかも」

 

ペタルーナ

 

ペタルーナ

 

悩みを訴えて、散々迷い、私は”スパバー”をチョイス。やたら乾燥しやすく、いつもお風呂からあがる頃には既につっぱりを感じる肌も、手入れをする前まで、ずっとしっとりが保たれたまま。なにより、どこか南の島を想わせる香りが、お風呂だけでなく家全体に広がっていた。

 

ひとつの石鹸が肌を、空間を、意識を変えていく。肌への本当の優しさとは何なのか。表示成分を見たりして考えて取り入れることは大切だけれど、ただ無香料だとか、無着色だとか、地味なモノではつまらない。アディクションナチュレイの石鹸は、自然由来にこだわりつつも、香りも、見た目も、すべてに妥協したくない、欲張りな私たちのための石鹸だ。

 

文 石黒万祐子

 

ペタルーナ
アロマショップ ペタルーナ
HP http://www.petaluna.com

 

ペタルーナ 新都心本店
沖縄県那覇市天久1-26-23 絆ビル1F
TEL : 098-861-5166 FAX :098-861-5177
年中無休
10:00~20:00(平日)、11:00~20:00(土日祝)

 

ペタルーナ 国際通りカーゴス店
沖縄県那覇市安里2-1-1 カーゴス国際通り1F
TEL :098-988-4521
年中無休
10:00~21:00

 

ペタルーナ 北谷サンセット店
沖縄県北谷町美浜9-39-1F(デポアイランド向い)
TEL 098-989-9989
年中無休
11:00~21:00

 

石黒 万祐子

MAUA

 

「花は、私にとっては絵の具なんです。ずっとキャンバスの上で絵を描いてきたから、それと同じ感覚ですね。いろんな色の組み合わせをするのがすごく好きで、楽しいんです」

 

造花を使ったアクセサリーのブランド MAUAの咲乃さんはいう。アトリエに並んだ花たちは、色に何より惹かれる。どれも、鮮やかさや艶やかさを消した、けぶるような色。このままもう少し時が経てば、ドライフラワーへと変わっていくような気配をまとう。また、組み合わせの妙で、褪せた色、くすんだ色が合わせられると、不思議に華やかさをもたらす。

 

MAUA

 

MAUA

 

「他のひとはしないような色使いかもしれない。でも私の中ではアリなんです。普通のアクセサリーじゃ物足りないってひとには喜ばれてるかな」

 

普段使いするひとはもちろん、ブライダルハウス大手のヘッドドレスでは満足できなかったひとも、MAUAを求めてくる。

 

MAUA

 

MAUA

 

「昔はバスケ部で、実は体育会系で」と快活に笑う咲乃さんと、このアクセサリーたちがすぐには結びつかないのだが、この色彩感覚はいつ身につけたのだろうか。

 

「小学生の頃、母が24色のペンを買ってくれたんです。たくさんの色があるってことがうれしくて楽しくて、いろんな色の組み合わせをして遊びました。特に、グレーと紫は合う!グレーとピンクは合う!って、グレーって地味な色だけど意外にいろんな色に合うな、カッコいいなと驚いて。今でもグレーは大好きです。アクセサリーを作る時にもよく使いますね」

 

小学生が、グレー。渋い好みだ。そして、その感覚を確かなものにしたのは京都での暮らしだという。

 

「原色よりも中間色の方が好きですね。私、沖縄から出て、京都の美大に行ったんです。沖縄では太陽が真上から射すから、原色が綺麗にピカピカあふれてる。でも京都の光は中間色をきれいに映し出すんです。四季の移り変わりも美しく、曇り空さえも情緒的に見えて……。京都に住んでいた時、初めは原色しか使えなかったのに、そのうち白く濁った色やくすんだ色が使いやすくなったんです」

 

学生時代に描いたスケッチブックを見せてもらうと、やはり色使いに特徴が見てとれる。

 

MAUA

 

MAUA

 

「花なら、元気な時の花じゃなく、くたっとして、失われはじめた瑞々しさに惹かれます。古いものや錆びたもの、色褪せたものが好きなんです」

 

しっかり培われた色のセンスがあるから、後はひらめき。計算ではなく、直感で花々をいじりながら、作り上げる。

 

MAUA

 

MAUA

 

「初めは、作り方も、花の名前すら知らなかったんですよ。多分ホットボンドを使うんだろうなってぐらいで。初めに花を卸してもらったお店にも『どうしたら私はここで花買えますか?』って逆に質問したり、何も分からず始めて。でも先入観がないから、自由に作っていけるのかも」

 

そう言いながら、咲乃さんは花をちぎり、組み合わせていく。本物の花を扱うような手つきだ。

 

「造花って、100円ショップにもありますよね。だから安っぽく見えてしまいがちですが、それはいやで。でも、造花なら、気に入らない花でも自分で組み替えればいい。花びらを減らして、リボンや羽、レースを合わせたりと、生花にはできない組み合わせができるんです。そうしてディティールを変えていくのが楽しいですね」

 

そう、どうしても造花は生花には敵わないという思い込みがあった。だが、確かなセンスと表現力があれば、むしろ生花以上に高められて、表情豊かに咲くのだ。

 

MAUA

 

咲乃さんがMAUAを始めたのは、友達の結婚式で見たある光景がきっかけ。

 

「新婦と、そのお母さんと妹がそろって、お手製のヘッドアクセサリーをつけて入場してきたんです。それを見た瞬間、すごくときめいて、わさわさして。『あっ、これやりたいな』って、手に汗が出るぐらいドキドキして、沖縄に帰ってきてからもドキドキして。それまで10年間、絵を描いてはいたけどくすぶってた自分がいたので、これだけはちゃんと始めよう、動いてみようって」

 

MAUA

 

そして、今。MAUAで花を触っている時間が一番幸せだという。色を組み合わせて遊んでいた少女がそのまま大きくなったような雰囲気だが、ここに至るまでは悩みもあった。

 

「ずっと絵を描いてきたけど、売ったことはなくて、社会で循環されてない自分っていうのが苦しかったんです。でも、MAUAで自分の作ったものが、ひとの手に渡って初めて、誰かの喜びになったんだと思ったらすごくうれしくて。それまでは、自分のためだけに作っていたけど、それを誰かが良いと思ってくれたことで、自分が救われたというか…」

 

MAUA

 

MAUA

 

MAUAには、たくさんの花という意味がある。

 

「実は私、歌手のUAが好きなんです。大好きなUAがスワヒリ語で花っていうのは知ってたから、それに複数形のMAをつけたら、たくさんの花って意味になったので、これはもってこいだ!と思って。この花のアクセサリーで、たくさんの笑顔の花が咲きますように‥って」

 

たくさんの花々が、髪を、胸元を、バッグを飾る。品の良い存在感を匂わせて。

 

この花がいい、この花はあまり…と好みはあれど、花すべてを嫌うひとはいないように思う。でも、いかにもな花をコーディネートに足すのは難しく、ちょっと気恥ずかしい。そんな人にも、MAUAなら浮かず、寄り添ってくれる。花は大好き。だけど、あからさまなのは嫌。欲ばりな私たちにMAUA、たくさんの花を。

 

 

文 石黒 万祐子

 

MAUA
MAUA マウア (アトリエ)
ブログ:http://maua.ti-da.net
インスタグラム:http://statigr.am/mauauam

 

 

【取扱店】
COQU コキュ

住所:沖縄県宜野湾市新城2-36-12
定休日:水曜・木曜
HP:http://coqu.ti-da.net

 

石黒 万祐子

モンマルトル

 

「フランスの本屋では、料理本はアートのコーナーに置かれているんですよ。街ではシェフが、アーティストみたいにサインをねだられることもあります。フランス料理は、見た目の美しさも食材の組み合わせ方も、アートですね。そんなフランス料理を、肩肘張らずに普段着で楽しんでほしくって」

 

これが、ビストロ「モンマルトル」のオーナー、植村愼太朗さんがお店を開いた理由だ。

 

 

料理がアート? 一度味わってみれば、きっと誰もがその意味を理解する。

 

モンマルトル

『サーモンマリネと帆立貝のタルタル サラダ仕立て ビーツのヴィネグレットソース』

 

モンマルトル

『フランス産フォアグラのキャベツ包み蒸し
ラビオリ仕立て 黒トリュフ風味 カプチーノ風』

 

アートといえば、分かりやすいのは見た目の美。確かにどの皿も、ソースの一滴の置かれ方にさえも意図が感じられる。
特に、目を奪われたのは、「サーモンマリネと帆立貝のサラダ」。彩りと形の繊細さは、フォークを入れるのをためらうほど。

 

透明なお皿も、海の幸を味わうにぴったりの風情。フランス料理といえば真っ白な丸皿のイメージだが。

 

「その土地の特長あるものと上手く調和させるのもフランス料理なんです。だから器も、ここ沖縄の、やちむんを使ったりもしますよ。紅茶はやちむんでお出ししています」

 

 

 

また、食感が新しいのは、「フランス産フォアグラのキャベツ包み蒸し」だ。キャベツを一口噛めば、想像もつかなかった脂の旨みが艶やかに弾ける。

 

食感もアートになるのかと驚く。

 

「実は、これ、蒸しているんです……」

 

植村さんが打ち明けるような口ぶりで教えてくれた。

 

「蒸すという調理方法は元々、東洋のものでね、フランス料理にはなかったんですよ。2~30年前に、鬼才と呼ばれたアラン・サンドランスが三つ星レストラン『ルカ・キャルトン』で取り入れたのがきっかけだったんです。テリーヌもポワレも脂を落とす調理方法なのに対して、これは脂をまるごと包み込む。全てを味わえる小籠包のような面白みがありますね。そこに、さらに僕のアレンジを加えて、カプチーノ仕立てにしています」

 

また、これは植村さんのスペシャリテでもある。スペシャリテとは、季節に応じて作られるシェフの得意料理、その店で味わうべきものの意味。スベシャリテも納得の、植村さんの個性と自信を感じる一皿だ。

 

モンマルトル

『特選国産牛フィレ肉のソテー フランス産フォアグラのポワレ
季節の野菜添え トリュフソース ~ロッシーニ風~』

 

 

見た目の美しさや食感も確かにアートだが、なんといっても味にこそ、アートを感じたい。メインに据えられた「牛フィレのソテー」は、その期待を裏切らない。

 

「これには贅沢に、世界三大珍味のうち二品、フォアグラとトリュフを惜しみなく使っていて、ソースはトリュフとマデラ酒とフォン・ド・ボーを煮詰めた伝統的なソースです。フランス料理には『ロッシーニ風』と付く料理が多いんですが、これもその1つですね。ロッシーニというのは作曲家ですが、大の食通としても知られていて、彼の愛した料理ということです」

 

モンマルトル

 

モンマルトル

『ズワイガニと白身魚のクレピネット包みロースト
エピス風味 シェリー風味のジュ・ド・クリュスタッセ 森の木の子たちを添えて』
貴重なクレピーヌ(豚の網脂)を使って炙り焼きしている

 

アートの域にまで昇華された植村さんの料理。それを引き立たせるワインにも、もちろんこだわりがある。店に並ぶワインのほとんどが、農薬を使わずに育てたブドウを自然発酵させたヴァン・ナチュールだという。そう言われれば赤色が少し薄く、香りもほのかだ。

 

「できる限り、自然な形で作り上げられたワインは、酸味やクセもそのまま残りますが、果実本来の味わいを楽しめますよ。それに、二日酔いになりにくいんです。もちろん僕も、料理に化学調味料を一切使わないし、料理もワインも優しさにこだわっています」

 

植村さんが、「僕の右腕でもあり、左腕でもある」と信頼を寄せる、ソムリエ兼店長の依田さんが集める充実のセレクト。ワインだけでも楽しめるようにと、店は、毎夜21時からはワインバーとなる。

 

モンマルトル

『アミューズ・ブーシュ ~自家製パンに島豚のリエットを付けて~』
天然酵母を使った素朴な味わいのパンと、肉の力強さが活きたリエット

 

植村さんの料理は、一皿一皿に使われる食材が見た目よりもずっと多い上に、たった1皿を完成させるために何工程もかかっている。添えられたソースでさえ、何種類もの材料を、何時間もかけて煮詰めていく。惜しみない手間の賜物だ。

 

「奥深いでしょう? これこそが僕がフランス料理に魅せられた理由なんです。1つ1つの細やかな積み重ねが1皿になっていくというのが……。手順だけでなく、料理方法も幅広いですよ。例えば、フォン・ド・ボーひとつとっても、骨を焼く・焼かないから始まって、焼き加減や野菜は何を、どれぐらい入れるか……と、実に千通りもの作り方があるんです。どうやって1皿を作りあげていくかが本当に深くて、しかも正解はないんです。終わりもない。面白いですね」

 

モンマルトル

 

モンマルトル

日本では、ここでしか味わえないティー・バイ・テ。アール・グレイ、ダージリン、ブルー・リラックスの3種

 

また、料理方法だけでなく、背景や歴史にも魅せられるという。

 

「その料理が、どんな経緯で生まれた料理なのかを知れば知るほど面白くって。先程のロッシーニもそうですが、歴史上の有名人の名前もどんどん出てきますよ。ナポレオンがロシア遠征の際に作らせた料理なんていうのもあったり…」

 

その口調からは、フランス料理への深い愛を感じるが、植村さんがフランス料理人の道を歩み始めたのは、それ以外の理由もあった。

 

「僕の父は、中華料理の料理人だったんです。料理人の家ということもあって、食卓にはいろんな料理が並んでいましたね。ただ、毎日帰りは遅いし、父から漂う油の匂いも嫌いでした。でも、僕も18才で進路を考えた時に、他人より自信を持てることって、やっぱり味覚しかなかったんです。給食でも外食でも、使っている食材やダシが当てられたんですよ。でも、そこはまだ18才で、父親への反発や、カッコよさそうという理由で中華でなく、フランス料理を選びました。もちろん、色々食べ歩いた中で『フランス料理が一番美味しい!』と感じたのもありますけど」

 

タカマツ、キハチ、ビストロダルブル……都内の有名店で修業を積み、25才の時に本場のフランス料理を学ぶため、パリへ渡る。

 

モンマルトル

季節のチーズの盛り合わせ。チーズにも季節があるのだとか

 

「フランスの料理界には、求人募集の貼り紙なんてものはないんです。紹介か、自分自身で売り込むしかない。だから、あちこちのレストランを食べ歩いて、自分でも『美味しい!』と思えたレストランで、食事後に『シェフを呼んでください!』とシェフを呼びだして、直に雇ってほしいとお願いしました。そのために『シェフを呼んでください』のフレーズだけは、日本にいるうちに完璧に言えるようにしておいたんですよ」

 

そこは、パリで最も忙しいとされる人気のお店「レガラード」人手はいくらあっても足りず、運良く採用となったが、それからが苛酷な日々だった。

 

「技術よりも、言葉の壁が想像以上でしたね。日本にいる間も語学学校には通っていたんですが…。でも中学3年間、英語を学んだって喋れないし、それと同じかもしれませんね。悔しかったですよ。同僚に、『あのジャポネ(=日本人)のせいだ!』と言われても、何も言い返せないし、厨房でポツンとすることもありました。もう1年目はノイローゼになりかけました……」

 

だが、目指したフランス料理を身に付けるまでは帰れない。植村さんは懸命に努力した。

 

「フランス人は凄くクセのある字を書くので、解読するために、店で処理済みの伝票を持ち帰って読んだり、会話で分からない単語があれば、ノートに書いておいて後で調べたり、空き時間に語学学校へ通ったり、とにかく必死でした。そのお蔭か、1年が経つ頃には、『ジャポネの洗い物は洗わないぞ!』と嫌がらせされても、まだ手つかずの皿もまとめて洗い場に投げ込んで、『洗えよ! 洗い物を洗うのがお前の仕事だろう!』と怒鳴り返すぐらいには成長しましたね(笑)」

 

そして、植村さんに最も大きな影響を与えたピエール・ガニェール氏に師事することとなる。ピエール・ガニェール氏はミシュランの三つ星を獲得し、その独創的な料理から、厨房のピカソと呼ばれているシェフだ。各国に店舗を展開し、世界中に根強いファンを持つ。

 

「ガニェール氏の元で働けたのは、運も良かったですね。彼は、画期的な食材の組み合わせをするんです。たとえば、普通は海のカキとフォアグラを合わせるなんて想像つかないでしょう? そういった発想やセンスにすごく影響を受けました」

 

モンマルトル

 

モンマルトル

 

多くの収穫を得たパリでの修業を終え、帰国後は、東京のオザミトーキョーで8年間働き、沖縄へと活躍の場を移した。なぜ、沖縄だったのか。

 

「妻が那覇出身で、沖縄は馴染み深い場所でした。ブセナテラスから誘いもあり、沖縄行きを決意したんです。それに、地方から美味しいものを発信したいとも思って。日本では、どうしても東京中心ですが、フランスでは、パリ以外の地方にも三つ星のレストランはたくさんあって、美味しい食事を求めて人が動くんですよ」

 

実は、沖縄はフランス料理を表現するにはうってつけの場所なのだという。

 

「“テロワール”という言葉が、フランス料理にあります。その土地の、特色ある食材をうまく活かすという意味ですが、沖縄はその点で恵まれていますね。まず、沖縄と南フランスは、太陽の恩恵を強く受ける気候が似てるんです。野菜も、良く言えば力強い、悪く言えばエグミがありますが、南フランスの料理の再現がしやすいです。それに、沖縄は海の幸も良いですよ。たとえば、ウニは、北海道のバフンウニよりも沖縄のシラヒゲウニの方が甘くて、美味しいぐらいです。魚だって、『白身ばかりでブヨブヨしてる』なんて言う人がいますが、うまく料理すれば、内地の魚よりずっと美味しいです。また、トリュフなどはフランスから輸入するんですが、沖縄は羽田空港からの便数が多く、地方の中でも有利な条件が揃っていて、毎日新鮮な食材が手に入ります」

 

ブセナテラスでは、国際会議の場で各国首脳に出す料理を手がけるなど、腕をふるっていた植村さんだが、そのうちに危機感を覚え始める。

 

「このままでは日本のフレンチはダメになると思って……。日本では、フランス料理ってイタリアンみたいには浸透してないでしょう? ブセナテラスでは、どうしても記念日などの特別な料理しか作れない。敷居の高い場所じゃなくて、もっと気軽に、日常的に味わえる料理をやりたくなって。だから、ビストロです」

 

そんな想いから、2012年12月、那覇市真嘉比に「モンマルトル」をオープンさせた。モンマルトルは、植村さんがフランスで住んでいた思い出の土地だ。

 

「初めは不安でした。周りからも『沖縄でフレンチなんて流行らないよ!』って散々言われたんです。でもフタを開けてみれば、お客様がたくさんで。僕の願い通り、地元の方が気軽に来てくださるのが一番嬉しいですね」

 

モンマルトル

 

植村さんは、どの場所にいても、追い求めていることがある。

 

「僕のテーマは、“記憶に残る料理”なんです。家族や恋人、友達と楽しい食事をした時って、料理はただ、『美味しかったね』だけで終わってしまいがちですよね。そうじゃなくって、『あの時の、あの料理がまた食べたい!』と覚えていてもらえるような料理を、僕は目指しています。そのためには五感に訴えて、強く印象を残さないといけない。だから味覚、視覚、嗅覚はもちろん、紙包みを手で破って中の物を食べるなんていう、手の感覚を使うような料理も作っているんですよ」

 

フォアグラの包み蒸しや、フィレ肉のソテー・・・初めにつまんだパンにいたるまで、しっかり記憶に残っている。いろいろ、次々に出てきたのに、そのすべて、またあの味に会いたいと鮮明に思い出し、焦がれる自分がいるのだ。

 

アートとは、表現で感情を動かすことだとしたら、植村さんの料理は確かにアート。五感を揺らし、刻みこんで離れない。

 

モンマルトル
le Bistro Montmartre (ビストロ モンマルトル)
那覇市真嘉比1-1-3 エリタージュK 1階
(2階に3台分 駐車場あり)

098-885-2012

OPEN
Lunch 11:30 ~14:00(L.O.)
Dinner 18:00 ~21:30(L.O.)
Wine Bar 21:00~24:00(Close)

 

CLOSE  月曜日

 

HP http://montmartre.ti-da.net
FB https://www.facebook.com/bistro.montmartre

 

 

文 石黒万祐子

 

石黒 万祐子

PUZO

 

PUZO

 

「チーズケーキを極めたいんです。チーズの旨みを最大限活かすのはもちろん、チーズひとつから、こんなにいろんな種類のケーキが作れるんだってことも魅せていきたいですね」

 

沖縄県内初のチーズケーキ専門店「PUZO Cheese cake celler」オーナー 野間謙策さんの夢だ。

 

ショーケースをのぞけば、色も形もさまざまなチーズケーキたちがズラリ。約30種類のレシピの中から常時15種類ほどが並ぶ。慣れ親しんだチーズケーキらしいチーズケーキもあれば、名前と外見からでは、味の想像がつかないようなものもある。あれは、これは、一体どんなチーズケーキなのだろう…? 胸が高鳴る。

 

PUZO

「プレミアムチーズケーキ」

 

PUZOの一番人気は「プレミアムチーズケーキ」だ。チーズの豊かな恵みをしっかり感じさせつつも、後味はすっきりと爽やか。チーズという食材は、それだけで存在感があるもの。重たければ胃にもたれるし、軽すぎてもつまらない。だからこの稀有なバランスに、心惹かれる。

 

「オーストラリア産の上質なチーズを使っています。世界各国のチーズを取り寄せて試作したのですが、これが僕たちの求めているチーズだったんですよ。クセが少なく、取っつきやすいながらも、すごくコクがあるんです。これを、ミキサーに頼らず、手作業で混ぜていきます。その方が空気が入ってなめらかになるので」

 

「チ―ズケーキはなんか重たい気がして…」というあの人へ、意識改革にと差し出すのも良いかも。

 

PUZO

「マンハッタンの恋」

 

さらにコアなチーズケーキ好きを虜にしているのが、ニューヨークチーズケーキの「マンハッタンの恋」だ。口に入れた瞬間、どっしりと濃厚なチーズに満たされていく。これほど力強く厚みのある味ならば、紅茶やコーヒーはもちろん、シャンパンやワインに合わせても、きっと負けない。

 

「デンマーク産の、こってりしたチーズを使っています。酸味があって、インパクトのあるチーズですね。以前は、万人ウケを重視してオーストラリア産のチーズだけを使っていたのですが、チーズケーキ党のために、もっと濃厚で、チーズくさいぐらいのチーズも加えたくなって。これも、また各国から取り寄せた中から選びました。『マンハッタンの恋』というのは、マンハッタンで恋人たちが食べさせ合ってるようなイメージです」

 

フォークを入れるも、なかなか上手く切り分けられない。そうそう、今までの経験則から、濃密で旨みが凝縮されたチーズケーキほど、フォークにくっつきがちで綺麗に食べられないことを知っている。これを恋人同士で食べさせ合う・・・官能的ですらある。

 

PUZO

「紅茶のチーズケーキ」紅茶の香ばしさが良いアクセントになっている。

 

PUZO

「SWEET紅ぽてと」沖縄名物 紅芋のほっくりした甘みを堪能

 

「極み!レアチーズ」

 

PUZO

「チーズモンブラン」

 

PUZO

「クッキー&クリーム」

 

 

チーズケーキの専門店である。もちろん、全てのケーキにチーズが使われているのだが、ひとつひとつの際立つ個性に驚く。こうなると、チーズケーキの可能性は、もはや無限のように思えてくる。この、+チーズのアイデアは、どこから湧いてくるのだろう?

 

マネージャーの難波広之さんが打ち明けるように教えてくれた。

 

「ひらめき方はスタッフによって違うと思いますが、僕はカフェめぐりが大好きなんです。そこでスイーツを食べた時に、これにチーズの要素を入れて組み立て直せないかと考えるんですよ。たとえば、美味しいプリンに出会った時にひらめいたのが、チーズプリンの『三つ星プリン』ですね」

 

スタッフが試作を持ち寄り、商品化を検討する会議は、想いと想いのぶつけ合い。PUZOが最も熱くなる時だという。そして、いったんGOサインが出れば、あとは試行錯誤の日々となる。

 

PUZO

 

PUZO

『小禄ロール』毎日12時と16時に店頭に並ぶ

 

「小禄ロール」を提案した野間さんもいう。

 

「『小禄ロール』は僕のアイデアです。どこでも人気のロールケーキを、PUZO流にチーズで解釈してみたかったんです。しっとりやフワフワなど、世間にはいろんなロールケーキがありますよね。僕たちはフワフワのロールケーキを作りたくって」

 

しかし、この小禄ロール。商品開発の過程でこだわり過ぎ、お店のオープンと同時に店頭に並ぶはずが、間に合わなかった。

 

「生クリームの量と生地のフワフワ感が、どうしても譲れなくって。僕たちは生クリームも、チーズに負けない存在感がある動物性脂肪のものを使っているので、量を入れ過ぎるとしつこくなってしまうんですよ。ほど良い配分を見つけ出すのに試作を繰り返しました。フワフワの生地も何度もやり直しましたね。材料をボールに入れて、混ぜて、混ぜて、ここだ!と止めるタイミングを、感覚でつかむために。混ぜる回数って本当に繊細で、1、2回で変わってしまい、焼き上がりに影響するんです。結局、納得いくものができたのはお店のオープンから3ヶ月を過ぎた頃でした。でもお蔭で、1日2回、焼き立てをお出しするのですが、ほぼ毎日完売です」

 

小禄ロールは、食べ方にもコツがある。冷蔵庫から取り出したら、そのまま10分待つ。この間に生地がふわりと良い感じに落ち着き、もっとも美味しい食べ頃となる。辛抱強く、待ちたい。

 

 

チーズケーキの専門店という、磁力が高い場所のせいか、スタッフは、チーズケーキが大好きで、志の高い人ばかりが集まっている。飲食店の求人には人が集まらないと言われるようになって久しい。だが、PUZOにそれは当てはまらない。

 

「募集をすると、電話が鳴りやまないこともあるんです。みんなチーズケーキに並々ならぬ情熱を持っていて、僕が気圧されるぐらい(笑) 面接なのに『どんな作り方してるんですか?』『材料は何使ってますか?』とか、こっちが逆に質問攻めされることもあるんです」

 

 

そんなチーズケーキ大好き集団を束ねる野間さんも、チーズケーキに対しては人一倍、思い入れがある。

 

「カフェで頼むのは、必ずチーズケーキと決めています。母がお菓子づくりの好きな人で、小さい頃にスフレのチーズケーキをよく作ってくれたんです。それが美味しくって……。僕にとってチーズケーキは、昔からずっと身近にあるものですね」

 

野間さんは飲食業界で長年働くうちに、自分が一番好きなもの、チーズケーキを提供する店をやりたいと考えるようになる。そして、満を持して、2012年6月に泊店がオープン。続いて、2013年8月に小禄ラボ店もオープンした。

 

「実は、最初はまだ迷いがあって、一度パスタサンドとチーズケーキの店を出したんです。でもチーズケーキだけが飛ぶように売れちゃって……もう潔くチーズケーキだけを、とことんやろう!と決めました。カフェ併設も少し考えましたが、その分の力もチーズケーキづくりに注ごうと、テイクアウトのみの店にしたんですよ」

 

チーズケーキづくりに全てを賭けると決めたら、ブレなくなった。今は、ひたすらチーズケーキを極める日々を送る。

 

「チーズケーキって、自宅で作る人も多いですよね。それを代わりに僕たちが焼きますよというような親しみやすい定番のものから、ちょっとコレは家ではできないという面白いものまで幅広く提案していきたいですね」

 

そして、チーズケーキに構えず、もっと気軽に日常に取り入れてほしいという。幼い頃の野間さんが、母の作るスフレに対してそうであったように。

 

「チーズケーキはデコレーションケーキみたいな見た目の華やかさはありません。でもだからこそ、特別な日のものでなく、ちょっとしたごほうび感覚で味わってほしいんです。もちろん、根っからのチーズケーキ好きで、『イベントの時だってチーズケーキがいい!』という方向けに、ハロウィンのチーズケーキやクリスマスのチーズケーキなんかも期間限定で出していますよ」

 

 

PUZO

優しい味わいの「チーズスフレ」
小さい頃の野間さんを虜にした味を再現

 

また、野間さんは、あくまで“街の”チーズケーキ屋でありたいという。出店する際は立地にもこだわった。

 

「街の駄菓子屋さんみたいな存在になりたいんです。なので、お店を出す時は子どもたちがいそうなところ、学校の近くを探しました。おしゃれで、開発の真っ最中という地域も一応は見たんですが、やはりピンとこなくて。小禄店は、目の前がソロバン塾のバス停で、夕方は子どもたちでにぎやかになるんですよ。スタッフと子どもたちがワイワイ話しているのを見ると、ここを選んで良かったなって」

 

想像すると心温まる光景だ。それは、野間さんのもう1つの夢のはじまりでもある。

 

「僕は、鹿児島は肝付町というところで生まれ育ちました。最近、ロケットが題材の『宇宙兄弟』という漫画の舞台にもなったんですが、ロケットを飛ばせるぐらい何もない、すっごい田舎なんですよ。信号も10機もなかったかな。でも、みんなが顔見知りというのが心地良いし、温かいんです。誰に会っても絶対に挨拶するし、何をしていても、どこの誰なのか、絶対に知られてるんですよ。今もあまり変わっていませんね。そんな中で育ったので、上京した時は他人との距離感に驚きました。ここ那覇だって、僕からすれば都会です。でも、ここにも僕が育ってきたような、いつもそこにある、ずっとそこにある場所があれば良いなって思うんです。小さい頃からあったお店が、大人になっても残ってると、なんかホッとできるじゃないですか」

 

いつものお店は、安心感につながる。さらに、そこがいつも美味しいチーズケーキを提案し続けてくれるのなら、刺激的でもある。安心と刺激が両立する空間。愛されるに決まっている。

 

チーズケーキ専門店とは、ドレスコードのあるパーティに似ているかもしれない。「青色を効かせた格好で」とか「どこかに花を取り入れて」と言われたら、その中でめいっぱい趣向を凝らし、楽しむ。限られた中だからこそ、光るセンスや解釈がある。そして洗練されたひとならば、コードさえも自由に操って、オリジナルの印象を強く残す。PUZOにとってチーズは“しばり”ではなく、能動的な“手段”。見るも楽しい、味わうも嬉しいケーキをいくつも魅せていくためのものなのだ。

 

次は、チーズと何が出会うのだろう? どこの国のチーズが呼び寄せられるのだろう? もう、目が離せない。

 

 

写真・文 石黒 万祐子

 

PUZO

 

PUZO
PUZO cheese cake celler(プーゾ チーズケーキセラー)
★小禄ラボ店
那覇市宇栄原1-15-1 1F
098-857-4680
10:00~20:30
年中無休
FB https://www.facebook.com/pages/プーゾチーズケーキセラー小禄ラボ店/157628107762927

 

 

★泊店
那覇市泊1-20-14 1F
098-911-1430
11:00~19:00
年中無休
FB https://www.facebook.com/Puzochizukekisera

 

 

石黒 万祐子

オークレープ

 

あれっ? なんだか生地がプルプルしている。クレープってこんなに弾むものだっけ?

 

「モチモチでしょう? 米粉100%なんです。米粉は食感が良いだけじゃなく、クセがないので、中身に包んだ生クリームやチョコレートの味を引き出す力もあるんです。小麦粉よりも油を吸わなくて、米粉そのものに甘みがあるので砂糖の量も抑えられるし、体にも優しいんですよ」

 

種明かしをしてくれたのは、O‘CREPE(オークレープ)店主の比嘉司さん。弾力の正体は米粉だった。そういえば、お菓子やパンなどで米粉入りと謳ったものは多いけれど、100%米粉使用は、なかなかないかもしれない。

 

「米粉100%なら、小麦粉アレルギーのある人でも安心して食べられます。米粉については、もっと極めたくて、今、日本穀物検定協会の米粉食品指導員という資格を取ろうと月イチで上京して勉強中なんです」

 

もっちりとした米粉の確かな歯応えに、キャラメルソースが掛かった生クリームのふんわり優しい口当たり。そして、香ばしいクランブルのカリカリという歯ざわり。生クリームとキャラメルソースだけの、いたってシンプルなクレープなのに、色んな食感がある。

 

「生クリームは3種類を混ぜて作っています。試行錯誤して、風味豊かで形も作りやすい独自の配合を見つけ出しました。それからトッピングには、フロランタンを焼いた時のはじっこを砕いて使っています。普通だとコーンフレークやアーモンドを使うんですよ。でも、この方が食感も面白いし、何より美味しいので」

 

オークレープ

クレープは、キャラメルクランチ、チョコチャンク、自家製ティラミス、季節のフルーツと4種類。

 

キャラメルクランチのクレープには3つの異なる感触があった。チョコレートのクレープはどうだろう。

 

「チョコチャンククレープの“チャンク”は塊という意味ですが、塊のままだと硬過ぎて生地から浮いちゃうんです。かといって、溶け切ってしまっても食感がつまらない。なので、溶けるか溶けないかの絶妙なタイミングを見て、お出ししています」

 

モッチリ生地に、とろっと溶けたチョコ。まだ硬く噛みごたえのあるチョコ。そこに、ときどき添えられたふんわり生クリームを足す。

 

チョコのクレープもキャラメルクランチと同じく、たくさんの食感を持っていた。その、舌で感じる表情の豊かさから、司さんのクレープへの強い思いをうかがい知る。

 

「僕はスイーツなら、なんでも好きなんですが、学生の頃に国際通りで食べていたチョコだけのクレープがすごく美味しくて忘れられなくて……。お店にはケーキや焼き菓子も置いていますが、なかでもクレープには特に思い入れがありますね」

 

オークレープ

カボチャタルト。生のカボチャを裏ごしして作っている。

 

司さんがパティシェの道に進むきっかけとなったのは、家で食べるおやつ、母の手作りの味だという。

 

「幼い頃、母がたまに作ってくれるレモン皮が入ったチーズケーキが美味しくて、甘い物が大好きになりました。でも、しょっちゅう作ってもらえるワケではないし、お菓子をホイホイ買い与える家でもなかったので、それなら自分で作っちゃおうというのが原点ですね。小学校の理科の実験で、べっこうあめを作りませんでしたか? 初めはそういうべっこうあめやホットケーキなど、簡単なものばかりでしたが、お菓子づくりが本当に楽しくて楽しくて。気づいたらパティシエになっていたという感じです」

 

スイーツが好きすぎて店を開くまでになったということか。どれほどの甘党なのかを奥様のわかこさんが教えてくれた。

 

「お店を開く前に、クレープの研究と称して、2人で1日に10軒ものクレープ屋さんを回って食べたんです。クレープ10個ですよ! 私は途中で気持ち悪くなりました。だけど彼は、最後まで嬉しそうに食べ続けていました(笑)」

 

司さんも続ける。

 

「本当は僕、1日3食全てスイーツでも良いぐらいです。でもそれはさすがに栄養的に無理なので……」

 

打ち明ける口ぶりは心底残念そう。ただならぬスイーツ愛を感じる。

 

オークレープ

 

オークレープ

 

O‘CREPEにはクレープの他にも、そそるケーキと焼き菓子がいくつも並ぶ。そしてその全てが夢見るような可愛さをまとっている。パティシェとはいえ、男性である司さんが、ここまで女心をくすぐるものを作れるのはなぜだろう?

 

「スイーツ好きの気持ちは誰より分かるつもりです。でも、女性の皆様にも喜ばれるようにということでは、妻の意見を聞くことが多いですね。男の僕だけでは思いつかないアイデアをくれるので」

 

そう、O‘CREPEのスイーツの美味しさに、さらなる魅力を足しているのは、妻のわかこさんなのだ。

 

「この間は、ざくざくっとした大きいクッキーをリクエストして置いてもらいました。セサミストリートのクッキーモンスターが食べてるみたいなのがいい〜!って。クッキーひとつにも世界観があったら楽しいかなって」

 

オークレープ

 

オークレープ

 

わかこさんの提案はランチメニューにも生かされている。

 

「私からお願いして、ランチに7種類の野菜と3種類の豆を使った栄養満点のスープも加えてもらったんです。外食だとどうしても栄養が偏りがちになるので、一杯で栄養が補えるようなものを…と」

 

心遣いは、メニューだけに留まらない。店の飲料水には、光龍水という健康に良い水を使い、店内の一角には空気を浄化し、リラックス効果の高いとされる炭を敷き詰めた。優しさにこだわる背景には、わかこさん自身の苦い経験がある。

 

「私は元々ウェディングプランナーをしていて、今はブライダル科の講師をしています。多忙な日々の中で、26歳の頃に一度、ひどく体調を崩してしまったんです。それからはアーユルヴェーダ、マクロビ、玄米食、断食を習ったり、アロマやリンパ健康管理士の資格を取ったり、健康に良いと聞けば片っ端から試しました。でも、いろいろやり過ぎて、混乱してしまって。ある健康法では良いとされている食材が、別の健康法ではダメと言われたりして……。そんな時に救われたのが、断食を習った先生からの、『好きなものを食べなさい。なるべく地産地消でね』という一言です。また気持ちが楽になって、食を楽しめるようになりました」

 

地産地消を実践すべく、県産アグーを使ったサンドイッチや、本部産のアセロラや宮古島のハイビスカスを使ったジュースなど、なるべく沖縄県産のものを取り入れるようにしているという。

 

オークレープ

ランチメニュー「県産アグーのBLTサンドセット」
フォカッチャは自家製。ミニスイーツは日替わり。

オークレープ

 

そして、美しいものが大好きという、わかこさんのセンスがいかんなく発揮されるのが店内のインテリアだ。わかこさんはプリザーブドフラワーのディプロマの資格を持っている。華やかな世界にいるからこそのセンスで集められた花々やアンティークが空間を彩る。わかこさんの作る世界観に惹かれて、空間目当てに来るという人も多い。カメラサークルの人が写真を撮っていったり、美容院のディスプレイの参考にしたいと美容師が見に来たり。

 

「可愛いのはもちろんですが、癒やしの場所、大人の女性が落ち着けるように心がけました。イメージは“森で遊ぶ少女”です。お花が大好きなので、ドライフラワーのアーチには一番こだわっています。こんなにたくさんドライフラワーを使ったものって、あまりないんじゃないかな。アンティークにも目がなくって、どんどん増えてしまうんです」

 

オークレープ

 

O’CREPEのOは、人と人をつないでいきたいという願いからきている。

 

「いろんな人の出会いの場にもなれたらと思って、店内でウェディングのイベントや作品展をやることもあるんです。店の名前は、Oを丸の形に見立てて、美味しいスイーツで人と人を結ぶ店にしたいという想いを込めて付けました」

 

もちろん司さんも想いは同じだ。

 

「僕は沖縄の“ゆぃまぁる”という言葉が大好きなんです。幸せって結局、人と人とのつながりの中にしか生まれないと思いますし、一生かけて取り組んでいく仕事にそれを取り入れたくて。僕の作ったものを食べて、“お”だやかで“お”おらかな気持ちになってほしいというOでもあります。美味しいものにはそういう力があると信じています」

 

オークレープ

 

オークレープ

 

司さんの語り口は穏やかだが、確かなビジョンが伝わってくる。

 

「彼、口調が丁寧でしょう? 私の家族からはホトケって呼ばれてるんです(笑) 自分の母親にもすごく丁寧な口調で話すんですよ。お店は、ほとんどの時間を彼1人で切り盛りしているので、メニュー表にも『マイペースな店主ですが、ゆったりとした気持ちでお待ちくださいませ』なんて但し書きしてるんです。それも含めて、ここでのんびーり過ごしてほしいですね」

 

わかこさんが微笑みながら言葉を添えた。

 

文 石黒万祐子

 


sweets cafe O’CREPE(オークレープ)
沖縄県那覇市松尾2-6-12 2階
098-868-3113
open 11:00~20:00
close 水曜日・第2・第4火曜日
(その他、不定休あり)
http://ocrepe.ti-da.net