柿渋と琉球藍の青。柿渋と草木の緑。 色合わせで柿渋の世界を広げる染め作家、新垣志保(あらかきしほ) 

 

新垣志保

 

「アホみたいに時間がかかります」

 

苦笑いを見せるのは、柿渋染め袋作家の新垣志保さん。1枚の布を染めるのにおおよそ半年の時間をかけるという。

 

「もう、何回染めてるのか回数はわかんなくなるくらい、、染め、干し、染め、干し、染め、干しの作業を繰り返すんです。深みや色の濃さに満足いくまで延々と続けます」

 

 

手間の多さに気が遠くなる。けれど、ただ染めの作業を重ねれば、納得がいく色が出るわけではないと言う。

 

「早く色を出したくて何度重ねて染めても、ダメな時はだめで。酸化が進まないと色が出ないんですよ。それで、失敗したと思って、あきらめてしまっておくんです。すると、しばらくしてその布が出てきて、『なんていい色〜』ってなることも多いんです。かなりの時間忘れていないとその色は出なくって。

 

染めた布を『待つ』ことと、一度自分から『離す』ことが大事なんだと感じています。離すというのは自分の意志から離すんです。全部思い通りにやりたくなっちゃうんですけど、そこから離す。自分がしている仕事と、勝手に起こっていく反応があるんですよね」

 

柿渋で染められた布はぱっと見、みんな土色だ。けれど並べて見ると焦げ茶、赤茶、黄みがかった色などそれぞれ違うことに気づく。

 

志保さんが指を指しているところは銅とかけ合わせて出た色。

 

「茶色に変化をつけたい時は、金属を掛け合わせる『媒染』という工程を加えるのですが、ここでかけ合わせる金属によって、色に違いが出るんですよ。例えば、焦げ茶色は鉄とかけ合わせて出ている色です。少し赤っぽいのは銅ですね。チタンとかけ合わせると、他より黄みがかった茶色になるんです」 

 


媒染の工程。染め用孫の手でかき混ぜながら。柿渋布をチタンとかけ合わせている。

 

志保さんは、柿渋染めを軸に活動している作家である。「軸に」というのは、時には琉球藍や草木、化学染料などでも布を染め、柿渋染めと組み合わせた作品に仕上げるからだ。

 

「柿渋ってだいたい色相が決まっているんです。質感とか特性を活かそうとすると他の作家さんと作品の雰囲気が似てきて、個性を出しにくいんです。自分の作品に、人の作品との違いを見いだせなくなってしまった時期があり、このままじゃダメだなあと。そこから、藍色が似合うなとか緑がかいいなといったふうに柿渋に似合う色を探し始めたんです。天然染料って、ひとつひとつすごく性格が違って、染め方がひとつひとつ違うんで、全部一緒にやると全部中途半端になるなと。それで、軸はちゃんと決めておこうと思ったんです」

 

志保さんが軸を柿渋染めを選んだ理由は、シンプルだ。

 

「初めて柿渋で木綿のキャンバスを染めた時に、風合い、色の展開共に一点の曇りもなく、『うん。ずっとこれが好きだった』と強烈に思ったんです。その気持ちを大事にしようと思いました」

 

布合わせのインスピレーションになっているのは、家の向かいの建物であったりする。

 

「畑とかでよく見かけるトタンの小屋とか好きですね。それぞれのトタンの色の抜けるスピードがずれてて、パッチワークみたいになってるんです。意外とああいう色って、染めで出そうとしてもなかなか出ないんですよね。あの古びた金属の風合い、ずっと気になっています。
それから、パソコンの内部にある機械基盤の色のバランスや配線の感じも好きです。子どもの頃読んだ絵本とか、地図とか航空写真、動物の模様なんかもヒントになりますね。実際に、地図を切り取ったようなものを作ってた時もありますよ」

 

新垣志保

柿渋と琉球藍や、柿渋と顔料に藍をかけ合わせたり、と1枚の布に何色も染め重ねたりすることも。

 

作品づくりの企画、型作り、パーツ選び、縫いまで全てを志保さんは自ら行なう。

 

「誰かにお願いするという発想がなくて。自分は染物屋だと思っていたんですけど、染めた布はカバンになるといいだろうなと、縫い始めたんですよね。それもまた楽しくて。これを専門の方に縫ってもらって、きれいなラインで仕上がったら、またぜんぜん違うイメージになると思うんです。でも、少しまぬけな方が自分らしいなと思って」

 

デザインによっては、縫い終えたバッグを染めることもあれば、染めてから縫うこともある。染め重ねた布は、固すぎて針が通らないほどになる。

 

縫ってから染めているバッグ。部分的に染まり方に変化がでて、それも味になる。

 

「柿渋って、縮んだ繊維をそのままぎゅっと固定するような力があるんです。一般的に繊維って洗うと縮みますよね。本来なら戻っていくけど、柿渋染めの場合は戻らないんです。元に比べ10%くらい縮んだままなんです。だから、縫う時なんか針が通らないくらい布が固くって。あらかじめ穴をあけておいたりしてましたね。最初の頃はミシン針がバキバキ折れてました(笑)。そんなこともあり、染めすぎてバリバリになっちゃった場合は、布を重曹に浸けて柔らかくしたりします」

 

志保さんは、決して見ためだけを重視した作品づくりはしない。彼女の考える鞄は「道具」であって、飾り物ではないからだ。

 

「使い始めてがっかりされるというのがすごく嫌なんです。使えば使うほどいいねっていうのは、やっぱり使いやすさの部分だろうなって。なので、丈夫で機能的なものを作りたいです。例えば、ポケットをつけるにしても、チャックを付ける位置や向きをしっかり考えます。その結果、チャックが斜めにつき、かわいい見ためになる。そんなのが理想ですね」

 

新垣志保

 

志保さんが柿渋染めに出会ったは、お母さんの習い事がきっかけだった。

 

「私が高校の頃、母が染めと糸つむぎを習い始めたんです。そんな母を見て影響を受け、県立芸術大学の染織科織物コースに進みました。でも、やりたいことと向いてることって違うじゃないですか。すっごく向いてなかったんですよ(笑)。数かぞえたり、計算したりするのすごく苦手で。何センチ幅の布を作るために縦糸を何本入れるとかを計算して織る課題があったんです。その計算が間違っていたらしく、皆が細い布に仕上がってるのに1人だけ太い布ができあがってたり(笑)。織りは、一番好きだったことでもあるし、一番苦手だったことでもあるんです。で、結局、大学は辞めてるんです」

 

その後、芸術療法の勉強や福祉の仕事を経験し、再び染めの世界に戻って5年が経った。志保さんは、いつかは「織り」も作品に取り入れたいと目標を立てている。

 

 

「織りもやっぱり好きなんです。染めだけだと、できることって限られてきます。単色で染めたり、模様をつけたり。織ったら出てくる色って、その意外性が楽しいんですよね。その糸も自分で染められたらどんなに嬉しいか、、、実はもういっぱい糸を買ってあるんです。その布を、作品の裏布としても使えたらいいなと。でも、柿渋染めがまだ修業中なので、あまり手を広げすぎずに、織りは当分、こっそりと趣味としてやっていこうと思っています。これは先の長い目標です(笑)」

 

新垣志保

 

 

志保さんは決してやみくもに世界を広げているわけではない。あくまでも柿渋で染めた布を活かすため。制作している「今」だけでなく、使っていく「未来」のことも人一倍考えている。

 

「時間が経った方が柿渋染めは素敵なんです。それと響き合う色を合わせますし、長い年月を共に生き残れる裏布やボタンを選びます。柿渋染めの布が命を全うできるように」

 

 

 

新垣志保(あらかきしほ)工房名 KU-TA(クータ)
hiyokomame432000.ti-da.net

 

 

ーー取扱い店ーー

 

和睦郷里
沖縄県名護市大中1-8-9 1F
0980-50-9952
10:00-18:00
close 日曜
http://wabokukyouri.ti-da.net

 

aterlier+shop COCOCO
店舗 : 沖縄県南城市玉城當山117
駐車場 : 沖縄県南城市玉城當山124
090-8298-4901
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定休日:火・水 +不定休
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