CASBAH(カスバ)ヘルシー志向とジャンク志向の橋渡しに。間口は広く、でも本物を。


 
CASBAH(カスバ)のヴィーガン・ハンバーガーを食べた男性が言った言葉を、
サヨコさんは忘れることができない。
 
「今まで食べてた肉って一体何だったんだろう?
そもそも、肉を食べる意味ってあるのかな?」
 
ヴィーガンスタイルを貫く店であるにも関わらず、
その日、ケチャップやマヨネーズたっぷりのハンバーガーが並んでいた。
「ヴィーガン・ジャンクをコンセプトにメニューを作ったんです」
使っている素材はいずれもヴィーガン仕様だが、
味はかぎりなく本来のそれに近づけている。
 
ヴィーガンとジャンク、
対極にあると言っても過言ではない二つのスタイルを融合させる目的とは?
CASBAH(カスバ)プロデューサーのAZZAMI(アザミ)さんと料理長のサヨコさんに伺った。
 

 
(AZZAMIさん)「オープンしたのは昨年8月です。
この辺一帯を活性化する目的としてKOZY CENTRAL(コージーセントラル)が建てられたのですが、その中に食事ができるスペースも入れようということでCASBAHが誕生しました」

 
どのようなコンセプトの店にするか、誰に店を任すのかを考えたとき、ヴィーガンスタイルのレストランを経営していたサヨコさんに白羽の矢が立った。
 
「最初からヴィーガンスタイルの店にしようと決めていたわけではなかったのですが、サヨコさんの存在を知って是非お願いしたいと思いました。
彼女はずっとこの街でお店をなさっていたし、15〜6年という長い間、ご自身もヴィーガンスタイルで生活なさっていましたから」

 
(サヨコさん)「それまでやっていた店を閉めて新たに自分の店をやりたいと思っていた時期だったので、ちょうどタイミングが合ったんです」
 

 
メニュー決めも調理も基本的にはサヨコさんが担当しているが、仕事で県外や海外に赴くことの多いAZZAMIさんも、沖縄滞在中は積極的にキッチンに立つ。
 
二人が最初に開発したメニューは「ヴィーガン・マヨネーズ」だった。
 
「今でもよく覚えているんですが、東京・沖縄間でSkypeしながらマヨネーズを開発したんです。
 
パソコンの前でAZZAMIさんが材料や分量を指示して、沖縄にいる私が指示通りに作って試食する。その様子を見てAZZAMIさんが『じゃあこれをもうちょっと足してみよう』とまた指示を出して……
 
それですごく驚いたんですけど、ヴィーガン・マヨネーズなので卵を使ってないのにきちんと卵の味がするんですよ。
私は長年卵を食べていなかったので味を覚えてなかったんですが、できたマヨネーズを食べて思い出したんです。『あ!卵の味ってこんなだった!』って。
 
素材や調味料を足していって味見しながら味を構築していくということは一般的によくやるんですけど、目の前にそれがなくて味見もできないのに、パソコン見ながら頭で考えて味を構築していくことが可能だなんてと、それが一番衝撃的でしたね」

 
使う素材は完璧なヴィーガンスタイル、でもテイストはジャンクを目指そうという方向性をAZZAMIさんから示されたとき、サヨコさんは目の覚める思いがしたという。
 
「ヴィーガンをずっとやってると、どんどんそぎ落とされていく感覚があるんですね。味よりも素材重視になってきて、素材さえよければ味はあとからついてくるんだからと、素材の味こそが一番重要だという考えになっていくんです。同じような食のスタイルのみなさんは、大体同じ考えだと思います。
 
でも、そうやって私たちが普段とっている食事を他の方が食べると、どうしても『物足りない』、『見た目が素朴過ぎる』という声が出ます。
そのとき、『野菜料理なんでこういうものなんです』と言い切ってしまうと、両者の距離はどんどん離れていってしまいますよね。
 
本当にヴィーガンが必要なのはむしろ、普段ジャンクフードを食べている人たちです。彼らには身体にいい食材で作った食事をぜひ食べてほしいのに、味が物足りないからと食べてもらえない。そこに矛盾が生まれてしまうんです」

 
「新鮮かつ良い素材を使ったヴィーガン料理でありながら、テイストはジャンクでいこう」
AZZAMIさんはサヨコさんにそう提案した。
 
「それを聞いてすごく感動しましたし、新たな価値観を見出した気がしました。
それまで『素材さえよければ味が素朴でもいいじゃないか』という立ち位置にいたのが、一瞬にして違う場所に立てたんです。意識が切り替わって、『すべての人に満足してもらう』という料理の原点に戻ることができました。
 
それまでは調味料と言えば塩、塩さえ入れてればいい、素材の味を引き出すから…と考えていましたが、AZZAMIさんの話を聞いてマヨネーズやケチャップも作ってみたい!と思いましたし、実際にできあがったものは個人的にも刺激的でした。
つまり、ヴィーガンでつくるジャンクに私自身が目覚めたんです」

 
ヴィーガンジャンクのメニューの一つにハンバーガーがある。
 
「ピタパンにキャベツの千切りとブラウンレンズ豆で作ったベジハンバーグを挟み、そこにオリジナルのケチャップやマヨネーズを合わせる。
マヨとケチャップを合わせてオーロラソースも作ったし、ヴィーガン・照り焼きソースも作りました(笑)。
 
イメージとしてはモスバーガーのようなリッチなソース。
 
他にも、ピクルスを混ぜてタルタルソースにしたり、豆腐を使ってディップを作ったり」

 
ハンバーガーを食べたお客さんから出たのが、冒頭のセリフだ。
 
「今まで食べていた肉ってなんなんだろう?」
 

 

 
AZZAMIさんが普段仕事で手がけるのは食に関することだけではない。
 
「もともとはファッションデザイナーとしてキャリアをスタートさせました。
今はファッションとプロダクトデザインを。ステーショナリーをデザインし、老舗の文具業界の活性化をはかったりもしています」

 
沖縄に個人的な深い縁を感じていたAZZAMIさんは、カフェをプロデュースすることになる以前から沖縄でやりたいことがあった。
 
「20年近く全国ベスト1〜5位以内にあった沖縄男性の平均寿命が、2000年に一気に26位にまで下がるといういわゆる『沖縄クライシス』『26ショック』が発生しました。
沖縄は、30〜40代の心筋梗塞率、糖尿病率は全国トップ、小学生の肥満率も男女共にトップ。しかも果物・野菜の消費量はワースト1位。果物と野菜を食べていないということです。
 
沖縄は長寿県、健康大国なんていうけれど、それはおじいおばあの世代に限った話。その世代がごそっと抜けたから、男性のランキングにクライシスが起きたというわけです。
日本におけるファーストフード第1 号店は、東京より8年も先駆けて沖縄にオープンしていますし、人口あたりのコンビニエンス数も飲食店数も全国トップ。
要は外食天国なんです。だから肥満が多い、そして長生きできない。
 
沖縄は観光立県と呼ばれますが、海や空にばかり頼ってはいられないと思うんです。食にも力をいれないと」

 
AZZAMIさんは企画書を作って各所をまわったりもしたが、危機感に対する温度差やスピード感の違いから、企画が採用されるまでには至らなかった。
 
「そんなときにサヨコさんに出逢ったんです。彼女はヴィーガンを15〜6年もやっている。そんな日本人に会ったのは初めてでした。
マクロビは割と長くやってる人がいるんですよ、でもヴィーガンはいない。
だからまさに先駆者、第一人者なわけで、そういう意味では沖縄の宝なんですね、彼女は。
外食やジャンクフードに舌が慣れちゃってる沖縄の人たちをヴィーガンの世界と結びつけるということをずっとやってきた人。
 
そこに僕がずっとやりたいと思っていた『沖縄の残念な環境をプラスに変える』という要素を組み合わせ、『ヴィーガン・ジャンク』というコンセプトを打ち立てたんです」

 
本土よりもはやく、そして深くジャンクフードにコミットしてきた沖縄で、現状を否定してゼロからやりなおすのではなく、現状を受け容れ、それをベースとして新たな世界を構築する。
ヴィーガンとジャンクを結びつけるという無謀とも思えるようなAZZAMIさんのコンセプトは、サヨコさんという強力なパートナーを得てCASBAHで具現化されている。
 

 

 
また、食の楽しみかたについても二人は模索し、新たな提案を続けている。
 
「例えば、フードパーティーというイベントを行っています。ヴィーガンの食材を使って曼荼羅などの絵画を描く。作っている段階もお客様に見て楽しんでいただき、出来上がった瞬間に食べていただくんです。」
 
「AZZAMIさんは下描きもせずに見事なオリジナルの曼荼羅を描くので、これにも驚かされました。アーティストの一面もあるんだなって」
 
「フードパーティーの目的は食を楽しんでもらうこと。
ヴィーガン・ジャンクというコンセプトによってヴィーガンへの間口を広げているわけですが、フードパーティーはさらにその手前の、いわば入り口です。

純粋に楽しんで頂ければそれでいいので、手づかみで食べたっていい。外国人だと子供をかかえて曼荼羅の真ん中ら辺にある食材を取らせたりしてますよ(笑)。そういうのって楽しいじゃないですか。そうやって野菜のおいしさを心から楽しんでもらいたいんです」
 
沖縄は孤食(家族とともにではなく、一人で食事をとること)率も全国トップ。
そういう環境や食に対する県民の姿勢に一石を投じたい気持ちもあるという。
 
「サヨコさんがある日、『こどもの料理教室をやりたい』と提案してくれたんです。大人じゃなくてこどもに料理を教える。
楽しいと絶対記憶に残りますよね。例えば自分が作ったご飯をお父さんとお母さんに食べてもらったら子どもはすごく喜ぶし、いくつになってもそういう記憶は消えないと思うんです。
その企画について話しているとき、サヨコさんが言ったんですよ。
『もし親が忙しくて食べることができないのなら、ここに持ってきてくれたら私たちが一緒に食べます』って。
その言葉にすごく感動したんですよね」

 

 
「健康維持のためにとか病気を治すために…って考えながら食べると、どうしても頭でっかちになりがちです。本来食べるという行為はもっと楽しいもの。
AZZAMIさんがよく『刺激』というワードを使われるんですが、
例えば、家族そろってあたたかい雰囲気のなかで食べることも刺激、
使ったことのない食材を自分で調理してっていうのも刺激、
ありきたりのインスタント食品でも、うつわを変えればそれは刺激。
そういう何らかの刺激を交えながら食事をすることが、食の楽しさの原点だと思うんです」

 
自身の子育ての経験も交え、サヨコさんは語る。
 
「フード曼荼羅もまさに五感にうったえる刺激ですよね。そういう刺激に一番鋭いのが子どもたちです。
『これは健康にいいから』とか『からだに必要だから』なんていうと、その言葉だけで食べたくなる。
『手伝いなさい』とか『やってよ』とか言うと、とたんに嫌がっちゃう。
 
おなじ野菜でも可愛いお皿に入れて出したらぺろっと食べたりするし、にんじんを星形に抜いたり、ウィンナーをたこさんにするのも刺激。
本当にちょっとしたこと、意識の持ちようで子どもは変われると思うんです。
 
そういう刺激の一つとして、学校でも料理教室でもいいから、簡単な料理を子どもたちに作る機会を与える。作った料理を食べた誰かが喜んだり褒めたりしてくれたら、それはまさに最高の刺激なんですよね。
小さい時にそうやってどこかで刺激を受けてさえいれば、例えその後何年も料理をする機会がなくても、何かのきっかけ、例えばフライパンを手にしたり、昔食べた料理を口にしたりした時に小さいころの記憶がまたふっとよみがえるんですよ。
どんなに長い時間も、小さい時にまいた種がきっかけで埋め合わせすることがができる。
でも、経験がまったくないともうどうしようもないんですね。
そういう変わるきっかけ、引き戻るきっかけになるような経験を促して、小さいうちから種まきができればと思っているです」

 

 
AZZAMIさんは現在の住まいがあるアメリカで、食に対する価値観の違いに何度も驚かされているという。
 
「3世代みな料理をつくったことがない家庭とかあるんですよ。娘はもちろんお母さんも作れない、おばあちゃんも作れない。だから家族みな肥満で。
じゃあ何を食べるかというと、月曜から金曜まではピザ屋のデリバリー。信じられないけれどそういう生活を普通に送っている。そして土日はレストランに行って外食。
作ることを知らなければ、肥満になることは避けられません。
 
そういうアメリカの現状を打破すべく、ミシェル・オバマ大統領夫人が2010年、子どもの肥満撲滅を目指して「レッツ・ムーブ」プロジェクトを始めました。身体を動かし、学校給食を見直し、こどもに料理を教える。そのプロジェクトに国が乗り出したんです。
また、ジェイミー・オリヴァーというイギリスの料理人もアメリカで給食改善運動を大々的に行い、大きな話題になりました。

つまり、2010年はアメリかが食の見直しに入った元年なんです。
一方、沖縄は?
 
アメリカの風習が日本で最も早く定着した土地なのに、その場に留まったまま。新たなアメリカの動きはまったく入ってきていないんですよ。僕はそこに危機感を感じています。
 
沖縄では肥満も増加しているし、学校給食も見直す必要がある。
そう強く感じていたときに、サヨコさんが子どもの料理教室を提案してくれました。アメリカ大統領夫人が提唱していることと同じことです。そこにすごく感銘を受けました」

 

 
マクロビもロウフードもヴィーガンも、規律の厳守を強いられるイメージがあるが。
 
「こうしなさい、ああしなさいとか、あれダメ、これダメじゃなくて、
『楽しくておいしい料理があるよ〜』っていうスタンスで行きたいんです」

 
「素材はサヨコさんが厳選してくれているので、定番以上のものをお出ししたい。
みそ汁、梅干し、玄米がマクロビの定番、ヴィーガンなら生野菜を塩ゆでして〜というイメージだけど、CASBAHではケチャップもマヨネーズもガンガンかけようよ!って。でも、身体に害のあるものは使わないから、安心して、純粋に料理を楽しんでいただけます。
原発や放射能などさまざまな問題が発生して以降、考えて食べることが多くなりました。考えて食べることは大事ですし、考えるなということは無理なので、考え方を変えるような仕掛けができたらと思っています」

 

 
仕事柄、ヴィーガンやベジタリアンなど、食にこだわって生活している人の話を伺う機会が多い。
その都度私自身の食生活を反省したり、見直そうとしばらく心がけてはみるものの、一旦仕事を離れて身近な友人や家族を見渡せば、みな同じようなスタイルなのですぐに気がゆるんでしまう。
しかし考えてみれば、食にこだわった生活を送る人々は「絶対それは食べちゃだめ」「そういう生活はよくないからはやくやめたほうがいいよ」と声高に叫んだりはしない。ほとんどの人が「まずできる範囲からでいいんだよ」「少しずつとりいれてみたら」と、自身の経験を元に優しく促してくれる。
それはきっと彼らもみな、最初は私と同じような食生活を送っていたから。気持ちがわかるのだ。
 
となると、私のほうが一方的に距離を感じているということになる。
ヴィーガン?…肉も魚も食べたいもんな〜。
ロウフード?…加熱処理しないって、じゃあ温かいものは食べられないの?
マクロビ?…玄米ばっかりじゃなぁ〜、白いお米が大好きなんだもん。
そうやってイメージばかりが先行した結果、それらを実践している人々を私の対極にある人、そういう世界を自分の属する世界とは別のところにあると見なし、無意識に距離を置いていたのかもしれない。
私には無理、私とは別の世界にいる人々だ、と。
 
「橋渡し役になりたいんです。
ヴィーガン料理、マクロビ料理、ロウフードといった素朴なものが好きなひとたちと、ジャンクフードも好きな人たち。
この両者をつなぐブリッジになれれば。
 
そう、間口は広いんです。でも、ここには本物を置いています。
 
僕、どの国に行っても『フムス(中東発祥のヴィーガン料理の一種)』をよく食べるんですけど、どこのフムスよりもここのが一番おいしいんですよ」

 
CASBAHの料理を食べ、
「これってヴィーガン料理なの?」
と驚く人が多いと言う。味がしっかりついているからだ。
 
実際のところ沖縄の食生活は今、危機的状況にある。
私たちは「沖縄=長寿県」というプラスイメージの上にあぐらをかいてはいないだろうか?
いつも手づくりのご飯を食べている元気なおばあのように、私たちは健康に長生きできるだろうか?
 
質実ともに長寿県となるために、私たちは「おいしさ」をあきらめる必要はない。
それは、CASBAHの料理を食べればわかる。
 

写真・文 中井 雅代

 

CASBAH Deli&Dining
沖縄市中央1-7-8
098-989-7786
open 12:00 〜 20:00
(3/1より11:30~19:00)
(デリ 11:30~16:00)
close 木
HP:http://www.kozy-central.com/casbah