Atelier+shop cococo ヨコイマサシ〜第2回〜「骨格を無視して作られたシーサーは不自然に感じて。」




——紅型陶器以外のヨコイさんの作品をご紹介いただけますか。


ヨコイ  シーサーですね。
     商品として大きく展開するつもりはないのですが、
     長く作り続けていきたい作品です。
     時々店に置いてあるのを見て、
     シーサーにハマってくれるお客様もいて、
     そういう方からオーダーが入ると作ります。
     僕が作るシーサーはかなり手が込んでいて、
     大量に作ったり、安売りしたりする予定はないです。


その日店に並んでいたシーサーもわずか数点。
近くに持って来て頂き拝見すると、
勿論、それは紛れも無くシーサーの顔なのだが、
今まで見てきたシーサーとは明らかに何かが違う。
「何が」違うのかを特定するのには少し時間がかかるのだが、
それによって受ける印象がどう違うのかは、すぐに説明ができる。


このシーサーは、「生きて」いるのだ。


目を見開き、耳をそばだてて、マジムン(魔物)の気配を探っている。
その姿を見つけようものなら、鋭い牙で噛み付く用意が整っている。
口からだらんと垂れ下がった舌は、その荒い息づかいと共に上下し、
喉が渇けばその舌を巧みに使って水を飲む。


シーサーは無論、沖縄の「護り神」であるが、
ヨコイさんのシーサーは、神である以前に、
「動物」なのだ。
毛の生えた皮の下には肉があり、骨があり、脈々と血が通い、
その心臓はドクドクと、生を刻んでいるのがわかる。





ヨコイ  僕のシーサーは完全にゼロから、手びねりで全て自分で作ります。
     流れ作業で大量に作ることもできますが、
     その骨格や、動物を元にした神様であることを
     無視して作った作品をみると、不自然に感じて。
     なるべく骨格を意識し、動物らしく、リアルに、
     というのが、自分の今のスタイルです。
     本土出身の自分が沖縄の護り神であるシーサーを、
     おちゃらけた感じで可愛く作ること自体が失礼だと思っているので。
     まずは、5年、10年は現在のスタイルを続けてリアルに、
     そこから先はある程度崩して行くのもありかもしれないとは思います。


しばらくつぶさに観察していると、
他のシーサーとの違いに気づき始める。
一つは、細かな所まで刻み込まれた毛並み、
もう一つは、上あごにある「ひだ」。


ヨコイ  耳にまで毛並みを入れているシーサーはあまりありません。
     あと、全部が全部ではないけれど、上あごのひだを入れるのも、
     自分の作品の特徴です。
     「このシーサーは誰々が作ったものだ」というポイントが
     何かしらあった方が良いと思っています。


——白一色のシーサーが多いですね。


ヨコイ  普段使ってる土が白で、
     一旦そのまま白で作ってみたら
     「これが良い」っていう方が結構多くて。
     そのまま白で作る事が多くなりました。
     別に白にこだわっているわけではなく、
     赤土で作ったこともあります。
     注文があれば勿論どんな色でも作ります。


息づかいさえ聞こえてきそうな、躍動感に満ちたシーサーに色を付ければ
途端に駆け出し、その場から走り去ってしまいそうな気がするが、
色を付けず白いままでいることで、凄まじいまでの野性味に神々しさが加わり、
動物由来の神そのものを目にしているという、静かで厳かな気持ちになる。


ヨコイ  師匠である高江洲忠の父親、高江洲育男はシーサー作りの重鎮。
     一方、読谷でやってる新垣さん(やちむん家の新垣光雄さん)     新垣さんのシーサーは
     リアルすぎるのでは?というくらい細かくて。
     育男さんと新垣さんをちょうど合わせて2で割った辺りのポジションが
     自分は気に入っていて。
     基本的な作りとバランスは師匠の高江洲、
     作り込みは新垣さんのように作り込んでいます。


お話を伺っている間、
ヨコイさんが常に自分を客観的に捉え、綿密な自己分析を行っていることに
何度も驚かされた。
ものを作り出す人々は、創作の段階で自分の内面と向き合う機会の方が多いのだろうと思い込んでいたからだ。
ヨコイさんのものづくりに対する姿勢については、あとで詳しく触れて頂くことになる。


ヨコイ  何せ相手がシーサーですから、
     作る時には精神的にもすごく消耗します。
     手をつけるまでに時間がかかる。
     消耗するのがわかってるので、「ため」が必要なんです。
     作っていて「楽しい!」という感じとは違いますね。
     ろくろひいてるほうがよっぽど楽しいです(笑)


(次回に続く)