オハコルテの誠実なお菓子孫のまた孫の代まで、チームで100年 続けたい


 
ころんと真ん丸、手のひらサイズ。ころげ落ちんばかりに高く盛られたフルーツの山。その小さな山々がところ狭しと、さながら山脈のように並んでいる。それがタルト専門店オハコルテのショケースの中の光景だ。
 
便宜上、小さな方を「タルト」、大きな方を「ホールタルト」と呼んではいるけれど、正確に言えばオハコルテのタルトは全て、欠けたところのないホールタルト。
 
扇形にカットされたタイプは見当たらない。この一風変わった「小さなホール」は、オハコルテのおいしさに対する並々ならぬこだわりの証なのだ。
 
oHacorté メレンゲ
 
効率よりおいしさを求めて。直径7センチメートルのこだわり
 
水分たっぷりのフルーツをふんだんに使うので、一般的な焼き方ではタルト地がしんなりしてしまう。そこでオハコルテでは生地を三〜四回、繰り返しオーブンで焼いている。
 
その際、サイズが大きいと中まで火を通すのが難しいし、タルト地の割合が減るとみずみずしいフルーツと最良のコントラストをなすサクサク感を存分には味わえない。
 
その両方をクリアするのが7センチという小ささなのだが、小さければ良いのかと言うと、また違う。7センチより小さいとフルーツをたっぷり乗せられない。すべてのバランスが整う絶妙な大きさをオハコルテは探り当てたのだ。
 
oHacorté 桃のタルト途中
 
oHacorté いちじく
 
タルト地を一つ一つ手作業で成形し、何度もオーブンで焼き、フルーツを慎重に盛りつける手間を考えれば、通例通り大きく作って切り分けた方がずっとラクだし合理的だ。それでもサイズを変えないのは、オハコルテが何よりもおいしさを優先するから。
 
そのためには手間ひまかけることを厭わず、コストがかかることも恐れない。使用する素材は品質によって値段が大きく異なるため、妥協すればもっとずっと求めやすい価格のタルトを作ることもできる。
 
しかし、おいしさをあきらめてまで価格を抑えるという選択肢はオハコルテにはない。
 
また、特筆すべきはその賞味期限ならぬ陳列期限。どれだけ丁寧に作っても、ショーケースに並ぶのはその日限り。前日に作ったものを並べるなんてもってのほかなのだ。
 
oHacorté タルト型のお手入れ
 
引け目を感じない誠実なお菓子を
 
オハコルテのタルトを初めて口にした人はまず、 フルーツの質の高さに驚くに違いない。ハリツヤ、味の良さ、芳醇な香り…。あらゆる要素にこだわって吟味し、ベストの素材を用意する。
 
そのこだわりを支えるのが、スタッフたちが自分の足で探し出した全国各地の契約農家だ。 
個人的な旅行中であっても、スタッフはその土地に良い農家はないかと尋ね歩く。こうして見つけてきた契約農家の人々は例外なく、強いこだわりと誇りをもって作物を育てており、口を開けば栽培に対する情熱が溢れだしてくるのだという。
 
oHacorté ピンクグレープフルーツ
 
「輸入ものだとやっぱりどこか恐くて、レモンの皮までは子供に食べさせられない」
 一人のスタッフの言葉から、レモンの使用を国産に絞ることにした。
 
国産で色もきれいなレモンを用意するのは至難の業なのだが、オハコルテでは作り手が後ろめたさを感じることのない、安全な素材しか使わない。
 
タルトを彩るフルーツのクオリティの高さには、大切なお客様に誠実なお菓子だけを提供したいというオハコルテの想いが反映されている。
 
oHacorté ティラミスのクリーム絞り
 
タルトだから、旬の素材をより楽しめる
 
毎月十八日の「オハコの日」には、その時期限定の旬なフルーツを使用した新作タルトが並ぶ。しかし、食べごろが一瞬で終わってしまう素材もあり、中にはわずか2週間ほどでショーケースから姿を消すものも。そこまで素材の旬にこだわるのは、季節の移り変わりを感じる喜びを、タルトに乗せて届けたいから。
 
さらに、フルーツをそのまま食べるよりももっとおいしく食べてもらうため、素材の魅力を引き出す調理にも心を砕く。例えばグレープフルーツなら、土台にコクのあるクリームチーズを使い、柑橘の持つ軽さと対比する。ココナッツの香りの甘さで、酸味の爽やかさを強調する。こうやってタルトにすることで味が一変し、フルーツが主役としてより一層輝くのだ。
 
oHacorté  試食
 
販売スタッフも大活躍の新メニューづくり
 
オハコルテでは、新メニューを考える役割を特定のスタッフに任せているわけではない。毎月新作を発表すべく、普段は製造に関わらない販売スタッフ含め、全員で案を出し合って試作を重ね、渾身のタルトを生み出している。
 
完成した試作品は翌日にも試食をする。お客様が出来立てを食べる機会はそそう多くはないからだ。お家で翌日食べたときにも、同じく美味しいようにという想いの現われである。
 
案出し同様、試食も必ずスタッフ全員でおこなう。「販売スタッフは私たちが気づかぬ点を指摘してくれるので、とても助かるんです」と製造スタッフは声をそろえる。
 
「バナナの黒糖タルト」は、「持ち運ぶときに崩れやすい」というお客様の声を耳にした販売スタッフの提案から、バナナの切り方と盛りつけ方を途中で変更した。
 
「いちじくと赤ワインのタルト」は、食べた後に車を運転できないのではないかとの気遣いから、ワインのアルコール分の大半を飛ばすことにした。試作段階では酒気が強かったのだ。
 
オハコルテ 小禄店
小禄店
 
面接、企画、接客方法…、すべてはスタッフに委ねられ、チームで動く
 
タルト考案に限らず、オハコルテにおけるほとんど全てのことは現場スタッフが主導する。採用では、書類選考に始まる一切を共に働くこととなるスタッフがおこなう。気持ちよく協力できる仲間となりうるかは、スタッフ自身にしか判断できないからだ。
 
丁寧で気持ちのこもった接客のファンになり、常連となるひとも多いが、接客マニュアルというものはない。「フレンドリーすぎず固すぎず、お客様が安心できるちゃんとした接客を」という基本的な理念だけを共有し、あとはそれぞれに任されている。マニュアル化された接客では個人の良さが生かされないから。
 
オハコルテ松尾
松尾店
 
オハコルテ コスメ
松尾店
 
また、季節のイベントの企画もスタッフがおこなう。父の日には新たに作ったリキュール入りタルトの詰め合わせを、期間限定で販売し、好評を博した。
 
そんなスタッフたちを我が子のように見守りながら、チームとして束ねる父親的な人物が存在する。社長の豊田さんだ。
 
「オハコルテが大切にしているのは、お客様の満足とスタッフが楽しく働ける職場であること。そのために皆が一丸となって店を動かしていけるよう心がけています」
 
スタッフ全員で動くということに対する豊田さんの想いは強い。
 
「チームのユニフォームという意味も込めてオリジナルの制服も作りました。ノスタルジックな色とデザインにしたのは、年月を経ても逆に古さを感じず着られるように。これから先もずっと、スタッフにオハコルテを動かしていってほしいから」
 
oHacorté 小禄
小禄店
 

港川店
 
100年続くお店に。
 
「『おばあちゃんが若い頃からずっとお気に入りのタルトなんです』と、100年後にもお客様が買いに来てくれるお店にしたいんです」と豊田さんは目を細める。
 
「もし、僕が一人で作っていたら、僕がいなくなった時点で店は終わってしまう。けれど、チームでなら何十年先もずっとやっていけるから」
 
今は100年先を見つめているオハコルテだが、オープン前には周囲から、「値段がネックになる」、「きっと誰も買わない」と大反対された。しかしオープンしてみると想像以上に反応は良く、一週間と経たないうちに次なるタルトを買い求めにやって来る人も少なくなかった。
 
ケーキを買うという目的を果たすだけの場所ではなく、そこに足を運ぶこと自体が楽しい店。そして、特別な日には、「今日はあそこで買わなきゃ!」と思える、スペシャルなケーキを置いている店。そんなところは他になく、実際は多くの人がオハコルテのような店を求めていたのだ。
 
オハコルテ 箱詰め
 
タルトから生まれる無限の幸せを未来へ
 
店を100年続けたいのは、オハコルテに足を運んでくれる人たちのため。
「幸せをタルトに乗せて届けたくて、店のモチーフを青い鳥にしました。 僕が店に携われるのはせいぜい30~40年。その後は誰かに継いでもらって、変わらずタルトを作り続けてほしい。オハコルテを愛してくれるお客様を、がっかりさせるのだけはいやだから」
 
今から50年後、祖母の好物のタルトを買いに来た少女は、嬉しさと興奮で頬を紅潮させながら、オハコルテの木造りのドアをゆっくりと開ける。それからまた50年後、その少女の孫の小さな手には鮮やかなブルーの箱が下げられている。中には祖母が大好きなタルトがいっぱいに詰められて…。
 
オハコルテは、タルトが生み出すそういう100年先の未来を描いている。ささやかだけど特別な日々で、私たちの人生を何代も共に紡ぐ未来を。
 
oHacorté
http://www.ohacorte.com