「裏手にある山を見ること、緑を楽しむことに重きを置いて設計しました」
高い天井、壁いっぱいの窓から臨む贅沢な景色。
ふんだんに使用した木材から感じるぬくもり、色鮮やかな壁がかもし出すオリジナリティ。
仲地正樹さんが自身と家族のために建築した部屋の施工費を聞くと、その安さにみんな目をまるくする。
「削ろうと思えばもっと削れるんですけどね。
僕としては結構お金をかけたなという感じです」
妻の実家の隣に増築を決めたのは
「この土地が好きだから」。
仲地さんの実家も、妻の実家からさほど遠くない場所にある。
キッチンや風呂、トイレなどは母屋である実家と共有している。
「『倍の広さの家を建てるなら、倍の値段でできますか?』
と尋ねられることが多いです(笑)。
大きさを倍にすると施工費も単純にその倍で済みます」
二世帯住宅の新築ではなく、母屋に家族のスペースを増築するという選択肢。
親と住む予定はない人も含め、その魅力的な空間に多くの見学者が訪れる。
「5月初旬にオープンハウスをおこないました。
1日10組来てくだされば御の字だと思っていたのですが、2日間で40〜50組の方がご来場くださいました」
仲地さんは昔から沖縄に根をおろそうと決めていたわけではなかった。
昔は外に出たくてしょうがなく、世界を旅して回っていた時期があった。
母屋の北側という立地。「南向きの壁が母屋と接しているので、母屋よりも屋根を高くし、上部に窓をつけて光をとりこんでいます」 大きな窓ではないが明るい日射しが射し込んでいる。
「高校を卒業しても、周りの友達みたいに次の道がすぐには決められなかった。
進学するか、働くか。そのどちらも違う気がして。
とにかく県外に出たいという気持ちはあったので、本土で働いてお金を稼ぎ、貯まったら海外に行き、数ヶ月過ごして帰国するという日々を続けていました」
滞在期間が長いため訪れた国の数は決して多くないというが、ハワイ、ヨーロッパ諸国、アジア諸国、アメリカと数カ国を旅した。
見慣れぬ風景、異なる言語、食べたことのない料理。
すべてが新鮮だったが、3年ほど旅を続けたあるとき、スペインでふとあることに思い至った。
「スペインの美しい風景やかわいい子どもを眺めていた時に、
『あれ? これって僕の故郷の風景と変わらないよな』
と思ったんです。
緑が豊かで子どもたちがかわいくて…って、実はそんなに特別な風景じゃないんだなって」
旅をすることで世界の広さを知っただけでなく、根底にある普遍的なものごとや、当たり前のように浴びてきた幸せにも気づいた。
「また、どんな問題が起こっても熱くなりすぎずに考えたり対処できるようになった気がします。
世界には色んな人がいてさまざまな環境や状況がある。
そのことを思い出すと、大抵のことは俯瞰してみることができるし、たいしたことじゃないなって思えるんです」
帰国して沖縄に戻り、石を積む職人の元で働き始めた。
理由は「地元に住みたかったから」
畳部屋は家族の寝室
「海外を点々と旅したことで、どれだけ自分の故郷が素晴らしい場所かということに気づいたんです。
地元でずっと働けるような仕事を探し始めました。
僕が出会った石積みの職人さんは一人でやってる人だったんですが、傍から見ていて面白そうだな〜と思い、お願いして一緒に仕事をさせて頂くようになりました。
仕事そのものは楽しかったのですが、腰痛がひどくなって。
あまり長く続けることはできないな、どうしようかな? と考えていた矢先に、仕事上で付き合いのあった設計事務所の所長に『うちで働かないか』と声をかけていただいて」
それまで建築や設計の仕事に携わった経験はなかったが、元来ものづくりは大好きだった。
「人のお金使って好きなものつくれるなんて最高だ! と思って。
…もちろん実際は違うということをあとで知るわけですが(笑)
でも今思うと、僕みたいな即戦力にならない人材をよく雇ってくれたなと思います。
出勤初日に所長に言われたのは
『座る練習しなさい』。
座る練習? なんだそれは? と驚きましたが、実際にやってみるとその意味がわかりました。
設計は図面をひく仕事ですから、椅子に座っている時間が長い。
でも、椅子にずっと座っているというのはやってみるととても辛くて。
もちろん最初から図面なんてひけませんし、事務所内にある膨大な建築雑誌の中から自分の好みの建物に付箋紙を貼りなさいと言われ、延々とやっていました。
しかしなかなかじっとしていられず、意味もなく事務所内をうろうろしたりもしていましたね。
徐々に手伝わせてくれるようになりましたが、最初は内装の色を決めるというような楽しい仕事ばかり。
だから続けられたのかもしれません。
あとあとCADの資格をとったり、設計の中でも事務的な仕事を覚えたりと大変なことはもちろんありましたが、当時は修業のような時期。
海外へ行きたいと思うこともまったくありませんでした」
建築士の資格を取得して経験を積み、1年前に独立して事務所を設立した。
「小さくて、どこかちょっとダサイところのある家」が好きだと仲地さんは言う。
「大きくて豪奢な家よりも、こぢんまりとしてなんとなく愛嬌のある家が好み。
隅から隅までカッコよくて隙がない空間よりも、ちょっと抜けたところのある雰囲気が良い。
例えば壁の上部の木材も、隙なく埋めて平面に整え、木が膨張しないように塗料を塗るのではなく、無垢の木を使って自然な形を生かし、少し膨張したりへこんだりした部分もそのままにしています。
その方が味がでるし、コストもおさえられます」
住むひとが自分で手を入れられる要素を残すようにしている。
「例えば壁の色。
家が完成してそのままの状態でずっと住むというのはなんとなく寂しい。
住んでいると好みも変わるし気分も変わりますから、いつでも好きなように塗り替えられた方が楽しいでしょう?
なんでもそうですけど、古くなってもまるで新品同様でぴかぴかというより、経過した年月相応の味わいが出るほうが自然だし素敵だと思うんです。
経年変化を楽しめる家がいい。
この家も、子どもの成長によって間取りを変えてもいいし、色だって何度も塗り替えていい。
最終的には内装すべて真っ白に塗るという手もあります。
家を建てる段階から家づくりに参加するのもおすすめですね。
『半分まで仕上げてちょうだい。あとの半分は自分たちでやるから』
という施主さんがいたら大歓迎。
楽しくコストが削減でき、自分たちだけの家ができます」
庭づくりにも力をいれている。
「敷地に対する建物の面積を多少小さくしてでも庭をつくることをお勧めしています。庭をしっかりつくり込めば、外に出ても楽しい時間が過ごせるので、家の一部になります。
家の中を見るのと同等の価値観で家の外も重視し、中と外はセットで計画するようにしています。
石積みの仕事をしていたくらいですから、もともと造園も好き。
だけど、十分な経験や知識がないので困っていたときにHADANAさん(関連記事:HADANA(ハダナ)・葉棚達也 沖縄のくらしに合う「引き算の造園」を提案)に出逢ったんです。
正直、『よっしゃー!』という気持ちでした(笑)」
「誰にとっても完璧な家を建てようと思うと相当の金額が必要。
でも自分たちが住む家ですから。
自分たちにとっての心地よさを追求し、これはなくてもいい、あれはグレードを下げても問題ないと引いていけば、住むひとにとって最高の家を金銭面でも無理なく建てられると思うんです」
土地を買って家を建てるのは限られたひとにしかできない選択だと、どこかで思っていた。
また、新築するなら誰からも文句を付けられない、パーフェクトな空間にしなければならないとも。
しみひとつない壁、きずひとつない床、グレードの高い床材…
自分たちにとって心地良い空間をつくるのに、それらは本当に必要なものか?
仲地さんとならとことん追求できる。
万人にとってではなく、私にとっての「良い家」を。
写真・文 中井 雅代
LITTAI space works
名護市字大川31番地
tel/fax 0980-51-9027
masaki427@hotmail.com
ブログ http://littai03.ti-da.net
*仲地さんの家を実際に見たい方はお電話またはメールにてお問い合わせください。
HADANA(ハダナ)
宜野湾市赤道1-4-8
080-5339-7014
fax : 098-893-8578
http://hadana-g.com
ブログ:http://hadana.ti-da.net